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5.勇者を育てた俺、次は何を育てる?
5-12
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*
時は遡り1時間前。
レオたちが住む家がある森の中だ。
「ったく、転移水晶は便利だが位置がデタラメすぎるぞ」
任務を受けたエドラスはさっそく調査するために森にやってきた。
エドラスが使った転移水晶は、一度だけ使える移動魔法付きアイテム。
便利だが、正確な位置に着けるわけではないため、普段使用されることはない。
エドラスが使う理由は安易に手に入りやすく、瞬時に移動をしやすいからだ。
調査を行うため、まずはゴブリンの王国があった洞窟へ向かうも、森の中なだけあってどっちに進めばいいのかが分からない。
迷子になりつつも、己の勘を信じて前へ突き進む。
すると目の前に一頭のイノシシが現れた。
(腹が減っていたからちょうどいいな。こいつを食べるか)
エドラスは腰に抱えている剣を抜くと、イノシシに向かって切りかかった。
1回、2回、3回と何回も斬り、ようやく致命傷を与えると、イノシシはその場で息を引き取った。
運よく近場に川があり、飲み水を確保することができた。
燃やす材料は周りにたくさんあるし、火は魔法を使えば大丈夫。
さっそくイノシシを捌き、火を通して食べ始めた。
「うめぇ!普段は健康食とか言って好きなものを食わせてくれねえからなあ……」
班に所属するといざという時のために食事は制限される。
もし体調を崩しているときに戦闘になったら、今までの努力が水の泡になってしまう。
だから食事は決められたものしか食べることが許されない。
そのため、こうしてユージルの命令で動くときは誰もエドラスを見ていない。
好きなものを食べるときのいいチャンスでもある。
一頭丸々を焼き、余った分は歩きながら食べることにした。
ゴブリンも人間と同じで水分を必要とする。
ならこの川の付近にゴブリンの王国があった洞窟があるかもしれない。
川の周囲を歩き回り、少し崖みたいなところを見つけると向かい始めた。
予想は的中し、洞窟の入り口には門があった。
(ゴブリンが門をつくったのか?普通のゴブリンは精々石斧を持っているぐらい。ここまで文明的に進化を遂げたのか)
それなら討伐はさらに厳しくなる。
それをたった一体の鬼人と一匹のスライムが潰したのだ。
出来ることならこれ以上話に突っ込みたくないが、そういうわけにはいかない。
門を開け、洞窟の中へと入っていった。
中は真っ暗だが、火をつける場所があったためそこに火をつけた。
まだ灯りが弱いため、魔法で光源を確保するとさらに奥へ。
進んで奥へ行くと、そこには広い空間が広がっていた。
「何…だ…これ……。ゴブリンがこれをつくったのか……?」
恐る恐る城へ近づき、中へ入るとそこには自分たちがいるヨルム王国と似ていた。
もしかしたらゴブリンは進化を遂げ人間へと近づいた、そう考えるしかなかった。
だが中には誰もいない、誰一人の影もない。
奥へ進むと、壁には焼き焦げたような跡がある。
それも数か所どころではなく、何かが破裂したかのようにあちこちにある。
「これは雷の魔法か?それにしてもなぜこんな全体的に……。放電でもしていたのか?」
焦げ跡を触るが、分かることはあの二人のどちらかが雷の魔法を使えることだ。
ゴブリンがこれほどの魔法を使えるとは思えない。
正確に言えば、これほど威力のある雷の魔法を使えるはずがないのだ。
人間でもこれほどの魔法を使えるかどうか……。
エドラスは洞窟から出ると、自然にできたのか道に沿って歩き始めた。
方角的には7の町に着くと思われる。
とにかく、分かったことをすぐに報せないといけない。
これは自分たちで解決するには荷が重すぎる。
国王へ報告した方がいい、と。
「あれ?こんなところに家……?」
町へ向かう途中、道の横には一軒の家が建っている。
もしかしたら勇者であるブラッドがいた家なのかもしれない。
「確か修行をしていた、とか言っていたよな。とりあえず寄ってみようか」
修行をしていたと聞いていたから中に人がいるかもしれない。
未だにこんな森の中に住んでいるのは、いささか疑問だが、いきなりドアを開けるのも良くはない。
ノックして返事がなかったら失礼だけど上がらせてもらおう。
これは王国に関わることなのだから。
「ごめんくださーい。誰かいますかー?」
「はーい!ちょっと待ってねー!」
「ちょっ!師匠がいないのに出るのは――」
「はいはーい!どちら様ー?」
家の中から出てきたのは天使の恰好をした少女だった。
(天使……?いやいや、そんな馬鹿な。こんなところに天使がいるはずがない)
エドラスは勝手にサシャのことを天使の恰好をしている少女と認識した。
もしかしたらとは思いつつも、自分で言い聞かせるようにしている。
嫌なことから目を背けるように。
「俺…私はヨルム王国第二班副班長のエドラス・アンダーソンという」
「エドラスね。よろしくー!」
「あ、ああ、よろしく。それでさっそく聞きたいんだが、ここら辺に鬼人を見なかったか?」
「鬼人?もしかして――」
「私のことですか?」
家の中から成人した女性が現れた。
何より特徴的な頭にある角に目が行ってしまう。
エドラスは背中に汗が流れるのが分かった。
そして恐る恐るこう質問した。
「この間、ゴブリンの王国を潰したのは貴方ですか?」
「ゴブリンの王国……。あぁ!そうですよ、いきなり戦争を吹っ掛けてきたので潰しました」
(やはりそうだったか……!ここはどうするべきだろうか。うかつに足を運んだのはまずかったな)
反省をする前に、今どうするかを考えるべきだとすぐに思考を変えた。
まずはここに来た理由を聞かれるだろう。
なら本当のことを言うべきか、嘘を言うべきか。
いや、すでにあんな質問をしてしまったんだ。
不用意に嘘をつくより本当のことを言うべきだろう。
「それでどうしたんですか?あなたがゴブリンの仲間とは思えないですが……」
「ゴブリンの仲間ではありません。先ほどそちらの少女に言いましたが、私はヨルム王国第二班副班長です」
「サシャ、そういう事は早く言ってください」
「早くって……。さっき紹介されたばかりだからいう時間なんてないよー」
(サシャ、聞いたことがある名前だな)
いや待て、聞いたことがあるどころかつい最近も聞いた。
ヨルム王国に属している7の町の伝説は王国にまで広がっている。
人によっては小さいころから聞かされ信仰するものまでいるほどに。
その伝説になっている人物はサシャ、別名『神の使い』。
ヨルム王国で暮らしていたら嫌でも1回は聞く名前だ。
エドラスは徐々に顔が青ざめ、とうとう崩れていった。
「大丈夫!?イトナ、中へ運んであげよう」
「え、ええ。一体何が起きたんでしょうか……」
見たところケガもなければ先ほどまで元気に立っていた。
サシャとイトナを見ると、徐々に体調が悪くなっていくかのように。
二人は何が起きたのかが分からず、倒れたエドラスをベッドに寝かせた。
そしてお留守番の中で一番ケガに詳しいネストを呼んだ。
「どうですか?」
「うーん、特に異常が見られないですが、少し血の通いが悪くなっています。このまま寝かせてあげましょう」
「じゃあ私は師匠に連絡しますね」
「そんなことできるの!?」
「ええ。姫様の魔法で近くの植物とこの植物で会話が出来るんですよ」
そう言うと、部屋に飾ってある蓄音機のような形をした花を手に取った。
そしてその花に声をかけ、フラウに今の状況を話した。
*
「――ってことがあったんです」
「なるほどなあ……」
俺は急いで戻って状況を聞いていた。
町からは距離があって時間もかかったが、それだけ経っているのに未だにそのエドラスというやつは起きない。
横目で寝ているところを見ると、何か悪夢を見ているようにうなされている。
もし俺がこのエドラスという人の立場だったら気持ちはわかる。
何せ目の前に勇者と互角に戦える人物と神様と呼ばれている人物がいるんだからな。
というより失禁レベルだぞ。
起きてくれなければ聞くこともできないし、しょうがないから待つか。
あ、メリーのお願いを聞けなかったのを思い出してしまった。
…たしかエドラスは第二班副班長とか言っていたな。
弟子たちに頼んでお願いという名の脅迫で雇ってもらえるんじゃ……。
いや、そんなことをして雇ってもメリーが喜ばないだろう。
素直にまた出直さないとな。
朝に家を出て町へ行き、そしてすぐ様家へと走って戻るハードスケジュールな日。
流石のフラウも疲れが顔にでていたため、ネスト、イトナ、それにサシャも気をつかって休ませてくれた。
エドラスが起きたのは夜になった時なる頃だった。
「うっ…ここは……」
「起きたか?えーっと、エドラスさん」
「貴方は……。はっ!」
あぶねー!急に顔を上げるなよ。
頭がぶつかるならまだしも、野郎とキスなんて御免だぞ。
「俺はどれぐらい寝ていた!」
「さぁ。でももう夜だぞ」
「嘘だろ……」
聞いていた話とは違うほど口調が変わっているぞ。
一般人の俺を見て態度が変わったのか?
堅苦しい言い方をされるよりは楽だけど。
「すまない、俺はすぐに――」
「起きたー?」
「か、『神の使い』!?」
「おっ、その名前で呼ばれるのは久しぶりだなー」
「だから教会に像があったんだな……」
「「像?」」
ネストとイトナは頭にハテナを浮かばせるようだった。
フラウが後ろでこっそりと教えてくれたのはありがたい。
まずは話を聞きたいから声を小さくしてくれたのは気が利いている。
「あ、貴方は一体……。神の使いと一緒にいるなんて……!」
「まずは落ち着けって。俺はこの家の主のレオ・キリヤだ」
「レオ、と言うと勇者の師匠の?」
「ん?知ってるんだな。それは意外だったよ」
もしかしてヨルム王国にでも寄ったのか?
確かブラッドの生まれ故郷というのは話で聞いたことがある。
魔王討伐の前、少し帰った時に誰かに話したのかな。
「そ、それじゃあそちらの皆様方は……」
「俺に弟子入りしたんだ。みんなもう強くて独り立ちしてもいいんだがな」
「で、ですよねー……」
大丈夫か、こいつ。
段々現実逃避していくように目の光が消えていっているぞ。
正直、目を合わせたくない。
「それはいいとして、俺の家に何か用があったのか?」
「よくはないですが、確かに用はありました」
話を聞くとゴブリン王国の討伐は冒険者の仕事にあるクエストで、ネストとイトナはそれを潰してしまった。
そしてそのクエストの難易度は高い方で、そのゴブリン王国を潰したのが二人という情報が入ったから調査に来たとのこと。
なぜ副班長ほどのお偉いさんが来たかと言うと、クエストの難易度が高いゴブリン王国を潰した連中に会う可能性があるからだと。
確かに弱いやつが行って死んでしまったら何の意味もない。
「ふむ、そのゴブリン王国は向こうから仕掛けてきたんだ。だから潰した」
「だから潰したって……。よくあの大軍を倒したな」
「潰したのは俺じゃなくてネストとイトナだ」
「やはり……」
「それで俺たちが罰せられるのか?」
「そうではない。本人がいる前で言うのはどうかと思うが、鬼人とスライムは魔王軍側だ。人類の敵なら排除しなければならない」
「そういうことなら大丈夫だ。俺が保障しよう」
「僕も保証するよ!ほら、君たちにとってはうれしいでしょ?」
信仰されているほどのサシャが言ってくれるのはうれしいけど、3人はあまり納得していないようだった。
ずっと俺と一緒にいるからそんな気持ちはなかったんだろうけど、これは人間たちがずっと続けている見方だから仕方ない。
「助けてくれたのはありがたい。だが、俺はすぐに戻らないといけないんだ」
「忙しいのは分かるが、もう夜だぞ?」
「構わない。情報は早く持って帰るべきだからな」
「そうか。それなら止めないが、俺たちのことは――」
「もちろん悪いことは絶対に言わない。また機会があったら会いに来てもいいか?」
「構わないよ。好きな時に来てくれ」
「ああ、ありがとう」
そう言うと外へ出ていった。
急に来たと思ったら急に帰っていったな。
せめて飯でも食べていけばよかったのに。
時は遡り1時間前。
レオたちが住む家がある森の中だ。
「ったく、転移水晶は便利だが位置がデタラメすぎるぞ」
任務を受けたエドラスはさっそく調査するために森にやってきた。
エドラスが使った転移水晶は、一度だけ使える移動魔法付きアイテム。
便利だが、正確な位置に着けるわけではないため、普段使用されることはない。
エドラスが使う理由は安易に手に入りやすく、瞬時に移動をしやすいからだ。
調査を行うため、まずはゴブリンの王国があった洞窟へ向かうも、森の中なだけあってどっちに進めばいいのかが分からない。
迷子になりつつも、己の勘を信じて前へ突き進む。
すると目の前に一頭のイノシシが現れた。
(腹が減っていたからちょうどいいな。こいつを食べるか)
エドラスは腰に抱えている剣を抜くと、イノシシに向かって切りかかった。
1回、2回、3回と何回も斬り、ようやく致命傷を与えると、イノシシはその場で息を引き取った。
運よく近場に川があり、飲み水を確保することができた。
燃やす材料は周りにたくさんあるし、火は魔法を使えば大丈夫。
さっそくイノシシを捌き、火を通して食べ始めた。
「うめぇ!普段は健康食とか言って好きなものを食わせてくれねえからなあ……」
班に所属するといざという時のために食事は制限される。
もし体調を崩しているときに戦闘になったら、今までの努力が水の泡になってしまう。
だから食事は決められたものしか食べることが許されない。
そのため、こうしてユージルの命令で動くときは誰もエドラスを見ていない。
好きなものを食べるときのいいチャンスでもある。
一頭丸々を焼き、余った分は歩きながら食べることにした。
ゴブリンも人間と同じで水分を必要とする。
ならこの川の付近にゴブリンの王国があった洞窟があるかもしれない。
川の周囲を歩き回り、少し崖みたいなところを見つけると向かい始めた。
予想は的中し、洞窟の入り口には門があった。
(ゴブリンが門をつくったのか?普通のゴブリンは精々石斧を持っているぐらい。ここまで文明的に進化を遂げたのか)
それなら討伐はさらに厳しくなる。
それをたった一体の鬼人と一匹のスライムが潰したのだ。
出来ることならこれ以上話に突っ込みたくないが、そういうわけにはいかない。
門を開け、洞窟の中へと入っていった。
中は真っ暗だが、火をつける場所があったためそこに火をつけた。
まだ灯りが弱いため、魔法で光源を確保するとさらに奥へ。
進んで奥へ行くと、そこには広い空間が広がっていた。
「何…だ…これ……。ゴブリンがこれをつくったのか……?」
恐る恐る城へ近づき、中へ入るとそこには自分たちがいるヨルム王国と似ていた。
もしかしたらゴブリンは進化を遂げ人間へと近づいた、そう考えるしかなかった。
だが中には誰もいない、誰一人の影もない。
奥へ進むと、壁には焼き焦げたような跡がある。
それも数か所どころではなく、何かが破裂したかのようにあちこちにある。
「これは雷の魔法か?それにしてもなぜこんな全体的に……。放電でもしていたのか?」
焦げ跡を触るが、分かることはあの二人のどちらかが雷の魔法を使えることだ。
ゴブリンがこれほどの魔法を使えるとは思えない。
正確に言えば、これほど威力のある雷の魔法を使えるはずがないのだ。
人間でもこれほどの魔法を使えるかどうか……。
エドラスは洞窟から出ると、自然にできたのか道に沿って歩き始めた。
方角的には7の町に着くと思われる。
とにかく、分かったことをすぐに報せないといけない。
これは自分たちで解決するには荷が重すぎる。
国王へ報告した方がいい、と。
「あれ?こんなところに家……?」
町へ向かう途中、道の横には一軒の家が建っている。
もしかしたら勇者であるブラッドがいた家なのかもしれない。
「確か修行をしていた、とか言っていたよな。とりあえず寄ってみようか」
修行をしていたと聞いていたから中に人がいるかもしれない。
未だにこんな森の中に住んでいるのは、いささか疑問だが、いきなりドアを開けるのも良くはない。
ノックして返事がなかったら失礼だけど上がらせてもらおう。
これは王国に関わることなのだから。
「ごめんくださーい。誰かいますかー?」
「はーい!ちょっと待ってねー!」
「ちょっ!師匠がいないのに出るのは――」
「はいはーい!どちら様ー?」
家の中から出てきたのは天使の恰好をした少女だった。
(天使……?いやいや、そんな馬鹿な。こんなところに天使がいるはずがない)
エドラスは勝手にサシャのことを天使の恰好をしている少女と認識した。
もしかしたらとは思いつつも、自分で言い聞かせるようにしている。
嫌なことから目を背けるように。
「俺…私はヨルム王国第二班副班長のエドラス・アンダーソンという」
「エドラスね。よろしくー!」
「あ、ああ、よろしく。それでさっそく聞きたいんだが、ここら辺に鬼人を見なかったか?」
「鬼人?もしかして――」
「私のことですか?」
家の中から成人した女性が現れた。
何より特徴的な頭にある角に目が行ってしまう。
エドラスは背中に汗が流れるのが分かった。
そして恐る恐るこう質問した。
「この間、ゴブリンの王国を潰したのは貴方ですか?」
「ゴブリンの王国……。あぁ!そうですよ、いきなり戦争を吹っ掛けてきたので潰しました」
(やはりそうだったか……!ここはどうするべきだろうか。うかつに足を運んだのはまずかったな)
反省をする前に、今どうするかを考えるべきだとすぐに思考を変えた。
まずはここに来た理由を聞かれるだろう。
なら本当のことを言うべきか、嘘を言うべきか。
いや、すでにあんな質問をしてしまったんだ。
不用意に嘘をつくより本当のことを言うべきだろう。
「それでどうしたんですか?あなたがゴブリンの仲間とは思えないですが……」
「ゴブリンの仲間ではありません。先ほどそちらの少女に言いましたが、私はヨルム王国第二班副班長です」
「サシャ、そういう事は早く言ってください」
「早くって……。さっき紹介されたばかりだからいう時間なんてないよー」
(サシャ、聞いたことがある名前だな)
いや待て、聞いたことがあるどころかつい最近も聞いた。
ヨルム王国に属している7の町の伝説は王国にまで広がっている。
人によっては小さいころから聞かされ信仰するものまでいるほどに。
その伝説になっている人物はサシャ、別名『神の使い』。
ヨルム王国で暮らしていたら嫌でも1回は聞く名前だ。
エドラスは徐々に顔が青ざめ、とうとう崩れていった。
「大丈夫!?イトナ、中へ運んであげよう」
「え、ええ。一体何が起きたんでしょうか……」
見たところケガもなければ先ほどまで元気に立っていた。
サシャとイトナを見ると、徐々に体調が悪くなっていくかのように。
二人は何が起きたのかが分からず、倒れたエドラスをベッドに寝かせた。
そしてお留守番の中で一番ケガに詳しいネストを呼んだ。
「どうですか?」
「うーん、特に異常が見られないですが、少し血の通いが悪くなっています。このまま寝かせてあげましょう」
「じゃあ私は師匠に連絡しますね」
「そんなことできるの!?」
「ええ。姫様の魔法で近くの植物とこの植物で会話が出来るんですよ」
そう言うと、部屋に飾ってある蓄音機のような形をした花を手に取った。
そしてその花に声をかけ、フラウに今の状況を話した。
*
「――ってことがあったんです」
「なるほどなあ……」
俺は急いで戻って状況を聞いていた。
町からは距離があって時間もかかったが、それだけ経っているのに未だにそのエドラスというやつは起きない。
横目で寝ているところを見ると、何か悪夢を見ているようにうなされている。
もし俺がこのエドラスという人の立場だったら気持ちはわかる。
何せ目の前に勇者と互角に戦える人物と神様と呼ばれている人物がいるんだからな。
というより失禁レベルだぞ。
起きてくれなければ聞くこともできないし、しょうがないから待つか。
あ、メリーのお願いを聞けなかったのを思い出してしまった。
…たしかエドラスは第二班副班長とか言っていたな。
弟子たちに頼んでお願いという名の脅迫で雇ってもらえるんじゃ……。
いや、そんなことをして雇ってもメリーが喜ばないだろう。
素直にまた出直さないとな。
朝に家を出て町へ行き、そしてすぐ様家へと走って戻るハードスケジュールな日。
流石のフラウも疲れが顔にでていたため、ネスト、イトナ、それにサシャも気をつかって休ませてくれた。
エドラスが起きたのは夜になった時なる頃だった。
「うっ…ここは……」
「起きたか?えーっと、エドラスさん」
「貴方は……。はっ!」
あぶねー!急に顔を上げるなよ。
頭がぶつかるならまだしも、野郎とキスなんて御免だぞ。
「俺はどれぐらい寝ていた!」
「さぁ。でももう夜だぞ」
「嘘だろ……」
聞いていた話とは違うほど口調が変わっているぞ。
一般人の俺を見て態度が変わったのか?
堅苦しい言い方をされるよりは楽だけど。
「すまない、俺はすぐに――」
「起きたー?」
「か、『神の使い』!?」
「おっ、その名前で呼ばれるのは久しぶりだなー」
「だから教会に像があったんだな……」
「「像?」」
ネストとイトナは頭にハテナを浮かばせるようだった。
フラウが後ろでこっそりと教えてくれたのはありがたい。
まずは話を聞きたいから声を小さくしてくれたのは気が利いている。
「あ、貴方は一体……。神の使いと一緒にいるなんて……!」
「まずは落ち着けって。俺はこの家の主のレオ・キリヤだ」
「レオ、と言うと勇者の師匠の?」
「ん?知ってるんだな。それは意外だったよ」
もしかしてヨルム王国にでも寄ったのか?
確かブラッドの生まれ故郷というのは話で聞いたことがある。
魔王討伐の前、少し帰った時に誰かに話したのかな。
「そ、それじゃあそちらの皆様方は……」
「俺に弟子入りしたんだ。みんなもう強くて独り立ちしてもいいんだがな」
「で、ですよねー……」
大丈夫か、こいつ。
段々現実逃避していくように目の光が消えていっているぞ。
正直、目を合わせたくない。
「それはいいとして、俺の家に何か用があったのか?」
「よくはないですが、確かに用はありました」
話を聞くとゴブリン王国の討伐は冒険者の仕事にあるクエストで、ネストとイトナはそれを潰してしまった。
そしてそのクエストの難易度は高い方で、そのゴブリン王国を潰したのが二人という情報が入ったから調査に来たとのこと。
なぜ副班長ほどのお偉いさんが来たかと言うと、クエストの難易度が高いゴブリン王国を潰した連中に会う可能性があるからだと。
確かに弱いやつが行って死んでしまったら何の意味もない。
「ふむ、そのゴブリン王国は向こうから仕掛けてきたんだ。だから潰した」
「だから潰したって……。よくあの大軍を倒したな」
「潰したのは俺じゃなくてネストとイトナだ」
「やはり……」
「それで俺たちが罰せられるのか?」
「そうではない。本人がいる前で言うのはどうかと思うが、鬼人とスライムは魔王軍側だ。人類の敵なら排除しなければならない」
「そういうことなら大丈夫だ。俺が保障しよう」
「僕も保証するよ!ほら、君たちにとってはうれしいでしょ?」
信仰されているほどのサシャが言ってくれるのはうれしいけど、3人はあまり納得していないようだった。
ずっと俺と一緒にいるからそんな気持ちはなかったんだろうけど、これは人間たちがずっと続けている見方だから仕方ない。
「助けてくれたのはありがたい。だが、俺はすぐに戻らないといけないんだ」
「忙しいのは分かるが、もう夜だぞ?」
「構わない。情報は早く持って帰るべきだからな」
「そうか。それなら止めないが、俺たちのことは――」
「もちろん悪いことは絶対に言わない。また機会があったら会いに来てもいいか?」
「構わないよ。好きな時に来てくれ」
「ああ、ありがとう」
そう言うと外へ出ていった。
急に来たと思ったら急に帰っていったな。
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