異世界で封印されていました。

銀狐

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「ふぅ…」
「読み終わったか」
「はい。内容はけっこう濃かったです」

 ハチミツ庭園という店に入って1時間。
 本に厚みはさほどないのに、時間がかかっていた。
 それでもメアリは嫌とは言わずに読んでくれたのはありがたい。

 本を読んでいる間にメアリはハチミツパンを何枚か食べていた。
 それも皿が何枚か重なっているほどに。
 行儀よく汚れないようにしていたが、食べている枚数的にそれを無に帰していたと思う。
 貰った金があったとしても、全部メアリに吸い取られそうだな。

「それでどうだった?」
「一応物語もありましたが、簡単に言うとユニコーンについてまとめた本でした」
「薄い理由はそれか。だが何故時間がかかったんだ?」
「まとめた本なだけあって、ある程度知っていることを前提にしていたので」

 だから時折ページを戻して読んでいたのか。
 見返さなくていいように複製できたらいいのだが、コピー機なんてものがない。
 魔法にしても自分の分身しか考えたことが無かった。
 言ってくれれば、それまでに出来たかもしれないんだが、メアリが頑張ってくれたのだから黙っておこう。

「結論から言うと、ユニコーンはどうやら実在するそうです…!」
「空想の生物と言っていたのにか?」
「はい!目撃情報や痕跡から考えるといるのはほぼ確定だそうですが、見ることすら難しいらしいですね」
「情報があっても、実際に見れてないから空想の生物となったのか」

 それほど逃げるのが上手なのか、隠れるのが上手なのか。
 実在すると言われても、心のどこかでまだいないと思っていた。
 ツチノコやネッシーがいると言われても、ピンと来ないのと一緒だろう。

「ヒビはどう思いますか?」
「そうだなぁ…。メアリが読んでいる間に考えていたんだが、いると考えている」
「私も同じです。ここまで書かれていたので本当に思えます。何か理由とかはありますか?」
「理由というか、俺の考えが正しいならあの5人の証言で分かるはずだ」
「あの5人ですか?この本について聞くとかですか?」
「そうじゃない。俺が聞きたいのは――」

 続きを話そうとした時、キーラの姿が目に入った。
 いつ店に入ったのかは分からないが、どうやら1人だけで来たみたい。
 向こうはまだ気づいていないようだ。

「どうしたんですか?何か――あっ!」
「いたいた!よかった、まだいたんだね!」

 メアリも気づいた瞬間、向こう側も気づいたようだ。
 俺たちを見つけると、真っすぐに俺たちの方へ向かって来た。

「まだ目が覚めていないんだけど、さっきの人達を調べたら盗賊だったの。この国ではまだやってないけど、他の国からは警告が出されていたから助かったよ!」
「それは良かったな」

 まだこの国で犯罪が起きていないならそれでよかった。
 あのまま放置していなくて正解だったな。

「それと言い忘れてたんだが、あいつらの荷物を俺たちが持っているんだが、どうしたらいい?」
「そうでした…。これ、あの人たちのものでした…」
「うーん、どっちにしろ所持品は没収されるからねぇ。『持ってていいよ!』って言いたいけど、プライバシーもあるだろうし…」
「なら実際に見てもらった方が早いだろう」

 メアリはキーラに本を渡す。
 キーラは小さい体ながらペラペラと本を読んでいく。

「もしかしてだけど、これを見てユニコーンを探したいとか思ってたり?」
「まあ少しは考えるだろう」
「そうですね。見てみたいです」
「ですよねー…」

 そりゃあ見たいに決まっている。
 目のまえに珍しくて普通なら見れない生物がいるって言うのに興味を示さないわけがない。
 面倒なことに首を突っ込むことになるとしても、十分に価値はあるはずだ。
 何せ元の世界にいなかったんだからな。

「でもごめんね。ユニコーンに関してはダメなんだ。止められちゃってて」
「それなら仕方がない。元々返さなかった俺が悪い」
「私も忘れていたから…」
「いーよいーよ!それなら私もチェックしなかったんだから私も悪いんだし!この話はもうおしまい!」

 小さな手でパンッと叩く。
 小さいだけあって締まらない音だが、小さく可愛らしい音だ。

「それより、この国に来たってことは何か理由があるんじゃないの?」
西野龍一にしのりゅういちというやつを探しているんだが」
「あー、なるほど。そうなるか…」

 キーラは苦笑いをしながら腕を組んだ。
 英雄と言われている人のはずだが、あまり態度が変わってない。
 英雄だからと言って偉そうにしているわけじゃなさそうだな。
 というより、龍一のことだからそういうことも嫌がるか。

「実はユニコーンについて広めないようにしたのがその人なんだ」
「まあ、龍一らしいな」
「どっちにしろよかったね。リュウイチさんに会えばユニコーンに会えるかもしれないよ」
「本当ですか!?」
「本当だよ。だけどいつもフラフラ歩き回っているから、どこにいるかは答えられないけど」

 まだユニコーンを探しているのか、他の動物を追いかけているのかは知らない。
 学校ではどちらかと言えば大人しく座ってあまり動こうとしなかった人間だったが。
 龍一にとってこっちの世界は楽園なんだろう。

「あとは俺たちで探すか」
「あれ?もう行くの?」
「元々それを読むために来た店だ。だからもう用は――」
「お待たせしましたー!ハチミツケーキです!」

 出ていこうとした瞬間、俺たちの机の上に3つのケーキが置かれた。
 もちろん出ていこうとしていたのだから俺が注文したわけじゃない。
 そうなると…。

「えっと、キーラさんも一緒にどうですか?」
「いいの?いつの間に頼んだのかは分からないけど、私の分までありがとね!」
「いえいえ」

 …もしかしてだが、自分で2つ食べるつもりだったんじゃないのか?
 スイーツに目がないのは分かるが、少し量が多すぎる。
 頭を使ったから糖分が欲しいとしても、それ以上に食べているぞ。
 本当によく太らないな。

 結局、満足できなかったのか、メアリはお替りして2つ食べていた。
 ハチミツケーキの感想だが、割と中毒性がある。
 そもそもこっちのハチミツ自体に甘みがあって単体でも美味しいのに、それに加えて程よいスポンジ生地だ。
 味がしみ込んだスポンジは想像を超える美味しさになっていた。

「たくさん食べましたね…」
「私は小さいからもっと食べた気がするよー」

 キーラは体のサイズ相応しか食べない。
 そもそも人間用サイズで出されたのに、それを食べたのだ。
 1日分の食料ってレベルじゃないけど、どこに食べたものが入ってるんだか…。

「太っても知らないぞ」
「大丈夫だよ!私は食べたものは魔力に変わっちゃうから!」
「羨ましいです…。私も魔力に変わってたら…」
「メアリも魔力に変わってるかもしれないぞ」

 あんなに食べて変わらないんだから、マジでそうじゃないのか?
 というかそうじゃなかったらおかしいとまで思う。

「じゃあ行くか」
「私はここでお別れだね。ありがとうね、捕まえてくれてくれた上にハチミツケーキまで」
「いえいえ!良いお店も教えてくれてありがとうございます」
「また会おうね!バイバーイ!」

 そう言って先にキーラは飛んでいった。
 そろそろ龍一を探さないと日が暮れる。

「まずは町の中を探すか。それと一緒に見かけなかった聞いてみよう」
「すぐ見つかるといいですね」

 国と言われているだけあって広いが、国のほとんどの森も含めて計算されている。
 実際にここから離れて森のあちこちに住んでいる人達もいるが、こうした建物の密集地は森の中でもここしかなさそうだ。
 どちらにせよ、聞きながら歩いて探すのには広いに変わりはない。

 歩いては通りすがりの人に聞き、店に入って探せば人気の少ない場所まで探す。
 それでも見つからない。
 メアリにも特徴を教えて分担して探したが、それでも見つからない。

「もしかしてユニコーンが龍一なんじゃないか?」
「あ、あはは…。むしろ今日の目撃情報や痕跡すらないので難しいですね…」

 昨日や一昨日、一週間前に見たって人はけっこういた。
 だが今日にいたっては収穫がゼロ。

「となると、ここにはいないってことか…」
「どうします?今日はもう休みますか?」
「そうだな。そろそろ日も暮れそうだし、宿を探すか」

 宿を見つけ、俺たちは宿で休んでいった。
 今日の成果はユニコーンについてだけ。
 あとはハチミツケーキが美味しかったのも成果なのか?
 メアリもまた行きたそうにしていたし、連れて行ってやるか。
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