異世界で封印されていました。

銀狐

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 移動2日目、アロスト王国まで半分を切る日になる。
 旅は順調で天気も良く、歩いているだけでも気分はいい。
 のだが…。

「で、なんて言った?」
「だから使い魔です!私にもいたらなあって」

 道中、動物の話をしていたらこの話の流れになった。
 もちろん間には出来事が起きている。

 まずは昨日、龍一について話をした。
 これは単純に動物好きで、ただ動物のことになると危なくなるということを言っただけ。
 ただの紹介で終わっていたからそこまでは影響はないはず。

 次に起きたのは昨日の夜で、これが決め手だったんだろう。
 メストリアル王国から出るか出ないかぐらいまで俺たちは進んでいた。
 目印としては動物の多さだったが、多さ的に出ていたみたいだ。
 出ていないとしても、祭りの分を取ったから当分来ないんだろう。
 その日は食材もたくさんあったことで、メアリも嬉しそうに食べていた。

 そして、そんな俺たち2人の前にネコが現れたのだ。
 ネコと言っても、向こうとは違ってしっぽが3本。
 こちらではネコではなく、テイルと呼ばれている。
 しっぽを除けば普通のネコだから、そりゃあ見た目は可愛いわけだ。

 ここ数日間、メストリアル王国のお祭りの影響で動物がどんどんと減っていった。
 テイルはそれを察して身を潜めていたらしい。
 そのせいで食事はまともにできず、俺たちの前に現れた時は襲い掛かってでも食事を得ようとしているほど痩せていた。

 痩せたテイルを見たメアリは食事を与え、俺たちと一緒に食べていた。
 テイルはお礼に何かしようとしたのか、メアリにべったり甘えていたのだ。
 それが決め手になった。

「あれは食事を与えて、それのお礼であんな甘えてたんだ。使い魔がそう簡単に懐くわけでもないんだぞ」
「知ってますよ!ですから頼りになるヒビに手伝ってほしいんです!」
「手伝うのは別にいいんだが、必ずしもネコみたいな動物が出るとは限らないんだぞ…」
「テイルですよ。昨日も間違えていましたね」

 それはこの際どうでもいい。
 ちなみに昨日のネコは、朝起きた時にはいなくなっていた。
 森に帰っていったんだろう。

「何が出るのか分からないんだぞ?あくまで使い“魔”なんだから」
「はい。それでもやりたいです」

 …まてよ?
 仮にメアリが化け物みたいな使い魔が出たとしても、強ければまだ役に立つんじゃないか?
 この前みたいに俺がいない状況でも、使い魔がいればより安全になるかもしれない。

「分かった。やってみるか」
「やったー!!」

 流石に召喚は歩きながらではできない。
 そもそも、俺自身その魔法を成功したことがない。
 俺のやり方は血を存分に与えてやったが、違うのか?
 メアリがやり方を知らなかったらそもそも出来ないのだが。

「メアリはやり方を知っているのか?」
「そんなこともあろうかと実は…」
「あ、分かった。それ以上は聞かなくても分かる」

 あの地図を買った店で買ったんだろう。
 そんな本も売っていたしてもおかしくは無かろうし。

「じゃあさっそく始めるか」
「はい!えーっと、まずは血の用意ですね」

 メアリはナイフを使って自分の指にキズを付け、少しだけ血を出した。
 俺もメアリが読んでいる本を横から見てみた。

 この血は契約とかに使う血ではなく、釣りで言う撒餌。
 血に引き寄せられた魔物を吊り上げる、そんな魔法らしい。
 本当に魔物版の釣りだな。

「それで現れた魔物が暴れる可能性もあるので、ヒビにお願いをしたいです」
「なるほどな。簡単に使い魔をつくれるわけではないということか」
「はい。確か強い使い魔が欲しくて本当に強い魔物が出たんですが、食べられちゃったなんていう噂話を聞いたことがあるんですよね」
「それ、今言うべきことではないからな」

 何故ここで緊張感を煽るのだろうか。
 俺がいれば大丈夫だろうけど、本当におぞましい化物が出たら俺も嫌だ。
 気持ち悪い系も嫌だからな?

「じゃあさっそくやってみます。召喚サモンズ

 黒いワープが少しずつ出来上がり、そこに血を一滴たらした。
 本には魔力が濃い人は一滴で釣れると書いてある。
 念のため、いきなりたくさん出すわけではなく少しずつやっている。

「きゃっ!?」
「どうした!!」
「い、いえ。いきなり大きな風が吹いたようで…」
「風?そんなのなかったが…」

 ずっとワープを見ていたから何が起きたのかよくわからない。
 分かることはメアリが倒れ込んだ後、ワープが閉じてしまったことだ。

「あははっ!くすぐったい!」
「今度は何だ?何か変なキノコでも――ん?」

 メアリが切った指の方を見てみると、何か毛むくじゃらが引っ付いている。

「そいつが使い魔候補なんじゃないか?」
「えっ?うわっ!?いつの間に…」
「気づかなかったのか…」

 ひょいっと剥がすと、気づかないと思えるほど体が軽い。
 まるで綿でも持っているかのようだ。

「可愛い動物です!!」
「あ、ああ。そうだな。まるでイタチのような動物だな」
「持たせてください!!」
「そんなこと言わなくても、お前の方に行きたがっているよ」

 メアリに渡すと、イタチは先ほどの指を再度舐め始めた。
 やはり血に引き寄せられたようで、血をずっと舐めている。
 傷が塞がるころにはイタチも満腹になったようで、メアリの腕の中で腹を見せていた。

「よかったんじゃないか?こういうのがよかったんだろう?」
「はい!早く契約しないと、帰っちゃうかもしれないです」
「じゃあ早いところ済ませようか」

 本によれば、首輪をつければ契約完了。
 これがまた難しく、相手も了承した状態じゃないと首輪はつかない。
 その首輪は魔法でつくるため、手間はかからないと書いてあるが、その前の段階が厳しい。
 だがそんな心配はいらなかった。

「そりゃあ、まあ。血を貰ったんだから了承するか」
「優しくて可愛い子…。フィーちゃん!今日からフィーちゃんね!」
「クワッ!」

 名前も決められ、フィーはメアリの首にするすると回った。
 面白いことに体の長さが自在に操れ、今はマフラーのように首元にいる。
 何より綿ぐらいの重さしかないのに、持った時はしっかりとした毛並みと温かさが感じられる。

「最高のマフラー兼使い魔だな」
「はい!」

 メアリは大喜びで今日一日ずっとテンションが高かった。

 ちなみにだが、俺も挑戦してみたが現れることはなかった。
 血を増やしてもダメ、ワープを大きくしてもダメ。
 贅沢は言わないからさ、何か1体でも来てほしかったよ…。
 俺はメアリとは逆で、少しテンションが低い1日になった。
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