異世界で封印されていました。

銀狐

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 先週は休んでしまい、申し訳ありません。
 体調管理には気を付けます...

――――――――――――――――――――――――――

「あなたは早く逃げて!」
「は、はい!」
「メアリ!これを持っていけ!!」

 魔法を使ってメアリの元へとあるものを渡した。
 それはメストリアル王国へ来るときに使った羽の実。
 走って逃げるよりは断然速い上に、メアリは扱いが上手。
 この場で使うのにはうってつけだ。

 メアリは受け取るとすぐに飛んでいった。
 行先は方角的に宿の方だろうか。
 警報が出ているからそっちの方へ行ったかもしれないが、戦いが終わったらすぐにでも探し出して見せる。

「それにしても栞自身から来てくれるとはな」
「あなたは…響風くん?」
「そうだ。証拠うんぬんなら『明水学園2年1組』やクラス”15人”全員の名前でも言えばいいか?」
「いえ、大丈夫だわ。そのことを知ってるのは明水学園2年1組私たちともう亡くなったシュリンガーやその周辺の人達だけだからね」

 なら話が早い。
 後はカロルとサザン、それに蒼一朗をどうにかするだけだ。
 カロルはすぐに終わるだろうが、サザンと蒼一朗が問題。
 そんなことを考えていると、先に動いたのは栞だった。

「さあ、終わらせるわよ」
「ボス、ここは――」
「今は自分の心配をしたほうがいいわよ」

 腰にあった剣はいつの間にか抜いてあり、サザンのもう片方の腕を落としていた。
 早過ぎてまったく見えなかったぞ…。

「サザン、今は逃げるぞ!ボス!!」
「…何を言ってるんだ?最後まで戦わないとダメじゃないか」
「えっ…」

 蒼一朗は懐から小さな水晶玉を取り出すと、すぐさまそれを手で握り割る。
 割ると同時にカロルとサザンの周りに黒いモヤが現れた。

「な、何だこれは!」
「ボス!一体何を!!」
「このままじゃやられちゃうからね。ただ一方的に負けちゃうとつまらないから、手を貸してあげるよ」

 黒いモヤは徐々に大きくなっていき、カロルとサザンを飲み込んでいった。
 俺と栞も見ているだけではなく攻撃を仕掛けたが、弾かれてしまう。
 ただの煙かと思ったが、煙自体魔法で守られているようだ。
 もしくは煙自身に何かがあるのか…。

「さて、完成だ」
「「……」」

 黒いモヤから出てきた2人は、もう人間の姿ではなくなっていた。
 悪魔と言った方がいいだろう、カロルのケガはなくなり、サザンの腕まで治っている。
 もう角魔人ハーフデビルの面影はなくなっていた。

「角魔人は悪魔と人間のキメラ、つまり両方の力を持っている優れものだ。悪魔に戻してしまうのは勿体ないが、両方の力を悪魔にまとめたんだからまあ十分だろう」
「悪魔に戻した…?」
「そうだよ。角魔人は元々悪魔の子供だったんだ。その子供に人間を取り込ませてつくったのが角魔人なんだよ」

 胸くそ悪い話だな。
 疑問に思って口に出したが、聞かなかった方がいいと思うぐらいだ。
 カロルとサザンの2人が声を発さないのは、悪魔として戻ったからなのか?
 どちらにせよ、このまま放っておくわけにはいかないのには変わらない。
 悪魔なら、なおさら倒しておかねばこの国に被害が広がってしまう。

「『倒さないといけない』とでも思っているのかな?」
「なっ!?」
「きゃっ!!」

 栞の高速斬りとは違って目で追えたが、力がありすぎる。
 守っても吹っ飛ばされてしまった。
 これが悪魔本来の力と人間の力を合わせた力だというのか?

「まったく、傲慢すぎるよ。14人の英雄と言われたから天狗にでもなっているのか?っと、ヒビは知らないんだっけか」
「知ってるよ。んなことはな」
「そっ。なら話は分かるよね」

 先ほどまで座っていた蒼一朗は立ち上がり、飛ばされた俺たちを見下すように話し出す。

「僕のやることはただ一つ。14人の英雄と呼ばれた奴らを潰すことだ」
「ならてめえはどうなんだよ。その中の1人なんだろ」
「僕か?まあ普通に生き残るよ。ちゃんと言うなら13人を潰すってことだね。ん?違うね、1人増えたから人数は変わらないや」

 小馬鹿にするように笑う蒼一朗。
 こいつのことだから、これだけではないはずだ。
 表向きは合ってるとしても、本当の目的がまた別にあるかもしれない。
 こいつはそういう男なはずだ。

「そう、分かったわ。なら私たちが全力で止めるまでよ!」
「そうだな。てめえ1人でクラス全員に勝てたらの話だ!」
「…ほう」

 俺は能力付与箱アビリティ・エンチャントキューブでカロルを、栞は剣でサザンを吹き飛ばした。
 受けた一撃でどれぐらいか予想して、それ以上の力を出せば倒せる。
 こっちにはもう人質もいないんだから、遠慮なんかしないぞ。

「だけどまだだよ。まだ始まったばかり」
「さあどうかな!反射リバース!!」
「それはカロルが使うからこそ意味がある魔法だよ」

 そう、これはカロルが使っていた魔法だ。
 誰でも使える魔法だが、使えるところがあるかと言われればない魔法だ。
 だが、俺の能力付与箱アビリティ・エンチャントキューブを使えばカロル同様の力を出せる。
 もちろん能力はカロルと同じ、威力上昇だ。

「だが所詮は人間の身体。撃ち合いで勝つのは悪魔の身体に決まっている」
「甘いんだよ!傲慢はどっちだ?結果はまだ分からないぞ!」

 俺が反射を使うと、悪魔となったカロルも同じように反射を使う。
 威力上昇の能力はさらに上がったようだが、今となっては関係ない。
 互いに撃ち合い、威力はさらに上がっていく。

「響風くん!流石にそれ以上は――」
「大丈夫だ。後で話があるから、その時に俺のことは話す」
「…うん!なら、私はこっちに集中しないとね」

 栞の目の前にいるのは悪魔となったサザン。
 表情という表情は読み取れないが、今は目の前にいる敵を倒すという殺意があるのはわかる。
 先に動いたのはサザンの方だった。

 何も言わずに魔法を使う上に、動きも速い。
 だが、栞にとっては朝飯前と言わんばかりにサザンの後ろに回り込む。
 そして剣を振った。

「硬っ!?」
「……」

 攻撃を受けたサザンは何も言わない。
 それどころか、次の攻撃を栞目掛けて撃つが、当たることはなかった。

「大丈夫か?手を貸した方がいいか?」
「大丈夫よ。今はお互い、目の前だけに集中しましょう」
「そうだ、な!!」

 そろそろ万能立方体アクティブ・キューブの防御だけだと守り切れないな。
 後は復活を繰り返すことになるが、向こうも流石に無傷なわけがない。
 俺と違って防御はせずにすべてを受け切っている。
 カロルの身体から、ところどころ崩れ落ちている部分があった。

「さて、響風くんが終わりそうだしこちらも終わりにしましょう」

 栞は後ろへと飛ぶ。
 剣を構えると、サザンがすかさずに魔法を放った。
 そんなことは関係なしに、栞は動き始める。

「これで終わりよ。風斬」

 一瞬で姿を消し、姿が見えたと思ったら別のところにいる。
 文字通り瞬間移動をしたと思ったが、地面には移動したと思われる赤い線が残されていた。
 その線の上にはサザンがいて、硬い体は真っ二つに斬られていたのだ。

「馬鹿な…。サザンの身体は剣すら通らないはずだ」
「答え合わせは君を捕まえてからよ」
「まだ勝負は終わっていない。まだカロルが――」
「カロルがどうした?」
「んなっ!?」

 カロルは俺との撃ち合いで既に砕けている。
 そんなやつを相手していた俺は、腹部を集中的に攻撃されていたが。
 まあもちろん、すでに傷は回復している。

「これは警告よ、蒼一朗。大人しく捕まりなさい」
「…ふん。今回は僕の負けのようだね」
「そう。ならこっちまで来なさい」

 素直に蒼一朗は降りてきて、俺たちの目の前に歩いてきている。
 両手も上げ、降参しているようだった。

「――だが、今回は逃げさせてもらうよ」
「そうはさせないわ!」
「待て!そいつに近づくな!!」

 わずかだが、歩いてくる間に蒼一朗は魔力を込めていた。
 もしくは最初からばれないように少しずつためていたかもしれない。
 その魔力は大きな爆弾となり、俺たちを巻き込む大きな爆弾となっていたのだ。

「…危なかったわね」
「本当だよ。咄嗟に俺を引っ張ってくれて助かった」
「と言っても、何か防御魔法を使おうとしていたし、それでも無事に生き残れそうだったわね」

 こんなこともあろうかと、防御魔法は出してある。
 ほんの少しでも遅れたら、俺はともかく栞が死んでしまう。

「蒼一朗はもう、死んでしまったのかしら」
「恐らくあれは人形だろう。途中で入れ替わったのかは知らないが、死んだとは思えない」
「そうね。逃がしちゃったけど、目的が分かったのは大きいわ」

 結果はともあれ、戦いは終わった。
 今まで気を張っていたのか、安心と同時に目の前が真っ暗になった。

「そうだわ。話があるって言っていたけど――響風くん!?」

 逃げた場所が悪かったのか、場所は闘技場の高いところ。
 ヒビはそのまま抵抗もなく落ちていく。

「まだ間に合うわ。すぐに」

 栞が動こうとした瞬間、どこからか羽が羽ばたく音が聞こえた。
 音は自分の真横を通っていき、ヒビに目掛けて飛んでいく。

「ヒビ!大丈夫!?」
「あの子はさっきの…」

 飛んできたのはメアリだった。
 メアリはヒビに声をかけたが、返事はない。
 胸に耳をやり、心臓の音を確認している。

「よかった…。ケガも治っているようだし、疲れているだけみたい」
「大丈夫よ。休んでいれば直に起きるわ」
「えっと、先ほどは助けてくれてありがとうございます。たしか…」
「栞よ。鈴谷栞すずや しおり。よろしくね」

 2人は挨拶を済ませると、ヒビを昨日泊った宿まで運んでいった。
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