異世界で封印されていました。

銀狐

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 夜も近づいてきたため、今日も野宿。
 既に他国の土地になっている。
 こんなことならユガの町で泊ってから出発すればよかったな。

「今日の分も狩ってくるか」
「昨日の分があるから大丈夫じゃないですか?」
「お前がバクバク食べるから足りないんだ」
「ちょっ!私そんな大食いではありません!!」

 残念だが、大食いなんだよ。
 一体どうやったらあれだけ食べたのにスタイルを維持しているんだよ。
 何か魔法で消しているんじゃないのか?

「どうする?お前は待っているか?」
「一緒に行くに決まってます!」

 昨日と同様に今日の飯探し。
 同じように探しているが、昨日よりも獲物が全然見つからない。
 1時間探し回っても見つからないほどに。

「ここまで何にもいないとはな」
「恐らく狩られたんでしょう。もうメストリアル王国内ですから」
「こんな国境付近まで狩っていくのか?」
「そうでした、言い忘れてました。メストリアル王国ではあるルールがあるんでした」

 それを早く言えよ!
 何もなしに探していた俺たちがバカみたいじゃないか。

「ふぁ、ふぁにをひゅるんれふか!」(な、なにをするんですか!)
「大切なことは先に言え。時間がもったいない」
「ひゅみまへんれひた…」(すみませんでした…)

 早く言わなかった罰として、ほっぺをつねった。
 けっこう伸びたし、何より思った以上に柔らかかったな。

「それでルールってのは?」
「いててっ…。えっと、その1、家族や仲間を殺すな。いろんな国の中でも3つの獣人王国の中でも、メストリアル王国が一番仲間思いの国と言われています。そのため、“裏切り”はタブーとされています」
「随分と優しい国だな。よく今まで残っていたな」

 国同士の戦争はもちろんあるが、国内の戦争もある。
 内戦とは違い、派閥の争いもあっておかしくはない。

「それについては後程。その2、相手の領土では好き勝手な行動は禁止」
「それはどういう事だ?」
「今は戦争を行っていないため機能していますが、簡単に言うと他国では“お邪魔させてもらっている”という立場を忘れるな、という事です」

 簡単な話、他国で問題を起こすなという事か。
 そこから戦争が生まれ、仲間たちが死ぬのを防ぐためにあるのかもしれない。

「最後にその3、弱肉強食」
「…それって矛盾していないか?」
「たしかにその1と矛盾していますが、獣人ですのでそういう心があるのです。そのため、殺し合いではなく戦闘を行う闘技場があるのが特徴です」
「なるほどな。殺しや戦争はしないが好戦的。その強さが国を守っているのか」
「そうです。強い獣人が集まっていて、仲間同士の絆が強いからこそ成り立っている国なのです」

 信頼があってこその国というわけか。
 悪い点としては、もし裏切りがあったらすぐに潰れてしまう可能性があるところだが、たかが1人や2人が裏切っても戦力があるのだろう。

「よろしければ闘技場に参加してみますか?」
「遠慮しておく。俺は魔法や能力が使えても、肉弾戦や剣はからっきしだ」
「部門分けは一切なく、殺しなしぐらいのルールでもですか?」
「それでも遠慮する。別に俺は戦いが好きなわけではないからな」
「そうですか」

 少し残念そうに話すメアリ。
 何故残念そうだったのかは分からないが、聞こうとも思わなかった。

 戦闘が好きな奴がいれば、もちろん嫌いな奴もいる。
 俺が好きではない理由は、ただ疲れるというだけだが。
 何せ、負ける気がしないこの能力があるからつまらないのだ。

「せっかくならかっこいい所見たかったのに…」
「何か言ったか?」
「何でもないです!!」
「いてっ」

 俯いてブツブツ言っているから顔を覗いたら、両手で顔を押された。
 本当は全然と言っていいほど痛くはないが、ついとっさに言ってしまう。

「それで獲物がいない理由は――ああ、弱肉強食だから全部食われたのか」
「そうですね。他国の領土までは取りませんが、自分たちの領土では特に獣人ではない動物は獲物でしかないので」

 そうなると今晩の飯は昨日のあまりだけか。
 俺とメアリが食べると二人とも足りないぐらいか。

「戻るぞ。狩りは終わりだ」
「えっ、でも足りないのでは?」
「いいから戻るぞ」

 俺たちは拠点へ戻り、互いに座った。
 そして俺は魔法の袋マジック・バッグを取り出し、昨日のあまりを取り出した。

「ほら、食え」
「えっ?でもヒビの分が」
「今更何を言うんだ。俺は何千年も食べなくても生きられるんだ。たった1回の晩飯を抜いても死にはしない」

 久しぶりにご飯を食べてから、“空腹”というものが徐々に戻ってきた。
 だがこれぐらいならまた慣れるだろう。
 だが、メアリは俺の方へ食べ物を寄せてきた。

「ん!」
「俺のことはいいから早く食――」
「えいっ!」
「んぐっ!?」

 しゃべっている最中に口に無理やり突っ込まれた。

「何をしやがる!」
「昨日、私が泣く前に“俺にもその痛さは分かる”と言ったのを覚えていますか?」
「…ああ」
「泣いた後、私も思ったんです。ヒビが私の痛みも分かるなら、私もヒビの痛みを分かってあげたいと」

 いつものメアリとは違う目。
 楽しい、嬉しい、悲しい、どれが一番正しいかと言えば、悲しい目だ。

「だから私も――んぐっ!?」
「分かった。分かったから一緒に食おう」
「っ!はい!!」

 つい嬉しいと思ってしまった。
 まさかの不意打ちだ。
 このまま言われては何か負けた気がするから、つい誤魔化してしまった。

 でも、嬉しかったのは本当だ。
 初めて会ったのがメアリで本当によかった。
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