異世界で封印されていました。

銀狐

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「ヒビ、今後どうするつもり?」
「せっかく解放されて自由になったんだ。前の世界に戻れないし、こっちの世界を周ろうと思う」
「メアリもか?」
「もちろんです!」
「そうか。分かった」

 案内役からお共に変わっているような。
 いや、今は嫁になっているのか?
 たった1日でこの変わり方、また他に変わりそうだ。
 待て、それはそれで嫌なんだが。

「そうだヒビ。よかったら温泉に入っていかないか?」
「いいのか?一文無しが入っても」
「もちろんだとも。この家の温泉なら貸し切りだからゆっくりしていけ」

 温泉と聞いてから、出来れば入りたいと思っていたからうれしい話だ。
 ここは言葉に甘えさせてもらおう。

「じゃあ入ろうかな」
「よし、なら俺も――」
「サザナミ様、サザナミ様はまだお仕事が残っているはずです」
「いやいや、こんなこと滅多にないんだから少しぐらい…」
「サザナミ様?」
「…はい。仕事をします」

 しょんぼりして泣く泣く机がある所へ座った。
 机の上には本が積まれている。
 この町の主みたいでもあるようだから、仕事が文字通り山のようにあるのだろう。

「ではこちらへどうぞ。温泉までご案内いたします」

 部屋を出て、モミジが温泉まで案内をしてくれた。
 先ほどユウがいた部屋は、廊下でつながっている別の小さな家だから、また戻る感じになる。
 温泉は俺たちが入った入り口側にある建物のほうにあるようだ。
 俺たちは来た道とほとんど同じ道を通って来た。

「こちらが男湯、そちらが女湯になっております。拭くものと着替えは中にありますのでご利用ください」
「わかった」
「モミジちゃんも入らない?」
「私はサザナミ様の監視がありますので」

 モミジの口は笑っているが、目が笑っていない。
 こういうことが結構あるみたいだな。
 よく思い出せば、ユウは課題をやらないくせに、勉強ができる男だった。
 これはモミジが大変だろうな。

 そんなモミジはペコリと頭を下げると先ほどの部屋へと歩いて行った。

「さて、入ってくるか」
「じゃあまた後で」
「ああ」

 脱衣所は旅館と同じで何個もカゴが用意されていて、中には着替えとタオルが置いてある。
 着替えはもちろん浴衣。
 サイズが合うのか試そうと思ったが流石は異世界、魔力でつくられているためサイズに合って伸縮する。

 服を脱ぎドアを開けると大きな露天風呂があった。
 雪がまた降り始め、普通だとこのままでは寒いが、体を洗うスペースは寒くないように対策されている。
 俺が昨日使っていた仮テントと似ている構造だ。
 なにからなにかまで至れり尽くせりだな。

「ふぅ、やっぱり温泉はいいなぁ」

 今まで風呂に入ってなかったから汚かったというわけではない。
 魔法があるから綺麗にする魔法を使っていたが、やっぱり風呂に入らないといまいちスッキリしない。

「ヒビー、いるー?」
「まだいるぞ。そんな大きな声を出さなくても聞こえる」
「もう、せっかくの温泉なのに全然変わらないし」

 そんなわけはない。
 久しぶりの温泉だからテンションは上がっている。
 ただ、今はそれをじっくりと味わっているのだ。

「そっちって誰かいる?」
「いないが、来るなよ」
「い、行かないわよ!ただ他に人がいたら恥ずかしかったから聞いただけ!!」
「そうか」

 というか、さっき貸し切りと言っていただろうに。
 それ以降の会話はなく、俺もメアリもゆっくりと温泉を堪能した。
 長い間ゆっくりとつかったため、そろそろ出ようとしたその時だ。

「そろそろ出るか。メアリももう――」
「ヒビ!助けてくれ!!」
「…何しているんだ、ユウ」

 温泉から出ると、脱衣所のドアが勢いよく開いた。
 そして勢いよくユウが入ってきた。
 しかも服を着たまま。

「いいから助けてくれ!モミジが――」
「モミジがどうしたんだ?仕事でもサボって怒られているのか?」
「ちょっと休憩しようとお茶を飲むだけでも怒るんだぞ!?理不尽すぎる!説得に手伝ってくれ!」
「自業自得だろ」
「サザナミ様ー?一体どちらにお隠れになったんですかー?」

 脱衣所のほうからモミジの声が聞こえる。
 優しいように言っているが、随分と圧がある声だ。

「ここですか!!」
「「あっ…」」

 先ほどのユウと同じように勢いよく現れた。
 そう、この男湯に。

「あわわっ…!」
「ヒビ!モミジちゃんの声がそっちから聞こえたけど何かあったの!?」
「モミジが入ってきただけだから大丈夫だよー」
「俺が大丈夫じゃない」

 今の俺は裸なんだぞ。
 お湯にタオルをつけるなんてことはしないが、短い移動でも腰にタオルを巻いている。

 普通、こういう展開は俺じゃなくてメアリに起きるんじゃないのか?

「ほら、ユウが出ていかないと――」
「ざーんねん!それは偽物ダミーだよ。じゃあな!」
「あんにゃろう…」

 滅多に怒ることはないが、久しぶりにカチンときた。
 あいつのせいで俺の裸を見られたのに、あいつはさっさと逃げていく。

「逃がすかよ。万能立方体アクティブ・キューブ!」
「うげっ!?なんだよそのサイコロみたいなの!!」

 流石にケガをさせるのは良くないから、鳥かごのように閉じ込めた。
 これをモミジに渡せば二人とも出ていってくれるだろう。

「ほら、こいつを持っていってくれ」
「あっ、はい。ありがとうございます」

 モミジはユウを引きずれて出ていった。
 まったく、騒がしいやつだな。
 流石に湯冷めしてしまったため、再度温泉へ。
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