異世界で封印されていました。

銀狐

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「こちらがサザナミ様のお部屋でございます。失礼します」
「モミジか。急にいなくなったと思ったらどこに――」
「久しぶりだな、ユウ」
「ヒビ!?ヒビじゃないか!!」

 部屋の中では胡坐をかいて茶をすすっている男がいた。
 転移あの時から変わらない見た目で懐かしい顔。
 俺と同じで年はとっていないみたいだ。

「よかったー。俺たちが目覚めた時にいなくて死んだと言われたから…」
「死んではいない。俺はあの時に封印されたんだ」
「封印だと?じゃあトラノク王国の封印されていたやつってヒビのことだったのか!?」

 封印されている者がいるのは知っていたが、誰が封印されていたのかは言われていなかったのか。
 だから誰も来なかったわけなのか。

 とりあえず俺たちも座り、モミジが俺たちの分のお茶を出してくれた。
 お茶を出すと、モミジはユウの斜め後ろにちょこんと座った。

「いつ洗脳が解けたんだ?」
「そんなことまで知ってたのか。そうだなぁ、戦争が終わった時だから、1ヵ月後ぐらいだっけかな。今になっては短く感じるが」

 戦争がそんな短期間で終わったってことは、やはり連れてこられたユウたちは良い戦力になったわけか。
 だが何故わざわざ洗脳を解いた?
 そんなに戦力になるなら、ずっと洗脳をしていた方が良かったはず。
 なら自力で解いたのか?

「洗脳は自力で解いたのか?」
「いや、シュリンガーが解いた」
「あいつが?自分からかけておいてか?」
「ああ。どうやら切羽詰まっていたから洗脳したみたいだが、終わったらあっさり解いて自由になったぞ。まあ、そんなシュリンガーも昔に亡くなったけど」

 本人がそう言っているのならそれでいいが、俺はその後もずっと封印されたまま。
 少しどころかだいぶ理不尽だ。

 だが、ユウたちは洗脳されていたものの、戦争をしていた。
 俺と違って命の危機がありながらも戦っていたんだ。
 何から何かまで俺のほうが不幸と言うわけでもない。

「俺たち異界の者は使える駒と言えるんだよな?」
「そりゃあもう、1つの国を占めてもおかしくはないぐらいに」
「なら他の国も召喚をやっているんじゃないのか?」
「やっていたようだが、成功したのは俺たちだけ。隠れてこそこそやれるほど簡単なことでもないし、全部の国はこの魔法を禁止にしているからまずないな」

 そうなると、現状は俺たち15人がこの世界で長生きしていることになるのか。
 いや、人間じゃない種族がいるなら話が変わる。
 何せ、俺も知らない世界なんだから。

 あんまり触れなかったが、ユウに対してずっと疑問に思っていることがある。

「ユウ、何故年をとっていないんだ?」
「封印されていたから知らないだろうが、俺たち明水学園の生徒は全員“不老の呪い”にかかっている」
「不老の呪いだと?」
「ああ。だが、あくまでも年をとらないだけ。首をはねられたら死んでしまう」

 “死ぬ”と言うことは、そこは俺と違うな。
 もちろん能力の違いでそうなったんだろうが、みんながみんなやばい能力を持っているわけではないのか?

「ユウの能力は何だ?」
「俺の能力は“再現”だ。面白いだろう?」

 思った通り、特別すごい能力とは思えない能力。
 そうなると良く生き残れたな。

「この能力は今まで見たものや、頭の中で考えたものを再現することが出来る。例えば、電撃ライトニング
「おい――ん?」

 俺に電撃を当てたと思ったが、痛みも痺れもない。
 元々痛覚などには鈍いが、本当に何もない。
 言うとしたら電撃の形をした“何か”が触れたような感覚だけだ。

「これは何だ?」
「俺の能力は再現をするだけだからな。これは電撃を再現しただけ。つまり電撃の効果はないということ」
「食品に似せてつくったもの、食品サンプルみたいなものか」
「そそ。食品サンプルは食べられないだろう?」

 つまり何からなんでも作れるが、効果がないからあまり意味がない。
 あるとしたらこの旅館みたいな家だろうか。
 この家は記憶にあるものを、何かミニチュアみたいに再現してつくらせたのだろう。

「ほかに質問はあるか?」
「ああ、最後の質問だ。他のみんなはどうした?」
「それねぇ…。実は俺も分からないんだ」
「何故分からないんだ?」
「あの後、みんなバラバラになっちゃったんだ。ちょっと事情があってね」

 ユウは俺たちに背を向け、奥のほうを向いた。

「戦争が終わって洗脳が解かれた後、俺たちはそのままトラノク王国にい続けたんだ。俺たちは自分の身を守るために戦いを覚えていった。何年の何十年も。シュリンガーが死んだ後も。
 そして俺たちは“14人の英雄”とまで言われるほど強くなっていた」
「それはいいことなんじゃないのか?」
「俺たちがいるせいで問題が起きたんだ。それは戦闘を好む種族たちだ」

 他の種族がいるならそういう種族がいてもおかしくはない。
 だがそれに何の関係があるんだ?

「最初は戦闘を受けていたが、段々数は増していき断るようになったんだ。やがて戦うために国の人を人質にとるやつが出てきたんだ。
 俺たちがここにいるからこういうことが起きる。だから俺たちはバラバラになることで、再発防止を行ったんだ」
「それなら行く場所を伝えればよかったんじゃないのか?」
「みんな転々として足を掴めなかったんだ。まあ国を持っているやつもいるという噂もあるけど、連絡がとれない。だから俺は心から休める場所をつくろうと思い、ここに温泉の町をつくったわけ」

 これがこの町の本当の理由だろう。
 こちらを振り向きなおしたユウの目は覚悟の目をしていた。

「俺はずっとここで待っている。またみんなが戻ってくるまで」
「ちなみにだが、何年待っているんだ?」
「千年ぐらい?そのせいでトラノク王国の一部と関係を持ったんだ」
「だからメアリと知り合いなのか」
「そうだよ」

 そうなるとメアリにとってユウは大爺様みたいな感じになるのか。
 同い年のやつが爺さん扱いなのは少し複雑だが。

「いやー、まさかヒビがメアリと結婚するとはねー」
「それは――」

 ふとメアリのほうを向いたら、俯くようにして顔を真っ赤にしている。

「それは?」
「いや、まだ最近のことだがな」
「おぉ、熱い熱い」

 メアリと俺のことを話すとき、毎回体が燃えるような感覚がある。
 マジで身体に火でもついているのではないか?

「それで結婚式に呼ぼうと来たわけ?」
「それは無理だ。トラノク王国は既に…」
「えっ、どういうこと?」

 トラノク王国に起きたことを知らなかったみたいだったため、ユウへと話した。
 最初はひどく驚いていて、話をしても表情が動いていなかったから少し待っていた。

 続きを話してくれと言われ、今までの起きたことまで全て話した。

「そうか。角魔人ハーフデビルがトラノク王国を…。最近全然話が来なかったから、もしかしたら俺をトラノク王国へ来させないように止めていたのかも」
「その角魔人ってまだいるのか?」
「まだいるはずだよ。新しい種族だから詳しくは分からないけど、全滅覚悟で挑むとは思えないし」

 思っていた以上にまだ数がいるのかもしれない。
 敵対しているようだし、念のために警戒はしておこう。
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