異世界で封印されていました。

銀狐

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 多少どころか、結構時間はかかったものの、無事に下処理が終わった。
 後は火を通せば食べられる。

「あとは焼くだけだ。休んでていいぞ。ファイアー
「た、大変ですね。料理って」
「毛皮を剥いだりなど、最初から全部やったからな。まあ、丸焼きにすれば楽だが、姫様がそんなものを食いたいとか思わないと思ったからな」
「からかわないでください!!今はもう…元ですから」
「すまない。悪ふざけが過ぎた」

 少し互いに黙っていたが、ちょうどいいタイミングで肉が焼けた。
 いいぐらいに焼けたため、俺も一緒に食べ始めた。

「ねぇ、ヒビって何千年も封印されていたんだよね?」
「まあそうだな。詳しくは俺も分からん」
「それなら両親って…」
「さあな。こっちと同じ時間の経ち方をしているならもう死んでいるだろう」

 例え2分の1の早さで流れているとしても、千年以上は経っている。
 違う世界へと飛ばされて会えないけど、大切な家族だ。
 会えないまま死んでいたら、なんて考えて泣いたこともあった。

「そもそも元の世界に戻れないからな。忘れるようにしていた」
「強いですね。私はまだ思い出すと…」

 メアリの目には涙が溜まっている。
 先ほど国を出るときは大丈夫とは言っていたが、まだ子供だ。
 何千年も生きている俺と違って、心はまだ弱い。

 そんな弱い心なのに、住んでいた所も一緒に住んでいた家族、仲間と離れ離れになってしまったんだ。
 俺もその心の痛さが分かる。

「こっちへ来い」
「えっ…?」
「俺にもその痛さは分かる。会いたくても会えないという気持ちは本当に辛い。今は自分の心に素直になれ」

 我慢して我慢しても、一生我慢し続けることになる。
 一度でも爆発させた方が、まだ心に余裕が出来るはずだ。

「で…でも…」
「お前、いやメアリは十分戦った。今はゆっくり休め。後は俺に任せておけばいい」
「うっ…うわあああん!!」

 メアリは大きな声で泣き続けた。
 俺の胸元を掴みながら泣いて、安心させるようにゆっくりと頭を撫でて慰めていた。

 泣き止むころには掴んでいた手も離れ、俺の膝の上で寝ている。
 空は既に夕暮れになっていた。
 今日はここで野宿するために準備をしたいが、メアリはまだ寝ている。
 メアリが起きないように万能立方体を使って準備をした。

 本当に良く寝ているな。
 目元まで真っ赤だぞ。
 あんなに泣いているところを見ていると、やっぱり心配になってしまう。
 しょうがない、これは特別だぞ。

「う…うん…?」
「よう、起きたか」
「ふぇっ!?」

 起きたと思ったら急に起き上がった。
 そしてすぐさま距離を置く。

「えっと…あの…」
「もう大丈夫か?」
「は、はい。もう大丈夫…です」

 メアリの顔は徐々に真っ赤になっていく。
 本当に大丈夫なのか?
 まだ大丈夫じゃないのに、見栄でも張っているのか?

「そうだ。これを持っておけ」
「また何か企んでいるんですか?」
「いや、そういうものではない。メアリのことを思ってのものだ」

 俺はリング状のものを取り出した。
 前の世界でよくあった銀色のシンプルなリング。
 そしてメアリへと渡した。

「こ、これって…!?」
「嫌だったか?」
「いえ!その…いきなりで驚きましたが、とても嬉しいです…!!」

 メアリはただでさえ真っ赤な顔をしていたのに、今は茹でダコと同じぐらい真っ赤に染め上がっている。
 そしてリングを左手の薬指へとはめた。

「お、おい。それは――」
「ありがとう。大事にするね」
「お、おう…」

 それは違うとはとてにも言えなかった。
 大事そうに眼を閉じ、薬指にある指輪を右手で覆う。

 これじゃあまるで俺がプロボーズしたみたいになってるじゃないか。
 確かにメアリのことを思っているとか言ったから、俺が悪いのか?
 とは言ったものの、助けると約束はしたのだ。

 メアリをこんな扱いをしているけど、正直、こんなかわいい子と一緒にいたら勝ち組だろう。
 平然を装っているが、気を抜いたら俺自身が危ないと思うぐらいだ。

 誤解から始まったが、その…引かれることなく受け入れられて嬉しいからこのままでいたいのが本音。
 どうしても心配で、何より目で追ってしまう。
 メアリの行動で分かったが、気持ちは同じなんだろう。

 元々リングには万能立方体アクティブ・キューブを呼び出し、それをメアリでも扱えるような効果があったが、少し変えておきたい。
 内容を変えるのは簡単だから、ばれないように『危険時、俺がメアリの元へ移動する』という効果に変えた。

 ついでにもう1つリングをつくり、自分の左の薬指にもはめてみた。
 こっちには何の効果もなく、悪い言い方だとただの飾り。

 指輪をはめるとき、メアリがジッと見ていた。
 何か言うかと思ったが、うんうんと嬉しそうに頷いている。
 流石に恥ずかしくなってきたから、俺の顔は赤くなっているんじゃないのか?

「今日はもう日が落ちているから明日出発する。ゆっくり休んでおけ、と言いたいがさっきまで休んでいたな」
「それならヒビが休んではどうですか?」

 メアリは正座をすると、膝をポンポンと叩いた。
 「ここで寝ていいよ」と言うような感じでだ。

「いや、流石に…」
「もう!照れなくていいから!!」
「あっ、おい!」

 グイと引っ張られ、強引に膝の下へ連れて行かれた。

「おいこら!」
「私だけみっともない所見られるのはズルいですよ。ほら、ゆっくり休んでいいですからね」

 無理やりでも、退こうと思えば退ける。
 だけど、俺の中では離れたくないという気持ちが勝っていた。

 静かに優しく頭をなでている。
 懐かしい…そんな気がした。
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