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「これでいいか?」
「ひっ!?」
ひって…ひどいなあ。
助けてと言ったから助けてやったのに、この扱いはひどい。
「助けてって言ったのはそっちだろう?」
「あ、ありがとうございます…。その、さっきのお話ですが…」
「ああ、生贄か。少し内容を変えてもいいか?」
「えっ?」
さっきは生贄と話を持ち出されたが、俺は別にそんな生贄なんてものは必要ない。
むしろ、目の前に“生贄”と言われて人を持ってこられた方が迷惑だ。
素直に持って帰ってほしい。
「まず先に名前を教えてくれ。俺は響風光輝」
「ひび…かぜ?」
「面倒くさいならヒビでいい。そう呼ばれていた」
「ヒビさんですね。私はメアリと言います」
メアリか。
やっぱりこっちの世界だと名前の付け方も違う。
そりゃあ俺の名前も読みにくいわけだ。
「メアリ。さっきの生贄だが、“案内役”に変えてくれないか?」
「咄嗟にあんなことを言ってしまったから、むしろ嬉しいご提案ですが、いいのですか?」
「ああ。俺はこっちの世界は封印されていた部屋とトラノク王国の城の一部しか知らない」
トラノク王国とは、俺が始めてこっちに来た時にいた国だ。
そして今いるここも、俺が封印されていた部屋もトラノク王国。
あまりいい思い出はないけどな。
「トラノク王国をご存知でしたら話は早いです。実は今、トラノク王国は危機的状況なのです」
「ほう、そんなことが起きているのか」
「はい。現在先ほどの角魔人が軍をつくり襲ってきているのです」
角魔人というのは初めて聞いたな。
そもそもこっちの世界で外にいた時間は極わずかだし。
何せ俺が知っているものは、人間を除けばせいぜい“悪魔”か“魔王”ぐらいだ。
角魔人は最近生まれた種の可能性もあれば、元々いた可能性もある。
「まあそれはいいや。それなら別の国へ行こう」
「えっ…」
なんだよ、その「ここは助けてくれるんじゃないんですか?」みたいな表情は。
「あのな、一応聞くが俺が封印されていた“理由”を知っているか?」
「い、一応知っています」
「なら分かるだろう?俺はトラノク王国を救う気はない」
俺を封印したのはトラノク王国の連中だ。
そんな奴らを救う気なんか起きるわけがない。
「その…」
「まだなんかあるのか?」
「私の…。私の知っている話と恐らく違うんですが…」
「なに?」
どういうことだ?
いや、待て。よく考えれば何千年も経っていれば、どこかで話が変わっていてもおかしくはない。
「その知っている話とはなんだ?」
「“国が危機的状況になった場合、封印された者を開放せよ。さすれば国は救われる”と言う話です」
「…あの野郎」
メアリが嘘をついているようにも見えない。
ここまで明確に言われると、何か別のことを考えさせられる。
この話を聞いて嫌な予感が過ったが、もしかして…。
「メアリは“シュリンガー”をどう思っている?」
「『トラノク王国の救済者』ですね。大昔の人ですが、今でも言い伝えられています」
「やはりな…」
俺を封印するよう命令した国王、いや元国王の名前がシュリンガー。
勝手に人を封印しといて自分は英雄気取りってか。
とんだクソ野郎だな。
「今更どうも出来ないからな。納得はいかないが、忘れるようにしよう」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
シュリンガーのことは置いとくとして、今はどうするかだ。
正直に言うと、この王国を救うメリットは今の所思い浮かばない。
言ってしまえば、メアリを助けたのも“なんとなく”だ。
そのおかげで案内役が手に入ったわけだが。
いや、ここで「助けない」と言ったらメアリはどうするか。
簡単な話、案内はすることなくトラノク王国の城へと戻るだろう。
出来れば案内役は欲しいから、そうなったら別の人を探せばいい。
ならここから出て探すべきかと考えたが、今は国が襲われている。
助けたところで同じ条件を出されるだろう。
この国しか知らないから、何も知らずに国の外へ出るのは避けたい。
結局答えは一つになるのか。
「まずは服の調達からだ」
「えっ?」
「早く案内しろ。このままでは寒いから戦いにくい」
「それってつまり…?」
「戦うための準備だ。早くしろ」
「…はい!!」
メアリは今まで曇った表情をしていたが、始めて晴れ間が見えてきた。
メアリは元気よく返事をすると、駆け足で案内を始めた。
走るのもいいが、俺には万能立方体がある。
形状を変えれば乗ることもできるから、移動用としても使える。
メアリも乗せ、移動を再開した。
「あの部屋に服があります」
「何で封印部屋付近にあるんだ?」
「ヒビさんが封印されていた近くは、実は国王や貴族達の避難場所でもあったのです。ですから、服や保存食などがあるのです」
「ふーん、でも誰もいないな」
「今回は相手が悪かったので…」
俺は着替えるために部屋の中へ入った。
もちろんメアリは外で見張りだ。
見られるのも嫌だったが、自ら赤い顔をして部屋から出ていった。
それにしても、随分とたくさんの服があるな。
なるべく動きやすい服がいいから半そでを選びたいが、今は寒いから着たくない。
だが魔法か何かで半そででも十分暖かくなっている。
羽織る感じのマントもあったから、一応持っていくか。
「似合ってますね」
「ああ。いい服なだけ合って動きやすい。いくぞ」
「はい!」
再び万能立方体へと乗り、外へと向かった。
「ひっ!?」
ひって…ひどいなあ。
助けてと言ったから助けてやったのに、この扱いはひどい。
「助けてって言ったのはそっちだろう?」
「あ、ありがとうございます…。その、さっきのお話ですが…」
「ああ、生贄か。少し内容を変えてもいいか?」
「えっ?」
さっきは生贄と話を持ち出されたが、俺は別にそんな生贄なんてものは必要ない。
むしろ、目の前に“生贄”と言われて人を持ってこられた方が迷惑だ。
素直に持って帰ってほしい。
「まず先に名前を教えてくれ。俺は響風光輝」
「ひび…かぜ?」
「面倒くさいならヒビでいい。そう呼ばれていた」
「ヒビさんですね。私はメアリと言います」
メアリか。
やっぱりこっちの世界だと名前の付け方も違う。
そりゃあ俺の名前も読みにくいわけだ。
「メアリ。さっきの生贄だが、“案内役”に変えてくれないか?」
「咄嗟にあんなことを言ってしまったから、むしろ嬉しいご提案ですが、いいのですか?」
「ああ。俺はこっちの世界は封印されていた部屋とトラノク王国の城の一部しか知らない」
トラノク王国とは、俺が始めてこっちに来た時にいた国だ。
そして今いるここも、俺が封印されていた部屋もトラノク王国。
あまりいい思い出はないけどな。
「トラノク王国をご存知でしたら話は早いです。実は今、トラノク王国は危機的状況なのです」
「ほう、そんなことが起きているのか」
「はい。現在先ほどの角魔人が軍をつくり襲ってきているのです」
角魔人というのは初めて聞いたな。
そもそもこっちの世界で外にいた時間は極わずかだし。
何せ俺が知っているものは、人間を除けばせいぜい“悪魔”か“魔王”ぐらいだ。
角魔人は最近生まれた種の可能性もあれば、元々いた可能性もある。
「まあそれはいいや。それなら別の国へ行こう」
「えっ…」
なんだよ、その「ここは助けてくれるんじゃないんですか?」みたいな表情は。
「あのな、一応聞くが俺が封印されていた“理由”を知っているか?」
「い、一応知っています」
「なら分かるだろう?俺はトラノク王国を救う気はない」
俺を封印したのはトラノク王国の連中だ。
そんな奴らを救う気なんか起きるわけがない。
「その…」
「まだなんかあるのか?」
「私の…。私の知っている話と恐らく違うんですが…」
「なに?」
どういうことだ?
いや、待て。よく考えれば何千年も経っていれば、どこかで話が変わっていてもおかしくはない。
「その知っている話とはなんだ?」
「“国が危機的状況になった場合、封印された者を開放せよ。さすれば国は救われる”と言う話です」
「…あの野郎」
メアリが嘘をついているようにも見えない。
ここまで明確に言われると、何か別のことを考えさせられる。
この話を聞いて嫌な予感が過ったが、もしかして…。
「メアリは“シュリンガー”をどう思っている?」
「『トラノク王国の救済者』ですね。大昔の人ですが、今でも言い伝えられています」
「やはりな…」
俺を封印するよう命令した国王、いや元国王の名前がシュリンガー。
勝手に人を封印しといて自分は英雄気取りってか。
とんだクソ野郎だな。
「今更どうも出来ないからな。納得はいかないが、忘れるようにしよう」
「何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
シュリンガーのことは置いとくとして、今はどうするかだ。
正直に言うと、この王国を救うメリットは今の所思い浮かばない。
言ってしまえば、メアリを助けたのも“なんとなく”だ。
そのおかげで案内役が手に入ったわけだが。
いや、ここで「助けない」と言ったらメアリはどうするか。
簡単な話、案内はすることなくトラノク王国の城へと戻るだろう。
出来れば案内役は欲しいから、そうなったら別の人を探せばいい。
ならここから出て探すべきかと考えたが、今は国が襲われている。
助けたところで同じ条件を出されるだろう。
この国しか知らないから、何も知らずに国の外へ出るのは避けたい。
結局答えは一つになるのか。
「まずは服の調達からだ」
「えっ?」
「早く案内しろ。このままでは寒いから戦いにくい」
「それってつまり…?」
「戦うための準備だ。早くしろ」
「…はい!!」
メアリは今まで曇った表情をしていたが、始めて晴れ間が見えてきた。
メアリは元気よく返事をすると、駆け足で案内を始めた。
走るのもいいが、俺には万能立方体がある。
形状を変えれば乗ることもできるから、移動用としても使える。
メアリも乗せ、移動を再開した。
「あの部屋に服があります」
「何で封印部屋付近にあるんだ?」
「ヒビさんが封印されていた近くは、実は国王や貴族達の避難場所でもあったのです。ですから、服や保存食などがあるのです」
「ふーん、でも誰もいないな」
「今回は相手が悪かったので…」
俺は着替えるために部屋の中へ入った。
もちろんメアリは外で見張りだ。
見られるのも嫌だったが、自ら赤い顔をして部屋から出ていった。
それにしても、随分とたくさんの服があるな。
なるべく動きやすい服がいいから半そでを選びたいが、今は寒いから着たくない。
だが魔法か何かで半そででも十分暖かくなっている。
羽織る感じのマントもあったから、一応持っていくか。
「似合ってますね」
「ああ。いい服なだけ合って動きやすい。いくぞ」
「はい!」
再び万能立方体へと乗り、外へと向かった。
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