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39 聖女の過去暴き
しおりを挟む聖女を歓迎する宴が行われた翌日、彼女はアンハルト宮に訪れた。
彼女は数日間の休息の後に故国のシャールダールへと旅立つ予定なのだそうで、その予定の一番目にここへの訪問を入れていたということらしい。
実は昨日の夜、宴の後にフランツと消えたことを知っている。
まさかフランツと大人な夜を過ごしたとは思わないが、さて、では何の話をしていたのやら。
イルファタが訪れて、最初はお茶会となった。
俺も出席させられた。
接点なんて父親ぐらいしかないだろうに、二人の会話は途切れない。
女性ってすごいな。
ていうか、俺はもう退屈だ。
お菓子も食べ飽きた。
昨日の夜、別行動したせいで今日は一日離れないという意思を見せていたマナナだが、すでに飽きて昼寝している。
たすけて。
なんて、俺の悲鳴が聞こえたわけでもないだろうが。
「なんだ? まだ喋っていたのか?」
「え?」
「まったく、どこからそんなに話題が湧いてくるのやら」
「ゼル? あなた、どうして?」
やってきたゼルにイルファタが驚いている。
その後ろにはカシャもいて、ぺこりと頭を下げている。
カシャのやってきた東方は帝国の支配権ではないが、同じ宗教関係者として礼を失わないようにということか?
いや、ただ挨拶しただけかもしれないが。
「マックスに頼まれてな、いま、こいつの教育係をやっている」
「あなたが? 教育係?」
「信じられないだろう?」
「ええ」
真顔で頷くイルファタには、昔ながらの様子がわずかに見えた。
それと、もう一つの癖も。
「積もる話があるようでしたら、今日はうちに泊まられたらいかがでしょう?」
俺がソフィーに目をやるよりも早く、彼女がそんな提案をする。
「……そうさせていただこうかしら」
イルファタは迷う仕草をわずかに見せただけで決めると、お付きの女神官たちにそれを告げた。
もちろん彼女たちも泊まるし、歓待もする。
ちょっとお酒なんかも勧めてみて、最初は躊躇う彼女たちも聖女長様が飲んでいるのだからと口をつけ、慣れないお酒ですぐに就寝という流れが瞬く間に出来上がり、夜半にはイルファタは行動の自由を得ていた。
そして、アンハルト宮の一室で、俺、ソフィー、イルファタ、ゼルディアという四人が集まった。
マナナは寝た。
「いや、ちょっと待って」
完全に口調が崩れたイルファタが待ったをかけ、ソフィーを見る。
「彼女は仕方ないわ。この宮殿の主人だし、マックスの娘だし」
と、次に俺を見る。
「でも、この子はまだ若いわ。王妃、悪いけれど王子はもう寝かせて……」
「まぁ、そう細かいことを言うな。イーファ」
「は?」
「聖女なのに相変わらず見る目がないのは仕方ないにしても、ここに俺がいる意味をもう少し考えた方がいいな」
「え? なに、この子、怖っ」
まだわからんか。
それなら仕方ない。
「あれは、まだ、俺とマックスしかいない時だった」
「あら、昔話? 楽しみ」
隣にいるソフィーが嬉しそうに手を叩く。
「俺たちは各地の魔獣を退治したり、魔族の企みを暴いたりしながら勇者と認められるための旅を続けていた」
そんな時に、イルファタとすれ違った。
こいつと仲間になるのは、俺が勇者と認められてからしばらくしてのこと。
これは、どんな創作物にだって載っていないだろう事実だ。
「こいつは聖女見習いの立場で、俺と同じくその力を認めさせるための旅を始めたばかりだった」
「え? ちょっと待って」
「こいつにとっては初めての魔獣狩り。強がってはいるけれど内心は怖い。だけどそれを表に出したくないから俺やマックスに当たり散らす」
「待って待って待って!」
「余計なことを言ってはマックスと喧嘩ばかりする道行の途中、そんなに騒いでいたら魔獣に先に見つけられるのは当たり前」
今ならわざと騒いで襲わせるぐらいのことはするが、当時は俺たちもまだ未熟だったから、不意を突かれた。
「見事にピンチになったこいつはマックスの盾に救われるわけだが、実は……」
「うあああああああああああああやめろぉおおおおおおお‼︎」
「咄嗟に俺が水を魔法で生んでまとめて押し流さなかったら……」
「わかった! わかった! あんたジーク! ジークフリード! やめなさい!」
「あの時はマックスに恨まれたなぁ」
「あの時の私が感じた恩を返して!」
いい年をした女性が涙目になっている姿は少し悲しいが、この瞬間のこいつは、間違いなくあの頃の生意気な聖女見習いの顔になっていた。
実を言うとマックスも気付いていたなんていう事実は、イルファタには秘密だ。
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