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しおりを挟む激しい魔法の応酬が!
とは残念ながらならない!
「くっ!」
「どうしてこんなことに……」
「なんちゅう娘じゃ」
「ぎゅ~」
【樹母の愛は永遠】(棘抜きバージョン)でがんじがらめになったジェライラを始めとした白衣の魔女たち。
「見どころさんがお怒りである」
「レイン! 考え直しなさい! こんなの……」
「こんなの?」
「こんなの……あれ?」
「そろそろ抜けたかな?」
「え? あれ?」
「おや、私たちは……」
「ん。抜けたね」
「これは……一体?」
「はいはい。説明とかは後回しね。正気に戻ったなら大人しくしてて」
魔女連中のことはこれで完了。
さて、残るは……。
「ん」
とっさに張った防御魔法の表面で雷が散っていく。
少し離れたところでミームが冷たい目で睨みつけていた。
「ミームちゃんはようやく自分で働く気になりましたか?」
「あなたは……人を苛立たせる天才ですね」
「うん。好きな人には安らぎを、嫌いな人には苛立ちを、が座右の銘だから」
敵の機嫌なんて取る必要ないからね。
「さて……どうする? 降伏する?」
「それはこちらの言い分です。いま降伏するなら許してあげましょう」
「はっはっは、おもしろーい」
「……では、死になさい」
「それもまたおもしろいね」
ミームの全身から紫電が現われ、襲いかかってくる。
【群憎呪雷】だったかな。
「きゃあああああ!」
私の防御魔法は貫けないけど、まだ近くにいた他の魔女たちは貫いた。
「ミ、ミーム様、なにを!?」
「うわっ、ひっどーい。味方まで巻き添えだ」
「祝福を捨てた者はもはや味方ではありません」
「まだ祝福とか言う?」
婆の妄執の間違いだろうに。
「まぁいいや」
防御魔法をジェライラたちにも施してやる。
「レインちゃんには他を気遣う余裕があるのだ。素晴らしいね」
「くっ!」
「ていうか、ミームっちも吸われてるでしょ? 弱体化待ったなしだ」
「黙れ!」
「そんな状態で良く決戦なんて選択したよね。普通なら全面降伏。和議プリーズじゃない?」
「よくわからない言葉を……使うな!」
紫電がばりばりに周辺を光らせて轟音をばら撒かせる。
ミームにとって最強の攻撃手段なんだろうけどうるさいったらないね。
サンガルシア王国で弾圧されてきた魔女たちの憎悪を乗せた雷撃は見た目ほどの威力を発揮できていない。
原因はわかりきってる。
魔法なんていうあからさまな形にしたらそりゃ、吸われるよね。
魔法の根源は意思と魔力とそれらを形作る構成式だ。強い感情は魔法にも影響を与えるからね。
あいつはそういう感情が大好物なんだ。
「まぁ、もう遅いんだけどね」
「さっきから、何を言っている!?」
好きに魔法を使わせてのらりくらりと時間を潰す。
そんなことをしている間に王都軍と公爵軍との戦いもある種の流れが完成されていく。
街に引き込んだ王都軍の兵士や騎士が、ある程度の時間が経つと急に大人しくなる。
体に染みこんだ魔女の呪いが抜けているのよね。
こっちはたいして戦う必要もなく、時間をかけるだけで向こうが戦意を喪失するっていう寸法。
状況が状況だから大人しく降伏していくっていうわけにはいかないけど、一方的に統率が乱れていくから楽なものだよね。
そして……そいつはついに目を覚ました。
「うっ、なに……」
ミームが苦悶の表情を見せて膝を突く。
そしてその異常はまだ呪いが抜けていなかった王都軍全体にも及んでいた。
連中の頭上から黒い霧のようなものが溢れ出て、一方向へと流れていく。
あれは目に見えるほどに濃密になった古の魔女の呪いだ。
「吸われていく……これは……なに? 喰われている?」
「おっ、わかる?」
「あなた……なにをしたの!?」
「それは結果をご覧あれ」
戦えなくなったミームから目を離し、私はそれに目を向ける。
そいつは金色の聖女の街の中央近く。十字路の中心に埋めていた。
「これを見つけたときは運命だと思ったよ。ここで使えってね」
「なにを……」
戸惑うミームににやりと笑う。
かつて私は言ったのだ。
第三部完! と。
あれはただの冗談じゃない。
もちろんリスペクトはあるけど言葉遊びをしたかったわけではない。
本当に、あの時点で『サンドラストリートの小魔女』の第三部は完結となったのだ。
問題の発端だった黒い卵が私の物になったんだから。
「あれは世界に染みた負の感情を吸い取る、世界そのものの防衛機構みたいなもの」
それらを吸い取り、成長する。
「神の時代から生きる竜が奇跡的な確率で産み落とす黒い卵。人はそれを魔王の卵とも言うよね」
「魔王の卵!!」
どうやらミームは知っているみたいだ。
もしかしたら彼女の中にいる古の魔女が知っていたのかもしれない。
どっちでもいいけどね。
結果はなにも変わらない。
街の中からそいつが姿を現す。
あんなの、聖堂に置いておかなくてよかったよ。
あれがこの街で一番丈夫な建物だからね。
アンリシアを守るための場所なのだ。
「さあ、君の魔王が誕生したよ」
と、私はミームに意味ありげに笑いかけた。
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