上 下
63 / 65

63

しおりを挟む

 激しい魔法の応酬が!
 とは残念ながらならない!

「くっ!」
「どうしてこんなことに……」
「なんちゅう娘じゃ」
「ぎゅ~」

【樹母の愛は永遠】(棘抜きバージョン)でがんじがらめになったジェライラを始めとした白衣の魔女たち。

「見どころさんがお怒りである」
「レイン! 考え直しなさい! こんなの……」
「こんなの?」
「こんなの……あれ?」
「そろそろ抜けたかな?」
「え? あれ?」
「おや、私たちは……」
「ん。抜けたね」
「これは……一体?」
「はいはい。説明とかは後回しね。正気に戻ったなら大人しくしてて」

 魔女連中のことはこれで完了。
 さて、残るは……。

「ん」

 とっさに張った防御魔法の表面で雷が散っていく。
 少し離れたところでミームが冷たい目で睨みつけていた。

「ミームちゃんはようやく自分で働く気になりましたか?」
「あなたは……人を苛立たせる天才ですね」
「うん。好きな人には安らぎを、嫌いな人には苛立ちを、が座右の銘だから」

 敵の機嫌なんて取る必要ないからね。

「さて……どうする? 降伏する?」
「それはこちらの言い分です。いま降伏するなら許してあげましょう」
「はっはっは、おもしろーい」
「……では、死になさい」
「それもまたおもしろいね」

 ミームの全身から紫電が現われ、襲いかかってくる。
【群憎呪雷】だったかな。

「きゃあああああ!」

 私の防御魔法は貫けないけど、まだ近くにいた他の魔女たちは貫いた。

「ミ、ミーム様、なにを!?」
「うわっ、ひっどーい。味方まで巻き添えだ」
「祝福を捨てた者はもはや味方ではありません」
「まだ祝福とか言う?」

 婆の妄執の間違いだろうに。

「まぁいいや」

 防御魔法をジェライラたちにも施してやる。

「レインちゃんには他を気遣う余裕があるのだ。素晴らしいね」
「くっ!」
「ていうか、ミームっちも吸われてるでしょ? 弱体化待ったなしだ」
「黙れ!」
「そんな状態で良く決戦なんて選択したよね。普通なら全面降伏。和議プリーズじゃない?」
「よくわからない言葉を……使うな!」

 紫電がばりばりに周辺を光らせて轟音をばら撒かせる。
 ミームにとって最強の攻撃手段なんだろうけどうるさいったらないね。
 サンガルシア王国で弾圧されてきた魔女たちの憎悪を乗せた雷撃は見た目ほどの威力を発揮できていない。
 原因はわかりきってる。
 魔法なんていうあからさまな形にしたらそりゃ、吸われるよね。
 魔法の根源は意思と魔力とそれらを形作る構成式だ。強い感情は魔法にも影響を与えるからね。
 あいつはそういう感情が大好物なんだ。

「まぁ、もう遅いんだけどね」
「さっきから、何を言っている!?」

 好きに魔法を使わせてのらりくらりと時間を潰す。
 そんなことをしている間に王都軍と公爵軍との戦いもある種の流れが完成されていく。
 街に引き込んだ王都軍の兵士や騎士が、ある程度の時間が経つと急に大人しくなる。
 体に染みこんだ魔女の呪いが抜けているのよね。
 こっちはたいして戦う必要もなく、時間をかけるだけで向こうが戦意を喪失するっていう寸法。
 状況が状況だから大人しく降伏していくっていうわけにはいかないけど、一方的に統率が乱れていくから楽なものだよね。
 そして……そいつはついに目を覚ました。

「うっ、なに……」

 ミームが苦悶の表情を見せて膝を突く。
 そしてその異常はまだ呪いが抜けていなかった王都軍全体にも及んでいた。
 連中の頭上から黒い霧のようなものが溢れ出て、一方向へと流れていく。
 あれは目に見えるほどに濃密になった古の魔女の呪いだ。

「吸われていく……これは……なに? 喰われている?」
「おっ、わかる?」
「あなた……なにをしたの!?」
「それは結果をご覧あれ」

 戦えなくなったミームから目を離し、私はそれに目を向ける。
 そいつは金色の聖女の街の中央近く。十字路の中心に埋めていた。

「これを見つけたときは運命だと思ったよ。ここで使えってね」
「なにを……」

 戸惑うミームににやりと笑う。
 かつて私は言ったのだ。
 第三部完! と。
 あれはただの冗談じゃない。
 もちろんリスペクトはあるけど言葉遊びをしたかったわけではない。
 本当に、あの時点で『サンドラストリートの小魔女』の第三部は完結となったのだ。
 問題の発端だった黒い卵が私の物になったんだから。

「あれは世界に染みた負の感情を吸い取る、世界そのものの防衛機構みたいなもの」

 それらを吸い取り、成長する。

「神の時代から生きる竜が奇跡的な確率で産み落とす黒い卵。人はそれを魔王の卵とも言うよね」
「魔王の卵!!」

 どうやらミームは知っているみたいだ。
 もしかしたら彼女の中にいる古の魔女が知っていたのかもしれない。
 どっちでもいいけどね。
 結果はなにも変わらない。
 街の中からそいつが姿を現す。
 あんなの、聖堂に置いておかなくてよかったよ。
 あれがこの街で一番丈夫な建物だからね。
 アンリシアを守るための場所なのだ。

「さあ、君の魔王が誕生したよ」

 と、私はミームに意味ありげに笑いかけた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

処理中です...