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しおりを挟むさてさて、私レイン、十歳になりました。
運命の年ですのでアクティブに参りましょう。
というわけで、えい。
カチャン、ボンっ!
「ぎゃあっ!」
「なんだっ!」
「ひっ! 火だぁ!!」
ガチャン、ボンっ!
ガチャン、ボンっ!
ガチャン、ボンっ!
「な、なんだなんだ!?」
「火、火に囲まれた!」
「なんでだようっ!」
「くそっ! 上に、なにか……」
とか言っている間にも木の上からファンタジー版火炎瓶な火の破壊薬を次々と投げ込んでいく。陶器の小瓶は地面に当たるなり割れて、中の薬液が空気に触れて変化を起こし火が発生するという仕組みになっている。
とはいえ直接当てたりはしていない。賊の逃げ場を塞ぐために円を描く形にしている。
突然の奇襲。そして逃げ場なく火に襲われた賊たちは、自然と円の中心に集まる……と、はいはい、狙いのタイミングはそこなのです。
【麻痺雷陣】
「「「しびびびびび!!」」」」
麻痺効果を指定した範囲に叩き込む魔法だ。狙い通りの範囲に収まってくれた賊たちはみんなきれいに痺れて倒れた。
「よし、じゃあ次」
次は枯れ枝を素材にゴーレムをその場で作って、全員を縛り上げる。そして用意しておいた荷車にそいつらをぺいぺいと載せると、街道にある巡回衛兵の詰め所まで運ばせた。
『こいつらは賊です』っていう張り紙も忘れない。
盗んだ荷らしきものと一緒に運ぶから賊だとわかってくれるに違いない。
簡易ゴーレムは詰め所に到着したところで消えちゃうけど、実験で麻痺の効果は一日持つとわかっているからその間に衛兵が見つけてくれると思う。
さてこれで、故郷の村が賊に襲われるイベントは回避できた。
このイベントは私がサンドラストリートに辿り着くためのステップ的なもので、ゲーム上でもオープニングムービーで軽く流されているだけなのだけれど、これがなくなれば私とサンドラストリートとの繋がりはなくなってしまう。
とはいえ、それならそれで一人で王都に行ってサンドラストリートで魔女の仲間入りすればいいだけなので気にする必要もない。
「心残りもなくなったなぁ」
レベルはとっくにカンストしているし、隠しダンジョンの攻略も無事に終わっている。ステータス上げの神酒作りはまだ続けているけど、ここに居座り続ける理由としては弱い。そこまで強さを極める理由ってあるかな?
それでもここにいたのは、両親のいる村が賊に襲われるってわかっていたから。
けど、それも終わった。
私をこの土地に縛り付けておくものは両親以外なくなった。
その両親にしても、最近はちょっと疎まし気にしてくる。私の差し入れはありがたいはずだけど、たぶん、その差し入れのせいで私の生存を疑われているんじゃないかな。
「とはいえ……かぁ」
ここを出て、どこに行く?
「魔女はサンドラストリートに行くものじゃないの?」
と無邪気に言うのはアンリシア。
場面変わってここはあの別荘の彼女の部屋。
あれから毎年一度はやって来て、こうして彼女の話し相手なんかをしている。
別荘の使用人の人たちにもお世話になっている。簡単な薬とか山の幸なんかを買い取ってくれたり服を用意してくれたりと色々お世話してくれた。
いまではここの人たちとは仲良しだし、アンリシアのことをアンリと呼ぶことを許されていたりする。
とはいえ、表玄関から堂々とお邪魔できる関係でもない。
魔女嫌いの保守派貴族の一家が魔女個人と仲良くしてるなんて知られるわけにはいかないもんね。
「でも、あそこに行っても、私が覚えることってないと思うのよね」
「……すごい自信ね」
アンリが呆れた目を向けてくる。
綿菓子みたいにふわふわな可愛さだった彼女も十歳になってかなり見た目がゲームの彼女に近づいてきた。
ぷっくりほっぺが細くなり、比較的に目の大きさが目立つようになる。
私の大好きなアンリシアの片鱗が覗けるようになってきて内心ですごくニヤニヤしてしまう。
そんな彼女が話す話題は王都でのこと。
ほとんどを森で過ごす私にたいした話題なんてないし、アンリシアは王都の学園に通い出したのでそのことを話したがっているから、ちょうどいい。
彼女が通うのは王立の学園で貴族だけでなく一般人も通える。
とはいえ学費がかかるので、通える一般人は一部だけ。そして貴族たちは基礎知識を深めることよりも貴族同士のつながりを深めることを目的としている。
もちろん、魔女はそんなところには通わない。薬のレシピを覚えるのに忙しいし、学園側も魔女に門は開いてくれない。
私もそんなところに近寄りたくはない。
なぜなら今年の学園には大物貴族がたくさん入学しているから。
保守派トップであるバーレント公爵家令嬢のアンリシアに、現宰相の息子、騎士団長の双子兄妹、魔女派トップの息子などなど……。
『マウレフィト王国編』の主要人物たちのほとんどがいる。
極めつけは王子様もいることだ。
リヒター・センティ・マウレフィト。
アンリシアは彼の婚約者候補の一人なのだ。
「それでね、それでね」
「うんうん」
すでにアンリシアはその婚約者候補となっていて、リヒター王子のことを話したがる。
政略結婚の相手なのだけど、アンリシアの感情はそれ以上だ。ちゃんと恋している。
うん、面白くない。
面白くはないが人の恋路を邪魔するものでもない。
「……なにか、気に障った?」
と、顔に出ていたか。
アンリシアが不安げに私を見る。
そんな表情もできるのかと、なんだかすごくドキドキする。もっと意地悪したくなる。
でも、やめておこう。
「ううん。私の知らない可愛いアンリを、その王子様がたくさん知っているのかなって思ったら、ちょっと面白くなかっただけ」
「っ! もう、レインったら!」
アンリシアが顔を真っ赤にして身もだえる。
うん、可愛い。
「でも、レインが王都に来てくれたら嬉しいな。わたしもいまよりもっとたくさん、レインに会えるようになるから」
「おお!」
そんな素敵なメリットがあったか!
「わかった王都に行く!」
「え! そんな簡単に」
「アンリともっといたいからね」
その日のお喋りは終わる。明日にはアンリシアは公爵領の本邸に戻って奥さんと休暇を過ごしてから王都に戻るのだそうだ。
ならば私は、それまでに王都に入ってサンドラストリートの住人になってしまうとしよう。
引っ越しの準備を急がなくては!
「あら、どなたかいらっしゃるの?」
使用人たちの通用口に向かう私をアンリシアが見送ろうと付いて来てくれる。そのときに表玄関の方から話し声が聞こえて来たから、彼女がそう問いかけた。
すぐに私は物陰に姿を隠す。
応対していた執事さんは私がすぐに隠れたことにほっとした様子を見せた。
「はいお嬢様。騎士の方がこの辺りのことでお聞きしたいと」
「騎士の方?」
好奇心に引かれて彼女がそちらに向かう。
私といえば、「ああ、もしかして」と、賊退治をしたことを思い出す。衛兵詰め所に問答無用で送りつけたし、そのやり方もいかにも魔女的だから、この辺りに知られていない魔女がいるかもしれないと警戒させてしまったかもしれない。
私はそっとそちらを覗く。
公爵家の令嬢が登場したことに恐縮するその騎士の顔には覚えがある。ゲームの中で。
オープニングで私を王都に連れていってくれる騎士だ。
たしか、私の師匠になる人がこの騎士の母親なんだったかな?
本当なら、あの人に導かれてサンドラストリートに行くはずなんだけど、今回はやめておこう。
自力で王都に行ったらどうなるか?
試してやろうじゃないの。
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