Day Walker

みさ☆バニー

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Day Walker 48

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「凛から、連絡が来ない!」
 俺はガブリエルを呼ぶ。来い、ガブリエル!

 「呼んだか?」
 「呼んだか、じゃねーよ!凛から全く連絡が来ない。何があった?お前わかるんだろ!」
 華と健太もいるが、理性が保たない。この1週間、連絡が無い。
 「凛は、役目を果たしたよ。悪魔に引き渡される前に彼を人間の魂のまま、逝かせた。」
 「で?凛は?凛の安否が分からないんだ!」
 「凛は生きている。しかし深い眠りの中だ。眼は醒めているが、君達の事を理解出来るかは保証出来かねる。」
 「は?どういう意味だよ!」
 「ケンの両親の元にいる。息子、いや娘の様に、存在している。そうだな。人形のような状態だ。」

 俺はいてもたってもおられず、イタリアへ飛んだ。ヤツの住所は分かってる。ケンは死んだ。問題は、凛がどんな状況なんだ?

 チャイムを鳴らす。1回じゃ出て来ない。何度も押すとやっと扉が開いた。無理矢理、開いて家の中を探す。
 「凛!凛、何処だ!」


 窓際にクラシカルなデザインのワンピースを着た美しい人形が座っていた。・・・いや、凛だ。凛が虚ろな眼で座っている。

 「凛?凛っ!わかるか!凛!」
 「その子にはもう魂は無いよ。息子の魂を奪ったんだ。だから、私達がその子の魂も奪った。」
 「何だと?何をした!」
 「美しかったから殺さなかっただけだ。今更、何をしても魂は戻らない。奪われた哀しみを味わえば良い。」
 ここに居ても、らちが明かない。凛を保護して、家を出る。腕の中に確かに凛は居るが本当に人形の様だ。薄っすら笑みを浮かべたまま、表情が変わらない。美しい等身大の人形だ。

 タクシーで、バチカンへ向かう。エクソシストの力で何とかならないだろうか。腕の中にいる凛には魂が無い。焦点が合わない視線が空を彷徨う。
 「凛、凛。1人で行かせるべきじゃなかった。ごめん、凛。」
 抱きしめて、思いを伝える。反応は無い。悔しい。いつも酷い目に遭うのは凛だ。俺や家族を守る為、1人生贄になる。
 凛、凛は弱くなんて無い。強いよ。こうなるかも知れないと思って1人でここに来たんだよな。殺されるかも知れない。そう予想して1人、イタリアに来た。親だから分かったんだ。我が子を殺される辛さが。だから、全て1人で受け止めたんだよな。つえーよ。凛。
 色素の薄い美しいブロンドの髪を撫でる。撫でられるの好きだったよね。髪にキスをして、バチカンに着くまで微かな期待を持って向かう。

 「如何されました?!」
 「悪魔崇拝者の手によって、今、魂というか意識が無いんです。どうにかなりませんか!」
 「悪魔崇拝者ですか・・・」
 「今まで、俺達はバチカンに協力してきた。ガブリエルの情報を頼りにナイトウォーカーも倒してきた。次は、俺達、いや、凛を助ける番だろ?」
 こちらに、と案内され、凛を横に出来る場所を提供された。
 「悪魔崇拝者達は、勿論、呪文や呪い、昔ながらの言い伝えによって悪魔達と交信しますが大抵は思い込みです。」
 「だが、凛の意識が無い!何故だ?」
 「これは知識でしか無いんですが、薬物によって昏睡に近い状態なのかも知れません。」
 「薬物?」
 「えぇ、ゾンビ伝説なんて殆どが致死量近くの毒物で意識や物事を考える力を奪い奴隷にする話です。」
 「その場合、戻るのか?」
 「意識が戻った奴隷は殺されますから生き証人は居ません。」

 取り敢えず、血液検査をしましょう。そう言うとバチカン内の医療班が、凛から血液を取り検査に回した。
 「結果が分かるまでここに居ても?」
 「えぇ、構いません。彼を連れて外に出れば騒ぎになるでしょう。貴方も休める様、手配します。」

 客間に案内され、ベッドに凛を寝かせる。ずっと座らされて居たんだろう。足も腰も固まっている。ゆっくりマッサージして、伸ばしてやる。
 「たとえ、意識戻らなくても俺が居るからな。凛。もう誰にも渡さないから。」
 凛に添い寝する。もう何日振りだろう。凛からは香の香りがする。恐らくケンの両親の仕業だ。凛に香の香りなんて要らない。清潔な石鹸の香りが似合う。

 眼も乾くだろう。そっと閉じさせる。まるで眠り姫だ。着替えがないから、ワンピースのままだし。俺も疲れが出たのかそのまま眠ってしまった。

 明るくなって目が覚めた。横にいる凛は眠ったままだ。肌色は悪くない。大丈夫。絶対、魂、取り戻してやる。

 「検査結果でました。やはり薬物反応が出ました。あと、外傷が無いか見せて頂けますか?」
 凛は身体回復能力が高い。殴られたとしても傷は無いだろう。
 「あぁ、やはり後頭部を強く殴られてますね。髪が短くなって肌が見えてます。傷は能力で塞がってもダメージまではすぐに回復はしないでしょう。」
 「毒物は?」
 「何を摂取したかは分かりません。監禁されて居た家を捜索しましょう。警察を手配します。」

 イタリアの警察と共に、ケンの家に入る。奥まった部屋には魔法陣や書物、薬品が大量にあった。警察が、全て確保して薬物の特定に急ぐ。近隣の住民たちも騒めく。以前からこの家は、怪しまれて居た様だ。

 科学的な事は分からないので、凛の側に戻る。傷は回復してる。脳のダメージもゆっくりだが、回復するだろう。眼が覚めた時、側に居てやりたい。それしか出来ないもどかしさがあった。ケンは、いやケンも被害者だったのかも知れない。あの両親にディウォーカーにされ、次は悪魔だ。それを食い止めた眠り姫。優し過ぎるよ、凛。眼が覚めたら説教だからな。

 数日かかり、凛の中の薬物と監禁場所からの薬物が合致し、解毒作用のあるものを探す。凛はその間、眠り続けるが下の世話をしなければならなかった。だから、香を焚いたんだな。着替えもさせて、今は普通に眠る美青年と言った所か。左手に光る指輪。最初に見つけて安心した。盗られずに済んで良かった。


 なかなか薬物の解毒作用が見つからない。薬物だけでは無く、エクソシストの祈りも続けられる。出来る限りの事はしてやりたい。もう、これ以上後悔したくなかった。

 俺の滞在出来る日数も少なくなってきた。凛を置いて帰りたくないが、移動が出来ない。薬物のプロはここに居る。日本に華を使って飛ばしても意味が無い。

 「凛、ごめん。ビザ取ったらすぐに戻るから。」
 別れ際、ふと凛のネックレスに触れた。

 (蓮、愛してるよ。だから前向いて新しいパートナーを見つけて)
 (蓮、大好き。バイバイ。)

 凛の最後のメッセージが伝わってきた。涙が止まらなくなった。凛の覚悟は、俺の予想以上だったからだ。

 でも、もう凛はこちらに居る。誰にも渡さない。たとえ、ずっとこのままでも手放す気は無い。

 バチカンに凛を託し、一旦、イタリアを離れた。


 数ヶ月が経った。イタリア入国と出国を繰り返し、凛の側に居る。何も摂取出来ないから、一回り細くなってしまった凛。  時々、輸血して、渇きから守る。時折、眼を開く。焦点も合わないし、虚ろだが、きっと回復してる。そう思わないと辛過ぎる。

 「蓮さん。申し訳ないが、バチカンはこれ以上凛さんに出来る事がありません。日本で輸血を続けて回復を待つしか。」

 車椅子に凛を乗せて飛行機で帰国する。自宅に帰ると、華と健太が待っていた。
 「痩せちゃったね、パパ。今日からは私も手伝うから、お家で頑張ろ。」
 笑顔だが、涙で溢れている。自宅での介護が始まった。

 「凛、すっかり冬が来たぞ。紅葉見れなかったな。」
 甘い物が大好きな凛の為にケーキを買ってくる。食べられないが、指にクリームを付け、舌に乗せてやる。甘さ感じると良いけどな。普段から色白の肌がますます白くなる。唇は紅く、美しい。痩せても尚、美貌は衰えない。

 紅い唇に惹かれて、つい唇にキスをした。昏睡状態の相手に何してんだ俺は。

 呆れて外を眺めていた。

 背中を触れられる感覚!慌てて振り返ると薄っすら瞳を開いて、俺を、見上げる凛。視線が合う。
 「り、凛!わかるか?蓮だよ!凛!」
 返事の代わりにゆっくりと瞬きをした。
 「華!凛が、凛が眼覚ました!」

 ドタバタと全員が集まる。凛がゆっくり皆を見渡す。涙が一筋、流れた。生きてまた再会出来たんだ!
 「蓮、飲み物!喉乾いてる!」
 華が指示を出す。俺は慌てて凛が好きなジュースを持ってきた。が、自力で飲めない様だ。
 「ほら、口移しで少し飲ませて!」
 言われた通りに、口移しで少し飲ませてみたら、うまく飲み込めたようだ。

 それから数週間かけて、普段の生活に復帰出来た。今は自分で飲食も入浴も出来る。痩せてしまった身体もふっくらとして健康的に美しさを増した。

 バチカンに連絡を入れた。目を覚ました原因がわからない。解毒も祈りも通じなかったからだ。凛を監禁していた両親は逮捕され監獄に入っている。バチカンは、彼らからも事情聴取するらしい。

 返事は直ぐに来た。
 〔昔からの呪いをかけた、と言っています。眠り姫の話、分かりますか?多分、それらしいです。〕
 おい、待てよ。キスで目覚めるならもっと早く出来たぞ、クソッ!

 隣で聞いていた凛がクスクス笑う。
 「笑い事じゃねーよ。どんだけ大変だったか。」
 「すごい古典的な呪いじゃん、蓮ならすぐキスすると思ったけどな。」
 そこは、理性を保ったんだ。まぁ結局、キスしたけど。

 フワッと抱きついて来た凛からは、清潔な石鹸の香りがする。凛は美しさで、男共を惑わすが、その美しさで命を守った。

 「もっと綺麗になれ、凛。最強の美しさを手に入れたら、敵なんていない。」
 フフッと笑う凛の笑顔は言葉にならない位に綺麗だった。

 「来年のカミーノ、楽しみだね。」
 「あぁ、間に合って良かった。皆で歩くぞ。あと華達の立会人にならないといけないからな。」
 「うん、父親として大事な時に間に合って良かった。」

 凛は一見、女っぽくて細身で弱そうだが、恐らく4人の中で1番強い魂を持っている。自己犠牲の為には命も惜しまず投げ出す。前言撤回だ。1番強いよ、凛。


 意識が無かった間の事はよく覚えていない。が、少し覚えている事もある。ケンの両親は、俺を襲い呪いをかけた。その後、何故か悪い記憶がないのだ。窓際に座らされ、毎日、髪を整えてくれたり、スプーンで水分を与えてくれた。最初から殺すつもりじゃ無かったようだ。蓮の声も微かに聞こえた気がする。後は眼が覚めるまで記憶が無い。
 結果的に多大な迷惑を蓮に家族にかけてしまった。もし、またトラブったら次からは1人で抱え込まずパートナーを信頼して共に乗り越えよう。そう心に誓った。


 まぁ、迷惑はかけた。1人で解決しようして、またも監禁に呪い。悪いなぁとは思うよ。本当に。下の世話までやらせたんだからな。有難いと思う。

 けどさ。なんでこんなにアダルトグッズ増えてんの?サイドボードからはみ出て、ダンボールの中、溢れてるじゃねーかよ。

 廃棄処分決定。
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