セピアの涙

織子

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初めての季節

濡れたマッチ

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 時刻は午後八時になり、翌日の活動内容の確認などを行うミーティングも終了し、キャンプファイヤーの準備に取り掛かっていた。周りの女子部員たちは皆で固まって会話をしながらだらだらと作業をしていた。作業と言っても本当に簡単なもので、丸太を運び組み立てるという力仕事は全て男子部員が行ってくれたので、女子はその組まれた丸太の周りや中に小枝や新聞紙などを詰め、火が燃えやすくなるようにしていた。

 「ねえ、このマッチ、いつの間にか濡れてるんだけど。絶対さっき川遊びしてた男子の誰かのせいだろうね」

 怒りと呆れを半分ずつにしたような声で学年が一つ上の先輩が言った。先輩のその一声で先輩の周りに続々と女子部員が集まり、濡れたマッチを全員で回し見しながら口々に不満をこぼしていた。そして当然のようにその輪の中に私は入れずにいた。女子の結束とは傍から見れば本当に恐ろしいものだ。特に共通の敵と遭遇した瞬間なんかは当人同士のこれまでの関係なんか度返しにして強い絆が生まれてしまう。そして、その強い絆の最も恐ろしいところは、自分たちに共感をしない者は全て敵と見なしてしまうところにある。つまり、私がここでその女子の輪に入らなければ、いつかは私が彼女らの敵であり“的”になってしまう可能性があるということだ。そのことを分かっていながらも、その輪へ近づく一歩を踏み出そうとする足がすくんで進めない。だから震えそうになる声を必死に堪えながら「あの、私、事務所に行って新しいマッチを貰えるようにお願いしてきます」と集団に向かって言った。その声は努力の甲斐あって堂々としていたが、気づくと手はスカートを強く握りしめていた。

 「え、富永さん悪いよ」
 「そうだよ。男子がやったんだし、男子に行かせようよ」

 優しい表情で先輩たちはそう言ってくれるが、ここずっと張りつめっぱなしの心を休めたい気持ちが強かったので、「自販機で飲み物も買いたいので、そのついでに聞いてくるので大丈夫です」と言い、軽く会釈をしてその場を去った。
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