S級ギルドから追放されたドラゴンテイマーは、竜王の娘たちと契約して最強ギルドを作る。〜後から謝られてももう遅い、俺は世界最強を目指す〜

石八

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第3話 ギルド設立の決意

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「……よし。とりあえず、一旦状況を整理しよう」

 誰も通らないような薄暗い裏路地にて、俺は【強者の楽園】に所属する三人の冒険者に絡まれていた少女と、肩を並べ歩いていた。

 そんな少女の背中には立派な翼が生えており、スカートの下からは蛇のようにしなる尻尾が左右に揺れている。

 見方によればコスプレにも見えるが、俺は目の前で翼や尻尾が生えてきているところを目の当たりにしたため、とりあえず話をまとめることにした。

「えーと……キミの名前はステラで、焔帝竜の一人娘……なんだよな?」

「えぇ、その通りよ」

「……ということは、キミはドラゴンなのか……?」

「んー……まぁ、半分正解で半分不正解よ。見て分かるとおり、私は竜の血も人の血も引いたハーフなの。でも、そうね。ドラゴンであることを否定するつもりはないわ」

 人と比べれば少しばかり長く見える舌をチロっと見せるステラは、どこかイタズラめいた表情で、上目遣い気味にこちらを見つめてくる。

 今こうして見ると、ステラは今まで出会った誰よりも可憐で、美しい少女であった。

 キラキラと輝いている紅い瞳は宝石のように美しく、それでいてまつ毛も長く、淡い桃色をした唇はふっくらとしている。

 まさに、絵に描いたような『美少女』に、俺はついステラから目を逸らしてしまっていた。

「まぁ、それはいいんだ。それよりも……キミは、ステラは、さっき俺を長年探し求めていたとか言ってたよな? それって、どういう意味なんだ?」

「そうね……簡単に言えば、これかしら?」

 そう言って、俺の右手の甲に浮かんでいる黒い痣を撫でるステラ。

 その痣は、決して虐待されてできたものでも、誰かに虐められてできたようなものでもない。

 この痣は、俺が母親の腹から産まれてきたときからある痣らしく、今まで俺はこの痣が一体なんなのかと疑問を抱いていた。

 もちろん、痣なんてものは珍しいものではない。

 だが俺の右手の甲にある痣は左右対称であり、それでいてなにかの紋章のような形をしているのである。

 真ん中には小さなひし形があり、それを囲うようにトゲトゲしてる痣、丸い痣、ギザギザの痣と外に広がっている。

 そんな謎めいた痣を優しく撫でるステラの手は、触れ続けていると火傷してしまいそうなほどの熱を帯びていた。

「この痣はね、その人がドラゴンテイマーである証なの。だから、最初見たとき驚いたわ。まさか、こんなところでドラゴンテイマーと出会えるだなんて、思いもしなかったもの」

「……そうか。これが、ドラゴンテイマーの証なのか……だが、それならどうしてステラは俺を探してたんだ?」

「そんなの、説明しなくても分かるでしょう? 私は、あなたが欲しいの。あなたを、私だけのものにしたい。あなたを独占したい。私は、力を手に入れるためにあなたを──いえ、ドラゴンテイマーを探していたの」

 ステラの紅い瞳が、爛々とした輝きを放つようになる。

 それはまるで獲物を見つけた獣のような瞳であり、その瞳を見ていると、まるで心の中を見透かしているような、そんな不思議な感覚に俺は包まれていた。

「私がいれば、あなたは強くなれる。そして、私はあなたがいればもっともっと強くなることができる。利害は一致してるはずよ?」

「……確かに。俺はドラゴンテイマーというスキルの力を知らないが、ステラはそれを理解してるんだろ? もしその話が本当ならば、利害は一致してるかもな」

「でしょでしょ! なら、早速私と『契約』しましょ! そうすれば、あなたはあの有名な【強者の楽園】で一位の座を手に入れることができるわ! 私が、保証してあげる!」

 太陽のように眩しく弾けた笑顔を浮かべながら、俺の手をギュッと両手で握ってくるステラ。

 だが俺は、そんな期待の込められた視線を向けてくるステラから、目を逸らすことしかできなかった。

「その、ステラには言いづらいのだが……」

「……? どうしたの? なにかあったの?」

「……実は俺、ついさっき【強者の楽園】から追放されたばかりなんだ……」

「あははっ! そんなわけないじゃない! だって、あなたはドラゴンテイマーなのよ? それなのに追放だなんて──え……それ、本当の話なの……?」

 信じられないといった様子でこちらを見つめてくるステラに、俺は恐る恐る頷いてみせる。

 すると、ステラの表情がゆっくりと変貌していき、先ほど見せたときのように腕に炎を纏わせ、明らかな怒りを露わにしていた。

「誰よ、そんな非常識な奴! ドラゴンテイマーって、この世界で一人しか覚えられない唯一無二のスキルなのよ!? それなのに、どうしてそんなスキルを持つあなたを追放するのかしら!?」

「いや……まぁ、この世界にはドラゴンなんていないようなものだしな。しかも、やっと出会うことができたワイバーンと俺は『契約』することができなかったし、多分才能がないんだよ」

「……ちょっと。私とあのドラゴンもどきを同じにしないでよ。私は正真正銘のドラゴンだけど、ワイバーンの祖先はあくまでトカゲだからね?」

「えっ。そ、そうだったのか」

 まさかの新事実に、俺は驚きを隠すことができなかった。

 そんな俺を見て呆れたようなため息を吐くステラだが、少し時間が経って怒りが収まったのか、炎と同時に翼と尻尾を隠し、人と同じ姿に戻っていた。

「まぁいいわ。でも、こんなところでドラゴンテイマーのあなたが終わったら、私の存在意義がなくなってしまうわ」

「……なんか、ごめんな」

「いえ、いいのよ。むしろ、始まりはゼロの方がやり甲斐はあるもの。決めたわ。私とあなたで、新しいギルドを作りましょう! そして、あなたを追放した馬鹿を越して、嘲笑ってやるのよ!」

 拳を握り締め、メラメラと瞳に炎を宿すステラ。

 だが俺は、そんなステラの話に素直に乗ることはできなかった。

「それ、本気なのか? 相手はあのスヴェンだぞ? あいつの手にかかれば、俺たちがギルドを立ち上げてもすぐに潰されるぞ」

「なら、潰される前に潰せばいいのよ。私、負けることが大嫌いなの。だから、目指すはアグニエル王国一のギルド──いいえ、そんなんじゃ生ぬるいわ。目指すなら、当然世界一よ!」

 大きく胸を張りながら、高らかに拳を突き上げるステラ。

 普通ならそんな無謀なこと止めた方がいいのかもしれないが、不思議と、ステラとならそんな不可能に思えることも、可能にできるようなそんな気がした。

 だが、そのためには準備というものが必要になる。

 一応コネがないことはない。
 しかしそれだけではスヴェンに対抗するどころか、他のギルドに潰されかねない。

 だから、まず俺たちのすることは。

「ステラ。ギルドを立ち上げるには、まず第一に金が必要になる。次にギルドを建てる土地と、その人脈だ。土地と人脈には少し宛があるから大丈夫として、まずは金が大事になる」

「そうね。それなら、早速お金を稼ぐために行動に移しましょう」

「あぁ。まず、金を稼ぐために最も効率のいい方法は、魔物を倒すことだ。だが、俺は正直に言って弱いから、それは選択肢から除外するとして──」

「なーに言ってるのよ。この私が、焔帝竜の一人娘であるこの私が、あなたと『契約』すれば並の魔物なんて相手にもならないわ。さ、そうと決まれば急ぎましょう! 日が暮れる前に、パッと終わらせるのよ!」

 やる気に満ちた笑顔を浮かべながら、我先にと狭い路地を歩き出すステラ。

 だがそこでふとあることを思い出したのか、突然後ろを振り向き、俺の元へと駆け寄ってくる。

「ねぇ、あなたの名前を教えてよ。あなたが私をステラと呼ぶのに、私はあなたをあなたとしか呼べないだなんて、他人行儀でなんだか嫌だわ」

 そう口にしながら可愛らしく頬をプクッと膨らませるステラは、こう見ると少しだけ幼げに見える。

 そんなステラを前にし、俺は少しばかり後頭部を掻きながらも、素直に自分の名を名乗ることにした。

「……俺の名は、ノア。ノア・リュートだ。ノアでもリュートでも、好きに呼んでほしい」

「分かったわ。なら、あなたのことをこれからノアと呼ぶわ! これからよろしくね、ノア!」

「あぁ。改めて、よろしく頼むぞ。ステラ」

 ステラと固く握手を交わした俺は、ステラと肩を並べて裏路地を出て、魔物を狩るべくアグニエル王国を囲む壁にある門へと向かう。

 そこで外出手続きを済ませ、俺はステラと共に、魔物が多く生息している近隣の森を目指して歩みを進めるのであった──
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