生殺与奪のキルクレヴォ

石八

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第2章

終着点への道

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 再びランデスタの花が咲き誇る地で腰を座らせる悠真たち。別にランデスタの花を採取しに戻ったわけではなく、ただ単純にフィルから事情聴取するためである。

 大きくなったフィルは裸体であることに羞恥心を覚えていたため、レナが気を使って自分のアイテム袋から替えの服……と言ってもレナがいつも着てる服の下に着る丈夫な布の服なのだがそれをフィルに渡していた。

 だがフィルがそれを着ると「胸が窮屈で苦しいです……」と呟き、前のように悠真のローブを欲してきた。その時のレナのなんとも言えない表情で自分の胸を押さえてる姿が少し可哀想に見えたのは秘密である。

 そして今レナの下着を履いて上は悠真のローブを羽織っているのだが、そのローブにはファスナーというものが存在していないため結局大きく実った乳房が半分ほど丸出しという逆に悠真的にはそそられる身なりになってしまったのは言うまでもないだろう。

「あー……その、なんだ。グローリアの子供は1人前になるとみんなこうなるのか?」
「いえ、基本的には竜の姿が大きくなるだけで人間の姿でもその影響があるのは聞いたことありませんし、そもそもフィルの種族が人間になれること自体知らなかったんですよ」 

 つまりこの自体は過去にない異例というわけだ。まぁ自分のことを『私』ではなく『フィル』と呼んでいるあたりまだ幼げは残っているのだがやはり言葉の選び方は大人そのものである。

 実際のところ今もレナを見習って正座をして話をしてるわけで、言動や思考、素行が全て大きくなったと共に成長しているということが理解できるところだ。

 だがやはり心境は複雑なものである。今まで子供のように接してきたフィルがこんな立派な姿になっているのだ。しかも見た目的に年上に近いためどうしても敬語が少しだけ出てしまう。

「ところでフィルちゃ──いや、フィルさんとお呼び方がいいですかね」
「あっ、全然前のようにフィルちゃんで構いませんよ。そっちの方がフィルもレナお姉様と親しげに出来て嬉しいので」

 レナがコンタクトをとるもまずどう呼べばいいのか悩んでいる様子だった。前の姿なら『フィルちゃん』が合っているが今のフィルは正直なところ『フィルさん』と呼んだ方が違和感がないほどである。

 だがフィルは前のように接してほしいのか『フィルちゃん』の方を推してくる。そういう所も可愛らしいところなのだが、そんなことよりもレナがお姉様と呼ばれ「お、おね、お姉様……」となにやら頬を綻ばせていた。

 面倒見のいいレナは意外と妹のような存在が欲しかったのかもしれない。いや、弟でも大丈夫だろう。結果的にどちらにしてもいいお姉さんになりそうではあるが。

「えーと……フィルちゃんは1人前になるためにここに来てあの儀式をしたんですよね? ならその儀式が終わった後のことも知ってるはず。どうなんですか?」

 いきなり何を聞き出すのかと思えばレナは大きな疑問をフィルに投げかける。確かにその通りだ、フィルはここに儀式をするために来たのでその後どうするかも知ってるはず。グローリアの子供は1週間しか姿を現さない。ということは必ずしもどこかがあるはずなのだ。

 どうやらその意見はフィルにとって核心を突くものだったらしく、目を瞑って考え込んでいた。そして数秒後、フィルの口から出た言葉は「知っています」であった。

「グローリアとしての力を得たらフィルを生んでくれた母親の元へ向かうのです。ですがその母親のいる場所は分かるのですが曖昧なんですよ」

 お淑やかに振る舞うフィル。その姿に悠真はどこか既視感を感じていた。そう、悠真は過去にフィルに似たブロンドヘアーで、長髪で、目が曖昧だが黄色かったはずの女性の姿が脳裏に過ぎったのである。

「フィル……その母親ってさ、『ルミア』って名前じゃないかな?」

 ルミアとは悠真にグランデスタの歴史やグローリア、そしてランデスタの花を咲かせる特別な条件などを教えてくれた女性である。ルミアとフィルの容姿がどことなく似ていたので不意に思い出したのだ。

 だがフィルの返答は期待してるものとは違った。下顎に指を置き、考える仕草をしてから「もっと長かったはずです」と答える。悠真の中で出来上がりつつあったパズルのピースが再びバラバラになった瞬間である。

「あっ、そういえば母親の言葉を思い出しました!」
「母親の言葉……ですか?」

 オウム返しするように聞き返すレナ。それに対し「はい!」と元気よく返事するフィル。傍から見れば仲のいい姉妹そのものである。

「えーと、確か母親は幼かった頃のフィルにこう言いました。『5つの石碑を巡り、白神木のある丘の先で待っている』と。この石碑ってすでに2つ見つけてますよ……ね?」
「石碑……石碑ってあれか。赤い狐の出てきた赤い石碑と何も無かった青い石碑のことだよな? 確かあのとき出た数字は……」

 微かな記憶を辿り、石碑に魔力を流したことで浮き上がった数字を思い出す。だがそれよりもレナが先に「赤が3、青が2です」と答え、悠真の思考はそこで中断された。

 この謎に出てくる石碑は既に2回見つけている。だが白神木のある丘にはまだ1度も立ち寄ったことがなかった。つまりこの森はまだまだ広大にひろがっているのだろう。

「5つですか……気の遠くなりそうですね」
「いや、そうとは限らないよ? 既に2つの石碑を見つけたんだ。最悪1個見逃しても数字は特定できる」

 その通りである。他の石碑の色はまだ不明だが、4つ見つけてしまえば特定は簡単なのだ。例えばこれから1と5を見つければ見つけ損ねた残りの石碑は『4』ということになる。さすがに『54』とか『100』のように桁が外れることは有り得ないはずだ。

「フィルが数字を触れた時実は懐かしい魔力を感じてつい手を伸ばしてしまったのです。なのでその魔力を感じ取れば他の石碑を見つけるのは容易いことかと思います」

 この発言でもう決まったも同然だ。悠真の中ではランデスタの花を咲かせた後は神の塔への扉を開ける手がかりを見つけるつもりだったのだが、今となってはそれもどうでもよくなってきた。

 今の立派に育ったフィルを生みの親である母親の元へ送る番である。

「よし! じゃあ早速探しに行きますか!」

 手のひらを合わせてパンと音を鳴らして立ち上がる。その時腰を曲げて話していたので若干腰が痛くなっており、おじいさんのように腰を回して「あぁ~」とだらしない声を上げるとレナとフィルがおかしいのかクスクスと笑っていた。

 ゴホンと照れ隠ししながら咳き込みをしてレナとフィルを立たせる。だがここで問題が起きてしまった。

「そういえばハルマさま、フィルちゃんの靴はどうしますか?」

 レナが素朴な疑問を投げかけてくる。だがその素朴な疑問はとても重大なことであった。フィルに竜の姿に戻れるかと聞くと「すいません、分からないんです」と返答が返ってきた。

 儀式をする時すんなりと竜の姿へ戻ったの人間の姿になる時と同じで儀式をするという『目的』があったからなのだろう。だが今は大して大きな目的があるわけでもないので自己的には戻れないということだ。

 とりあえず悠真たちは先へ進むべく、再び冒険の準備を進めるのであった。



────────────



「ハルマお兄様、重くないですか……?」
「う、うん。重くはないよ、ただ……」

 今悠真はフィルを担ぐ……つまりおんぶして森の中を進んでいた。フィルは素足でも歩くと言っているが足の裏を切ってなにか悪い菌が入り込むといけないと考えた悠真は率先してフィルを担いだのだ。

 悠真に担がれて安心しているのか背中にギュッと抱きついて石碑が放つ魔力の元へ導くフィル。その時背中に伝わる柔らか感触と腕に広がる太股のモチモチな肌触りが悠真を刺激する。

 別に重いわけではない。重いわけではないのだがある意味これだったら重い方が幸せだとも感じられる。

 今となっては自分よりも力持ちのレナに任せれば良かったとも思うのだがこういう力仕事は男の役目だと感じているし、自分から始めたことを自分で折りたくなかったため、こうして煩悩と戦いながら先へ進んでいるのだ。

 しかしこれにはいい点もある。襲いかかってくるモンスターはレナが全て倒すことになるので、レナの戦闘面での成長ができるようになるのだ。

 正直なところここら辺に出てくるモンスターのスキルは大体『殺奪キルクレヴォ』してるし、出てくるモンスターもホワイトガゥとただ色が違うだけでスキルもステータスも同じなブラックガゥばかりだ。

 そのためレナも淡々と敵を狩り続けている。とても心強い味方である。

「レナお姉様! 前方から魔力の塊が……おそらくブラックガゥかと!」

 フィルがレナに指を指して告げると、その数秒後にブラックガゥが丁度姿を現す。先程からさり気なくフィルが索敵をしているがその索敵範囲が異常なまでに広いのだ。

 その索敵範囲は悠真の持つ『危険察知きけんさっち』どころかレナの『聴覚強化ちょうかくきょうか』よりも上。フィルはさっき「石碑の魔力を感じ取れば」と言っていた。そして今回もブラックガゥを『魔力の塊』と表現していたのでおそらくだがフィルは『魔力察知まりょくさっち』か『魔力探知まりょくたんち』のスキルを持っていると推測できる。

『ガァッ!』

 ブラックガゥが鋭利な爪をレナに向けて喉元目掛けて飛び込む。しかし目前でレナの姿が消えてしまい、ブラックガゥは困惑した声を上げる。

 その隙にレナは腰ののうに収められている白鉄の小短剣ダガーに交差した両手を回して居合切りの如く抜き放つ。その間およそ0.1秒ほど、早すぎて軌跡が見えるほどであった。

『ガァァ!』
「っ!」

 腹からドロドロと濃い血を流すブラックガゥは負けじとレナに襲いかかる。だが傷があまりにも深く動きがとても鈍くなってしまっている。その隙にレナは一瞬でブラックガゥの首元へ潜り込んでいた。

 左手の小短剣を瞬時にバックハンドで切り込めるように持ち替え、レナは裂くようにブラックガゥの喉元を掻っ切った後、小短剣に付着した血を払うようにシュッと素振りをした。

『グゥゥ……』

 声すら上げることも許されなくなったブラックガゥは目の前の白い敵……レナを恨むように睨みつける。だがその直後見えたのは青く染まった青空と地面に広がる赤い水溜り。

 こうしてブラックガゥは1分も経たないうちにレナの手によって絶命させられた。

「レナお姉様、とても強いですね!」
「うん、レナは強いしセンスもある。将来もっともっと強くなると思うよ」

 遠くから眺めて各々感想を口並べている悠真とフィルの事に気付かず、レナは『水球すいきゅう』を使用してブラックガゥの血を流し、アイテム袋に放り込んでいた。

 後始末を終えたレナは耳をピーンと伸ばしながら悠真の元へ無事に終えたことを伝えに来る。その時にレナに感謝をして褒めると「ありがとうございます」とクールに答えるが、後ろを向く時に尻尾がこれでもかというほどブンブン振られていたので悪い気はしていないのだろう。


 そんな姿に和みつつも順調に先へ進み、ついにフィルが3つ目の石碑を発見することに成功した。

「ハルマお兄様! あれです!」

 そこにあったのは赤と青と全く同じ形をした緑色の石碑だった。その石碑に迷いなく魔力を流し込むと目の前に『1』という数字が浮かび上がってきた。

 相変わらず規則性は不明だがこれでキーワードは3つ揃った。残りの石碑の数は2つ……つまり折り返し地点に来たということだ。

 レナが石碑の色と数字をメモしていたので終わるのを待ち、悠真たちは先へ進む。その後、10分経たないうちに悠真たちは黄色の石碑を見つけ、数字の『4』が浮かび上がるのを確認した。

 誰も怪我を負っていないしはぐれたわけでもない。特別強いモンスターが現れるわけでもなければ盗賊や山賊に襲われたわけでもないので比較的順調だと言えるだろう。


 その後、次の石碑を探して歩いていると背にいるフィルがビクンと大きな反応を見せる。「なにかあったの?」と聞くと、どうやらとてつもない大きな魔力を感じ取ったらしい。

 だがその魔力は危険なものではなく、まるで先日行われた儀式の時に自分に纏った魔力ととても酷似しているらしい。太陽が昼を回り、夜になるといけないと判断した悠真はフィルの誘導の元、早足でその魔力元へと足を進めた。

 そしてフィルは急に道の無い木々の中へと指を指す。それに従い先へ進むと、悠真はとんでもないものを目の当たりにした。

「これは……」

 目の前に広がるのは赤や青、黄や緑といった色鮮やかに咲き誇る花畑の丘。その花畑に目を奪われるがそれ以上に悠真の気を引くものが丘の上にあった。

 それは葉も枝も幹も全てが光り輝く真っ白な大樹。他の木よりも何倍も大きく美しく、そして悠真でも分かるほどの魔力を放出していた。その丘には白い珍しい蝶や兎などが遊んでおり、まさに『楽園』と評してもおかしくない場所だった。

「フィルちゃん……ここってもしかして」
「はい。もしかしなくてもここは母親が私に告げた『白神木の丘』で間違いないと思います」


 悠真たちはフィルの目指した場所へ辿り着いた。

 

 それと同時に悠真の中で大きな黒いもやがかかるのであった──





















如月 悠真

NS→暗視眼 腕力Ⅲ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅱ 火属性魔法Ⅰ 広角視覚Ⅰ 大剣術Ⅰ 脚力Ⅰ 短剣術Ⅰ 威嚇

PS→危険察知Ⅰ 火属性耐性Ⅰ

US→逆上Ⅰ 半魔眼 底力

SS→殺奪



レナ

NS→家事Ⅲ 房中術Ⅱ 水属性魔法Ⅰ 光属性魔法Ⅰ

PS→聴覚強化Ⅰ 忍足Ⅰ

US→NO SKILL

SS→NO SKILL
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