生殺与奪のキルクレヴォ

石八

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第1章

モンスターから出る謎の石

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 軽い食事を終えた悠真は水入り瓶に口を付けて喉を潤していた。

 食事中に肉の焼ける匂いを嗅ぎつけたゴブリン達と対峙したのだが余裕で討伐することが出来た。


 今はまだリーデダンジョンの4階層である。
 このダンジョンが一体何10階、将又何100階あるのかは分からないがまだまだ序盤の序盤である。

 10階ごとにボスモンスターが生息してるらしいが、おそらく11階層からは別のような空間になると悠真は睨んでいた。

 簡単に言えば難易度がレベルアップするということだ。
 つまりボスモンスターは10階層以降でも戦えるかという『試練』だと考えていた。

 ということはボスモンスターの強さは生半可なものではないだろう。

 つまりボスモンスターと戦う前に十分にレベルアップする必要があるのだ。

 スキルの数は既にボスモンスターを倒せるほどにはなってるはずだ。

 だがしかし、様々なレベルが足りていないのは明白なことである。

 モンスターと戦うためのレベルや敵の動きを見極めるレベル、そしてなにより悠真自身のレベルが圧倒的に足りていない。


 いくらスキルを覚えようと先ほどの加速のように自分のスキルで自滅しかねない。

 つまり自分を鍛えなくてはならないのだ。


「今のレベルは3……か」

 大量のゴブリンやビックホーンボア、そしてソードゴブリンを倒してきたはずだがやはり個々の経験値というものは少ないのだろう。

 体力に攻撃力、防御力や瞬発力などはレベルアップによって多少だが上昇している。

 しかし適合がないのかそういうものなのかは知らないが魔力だけ数値が1も上がってないのだ。

 おそらく魔法関連のスキルを覚えた状態でのレベルアップ、もしくは魔力を消費することでの最大魔力上昇などが見込めるが悠真の魔力は12しかないためそんな実験すらままならない。

 ドロックモンキーと戦う時は接近戦になる可能性が高い。
 そのため自身のレベルを最低5までは上げておきたいところである。

 だがレベルを上げるにもまだ三種類のモンスターにしか出会ってない。

 街の中にあり駆け出しの冒険者達が修行をしにくるダンジョンのため妥当ではあると思うがボーナスモンスター的な経験値を沢山落とすモンスターが出現してもいいと思う。

 レベルが足りなければ技量を上げる、技量が無ければレベルを上げてゴリ押しするのが1番理にかなった方法だろう。



「メタルスライム的なモンスターいないかな……」

 そんなどこかのゲームに出てくるやたら防御力と回避力が高いモンスターの名を呟き、5階層に登る階段を探すため歩き始めるのであった。







 悠真が5階層に登る階段を探していると正方形の大きな部屋に出る。

 その真ん中には青色の宝箱がいかにもトラップっぽく置かれていた。

 試しに宝箱を持ち上げて揺らしてみる。
 重みがあり、中で謎の金属音のような音が僅かに聞こえることが分かった。

 なるほど、ミミックではなさそうだ。
 それに音と重さ的に武器か装備が期待されるだろう。

 だが問題はこの無駄に広い空間だ。
 今までは廊下に適当に置かれていたのにここだけ丁寧に前方にも後方にも逃げれないように置かれてある。

 つまりこの宝箱を開けた瞬間退路が絶たれ、モンスターハウスになる可能性が高い。

 さて、どうするべきか。

 正直今のレベルでモンスターを10体以上相手にすることは厳しいし、どんなモンスターが出るのかも分からない。


「開けるべきか……いや、待てよ」

 ゲームのせいで固定概念に囚われすぎていた。
 何もこの部屋で宝箱を開けなくてもいいのだ、だって今現在進行形で持っているからである。

 もし退路が絶たれるとすればこの部屋にモンスターが溜まり、廊下で宝箱を開ける自分に被害が及ぶことはなくなる。


「よし、そうしよう」

 宝箱を抱えたまま先に進み、正方形の大部屋を出た瞬間手元にあった宝箱が消え、部屋の真ん中に戻る。

 再び持ち出そうとするが結果は同じ、走って持っていこうとしても1歩踏み出ただけで宝箱は一瞬で元の場所に戻ってしまった。


「なるほど、空になった宝箱を消すことが出来るなら持ち出そうとした瞬間元に戻すことも可能……か」

 なら次の手を試すしか他はないだろう。


「よし、ここならセーフなのか」

 簡単な話だ。
 宝箱を部屋から出るギリギリに置き、自分は廊下に座って宝箱を開く。

 もし中身を取り出せなくても危険は及ばない。
 それにもし取り出せた場合は万々歳というわけだ。


 悠真は重い宝箱の蓋を開く。
 中には黒い金属で作られた手に装備するガントレットと赤い石、それに黄色い容器に入った回復薬が1個あった。

 既に2本所持している回復薬の容器は透明、しかし新しく手に入れた回復薬の容器は黄色い。

 簡単に推測すればこの回復薬は普通の回復薬よりも効果が強いものだろう。

 それにあんなトラップっぽい部屋の宝箱から出てきたのだ、そう考えるのが妥当だろう。



 隅々まで探したが青い液体の魔力薬は無かった。
 おそらく貴重なアイテムだったのだろう。

 宝箱の中身が無くなり、すうっと消えた瞬間目の前に部屋を閉じるように壁が下から飛び出てくる。

 鈍い音をたてながら正方形の部屋への道が閉じ、モンスターの呻き声が聞こえ始める。

 やはりモンスタートラップだったか。
 悠真は自分の計算通りになったことで慢心し、ガントレットを装備して歩いていく。

 最初はガバガバなサイズだったが装備する者に適合するのか丁度いいサイズに縮まった。

 ガントレットの着け加減を手を開いたり握ったりして確かめる。

 そんなことをしているとゴゴゴゴと鈍い音が後ろから聞こえ始める。


 「まさか」と額に冷や汗をかきつつ後ろを見ると20匹を超えるゴブリンと10匹を超えるソードゴブリンが姿を現す。

 ゴブリン達は悠真を見つけるとニヤリと笑って全速力で走ってくる。

 なるほど、ズルをして宝箱を開け、部屋の中に居なかった場合すぐに壁が下がるのか……ってそんな冷静に考えてる暇はない!


 悠真は加速を使用して全速力で逃げる。
 何故かこの時スタミナが切れても走り続けることが出来たのはアドレナリンが大量に出たせいだろう。



──────────────



「はぁ……はぁ……」

 ゴブリン達の足が遅くて助かった。
 加速のスキルのおかげでもあるがあの軍団を相手にすることなく逃げることが出来た。

 レベルをあげなきゃと決心したがさすがに無理がある、ありすぎる。

 色々見た事のある小説とかはあのゴブリン達に立ち向かい、死線を繰り広げた後にとんでもないスキルに目覚めるのが日常的な展開なのだがそんな勇気もなければ目覚める自信もない。

 この世界のことは詳しくはないがきっと条件を満たせば戦闘中にスキルを取得する場合もあると思う。

 しかしそれは強い人の場合だ。

 今の自分は弱い、そのため条件なんて満たすはずもないし、ご都合主義に神がスキルを授けてくれるはずもない。

 なのでそんな滑稽で、人間味を疑う無駄な賭けなどしたくないのだ。


「はぁ……はぁ……それにしても、殺奪キルクレヴォっていうスキル……あまりいいスキルじゃないな……」

 殺奪キルクレヴォ……自分の手で殺す、もしくは間接的に殺すことによりスキル所持者のスキルを自分の物にすることが出来る。

 大量のスキルを無条件で覚えることが出来るのは魅力的だ。

 しかし弱い今の時期ではスキル持ちを殺すことなんて無理に等しいのだ。


 それに強いスキルが無ければ強いスキルを奪うことも出来ない。

 そして強いスキルを奪うためのスキルを得るためには更にスキルを得なければならないのだ。

 さらにそのスキルを得るためにはまた別のスキルを……つまり途方も暮れるほど長い道のりが立ちはだかるのだ。

 そのため今はいくら弱くても多彩なスキルが欲しいわけであって既にスキルを奪ったモンスターは戦う必要が無いのだ。


『グルァァァァ!!』

 一際しつこいソードゴブリンが1匹着いてきていたようだ。

 ソードゴブリンまでの距離はたったの5m弱、これじゃ加速を利用して倒す余裕なんてない。

 戦いたくはないが……まぁ、1匹だけならなんとかなるだろう。


『グルァッ!!』

 風を切りながら迫ってくる剣。
 それを受け止めようとソードゴブリンが持っていた剣を抜こうとするが間に合わないため咄嗟の判断でしゃがんで回避する。

 それを待っていたと不敵に笑うゴブリンは剣を振りかぶり力任せに振り下ろしてくる。

 横に飛びたいが……間に合わない!


「うっ!」

 人間の本能が悠真を動かし、無意識のまま手を交差させて顔を守る。

 そのまま勢いを増した剣が振り下ろされる。
 だが甲高い金属音によってその攻撃は虚しく終わってしまった。

 そう、先ほど手に入れ、装備したガントレットである。


「くぅ……痛くはないけど痺れるなぁ……」

 外部への損傷はない、だが重い一撃を受け止めたおかげで両腕がピリピリと痺れてしまった。

 剣を掴もうとするがプルプルと震えてしっかりと掴むことが出来ない。

 なら比較的掴みやすいもので目の前の敵を倒すしかない。

 そこで悠真は胸ポケットから先ほど手に入れた赤い石を取り出して握り、思いっきりソードゴブリンの腹に埋める。

 半分までしか埋まらなかったので硬いガントレットで釘を打つように殴り強引に8割ほど埋める。


「か、火球!」

 これで魔力が分散し、ソードゴブリンを焼き尽くす!

 ────はずだったのだが。


「う、うわっ!?」

 手のひらにソフトボールサイズの火球が展開され、ソードゴブリンの肌を焼いていく。


[NS→[火属性魔法ひぞくせいまほう]魔言を唱えることで火属性魔法を展開し、攻撃や物に火をつけることが出来る。レベルが上がると使える魔法のバリエーションが増える。火属性魔法を多回数使用したことになり取得]


 違う! 今は火属性魔法の取得を望んでるんじゃないのに!

 ていうか腹に埋め込んだ赤い石は燃え盛らないし……最悪なタイミングでスキルを取得してしまったようだ。


『グルァァ!』

 腹を焦がしたソードゴブリンが剣を適当に振り回す。
 適当が故に剣筋が読みづらく、接近することが難しい。

 残り魔力は6……か。
 完全に回復しきってないが気絶することは無くなるだろう。

 再びゴブリンは叩き潰そうと接近し、剣を頭の上まで強引に振りかぶる。


 それを横に飛んで避けると横に振ってくる。
 ガントレットで防ぎ、押し切られそうになるがなんとか耐え、後退する。

 どうするか、剣に自信はない。
 この程度の火球ではソードゴブリンに大したダメージを与えることも出来ない。

 せめてビックホーンボアのように自滅を誘えれば……


『グガァァァ!!』

 ソードゴブリンは剣を思いっきり振りかぶる。
 自分の後頭部に傷が出来るかもしれないくらい力を貯めていた。


「っ! そこだっ! 火球!」

 魔力の量が減って少しだけ視界が揺らぐがしっかりと狙いを定めて火球を放つ。

 その小さな火球はソードゴブリンの剣を掴む手に見事に命中する。


『グオッ! グウゥゥ!?』

 あまりの熱さについ手を離すソードゴブリン。
 そして離された剣は重力に従いソードゴブリンの頭に落ちる。

 ダメージは少ないはずだ。
 しかし剣が重いためソードゴブリンは姿勢を崩し、仰向けに倒れ込んでしまう。


「もらった!」

 そのスキを見逃さず悠真は首元に剣先を埋め込む。

 変な感触の筋肉や硬い骨を無視して力を込め、体重を乗せて剣を首に埋めていく。

 悠真の体重、ソードゴブリンの剣、逆上と腕力のスキルのおかげでなんとか頭と体を断ち切ることが出来た。


「ふぅ……や、やった……!」

 剣を抜き払い、ソードゴブリンの血液を地になぎ捨てる。
 やはりこいつもあの時のソードゴブリンのように消えることは無かった。

 右眼に傷はなかった。
 やはりマグレだったのだろうか?


「そういえば首からは変な石が出てこなかったな」

 胸ポケットからソードゴブリン出てきたビー玉サイズの謎の石を摘んで出す。

 確か胸から出てきたはずなので気は引けるのだがソードゴブリンの胸元を切って同じような石を探してみることにした。

 理由として高く売れるかもという単純な考えでの行動である。




「あ、あった」

 2分ほど剣で胸元を切って探した結果、全く同じサイズの石を見つけることに成功した。

 その石を摘んで観察してみる。

 火属性魔法のスキルを取得したおかげで魔力の流れが見えるようになったのか、微弱な魔力を感知することが出来た。


 石が血で邪魔になっていたので血を払っているとつい力がこもってしまい石を地面に落としてしまう。

 呆気なく謎の石は割れる。
 するとその石はゆっくりと消え始め、それと同時にソードゴブリンまでもゆっくりと消えてなくなってしまった。


「この石を破壊したから消えたのか……?」

 つまり、もう片方の石が割れたら今持ってるこのソードゴブリンの剣も消えてしまうことになる。

 石の謎は深まるばかりだ。
 だが色んなことを仮定してもどうもしっくりこないので、続きはこのダンジョンに出てからにするとしよう。




 しばらく歩くと5階層への階段を発見した。
 その隣には小さな魔法陣があり、近くの壁に説明? のような文が書かれていた。

 どうやら一方通行式の帰還ポイントらしい。
魔力を込めることでダンジョンの扉の前に転移されるらしい。

 悠真は一瞬帰ろうかと考えたが別に外に出てもすることがないため、そのまま階段をゆっくりと登っていくのであった。
























如月 悠真

NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ 加速Ⅰ 判断力Ⅰ 火属性魔法Ⅰ

PS→NOSKILL

US→逆上Ⅰ

SS→殺奪
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