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第1章
やはり奴隷制度があるそうです
しおりを挟む活気盛んで盛り上がる街の中で悠真は大広間にある噴水のベンチで腰を落ち着かせていた。
うーん、これからどうしよう。
一応この世界には冒険者が集まる『冒険者ギルド』というものがあるらしい。
行商人などは資格的なものが必要なのだがどうやら冒険者ギルドに制限はないらしく、よっぽどの悪行をしていなければ誰でも就ける職らしい。
月収なんて安定せず、ハイリスクローリターンの苦行なのだが、成功するとローリスクハイリターンで終わることもあるらしい。
だが悠真は冒険者稼業に就くつもりは無かった。
しかし今の自分の力では神の塔に挑むにはまだまだ力不足だろう。
そのため最低限の収入源が必要なのだ。
だがその職に就くための登録料すら持っていない悠真にとって今はお小遣いでもいいので稼ぐ方法を探していた。
しかし今の悠真に力仕事なんてこなすことは出来ない。
出来ることといえば街の清掃くらいだろうか……だがこれは所詮ボランティアで終わるだろう。
今、悠真の所持スキルで有効活用できるのは[家事]程度しかないだろう。
再び悠真は家事スキルの詳細を調べ始めた。
[NS→[家事](料理や洗濯、掃除や裁縫などが得意になる。レベルが上がるにつれ器用になる)]
このスキルで出来ることなんて家政婦辺りが妥当だろう。
これを駆使してお金を稼ぐことは出来そうだが収入を得るために時間がかかってしまう。
とりあえずこのスキルではお金を稼ぐことが出来ないと判断し、悠真は無一文の中、[炎水]という名のギルドに向かう。
登録料とか後払いにしてもいいだろう。
そんな淡い考えをしつつ、悠真は赤い屋根が目立つ炎水に向かうのであった。
◇ ◇
「すいません、それは出来ないんですよ……」
「そ、そうですか……すみません。非常識なことを聞いて」
案の定冒険者になるためには登録料が必要だった。
登録料の前借りをしようとしたのだがカウンターのお姉さんにやんわりと断られてしまった。
さてどうしたものか。
どうやらモンスターを倒し、その素材をギルドに運んでくることで対等なお金と交換してくれるらしい。
これだけなら別に冒険者登録なんてしなくてもいいと思うのだがどうやらギルドに登録することにより特典がつくらしい。
1つ目のメリットは素材の買取りだ。
悠真が1000クレの素材を運んでくるとする。
しかし冒険者が悠真と同じ素材を運んでくると1100クレで売れるらしい。
登録するかしないかで買取価格の1割が増えるか増えないかが変わるらしい。
たった100クレ程度……と思うかもしれないのだが例えば悠真がとんでもないモンスターの素材を運んできたとする。
その素材、実は最高級品物で仮に1億クレで売れたとする。
そんな高額買取でも必ず1割増えるので、冒険者に登録することにより1億1000万クレになる。
これほどの素材を持ってきた場合、冒険者の方が確実に稼げていると分かるだろう。
そして2つ目のメリットは銀行利益というものがある。
ギルドは市民のお金を預かる銀行も同時経営している。
どうやら冒険者がお金を預けると1ヶ月で預け額の1割が増えるというシステムがあるらしい。
そしてギルドの職員が冒険者との入金手続きを成功することにより預け額の1割分給料が増えるらしい。
このことをほとんどの冒険者は知らない。
なのでギルド内で優位の高い職員がお金持ちの冒険者と契約してお金を稼ぐということがあるらしく、入金手続きの申し込みを冒険者が申請するとギルド内の空気がガラッと変わる。
ほかにもまだいくつかメリットは存在するのだが地味な部分が多いので省いてもいいだろう。
「す、すいません。この街付近にモンスターって居ませんよね?ですから1日で登録料分のお金を稼げる仕事はありますか?」
悠真の質問を聞いてカウンターのお姉さんは腕を組んで「う~ん」と唸る。
「1日で稼ぐ方法はあまりありませんね。基本1週間や1ヶ月働くことで収入を得るので……クエストというものがあるのですがこれは冒険者に登録していないとクエストを受けることは不可能なんですよ」
『クエスト』はモンスターの討伐、ダンジョン散策、そして人助けなどの依頼こことである。
達成することで報酬金や素材、装備などが貰え、『ギルドランク』を上げるためのギルドポイントも難易度に応じて受け取ることが出来る。
冒険者の強さ、活躍度を示すギルドランクは、最低がGで最高がSなのである。
「1日で稼ぐ方法は不可能に近い……か」
悠真の中ではギルドの特典は素晴らしいと思うのだが正直それだけなのである。
別に家を買って豪遊だとかコレクターになって宝を収集し、優越感に浸りたいなんて思ってない。
ただ神の塔を攻略したいだけなのだ。
別に神の塔を攻略し、魔王を倒す義務なんてこれっぽっちもない。
だが教室に落ちていた視聴覚室に集めさせるための紙……あれの送り主が知りたいし、なによりこの世界を満喫したいだけなのだ。
この世界を満喫するのなら本当に適当なお金を稼いでお嫁さんを見つけ、余生を送るだけでいいのだが、せっかく第二の人生的なのが始まったのだからできることは何事にも挑戦していきたいのだ。
「ありがとうございました。色々と検討し、このギルドに来た場合はその時はよろしくお願いします」
「はい、その時はおまかせください」
カウンターのお姉さんと会話を交わし、悠真はギルドを後にする。
とは言ったものの無計画なぶらり旅だ。
再び悠真は街の中をフラフラと歩き回るのであった。
時は夕暮れ、昼のような活気は無くなり、店じまいを始める露店も増えてきた。
この街[リーデ]は治安がとても良いため、喧嘩だとか窃盗だとかそんな事件が起きるわけもなく、至って平和で笑いの耐えない街だった。
路地裏に幼気な女の子を連れ込むだとかナイフで脅してお金を奪い取るとかそんか輩なんて1人も居なかった。
ただそんな街でも一風変わった商売が日が暮れてきた今になって始まる。
その店は簡単に言うと奴隷を購入する所である。
しかしそんな奴隷制度はこの世界では普通らしく、誰も嫌な顔をして通る者はいない。
むしろその逆、通り過ぎるほとんどの人たちが面白そうに奴隷達を見ていた。
「家事ならおまかせを!快適な生活を保証します!」
「私のバディとテクニックで毎晩飽きさせないわよ?」
褐色肌のダークエルフや尻尾を生やしたスタイルのいい豹人族の女性などが自分の得意分野を大声でアピールしていた。
皆自分を買ってもらうために必死で、みんな一生懸命自己アピールをして住処を得ようとしていた。
悠真も気になって奴隷達が収容されている檻に近づいて観察する。
家事に自信があると言っていたダークエルフの女の子の値段は[35万クレ]というシールが檻に貼られていた。
そしてナイスバディ豹人族の女の子の値段は[52万クレ]という想像も出来ない値段だった。
やはり家事が万能だったり夜伽に自信がある者はそれなりの値段があるらしく、まさに貴族達のオークション状態であった。
いつの間にか52万クレの豹人族の女の子は貴族達の手によって値段が倍以上の168万クレまで値上がりして購入された。
購入したいかにも貴族的な男は奴隷屋の中に奴隷の女の子と共に入っていき、数十分後に住んでる家へと帰ってしまった。
そんなやり取りが30分ほど続き、20人を超える奴隷は残り5人ほどになり、お目当ての奴隷がいないと分かるとすぐに帰ってしまった。
残った奴隷は全て10万クレ以下の値段で売られており、体に怪我があったり、大した取り柄がない者が多かった。
そんな中悠真は1人の女の子に目を奪われた。
彼女は檻の中で足を抱えて座っており、悠真が近づいても口をパクパクするだけで自己アピールも何もしなかった。
見た目は真っ白な猫耳の猫族、いや『元』真っ白な猫族と表現した方が正しいだろう。
汚れているのか綺麗なはずの白は少し茶色くなっており、服もところどころ小汚い。
あまりいい待遇は受けていないことが一目見て分かった。
よく見ると左の鎖骨から左胸にかけて鋭利なもので切られたような傷を発見した。
きっとこの傷のせいで購入してもらえないのだろう。
未だに口をパクパクしていたので喉が乾いてるのかと水の入った瓶を差し出すが首を横に振り断られてしまった。
そんな悠真を見て細目の老人が2人の大男を従えてやって来た。
「どうですか、彼女をご購入されますかな?」
値段を見ると[1万クレ]と表記されており、比較的手を出しやすいだろう。
だが今の悠真は無一文なので購入は出来ない。
「失礼しました、私はこういう者です」
老人は名刺のような紙を手渡してくれる。
そこには[デッグ・アルクス]と表記されており、名前の上に大きく[奴隷商社長]と明記されていた。
「社長さんが自分に何か用ですか?」
「なぁに、普段注目を浴びないこの子に夢中になってたようなのでね。彼女は喋れないんですよ。白い猫族でいい値段になるはずですが体の傷と喉のせいで安くなったんですよ」
喋れない……か。
そして傷があるだけでこんな粗末な扱いを受けてしまっているのか。
他の奴隷にはちゃんと値段の上に名前が書かれていたのだがこの子には名前の欄がない。
それを聞くとどうやら名前は不明らしく、購入者により名前が決められるらしい。
「良かったら特別、彼女と会話を交わす時間を設けますが……いかがでしょうか?もちろんお金は取りませんよ」
会話を交わすと言っても喋れないんだからどうしようもないはずだが。
どうやら紙とペンを貸してくれるらしく、悠真が喋ったことに彼女が文字を書いて返すという会話方法らしい。
悠真はデッグに店の中へと案内され、奥の少し小さめの個人部屋に連れてこられた。
その数分後に檻の中で座っていた女の子もやって来る。
「お客様、彼女はあまりにも売れないためあと二週間後に処分するんですよね」
少し胸糞の悪いことだけ言ってデッグは悠真と女の子を置いて部屋の外へ出て行った。
「えーと……僕は悠真。よろしくね」
その言葉に反応して女の子はペンを掴んでスラスラと文字を書く。
[ハルマさまですね、よろしくお願いします]
紙を両手で掴んでぺこりと小さなお辞儀をする。
彼女の顔は少し微笑んでおり、柔らかい笑顔がとても素敵な女の子だった。
[ところでどうして私なんかを気にしてくれたのですか?]
どうしてと聞かれると困るな。
気になっただけというか何かに惹かれただけなのだ。
それを素直に伝えると再び紙にスラスラと文を書いていく。
[惹かれたですか?]
「うん、それが何かは分からないんだけどね」
はははと笑うと彼女はクスリと笑う。
やっぱり彼女は笑っていた方がいい、この彼女の笑顔を守ってあげたい……が、お金が無いのが本当に悔やまれる。
[デッグさんが言っていることは嘘です。ただ売れ残りの私を押し付けるため、人の良心に踏み込む手口なんです]
なるほど、処分というのは口だけのことで、売れない彼女に夢中になっていた自分に買わせようとしているということか。
「そうなんだ、でも僕は君を買いたいって思ったんだ。でもお金が無いんだよね」
[それなら無理じゃないですか?]
「うん、でもどうにかしてお金を貯めるよ」
和気あいあいではないが2人で会話をしていると時間になったのかデッグが部屋に入ってくる。
付き添いの男に何かを言うと再び女の子を檻に戻していった。
「あの子は一応家事もできますよ。それにもしお客様が冒険者なら好都合、猫族は身体能力が高いので磨けば光りますよ」
家事も出来て戦える美少女か。
でも喋れないのなら戦闘中にコミュニケーションも出来ないだろう。
「でもお金が無いんで……」
「見れば分かりますよ。そこで提案があるんですよ」
提案と言われたら気になってしまう。
これもデッグの商売法なのだろうが悠真は大人しくその提案を聞くことにしたのだ。
如月 悠真
NS→暗視眼 腕力Ⅰ 家事Ⅰ
PS→NOSKILL
US→逆上Ⅰ
SS→殺奪
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