Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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元Sランクの俺、クリプタスと対面する

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 あれからどれほどの時間が経っただろうか。
 レン達はクリプタスの使者を撃退するため、グレームの気遣いにより今は使われていない一軒家の二階を借りていた。

 グレームが普段過ごしている一階に降りる時は大体が食事のときと風呂のときだけで、それ以外の時間は二階からグランニールの景色を眺めていた。

 グランニールにはあまり高い建築物がないので、比較的高さのある土地に家を建てたグレームの家から見える景色は国全体を見渡せ、そして尚且つ人気が少ない土地なのでクリプタスの使者が来たらすぐに分かるほど、見晴らしがよかった。

 そして、今日も今日とて諦めの悪いクリプタスの使者が姿を見せるが、さすがに現役の冒険者には勝てるはずもなく、すぐに為す術もなく撃退されていた。

 だがそれを黙って見過ごしているほど、レン達の相手にしているクリプタスは馬鹿ではなかった。

「す、すいません……っ! 今回も失敗してしまいました……」

 グランニールで一番と呼ばれる工房の親方であるクリプタスは、グレームの工房を更地にするために向かわせた弟子達がボロボロになって戻ってくるのを見て、げんなりとしていた。

 ある日を境に毎日のようにボロボロになった弟子達を見て気持ちのいいはずがない。

 だがどれだけの人数を向かわせても結果は同じであり、既に怒りを通り越して呆れに近い感情に浸っていた。

「ピーナス、どういうことなんだこれは」

「そ、そうですねぇ。あのグレームに何処の馬の骨かも分からない者達が用心棒として現れまして……」

 クリプタスに叱られることが恐ろしいのか、ピーナスは目を泳がせて挙動不審になりながら報告をする。

 だがクリプタスはそんなピーナスを横目見ながら睨み付け、重々しく閉ざされた口をゆっくりと開き、渋く低い声を発する。

「それはもう何度も聞いている。それで、その用心棒は何人いる。どんな人間だ? 調べてきたのだろ?」

「は、はいぃ……そうですねぇ。一人が若い青年で、剣を使います。しかもその剣はホーリーメアキャンサーの素材を使った聖剣と呼ばれるもので、かなりの腕があると見えます。そしてもう一人は杖を持った同じ年齢くらいの少女で、こちらはまだなにもしていませんが、きっと魔法を使うかと……」

「まさか、今までたった二人の用心棒にオレの弟子達は負かされてきたのか?」

「そうなりますぅ……ですが、実質前に出てくるのは一人だけなので、正確には二人ではなく一人の方が正しいかと……」

「そんなことは聞いてねぇ!」

「ひ、ひぃっ! す、すみませんっ!」

 普段は物静かで『口で語るより腕で語れ』を口癖にしているクリプタスは、日に日に口が荒くなり、弟子達も変わりゆくクリプタスに怯えていた。

 その理由として最近上手く鉄を打つことができないという理由があるのだが、元をたどればそうなってしまったのはもう更地になっていてもおかしくないグレームの工房が未だ健在だという現状のせいだろう。

 それも突然現れた用心棒によってクリプタスの予定は全て狂わされてしまった。

 数多くの依頼をこなすためには今の工房では足りなくなってしまい、今はもう使われていないグレームの工房を買い取ろうとしたのだが、頑なに拒否されてしまい、一度依頼を無下にしてしまったのだ。

 なので今度は割に合わないほどの高い金を弟子達に持たせて行かせたのだが、それでもグレームは金を受け取ってはくれず弟子達は門前払いされてしまい、申し訳なさそうに戻ってきた。

 まだ笑顔で許していたクリプタスだが、自分の工房の名が世間に広まるに連れて依頼が多くなり、どうしても今の工房では足りなくなってしまい、客に迷惑をかけてしまう。

 工房を拡張する土地もないため買い取るしかないのだが、グレームは何度も何度もクリプタスの提案を拒否する。

 次第にイラつきはじめ、クリプタスはある結論にたどり着く。

 どうせ使わないのだったら、権力を振りかざして無理矢理潰してしまってもいいのでは、と。

 そもそも今は活動していない工房を無理矢理撤去して訴えられても、大量の金を積めば抹消できる問題である。

 それにクリプタスは鍛治職人として金よりも依頼を無下にしてしまうことの方が許せなかったのだ。

「あ、あのぉ……クリプタス様。わたしはこれからどうすれば……」

「ふん。オレは昔からお前みたいな胡散臭い冒険者など信じておらん。このオレが自ら赴くとする」

「っ! で、ですが……」

「ご苦労だったな、ピーナス。これは今までの報酬だ」

 クリプタスはピーナスに5枚の金貨を渡し、身支度をするため自室へと向かう。

 一方残されたピーナスはその金貨を強く握り締め、拳を震わせて一人工房の裏口から出て行ってしまった。





──────────────





 昼過ぎ頃にやって来たクリプタスの使者を撃退したレン達は食事を済ませ、グレーム家の二階に用意された部屋で自由に休憩をしていた。

 レンは体が鈍らないようにトレーニングやストレッチをし、リルネスタはそれを眺めながら魔法の詠唱を速やかに唱えられるように同じ魔言を何度も繰り返して口にする。

 そんな日々が既に五日は過ぎ、流石のレンやリルネスタは変わった環境に慣れたのか、無駄にストレスを抱えることなくまるで自分の家かのようにくつろいでいた。

「ねぇ、レン。私達っていつまでここを守ればいいのかな?」

「さぁな。本心を言えばクリプタスの元に直接赴いて決着をつけたいが、下手なことはできないしな。それにすぐ帰らないといけない用事もないし、俺はグレームさんがいいと言うまで帰るつもりはないさ」

「ふぅん。私はレンに任せてるから特に不満はないかな」

「そうか……まぁ、その他にも帰るのがめんどくさいというのがあるな」

 護衛クエストを受注するまで気付かなかったのだが、今回のクエストは前回のヴァーナライト鉱石とは違って一方通行なので、帰る手段が無くなってしまうのだ。

 といってもグランニール内にある馬繋場で依頼すれば明日にでも出発できそうではあるが、それはそれで悩みどころがあった。

 それはグランニールに向かうときはクレアの走竜で向かったが、そんな都合良く走竜が引く竜車というものはあるはずがなく、帰りは馬車である可能性が高くなってしまう。

 あんな長い道を馬車で戻るなんて考えるだけで気が滅入ってしまうもので、どうせ居場所があるのなら居れる限り居てやろうというのがレンの考えであった。

「……ん? あれ、あの人って……」

「どうした、なにかあったか?」

「いや……ほら、あの真ん中の人の周りにいる人って、今まで工房を壊すためにやって来たクリプタスって人の使者だよね?」

「そうだな。だが真ん中の奴は見覚えないな……」

「そうだよね? あ、よく見たら結構おじさんだ。グレームさんほどじゃないけど、ヒゲも生えてるし、白髪も多いよ」

「…………もしかしたら。リルネスタ、準備しろ」

「え、えぇ?」

 あることを察したのか、レンは脱ぎ捨てておいた上着を羽織り、聖剣の鞘を握って一階へと急ぎ足で向かっていく。

 そんなレンを見て只事ではないと勘づいたリルネスタは机の上に置いてあった小さな菓子の袋を開け、頬張ってからレンのあとを追っていく。

「……ん? なんだなんだ。飯はまだだぞ?」

「分かってる。緊急事態だ。グレームさんにも来てもらう」

「い、いったいなにがあったんだ……?」

「間違ってたらあれだが、奴が来た。クリプタスだ」

「なにっ!?」

 確証があるわけではないが、レンと鋭い勘が一目見ただけで『クリプタスだ』と判断したのだ。

 もしこれが間違いだったとしても、レン側には全く損害はないので、あくまでクリプタスだった場合のためにグレームを呼んだのだ。

 それに対してのグレームの返答はもちろんレンの期待に応えるもので、早速グレーム家の玄関を飛び出して未だ埃っぽい工房に向かって薄暗い裏道を駆け抜けていく。

 そして火炉がある部屋に出てから正面にある扉を開き、最初にレンとグレームが出会った工房の外に到着する。

 すると丁度いいタイミングでクリプタスらしき人物とその取り巻き達は驚いた表情を浮かべながらもレンの前に姿を見せていた。

 そこでレンはその者達が槌のように工房を壊すための道具を持っていないことを確認し、戦闘態勢を解除して楽な体勢をとる。

 それからしばらくしてリルネスタが飛び出し、息を切らしたグレームがレンの隣まで走って来たと思えば、鬼のような形相で目の前で立ち尽くす代表格の男を強く睨みつけていた。

「クリプタス……っ!」

「グレーム……変わらんな。そして、隣のお前がオレの弟子達を可愛がってくれた用心棒か?」

「そうだが、なんの用だ? 悪いが、そちらがその気ならこちらは容赦なく行かせてもらうが」

 今まで鞘から聖剣を抜くことはあったが、深々と構えることはなかったレンはクリプタスの顔を見捉えてすぐさま斬りかかれるように剣を構える。

 だがそれを見てクリプタスがとった行動は──両手をあげて無力であることを証明するだけであった。

「まぁ待て、お前だってこんな荒事は望んでいない……違うか?」

「…………その言い分だと、話し合いたいということか?」

「そうだ。どっかの頑固な馬鹿野郎と違って話が通じるのは助かる」

「て、てめぇ……!」

 今にも額に浮かんだ血管が切れそうなほど怒りを顕にするグレームはクリプタスを殴ろうと袖を捲るが、レンが手を前に出してグレームを静止させる。

 それによりとりあえず平静を取り戻したのか、グレームは心を落ち着かせるため深呼吸をする。

 だがそれでも怒りは収まらない様子であったが、なんとか自制が出来るくらい落ち着いたらしく、額に浮かんでいた血管のほとんどは薄らと消えてなくなっていた。

「オレは平和的解決を求めてやってきた。これ以上大事な弟子達を傷つけられるのも癪なのでね」

「けっ、なにが平和的解決だ。どの口が言ってやがる」

「……そこの単細胞は放っておくとして、そこのお前はちゃんと話せるんだろ? 今回は無理矢理壊そうとも、巨額の大金で買い取るつもりもない。言わば、賭けってヤツだ」

「なるほどな。つまりそちらが提案した内容に俺達が応えられなかったらこの工房をそちらに手放す……そういうことか?」

「理解が早いのは楽だな。その通り、満点だ」

 このような場合で出される提案は、大体がモンスターを討伐しろだとか希少な素材を採取しろなど、在り来りなものだろう。

 だがこれは自分達の問題ではなく、グレームの問題だ。

 もしこの提案を受け入れ、失敗してしまえば自分達のせいでグレームの思い出が詰まった工房を手放すことになってしまう。

 そんな不安要素に包まれた中、誰よりも先に声を上げたのはレンやリルネスタだけでなく、なんとグレームであった。

「いいだろう。その提案、受けさせてもらう!」

 レンは絶句し、リルネスタは口を大きく開けて無言でグレームを見つめる。

 だが一方のグレームはレンとリルネスタに向けて片目を閉じ、グッと親指を立てて謎のグッドサインを作り白く綺麗な歯を見せつけていた。
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