Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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ギルドマスターのルーセフ、ヴァンホルンに招集される

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 ガタン、ガタンと不規則に揺れる中、1人の男は大きなあくびをして外の景色を眺める。

 場所が変わろうと、時が流れようと、空は姿を急激に変えることはない。だからこそ、その男は大好きな雲一つない空を眺め続ける。

 その男の名はルーセフ。
 ケルアという街にあるギルドのギルドマスターであり、今はヴァンホルンに向かうため手配した馬車の中で一人寂しく過ごしていた。

 ルーセフの年齢はもうすぐ50を迎え、年齢的に騒がしい場所よりも物静かな場所を好みそうだが、ルーセフはむしろ騒がしく、やかましい場所が大好きであった。

 そんなルーセフにとってこの移動時間は退屈で仕方ないのか、先程から大きなあくびを何回も繰り返して目を何度も擦っていた。

「おいルーセフ、もうすぐ到着するぞ」

「む? なんだ、意外と早かったな」

「まぁ、古くからの友人の頼みだからな。いい馬を用意して、出来るだけ早く到着するように頑張ったんだよ」

「それはありがたい。そして、すまないな。いきなり馬車を手配して」

「それは仕方ねぇだろ。いきなり招集の手紙がきたら手配が急になるのもおかしな話じゃないしな。それに、お礼は俺じゃなくて馬に言ってやるんだな」

 ルーセフと気さくに会話を続けるスキンヘッドが目立つ男の名はディムル。ディムルはルーセフとの古くからの友人であり、そしてケルアの馬車を管理している経営者であった。

 そんな二人が出会ったのは遥か昔のことであり、とある一件から仲が深まり、今に至るというわけなのだ。

「それにしても、珍しいよな。こんな急に招集の手紙が来るなんてよ。いったいなにがあるんだろうな」

「はっはっは、クロリスの考えていることはよく分からないからな。きっとくだらないことでも話すつもりなんだろう」

「でも、くだらないんだったらわざわざケルアやイグナスよりも遠いギルドのギルドマスターなんか呼ぶ必要あるか? 俺はなんかあると睨んでるんだがな」

「ディムルは昔からバカだが、勘は鋭いからな。これはなにかある予兆だな」

「そうだ、俺は昔からバカだが勘は──って、誰がバカじゃい!」

 そんな仲が良ければ生まれることがない会話を交わしつつも、ルーセフは早々にヴァンホルンの外壁の一部である出入り口に使われる門の下に到着する。

 そしてディムルと別れ、ルーセフは門を潜ってしばらく真っ直ぐ歩いた先にある噴水の近くで腰を下ろし、持参した水筒に口を付けて喉を潤す。

 いくら移動手段が便利な馬車であろうと、やはり乗り続けていても体に疲れがじわじわと蓄積していくので、ルーセフは腕や肘を曲げて自分で自分の体をマッサージしていた。

「さて、行くかね。まったく、まだまだ元気だと思っていても、老いには勝てないものだな」

 ぶつくさとあれやこれやと呟きつつも、ルーセフはヴァンホルンの中央部にあるギルドに到着する。

 やはり大きな国のギルドなだけあって、その規模も人口密度もケルアとは比べものにならないくらい多く、人間だけでなくエルフやドワーフといった亜人と呼ばれる種族もチラホラと見受けられた。

 その中にはもちろん当たり前のように冒険者の姿があり、身に付けている防具や担いでいる武器はどれも生半可の努力では手に入れることができない代物で、ルーセフは羨望半分、嫉妬半分で冒険者達を眺めていた。

 だがそのせいで余所見をしてしまい、前から歩いてきた4人組の冒険者とぶつかってしまう。

 その4人組の冒険者は名が通っているのか周りから注目されており、そのせいか先頭を歩いている大柄で、クールだがどこか目付きの悪い男はルーセフを力強く睨みつけていた。

「おい、危ねぇだろ。余所見して歩いてんじゃねぇよ」

「す、すまない。怪我はしてないかね?」

「あぁ、これくらいで怪我なんかするわけねぇだろ。余計なお世話だ。おい、行くぞ。ラムザ、シスカ、マイト」

「そうですね、はい。早く出発しないと遅れてしまいますからね、はい」

「だからなんでラムザは語尾に『はい』を付けるのかな……まぁ、どうせ言っても聞かないからいいけど」

「ま、待ってくださいよギリュウさん! ラムザさん! シスカさ~ん!」

 そんなどこかちくはぐなパーティを変なものを見る目で見送ったルーセフは、気を取り直して今度は余所見をせずギルドの扉前へと向かい、ゆっくりと押して開く。

 やはり外装だけでなく内装も豪華で、まるでギルドの中に街でもあるのかと錯覚してしまうほどの人口密度と店の数々に、ルーセフは驚きを隠せずにいた。

「やっぱりここはいつ来ても驚かされる。さて、ちょいとそこのお前さん。ちょっといいかね?」

「あ、はい。どうかしましたか?」

「ワタシはこういうものなのだが……クロリスはおるかね?」

 ルーセフがカバンの中からギルドマスターのマークが刻まれたギルドカードを取り出し、目の前にいるギルド職員に見せる。

 するとギルドカードを見せられたギルド職員の態度が一変し、急に目を丸くして頭を下げだした。

「し、失礼しました! ルーセフ様ですね! お、お待ちしておりました! ギルドマスターなら、4階の会議室でお待ちです!」

「そうか、親切にありがとう」

 若いギルド職員と別れたルーセフは、クエストカウンターの裏にある上の階への階段へ向かい、遠慮することなく上へと進んでいく。

 普通は別に許可などは必要ないのだが、ルーセフは『楽しむことは楽しむ。だが真面目なことには誰よりも真面目に』という性格だったので、わざわざ確認をとったのである。

 確認をとれば間違いが起きることもないし、万が一のことが起きても確認をした者を訪ねればいい。多少めんどくさい行動ではあるが、その後を考えたら一番安全で、妥当な行動と言えるだろう。

 そんなルーセフは2階へ上がり、3階4階へと止まることなく階段を上がっていく。

 そして4階に到着すると、そこには正面にある扉が一つしかない場所で、2階3階と違って小さな個室等は存在しなく、まさに目の前の部屋のためにあるといっても過言ではないほど寂しい空間であった。

「失礼するぞ」

 正面の扉を軽くノックし、ルーセフは豪華で重々しい扉をゆっくりと押し開く。

 するとそこには大きな丸いテーブルを囲うように小さな椅子が並べられており、何名かは各々談笑したり静かに本を読んでいたりと、皆自由に過ごしていた。

「あー! ルーセフ! やっと来たわね。待ってたわよ?」

「まったく、これでも急いだ方なんだぞ? せめてお礼ぐらいは言ってほしいくらいだ」

「えー、クロリスちゃんよく分からない~」

「けっ、クロリスちゃんって、もうすぐ40を迎える奴がなにを言ってるんだ」

「40じゃないです~! 永遠の20歳です~!」

「そうだったな。見た目は20歳だったな。見た目は」

 そんなどこか親しげな会話を交わすルーセフは、ヴァンホルンのギルドマスターであるクロリスから椅子1個分空け、椅子に腰掛ける。

 それから待つこと約1時間ほどでクロリスによって呼ばれた総勢10名のギルドマスターが集まり、一旦落ち着いたところでクロリスが手を叩いて自分に注目を集めていた。

「は~い、皆さん本日は急な招集に集まってくれてありがとうございま~す。まぁ、今回呼んだのはちゃんとした理由があるから、ちゃんと聞いてほしいな」

 最初はおちゃらけた雰囲気を醸し出すクロリスであったが、突然真剣な眼差しになったことで他のギルドマスター達は真面目に話を聞く体勢をとる。

 すぐさま怠け気味だった空気をシャキッとさせたのはクロリスの作戦なのか、はたまた偶然なのかは不明だが、普段ふざけているクロリスが真剣になるときは一大事であると、皆は知っていたのだ。

「最近、モンスターが活発になっているという情報を入手したの。季節によってそういう時もあるけど、今回みたいに突然活発になるのは珍しいってことは説明しなくても分かるよね?」

「なぁ、一ついいかい?」

「ん? イグナスのミレイダ。なにかあるの?」

「あぁ、確かにこの季節にモンスターが活発になるのは不自然だが、だからといって事件になることなのかい? あたしは別に危機を感じるわけじゃないんだよ」

 ミレイダがまっすぐと自分の意見を述べると、それに対する同意の声がいくつか上がってくる。

 だがそれによりクロリスの表情は変わることなく、今度は逆にミレイダの目を見捉えて先程の意見に対する返答を口にする。

「確かに、これだけ聞いたらなにがなんだか分からないよね~。でも、今回のケースはおかしいんだよ」

「そのおかしい部分を聞いてるんだ。クロリス、さっさと話してくれないか?」

「もーぅ! ケルアのルーセフはなぜかクロリスちゃんには厳しいよね! まぁ、いいよ。で、本題なんだけどね? みんなは『犬猿の仲』って言葉は知ってるよね? 簡単に言えば、険悪な仲という意味なんだけど…………とりあえず、これを見てくれないかな」

 そう言って取り出した2枚の紙、右にはBランクの『ホーリージャッカル』の顔が、そして左には同じくBランクの『ナイトメアウルフ』の顔が誰が見ても分かるように描かれていた。

「このモンスターは仲が異常なくらい悪いんだ。それが習性なのかは知らないけど、この二匹のモンスターを鉢合わせたら百パーセント喧嘩が勃発するくらい仲が悪い」

「待ってくれ、ここからは自分が話させてもらおう」

 突然立ち上がり、名乗りを上げたのはグランニールにあるギルドのギルドマスターである『リカイン』という少しだけ顎鬚を生やした世間一般で言うところの "渋い" と呼ばれる男であった。

 そしてリカインが立ち上がったことにより、任せていいと判断したのかクロリスは椅子に座り、机の上に置かれた水を一口だけ口に含んでいた。

「今回集まってもらったのは、自分がクロリスさんにお願いしたからなんだ」

「なるほどねぇ。で、集めた理由は? おおよそ話の展開は理解出来るけど、手紙じゃない理由があったのかい?」

「あぁ。先日、自分のギルドで冒険者をしている者がホーリージャッカルとナイトメアウルフの素材を持ってきたのが事の始まりだ。なんと、どうやらホーリージャッカルとナイトメアウルフは、互いに互いを傷付けることなく襲いかかってきたらしいのだ」

 それを聞き、なんとなくそうなのだろうと理解していたミレイダは特に驚くことなく相槌を打っていたが、それでも驚く者もいて、ザワザワと騒がしくなり始める。

 だが更にそこから追い討ちするように、リカインはグランニールで起きている『異変』について話しだした。

「最近、グランニール周辺のモンスターが活発的だという報告が入った。なんと、グランニールが誇る山や谷でできた大自然の壁を越えてくるのだ。しかもモンスターの種類は10種類を超えているのに、仲間割れが起きないという。むしろ協力しあっていた──おかしな話だろう?」

 誰が聞いても『おかしい』と判断できる話をリカインは止まることなく最後まで話し、話を聞いていた者達全員に問いかける。

 それに対し腕を組んで喉を唸らせる者もいれば、他人事だと思って特に考えることなくリカインの方を見るだけの者など、様々であった。

「それで、これはまだ遠い話ではあるのだが、今後もしモンスターがグランニールを攻めてくるようであれば、手助けがほしい。もちろん、そんなことは無い方が絶対にいいのだが、事が起きてからでは遅い」

「のぉ、リカイン。確かに話を聞く限りではモンスターが活発的になっているのは分かる。それでも、グランニールは大きい。ワタシ達の助けがいるほどのモンスターが攻めてくるとでも言うのかね?」

「ルーセフさん……これはあくまで占いなのですが、近い将来グランニールに──いや、この世界に不吉なことが起きると、腕のいい占い師が判断したのです。人類とモンスターとの全面戦争という可能性だって、起こりうるのです」

 そんなリカインの『全面戦争』という単語を聞き、会議室がザワッと騒がしくなる。

 それも当然であろう。過去に人類とモンスターが全面戦争したことあるのはもう遥か昔、勇者や大賢者など、四大能力の4人が生きていた時の頃である。

 リカインの言葉の意味は言うまでもなく、これからモンスターによる人類への侵攻が始まるという意味であった。

 だがそんな話を聞き、納得する者はいない。
 むしろそれは戯言だと、リカインをバカにする者が大半であった。

 しかしそのバカにする者達の表情には余裕がなく、口では『ありえない』と言いつつも、心の中では危機を覚えているのである。

 そんな中、ルーセフの瞳には1人だけ余裕な笑顔で肘を付き、頬杖をつくクロリスの姿が映っていた。
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