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元Sランクの俺、イグナスに帰還する

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 背中にヴァーナライト鉱石を生成するオールイーターを倒したレン達は剥ぎ取ったオールイーターの皮でヴァーナライトを包み、リルネスタとシスティが魔法で持ち上げてイグナスへと帰還する。

 道中システィが魔力の使いすぎで倒れそうになってしまっていたので、一度モンスターに襲われない安全な木の下で休憩を挟み、万全の体制でイグナスにたどり着くように軽い食事をとっていた。

 だがレン達がガロド大鉱山から出た時は太陽が斜め45度よりも少し下にあったので、夜になる前に移動を開始し、そのおかげか夕方にはイグナスにたどり着くことができた。

 しかしたどり着いた瞬間、システィは安堵の息を吐いて座り込んでしまった。きっとやっと安全な場所に帰ってこれたおかげで緊張の糸が切れ、どっと倦怠感が襲ってきたのだろう。

 しかし驚くことに、リルネスタはガロド大鉱山から出てから一度も弱音を吐いたりはせず、むしろ余裕な表情でレンにちょっかいを出していた。

 休憩した時、システィがキツそうだったのでリルネスタの方にヴァーナライト鉱石を半分移したはずなのだが、

「やっと着いたね~。ねぇねぇ、レン、私お腹減ったよ~」

 と、ユークだけでなくレンですら驚くほどの余裕っぷりを見せ、改めて《大賢者》の異常なほどの魔力量を前にしてレンは苦笑いを浮かべていた。

「とりあえず、ギルドに向かってミレイダさんに報告だ。飯はそれから好きなだけ食わせてやるから、もう少し頑張ってくれ」

「うんっ! 任せて~、風魔法で持ち上げるのは初めてだったけど、意外とできるものだね」

「そうだな。その面で言うと、システィも魔法をかなり使える部類に入るんだよな。リルネスタの魔力量が異常なだけで」

「異常じゃないよ! 普通だよっ!」

「普通じゃねぇよ。さすがの俺でもガロド大鉱山からここまで安定した魔力を使い続けるなんて芸当は無理だからな」

「ん~、私は普通にやってるんだけどなぁ」

 リルネスタはいまいち自分がしていることの凄さに気付いていないのか、頬の下辺りに人差し指を当てて首を傾げていた。

 最初、ヴァーナライト鉱石を運ぶのはリルネスタにお願いしようとしたのだが、さすがに無理があるとのことでシスティが名乗りを上げ、作業を分担して今に至る。

 だが無理があるというのはただの建前で、本音を言うとシスティはなにもできなかったから役に立とうと思ったのだろう。その姿勢は認めるが、無理なものは無理である。

 実際今はユークがシスティを担ぎ、リルネスタがレンと楽しげに会話をしながら二つの包みを風魔法で持ち上げ、通行の邪魔にならない高さで維持を続けていた。

 それを見ればおそらくリルネスタはこのままもう一往復くらい余裕そうだが、この様子だと魔力よりも先に体力が尽きてしまうだろう。

 体力よりも多い魔力──まさに言葉通り『異常』なのだが、なぜかリルネスタなら当然だという得体の知れない根拠がレンの中にはあり、自分でも訳が分からなく小さなため息を吐いていた。

「レン、ミレイダさんに報告して、ご飯を食べたらどうするの?」

「……そうだな、ちょっと変更だ。飯を食う前にヴァーナライト鉱石を馬車に積んで、ミレイダさんに報告してから飯だ。で、食べ終わったら俺がケルアから出る前に言ったとおり、みんなで馬車に乗り込んで帰るだけだ」

「つまり、イグナスの宿で寝泊まりはしないってことだよね?」

「そうなるな。窮屈だが、ケルアに帰ってカラリアにヴァーナライト鉱石を渡したらしばらく休もうと思う。今の俺たちに必要なのは休息だ。労働じゃない」

「賛成~! じゃあさ、一緒にケルアの街で遊ぼうよ!」

「……今回は頑張ったもんな。分かった、いいぞ。いい食堂があるんだ。案内させてくれ」

「うんっ! 楽しみだな~」

 これからの方針が決まり、レン達はイグナス内にある馬繋場に向かう。

 終始周囲からの目線が多く、レンが馬繋場に到着するころには辟易していたが、中に入ると外に比べてガラッとしており、心地よい静寂を前にしてレンはホッと一息ついていた。

「む、おぉ。待っておったぞ、もう終わったのか?」

「ん? なんだ、ガルドさんか」

「なんだとはなんだ。もしかして声をかけたのは迷惑だったか?」

「いや、そうじゃないんだ。ちょっと疲れちゃってさ。とりあえずこれからギルドに報告しに行くから、邪魔なヴァーナライト鉱石は先に詰んでしまおうかなと思ってな」

「なるほどな。おいシンバ。これくらい積めるよな?」

「おうともよ。あとは我々がやっておくから、若いもんは用事を済ませてくるんだな」

 そう言われたので、レンはリルネスタに指示をして魔法を解除してもらい、包んである鉱石を傷が付かないように全て地面に下ろしていく。

 ガルドもシンバも鉱石の量に驚きを隠せない様子であったが、多めに持ち帰ることを考慮して大きめの馬車にしてくれたらしく、問題がないとのことで早速鉱石を馬車の荷台に運んでいた。

 なのでレン達はガルドとシンバに頭を下げて後を頼み、報告をするために巨大なオールイーターの皮をリルネスタの魔法で持ち上げてギルドへと向かう。

 一応回収した鉱石やモンスターの素材をギルドに報告する必要は無いのだが、念のためである。

 それにミレイダは初めて出会ったレン達を我が子のように心配し、そして信じて背中を押してくれたので、レンも思うことがあるのだろう。

 それはレンだけでなくリルネスタやユーク、システィも同じらしく、皆がギルドに向かうことを躊躇することなく、むしろ我が先にと歩行スピードが通常よりも速くなっていた。

 そして歩くこと10分程、レン達は昼よりも大分静かになったイグナスのギルドに到着し、重い扉を開く。

 静かになったといってもまだまだ冒険者は多かったが、昼間のような視線は集まるわけではなく、すんなりとギルドの中に入ることが出来る。

 すると、カウンターの前に座ってギルド職員と会話していた大柄の女性が立ち上がり、レン達の方へ大きな足音を響かせて走り寄っていった。

「無事なのかい!? 怪我はしてないかい!?」

「ミレイダさん、安心してください。どこも怪我は──ぶふっ!?」

 出会い頭、まるで巨大な岩石が衝突したような衝撃がレンの体に走る。だがそれにより吹き飛ばされることはなく、腕を回され力強く抱きしめられていた。

 しかしそれはレンだけで終わらず、リルネスタと続いてユーク、システィと、全員同じように抱きしめてからミレイダは胸をなで下ろしていた。

「いや~、良かった良かった! うん、無事がなによりだね。でも意外と早く終わったんだね。もっと時間がかかると思ってたよ」

「大変でしたよ。まさかヴァーナライト鉱石を生成するオールイーターが二匹出現するなんて予想外でしたので、途中少しだけ危なかったです」

「……ちょっと待ってくれ。今、二匹って言ったかい?」

「はい。まぁ、種明かしをすると体内から術式魔法で倒したので戦闘は苦もなく終わりましたが、オールイーターに対しての知識がなかったら全滅した可能性もありました」

「体内から術式魔法を……奇抜な発想をするんだねぇ」

「そこまで奇抜ですかね? 意外と有用性があると思いますが」

「いやぁね、戦法としては満点だ。でもその言い分だと君が発案したんだろう? それなら、Eランクにしては出来すぎてると思ってね。まぁ、オールイーターを倒したんだから実力はC以上は確実だからね。そう考えたら、別に違和感はないね」

「そうですか。ですが、これはリルネスタやユーク、そしてシスティがいたからこその勝利だと思ってます。なのでこれは自分がいたからこその結果じゃありませんよ」

 誤魔化しなどではなく、実際の、本心の言葉を口にするレンの顔は、いつになく清々しいものであった。

 自分だけでは解決出来なかったかもしれない問題をパーティで解決した喜びは素直に喜ぶべきである。

 だからこそレンは普段見せない爽やかな表情になっているのだ。

「……そうかい、あたしの勘が言っている。君は将来大きな存在になるだろうね」

「大きな存在……曖昧ですね」

「曖昧だからこそ面白いんじゃないか。もし自分の未来が具体的に見えていたらつまらないだろう? 曖昧だからこそ、先へ進む活力になるはずさ」

「なるほど、いい言葉ですね」

「やめてくれよ。別に普通のことさ」

 それだけ言い残し、ミレイダは振り返って自分の部屋がある二階に登る階段へ向かっていく。

 そんなミレイダにリルネスタが大きな声でお礼を言うと、男前にも振り返らず、手だけ振ってリルネスタに対して返答していた。

「いい人だったね」

「そうだな。まさにギルドマスターって感じだ。俺達のギルドマスターよりもしっかりしてる気がする」

「そうだね。でも僕達のギルドマスター、ルーセフさんだって結構いい人だよ?」

「……いい人っていうのは共感するが、あまり凄さは感じられないんだよな。こう、近所のおっちゃんって感じで」

「ははは、確かに言えてる。でもやるときはやる人なんだ、あの人は」

「そう考えると、エコに生きてるってことか?」

「エコ……うん、合ってるかも。なんだかんだ言って関わりやすい人だからね」

 そんな雑談をしていると、リルネスタがレンの腕を引っ張って目で空腹を訴えてくる。

 なのでユークとの会話を切り上げ、ギルドの外に出てからのらりくらりと食事処を探す兼、観光を楽しむ。

 そして美味しそうな匂いをたどって四人は食事処にたどり着き、皆で仲良く机を囲って食事を済ませる。

 それから馬繋場に向かい、皆の帰りを待つガルドと再会したレン達は、名残惜しそうにイグナスの街を眺めながらも、同じ馬車に乗り込んでケルアへの帰路に立つのであった。
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