Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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元Sランクの俺、作戦を練り直す

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 絶体絶命。今の状況を表すなら、この言葉が最も適していると言えるだろう。

 討伐対象である巨大なオールイーターは普通の個体に比べて獰猛で、縄張りに侵入しようならば仲間ですら丸呑みにしてしまうほど食欲旺盛で、自分よりも大きいモンスターですら丸呑みにしてしまう習性があった。

 そもそも今レン達が立っている大穴も大半が巨大なオールイーターが岩や鉱石を食べて削った穴だ。

 食べて削る。普通なら気が遠くなる話だが、オールイーターの口から垂れるヨダレには微弱ながらも酸性で、硬いものもゆっくりと溶かすことができるのだ。

 だがそれを考えたとしてもこの大穴は異常なほど大きく、一匹のオールイーターなら何年もかかってしまうほどの規模なのだ。

 しかし、それが一匹ではなく二匹なら。
 何年もかかってしまう大穴でも、分担して時間を大幅に削減することが可能だ。

 だが縄張りを作り、群れを成すオールイーターの親玉が協力するなんてことはまずありえない話で、普通なら一つの大穴に一匹しか存在しないはずなのだ。

 はず、なのだが──

「……まさか、俺が言ってたことが本当になるなんてな」

 この大穴に来る前、レンはリルネスタ達にあることを警告した。

 それは『もしかしたらモンスターが情報にない行動を取るかもしれない』ということであり、いつなにが起きるか分からないということを教えたばかりだった。

 だが、今目の前で起きているのは『ありえない』ことで、レンが最も恐れていたことであった。

「ヴァーナライト鉱石を生成するオールイーターは群れの親玉で、他の群れに干渉しないよう縄張りを離して生活している。それが俺が知っているオールイーターの習性だ。だが、今その情報にないことが起きている」

「え、それって……」

「かなりまずい。正直、俺でもキツイかもな」

 縄張りに侵入した仲間を丸呑みにするオールイーターだが、意外と仲間思いなところがあり、仲間が殺されたら怒り、殺した者を襲うという感情が存在する。

 きっとレンが本命を呼び出すために前脚を切り落としたオールイーターの叫びが届いたのか、少し時間が経ってから駆け付けてきたことを考えると、しっかり群れの親玉としての機能はしているのだろう。

 だとしても、誰が二匹現れると予想するだろうか。口ではあらゆる可能性を考えていたとしても、やはり心のどこかで『ありえない』と思ってしまい、可能性を捨ててしまうのだ。

 その結果、レン達は二匹のオールイーターに囲まれ、逃げ場もなくゆっくりと距離を詰められているという状況になっているのである。

「レ、レンなら倒せないの……?」

「倒せる。が、今回は討伐じゃなくてあくまでヴァーナライト鉱石の納品だ。この状況でヴァーナライト鉱石にキズを付けずオールイーターを倒すなんて芸当は、俺にはできない」

 オールイーターと戦う時、嫌でもヴァーナライト鉱石にキズは付いてしまう。それは仕方ないことなのだが、なるべく最小限に抑えたいのである。

 そうなると、例えばレンが《一閃》を使用して倒してしまうと、あまりの威力にヴァーナライトが粉々になり、吹き飛んでしまうということが起きてしまうのだ。

 しかもオールイーターは二匹で、片方を倒してからもう片方を倒すなんて悠長なことをしていると、リルネスタ達が危険にさらされることになる。それだけは避けたかった。

 しかしだからといってなにもしないわけにもいかない。せめて作戦を練る時間が少しだけでもいいからあればよかったのだが、そんな暇を与えてくれるほどオールイーターは優しくない。

 そう考えた時、レンはオールイーターのある習性を思い出し、おもむろに自分のポケットをまさぐり始めた。

「とりあえず、いったんここから逃げ出して作戦を練ることにしよう。話はそれからだ」

「でも、どうやって! 今こうしてる間にもオールイーターは距離を詰めてきている! 早くしないと──」

「そう慌てるな。今は……これを使うんだ」

「っ! そ、それは……」

 レンがポケットの中から取り出したもの。
 それはユークが罰則として律儀に一枚一枚渡してきた大量の銀貨であった。

 そしてレンはなにを思ったのか、その銀貨を大穴の入口とは真逆の方向に向かって放り投げてしまう。

 そのまま大量の銀貨は暗闇の中に吸い込まれて消えてしまう。そしてその直後、大穴の中にチャリーンという金属特有の音が小さく鳴り響くのであった。

『グギャァァアァァァウゥ!』

『グギャァゥ! グギャァァウゥ!』

「オ、オールイーター達が……」

「私達を無視して銀貨が落ちたところに向かって走っていく……?」

 銀貨が地面に落ちた音を聞いた瞬間、目の色を変えて走り去っていくオールイーターを見て、システィとユークは唖然とした表情でオールイーターの背中を見詰めていた。

「なにボーッとしてるんだ! 行くぞ!」

「──はっ、そうだった。システィ、行こう!」

「え、えぇ!」

「あ! 待ってよ! 置いてかないで~っ!」

 そんなリルネスタの悲痛な叫びが聞こえたので、レンはユークとシスティを先に走らせてその場で立ち止まり、リルネスタを待つ。

 そして息を切らしながら走ってくるリルネスタを俗に言うお姫様抱っこのように持ち上げ、颯爽と大穴から駆け出していく。

「レ、レン!? いきなりどうしたの!?」

「あ、暴れるな! 今はちょっと我慢しててくれ。とりあえずヤツらに気付かれない場所まで逃げるんだ!」

「逃げるって、どこに?」

「知らん! とりあえず遠くにだ! だからしっかりと掴まってろ!」

「う、うん……頑張ってね?」

「おぅ、任せろ!」

 腕の中で顔を赤く染めながら暴れるリルネスタを落ち着かせ、レンはユーク達に指示をして来た道を戻っていく。

 運がいいことに道中でモンスターと出会うことはなく、レン達はなんとかオールイーターに気付かれない位置まで逃げ切ることに成功する。

 だがリルネスタを除く全員が全力疾走で走っていたので、肉体的に疲労しているのか安全な場所に辿り着いたら倒れ込んだり壁に寄りかかったりと、各々別々に荒れた息を整えていた。

「はぁ、はぁ、疲れた……」

「レン、大丈夫……? 私、重かったでしょ?」

「……重くはなかった。重くは。だが人を抱えながら走るなんて滅多にやらないから疲れた。水を貰えるか?」

「うん、私の水筒で良ければ。はいっ」

「おぉ、ありがとな」

 リルネスタが鞄の中から取り出した水筒を受け取ったレンは、水を浴びるかのように喉を潤していく。

 途中、むせてしまってリルネスタに背中をさすられながらも、なんとか落ち着いたのか水筒をリルネスタに手渡ししていた。

「あ、これってリルネスタも飲んでたんだっけか? ごめんな、ほとんど飲んじゃって」

「ううん、いいの。それよりも、なんでレンはいきなり銀貨を投げたの?」

「はぁ、はぁ……それだ、それ、僕も気になるんだ。教えてくれないか?」

「……わ、私にも教えてください」

 呼吸が落ち着いたレンとは裏腹に、ユークとシスティはまだ息を吸うのが辛いらしく、少し顔色を悪くしてレンに質問していた。

 だがそれでも周りの警戒を怠っていないあたり、やはり二人は優秀な冒険者だといえるだろう。

「思い出したんだ。オールイーターの習性を」

「習性? それって、さっきのことと関係してるの?」

「あぁ。オールイーターの背中に鉱石が生成される理由って、確か岩や様々な鉱石を食べることで、その中の成分が分泌されて背中に生成されるっていう不思議な仕組みなんだ。そしてその鉱石の大きさは、簡単に言うと強さを表しているんだ」

「えーと、つまり……ほら、俺様の背中の方が立派だぞ~! いやいや、俺様の方が立派だ~! みたいな?」

「そうだな、リルネスタが正しい。まぁ、つまりは他の群れに威嚇するためのものなんだ」

 レンが今回のクエストに向かう前に調べた知識を語り、それに対してリルネスタやユーク、システィは真剣に聞き続ける。

 話の途中でレンが曖昧な記憶を思い出している間も、静かにレンを信じて思考の邪魔をすることなく息を潜めるかのように黙々とレンを見詰めていた。

「その、だな。曖昧なんだが、オールイーターは悪食と言われているが、鉱石とか金属類が大好物なんだよ。威嚇するための道具として大きくするためにな。そして、そこにオールイーターのもう一つの習性が鍵になる」

「それは……耳が発達しているということですか?」

「その通りだ。今回やったのは賭けに過ぎなかったのだが、もしかしたら銀貨が落ちた時に聞こえる音に反応するんじゃないかと思ったわけだ。そしてそれは見事に成功した。だから逃げることができた……というわけになる」

「なるほど、ではもしあそこで反応を示さなかったら……」

「戦うしかなかったな。絶望的な状況の中で」

 その地獄絵図を思い浮かべたのか、ユークは少し気分悪そうに苦笑いを浮かべていた。

 誰だってあの状況下の中戦えと言われたら嫌に決まってるし、どれだけ実力があっても苦笑いを浮かべてしまうのは当然だ。

 しかしそれよりもあの場でもしレンの作戦が成功しなければ命を落とした可能性もあるわけで、システィは怯える自分を抱くように肩幅を狭めて小さくなっていた。

「リルネスタは……まぁ、いいとして」

「ど、どういうこと!?」

「それだけ元気があれば大丈夫ということだ。とりあえず、俺の目からはユークとシスティには恐怖が生まれている。死んでしまうかもしれないという、得体の知れない恐怖にな」

「……否定はできない。死ぬかもと思った時は何度もあるが、ここまで直感的に死を目の当たりにしたのは初めてかもしれない」

 いくら腕が立つ冒険者でも、命を惜しいと思わないバカはいない。

 だがここで怯えてしまえば、次オールイーターに挑んでも恐怖に支配され、魔法の詠唱を間違えたり思った通りの剣技が使えないかもしれない。

 しかし、そんなユークとシスティとは打って変わり、今のレンにはある一つの希望が生まれていた。

「ユーク、そしてシスティ。お前らは二匹のオールイーターを同時に相手して無傷で済む方法を知ってるか?」

「…………すまない、なにをどう考えても無傷で済む方法なんてあるとは思えない」

「そうか……なら、もし俺があの二匹のオールイーターを無傷で倒す作戦を見つけたと言ったら?」

「っ! そんな、まさか。冷やかしじゃないのか……?」

「冷やかしなんかじゃない。さっき銀貨に食いつくオールイーターを見て、確信したんだ。これで勝てるってな」

「それは……銀貨と、ペン?」

 レンが取り出した銀貨とペンを見て、ユークだけでなくシスティやリルネスタはレンがなにをしたいのか分からないといった様子で首を傾げていた。

 だが一方のレンは思い付いた作戦を脳内で何度もシミュレーションを行い、不敵に笑みを浮かべていた──
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