Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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元Sランクの俺、驚異の権化と出会う

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 ルドの渓谷。それは大きな二つの山に挟まれてできた一つの谷であり、観光地として知られている渓谷の中で一二を争う美しさを誇る渓谷である。

 渓谷の谷底には少し流れが早い川が流れており、その川はルドの渓谷を作る二つの山の山頂から流れてできたものであり、とても澄んでいた。

 なので様々な動物も生息している。鳥や鹿といった動物が代表的だが、動物がいるということはもちろんそれを狙う魔物も少なくはない。

 今回の討伐対象であるバットダイバーは全長20センチ、羽を広げれば50センチ近くにまでなる少し肉付きの良いコウモリである。

 そのコウモリはとても歯が頑丈で、岩の表面から滲み出るミネラルを主食として生きている。なので人や動物はあまり襲ったりはしないのだが、中には凶暴な個体もいる。

 そして今回はそのバットダイバーが増えすぎたせいで通行人や観光人とぶつかってしまう可能性があるので、ある程度の数を駆除するというものであった。

「レン、あれがそのバットダイバーって魔物?」

「そうだな。さて、どうするか。あれだけ高いと一苦労だぞ」

 今現在レンとリルネスタは谷底にある下流付近を歩いており、靴の底に冷たい川水が流れていた。

 川といってもそこまで深いというわけではない。場所を選べば歩いて通ることができる道もあるくらいだ。

 そんな谷底の下から二人は空を見上げる。するとそこには天候のせいで見えづらかったが、なにやら動く小さな影がまるで雲のようにまとまって飛び交っていた。

「そろそろリルネスタは気付いてるかもしれないが」

「う、うん」

「今回のクエストが成功するかどうかはリルネスタ次第だ。一応俺も倒せなくはないが、距離も遠いし魔法を連発することもできない。魔力の量なら自信はあるが、コントロールには自信がない」

「つまり、私の魔法で下から狙い撃ちすればいいんだね」

「そういうことだ」

 目星なので断定はできないが、ここからバットダイバーまでの距離は近くて30メートル。遠くて50メートルはあるだろう。

 この間スレイヴスネークの硬いウロコを吹き飛ばした聖魔法の《ノヴァフラッシュ》を使えばすぐに終わりそうではあるが、問題点がいくつかある。

 まずは対象との距離が遠くて魔力が霧散して威力が落ちてしまうこと。最悪の場合魔力が全て霧散してしまい、途中で魔法が消えてなくなる可能性もあるのだ。

 そしてコントロールの問題もある。数は多いものの、当たる確率は極めて低い。そのせいで無駄打ちしてしまい、無駄な魔力を消費してしまうのである。

「いけるか? さっきの件もあったんだし、無理しなくてもいいぞ? なんなら俺が終わらせることはできるが」

「ううん、確かに可哀想だけど……これはこれ、それはそれって割り切らないとダメだもんね。私は冒険者なんだから、ちゃんと受けたクエストは責任もって達成するよ」

 その心意気を聞き、レンはホッと胸を撫で下ろしていた。

「じゃあ、早速やれるか?」

「うん、任せて」

「頼んだぞ」

 レンがリルネスタに任せてその場から一歩下がると、リルネスタは一回頷いてから真剣な眼差しになり、背負っていた黒い杖を握って先を天に向ける。

 精神統一してるのか、リルネスタは静かに目をつぶって魔力を高めていた。なのでレンは余計なことを言わず黙って見ていると、あることに気付く。

 それはリルネスタの周りを漂う魔力の量と濃さであった。それはスレイヴスネークと戦ったときの数倍以上であり、ピリピリとした空気がレンの肌まで伝わってきていた。

「稲妻よ、轟き咲いて天つを隔て。ライトニングブラスト!」

 リルネスタが雷魔法の中で広範囲かつ高威力の《ライトニングブラスト》を詠唱し終えると、リルネスタの周囲に視認できるほど太い稲妻が何本も走っていく。

 それは水を伝い、川の表面がまるで発光しているかのように白い線が走っていた。あまりにも魔力量が高いので、レンはその場から更に二歩三歩と離れることにした。

 その直後、杖の先に魔法陣が形成されていく。そう、この魔法は魔法陣を用いることでやっと発動できる魔法なのだ。

「いっけぇぇぇ!」

 リルネスタが背伸びして更に杖を上に上げると、魔法陣から数え切れないほどの稲妻が発生し、バットダイバーの群れへと射出される。

 その稲妻はそのままバットダイバーの群れを貫いて遥か遠くの空まで貫いて消えていく。明らかにオーバーキルであるが、そのおかげで空を覆っていたバットダイバーの群れの過半数は消えてなくなっていた。

「ま、まさかここまですごいとはな……お疲れ、リルネスタ」

 魔法を撃ち終えたリルネスタに近付き、レンがリルネスタの肩に手を置くと、リルネスタは力なくその場で座り込んでしまう。

 足元は水なので完全にスカートがびちゃびちゃになってしまっているが、リルネスタは特に気にしていない様子であった。

「ど、どうしよう……」

「リルネスタ?」

「私、ここまでするつもりはなかったのに!」

 突然リルネスタが立ち上がったと思えば、レンに向き直って弱々しい力でレンの胸元をポカポカと叩き始める。

 レンはその意味の分からない行動に疑問を抱きつつも、とりあえずされるがままになっていた。

「私が家の庭でライトニングブラストを使ったときは全然威力がなかったの。だからちょっと倒せればいいなと思って使ったのに……」

「……壊滅だな。というより、威力がありすぎて塵にすらなってないな」

 レンが現実を突きつけると、リルネスタは再び座り込んでしまった。

 確かにちょっとだけ倒そうと思って魔法を撃ったのに、結果全体の過半数を塵すら残さず吹き飛ばしてしまえばこうなってしまうのも無理はない。

 それより、レンはリルネスタが使う魔法の力に驚きを隠せなかった。さすが大賢者と言うべきか、レンの知ってる《ライトニングブラスト》はここまで高威力ではなかったのである。

「でも、なんでいきなりここまで強くなったんだろう……」

「なんでだろうな。俺は魔法に関しては専門外だからなんとも言えんが」

 たまに魔力が暴走し、異常なほど高火力になることもある。だが今回は魔力が暴走していたわけでもなかったので、普通の魔法であると言えるだろう。

 それでも昨日の今日でここまで魔力の量や濃さが変わることはまずありえない。となると、なにかリルネスタに変化があったとしか考えられないのだ。

「大賢者って、絵本で勇者と出会うと確か変わったよな?」

「え? う、うん。勇者の男の子と出会ったら強くなったんだよね。他の四大能力を持つ子と出会ったときもどんどん強くなって、色んな魔法が使えるようになったはず」

「だよな。ならそれがリルネスタにも同じことが起きてるんじゃないか?」

 レンがそう告げると、リルネスタは納得したのか「なるほど」と目を丸くしながら頷いていた。

「とりあえず、終わったことは仕方ない。むしろ、バットダイバー達も感電し、飛べなくなって落下死するよりはこっちの方がよかったんじゃないか?」

「うぅ~……そうかな……?」

「俺はバットダイバーじゃないから分からないが、そう考えないとやっていけないぞ」

「…………うん、そうだね。そう考えるよ」

 なんとか立ち直ったのか、レンが手を差し出すとリルネスタは素直に手を握り返してくれる。

 なのでレンがその手を引いてリルネスタを立ち上がらせると、途中であることに気付いた。

「…………?」

 なにやら変な視線を感じる。場所は分からないし、何者かは分からない。だがそれでもなんだか奇妙なものを感じるのだ。

 長年の経験からして、きっと魔物であるのは間違いないだろう。それでもこの嫌な視線はあまり経験がないものであった。

「レン……?」

「ちょっと早めに帰ろう。なにか嫌な予感がする」

「え、わわっ!」

 レンはリルネスタの手を掴んだまま急いでルドの村に向かって帰還することにする。嫌な予感はただの予感に過ぎないが、なんだか妙だったのだ。

 そのままレン達が早歩きで帰路を急いでいると、次第に雨が降ってくる。その雨はどんどん勢いを増していき、辺りに突然霧が発生しだした。

「ねぇ、ちょっと待って。さっきもこの道通らなかった……?」

「そんな、まさか」

 リルネスタが気付く前からレンは気付いていた。だがあえて言わなかったのは現実を認めたくなかったからである。

 なぜならこのような事態は大半魔物が巻き起こすものだからである。しかも、ここまでのものになると、レンでも相手できない魔物の可能性が高くなるのだ。

「今は迷ってる暇はない。すぐに霧から抜け出して帰ろ──」

 レンが再び足を動かそうとした瞬間、空を包む雨雲から一筋の線が二本。轟音を轟かせてルドの渓谷を作る二つの山の山頂に落ちた。

 するとそこには二つの大きな影がまるでそこにいるのが当たり前のように佇んでいた。

 その影が何者かは分からない。それでもその影から放たれる威圧感から只者ではないことが直感的に本能が理解していた。

 そしてその影が現れてからすぐに、辺りを包んでいた霧が晴れていく。そのおかげで、山頂に佇んでいる二匹の魔物の全貌が明らかになった。

「あれは……!」

 一度は誰しもが名前だけは聞いたことがある二匹の魔物。

 天の使いとも呼ばれ、雷そのものであるとも言い伝えられているその魔物。

 その二匹の魔物は突如姿を現し、『一つの山に雷を落としてルドの渓谷を創り出した魔物』なのだ。

 その名も──

「ライオウガ、ライゴルグ……!」

 レンは人生で初めて、本能的に『死』を感じ取っていた。
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