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新米大賢者の私は、小さな過去の夢を見る《後編》
しおりを挟む──ある日、小さな村で一人の女の子が産まれました。
その女の子はとても優れており、物心を覚える頃には大人に負けないくらいの魔法を覚えてました。
この子の名前はリリィ。父親は農作業をし、母親はお店の店員という、ごく一般的な家庭で生まれた普通の可愛い女の子です。
でもなぜそんな女の子が魔法を使えるのか。それはだれにも分かりませんでした。
なぜなら、リリィの両親はどちらも魔法を使えないからです。
しかし、リリィには誰にも言えない秘密がありました。
それは、裏山の奥に魔法を教えてくれる白いローブを着た美しい女性でした。その女性の名はティルニア。そして、ティルニアは言いました。
「リリィには才能がある。だから私はあなたに全てを教える。だから、私を超えてほしい」と。
まだ小さいリリィはその女性の言ってることが半分以上分かりませんでしたが、ティルニアはいつも優しく頭を撫でてくれるので、第二の母親のように思っていました。
しかし、そんな幸せな日常は長くは続きませんでした。
なんと、リリィの住む村に山賊が襲ってきたのです。それはまだ朝早くの時だったので、あっという間に村は火の海にへと変わり果てていました。
「リリィ! 早く逃げるんだ!」
「やだ! わたしはお母さんとお父さんと一緒に逃げるの!」
山賊はすぐ外にいて、父親と母親はリリィだけでもと思い、なんとか逃がそうと思いますが、リリィは泣きじゃくって言うことを聞きません。
すると泣き声のせいで山賊に見つかってしまい、リリィ達は襲われてしまいました。
しかしリリィは恐怖のあまり、魔法を使うことができません。
そのとき、リリィはあることを閃き、山賊の目を盗んで裏山へと走り出しました。
「おや、どうしたんだいリリィ。そんな悲しそうな顔をして」
リリィに魔法を教える先生でもあるティルニアは村の様子が分からないのか、いつも通り優しい口調と笑顔でリリィを迎えた。
「私のお母さんとお父さんを助けて!」
きっと優しいティルニアなら助けてくれるだろうとリリィは思ってました。
しかし助けを求められたティルニアは悲しい顔をして、自分の胸を押さえてました。
「ごめんね。リリィ……私はリリィを助けることができない」
「どうして……? あれだけ沢山魔法を使えるのになんて助けれてくれないの……?」
リリィはその場に座り込み泣き出してしまいました。
そんなリリィを見ていたティルニアは、あることを決意しました────
△▼△▼△▼△▼△▼△
見慣れない天井。どうやら私は夢は見ていたらしい。
不思議とあの焼けるような痛みはなくなっていた。むしろ、体が軽くなって魔力が漲ってくるような気がする。
「あれ? いつの間にか外が暗くなってる……。それよりお腹空いたなぁ……」
ベッドから足を降ろし、昨日よりも軽い足取りで階段を下りていく。
そして居間に向かうと、そこには二人で静かに話すシェスカとフェイデルの姿があった。
「お母さん、お父さん。おはよ──」
「リルネスタッ!」
リルネスタの元気な顔を見たと思えば、シェスカは今にも泣き出しそうになりながらリルネスタを抱きしめる。
抱きしめてくれるのは嬉しいが、少し息苦しい。
それをシェスカは察したのか、一言謝罪して抱きしめる力を緩めていた。
「お母さん、いきなりどうしたの?」
「……ううん、気にしないで。ちょっと抱きしめたくなっただけよ」
「そうなんだ。あっ、お父さん! Aランク冒険者おめでとう!」
「ん? お、おう。そうだな……ありがとう、リルネスタ」
なぜか少し前のように明るく振る舞うリルネスタを見て、シェスカとフェイデルは顔を見合わせて首を傾げる。
だだリルネスタは特に無理して演技をしてるわけでもなく、魔法が使えなくなる前の自然体そのものであった。
「ねぇ、聞いてよ! なんか起きたら体がすごく軽くなってるんだ! もしかして魔法が使えるように戻ったかも!」
「……そうね、じゃあ試しにライトをお願いしていいかしら?」
「うん! 光よ、闇夜を照らせ。ライト!」
リルネスタが意気揚々として《ライト》の魔言を唱えると、手のひらの上から暖かい光を放つ光の球体が展開される。
そんな少し勉強すれば使えるようになる《ライト》であったが、リルネスタは喜びのあまり何個も《ライト》を展開していた。
「やった! やったよお母さん!」
「うん、そうね……やっぱりそうなのかしら……」
「ここまで来ればもう確定と言ってもいいだろう。リルネスタ、ちょっとこっちへ来なさい」
「……? う、うん。分かった」
魔法を使えるようになったことを喜んでくれると思えば、なぜか二人は悲しそうな表情をしていた。
その理由は分からなく、リルネスタは素直にフェイデルの後をついていく。そして案内された先には一冊の絵本と縦に長い鏡が置いてあった。
「この絵本って……」
その絵本を見て、リルネスタは先ほど見ていた夢を思いだす。そう、あの夢はその絵本に書かれていたことなのだ。
「リルネスタ。その鏡の前で自分の服を捲くってお腹を見るんだ」
「え、お腹を……? なんで急にそんなことを?」
「それは……やってみれば分かる」
フェイデルの意図が理解できないのか、リルネスタはすぐに行動せずシェスカの方を見る。
だがシェスカはなにも言わず黙って頷くのみ。なのでリルネスタは渋々ながらも服の裾をつまみ、ちょこっとだけ服を捲り上げた。
するとそこにはヘソより下に謎の模様が描かれた自分の姿があった。それにはリルネスタも困惑し、目を疑っているのか無意識のうちに手で目を擦っていた。
「な、なにこれ!? いつの間に、なんで……?」
「ねぇ、リルネスタ。その模様見覚えない?」
「知らないよ! 見覚えなんてあるはず──」
『あるはずない』と応えようとするリルネスタであったが、途中であることを思いだして机の上に置かれた一冊の絵本を見る。
その絵本のタイトルは《だいけんじゃとゆうしゃたち》という実話を元にした童話であった。
そしてリルネスタの下腹部にある模様。それはこの絵本出てくる大賢者と呼ばれる女の子の体に刻まれた《大賢者の紋章》そのものであった────
─────────
あれから約一ヶ月後。リルネスタはお金や物が入った大きな袋を腰にぶら下げて黒いローブを身にまとい、いつも大事にしていた黒い杖を握って玄関で旅の準備をしていた。
「ねぇ、本当に行っちゃうの? もう少し考え直さない……?」
「ううん。もしこの大賢者の証である紋章が本物なら、きっと勇者になるはずの男の子が苦しんでるはずなんだ。だから早く見つけてあげないと、可哀想だよ」
リルネスタが話している内容。それは《だいけんじゃとゆうしゃたち》に書かれたワンシーンであった。
そんなことを信じて旅をするなんてバカバカしい。と、誰しもが思うだろう。だがリルネスタはその絵本が大好きで大好きで仕方がなかった。
子供の頃、何度も『大賢者になりたい』と夢見たものである。
絵本の大賢者は確かに大変で、辛い目に沢山遭っていた。だがそれよりも憧れが上回り、リルネスタの心を射抜いたのだ。
「まぁ、リルネスタだってもう子供じゃない。可愛い子には旅をさせよと言うだろ?」
「それは、そうだけど……」
シェスカは不安であった。大事な一人娘に突如大賢者の証である紋章が刻まれたと思えば、その日の夜に『私、旅に出るよ!』と意味の分からないことを言いだす始末。
しかもフェイデルに関しては反対するのではなくむしろ賛成しているのだ。そんな楽しそうに盛り上がる二人を見て、シェスカはもう諦めるしかなかった。
「でも、辛くなったらすぐに帰ってくるんだぞ?」
「うん、分かった! お母さん、お父さん。行ってくるね!」
そのままの勢いでリルネスタは家を出ていってしまう。
なぜ、あんなに楽しそうなのかは分からない。だが娘の成長を喜ぶのは親の務めであると、二人は肩を揃えてリルネスタを見送った。
「あなた……」
「ん? どうしたんだ?」
「あの子、本当に大丈夫かしら……」
「……分からない。でもきっと大丈夫さ。リルネスタの話が本当なら、この世界のどこかにいる勇者の子が守ってくれるから」
二人は居間に戻り、お茶を飲む。
急に寂しくなってしまったことに少しだけ涙を浮かべつつも、笑顔でリルネスタを応援することにした──
△▼△▼△▼△▼△▼△
「ん……ぅん……?」
目を覚ます。どうやら私は長いこと過去の夢を見ていたようだ。
夢といっても、抽象的なものではない。
実際に私がこの身で体験したことであった。
「お、やっと起きたか。もう体は痛くないか?」
「レ、レン……? 私はいったい……。それに、スレイヴスネークは?」
「ん? あぁ、それならリルネスタが寝てるときに倒しておいたぞ。だから今は俺の所属するギルドがある街に向かってる最中だ」
そっか、レン一人であんなに強い魔物を倒しちゃったんだ。
それなら、私って足でまといだったのかな。本当は私がいない方が楽だったんじゃないかな。
「……リルネスタ? どうしたんだ、いきなりそんな服を掴んで。もしかしてどこか痛いのか?」
確かにちょっと体のあちらこちらが痛いような気がするけど、歯を食いしばるほどでもない。
でも、ならどうしてこんな気持ちになってるんだろう。どこか苦しくて、胸が痛い。
「まぁ、それはリルネスタの勝手だけどさ。お前、なんで一人でこんな場所まで来たんだ?」
「それは、その……」
これでもし勇者になる男の子を探すためなんて言ったら笑われるのかな。きっと夢を見すぎだと馬鹿にされるかもしれない。
「んー……とりあえず聞くけど、親の了承を得てるんだよな?」
「……っ! う、うん。そうだよ……」
『親』という単語を聞いて、リルネスタの服を掴む力が強くなり、大きなシワができてしまう。
そう、リルネスタは寂しかったのだ。
意気揚々と家を出たのはいいものの、外の世界は分からないことばかり。
道中、親の顔を思いだして泣いてしまう夜もあった。それでもここまで頑張ってこれたのは、自分に刻まれた《大賢者の紋章》のおかげでもあったのだ。
この紋章が無ければ、今頃家で家族3人で仲良く生活してるかもしれない。でもあったからこそ、大賢者としての使命を果たすため頑張ってこれたのだ。
それでも、やはり寂しさというものは薄れない。泊まった宿のおばさんや、食堂のおじさんのような人とは話したものの、親に接せるように心からの言葉はでなかった。
そこでリルネスタは気付く。
今自分が一番欲しているのものを。
「ごめんね、レン。もう少しだけ、このままでいさせて」
「……はぁ、分かったよ。そのかわりちゃんと街につく頃には降りろよ? 俺だって疲れてるんだからな」
と言いつつも、レンは私を落ちないように背負ってくれている。本当に優しくて、頼もしい人だ。
そうだ、私は心から接せることができる拠り所が欲しかったんだ。だからレンと一緒にいると落ち着くし、安心できる。
「それに、俺はリルネスタに聞きたいことがある。そのままでいいから答えてくれないか?」
「うん、いいよ。私に答えられることならなんでも」
そうして二人は会話をしながら森の外へ向かっていくのであった──
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