Sランクパーティから追放された俺、勇者の力に目覚めて最強になる。

石八

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元Sランクの俺、専属の受付嬢ができる

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 ギルドの3階にある来客室。そこは1階のように木で出来た机や椅子が並べられてるのではなく、部屋の真ん中に大きなガラス張りの机と、柔らかそうな革のソファが小綺麗に並べられていた。

 もう何年間も冒険者生活をしてきたが、このような部屋に案内されるのは初めてである。

 そもそも来客室というものは、他のギルドマスターとの対談やお偉いさんからの極秘依頼を受けるときにしか使われないので、このような事例は珍しいといっても過言ではないだろう。

「ティエリナ、この方に美味しいお茶とお茶請けを出すんだ」

「はい、分かりました!」

「ご丁寧にありがとうございます」

 あくまで好印象を与えるため、姿勢を低くして丁寧な口調で対応する。そんなレンのアピールが早速通用しているのか、ギルドマスターの男はレンをソファに座ることを許容した。

 そこで敢えて否定せず、素直に腰をソファに下ろす。そのソファは思っていた以上にフカフカで腰が沈みかけたが、なんとかポーカーフェイスを保って姿勢を正し、話を聞く体勢を作っていた。

「突然の呼び出しに応えてくれてありがとう。ワタシはこのギルドのギルドマスター、ルーセフだ。そしてこの子はワタシのギルドで1番人気の──」

「ティエリナさん、ですよね。先ほど挨拶は済ませておきました。自分はレンといいます。これからよろしくお願いします、ルーセフさん」

 いつものレンは自分のことを「俺」と呼ぶが、相手はギルドマスターというギルドの中で1番偉い人なので、「自分」に変更して会話を進める。

 ほんの少しだけ慣れない敬語にむず痒さを覚えつつも、レンはルーセフの何気ない質問に対し丁寧に答えていく。その姿勢が認められたのか、ルーセフは静かに頷いていた。

「ギルドマスター、お茶が入りました。私はもうここで失礼してもいいのでしょうか?」

「ありがとうティエリナ。いや、少し待て。今回はティエリナにも用があるんだ。とりあえず……そうだな。レンくんの隣にでも座ったらどうだ」

「えっ! わ、私は構いませんが……その……」

 なにやら手の指を絡めては申し訳なさそうにレンをティエリナは眺めていた。

 そんなティエリナを不思議に思いつつも、レンが「どうぞ」と一言言いティエリナの場所を開けると、次第に表情がぱぁっと明るくなりレンの隣に腰を下ろしていた。

「それで……ギルドマスター。用とはいったいなんのことでしょうか?」

「うむ、それなのだがな。ティエリナ、キミにはレンくんの専属受付嬢になってほしい」

「「え、えぇっ!?」」

 あまりにも突然の出来事に、レンとティエリナは声を揃えて驚愕の声をあげる。

 そして2人で顔を見合わせ、互いに照れ笑いを浮かべる。そんな様子が面白おかしかったのか、ルーセフは愉快に笑い声をあげていた。

「い、いや! 確かに自分はこれから冒険者登録をするつもりです。ですがティエリナさんを専属受付嬢にするなんて、とても荷が重いですよ!」

「まぁ、確かにレンくんが働かなかったらティエリナは暇になるな。もしレンくんがクエストをサボって遊んでばかりいたら、ティエリナは給料をもらえなくなって途方に暮れてしまう可能性もある」

「その、そういう意味ではなくてですね!」

 本当に言いたいのは専属受付嬢にした後の世間体である。ついさっきだって、ティエリナに話しかけただけでディグルのような悪漢に絡ませれしまった。

 もしディグルやディグルのような連中が「ティエリナが突然現れた新人の専属受付嬢になった」と聞いたらどう思うか。確実に暗い路地裏に呼ばれるか理由もなく殴りかかってきたりするだろう。

 しかもティエリナはこのギルドで1番人気のある受付嬢だという。

 ディグルが言っていた《ルール》というものがなにかは不明だが、凡そ誰がいつ話しかけていいかだとか、誰がいつティエリナのカウンターを利用していいだとか、そんな下らない理由だろう。

 別にティエリナが嫌いなわけではない。むしろこれだけ美人な人が専属になってくれるなんて光栄だと思うくらいだ。

 それでも後の面倒を考えたとき、気付いたらレンはルーセフの提案を断らずにはいられなかった。

「深い理由はないですよ? ただですね──」

「あの、レンさん…………その、そんなに私が専属になるのが嫌なんですか……?」

「え、えーと。それは……」

 先ほどまで顔を真っ赤にしてあたふたとしていたのに、いつの間にかティエリナは暗い表情を浮かべて下を俯き、消え入りそうな声でレンに言葉を投げかけていた。

「そうですよね。私はこのギルドで嫌われてます。皆さん、私に内緒で変なルールを作って、私のカウンターだけ利用してくれないんです……だから、レンさんも……」

「え……えぇ?」

 困惑しながらレンがルーセフに視線を向けると、ルーセフはただ無言で頷いていた。

 ルーセフがディグルの言っていたに向けた怒り。それはティエリナのことを思っての怒りであったのだ。

 ティエリナが1番人気なら、もちろん狙うものも現れる。なので冒険者内でティエリナにバレないようにルールを決める。それがティエリナにとっては『嫌われている』と捉えられてしまったのだろう。

 だから最初レンがティエリナに話しかけたとき反応が遅れたのだろう。まさか嫌われている自分のカウンターを利用してくれるなんて、と。どうやらティエリナはとんでもない勘違いをしてしまっているようだ。

「私のような者が専属なんて、ただの迷惑にしかなりませんよね。今回の話は、もう……」

「……分かりました」

 ここで自分が選ぶべき選択はなんなのだろう。そんなことを考えたとき、既に一つの選択肢が心の中では決まっていた。

 あとはその選択肢をルーセフに言えばいいだけの簡単な話である。レンはルーセフを正面から捉え、深々と頭を下げてお辞儀をした。

「ティエリナさんを自分の専属にする話。こちらからもよろしくお願いします」

 レンの返答にまず驚いたのはルーセフではなくティエリナだった。まさかレンが自分を専属にしてくれるとは思ってもみなかったのか、目を丸くしてただ無言でレンの横顔を見つめていた。

「……本当にいいのか? 先ほどは悩んでた様子だったが、同情ではないのだね?」

「必ずしも同情じゃないとは言い切れません。ですがこれは自分が決めたことです。むしろ、ティエリナさんのように美人な方が専属になってくれるなんて、光栄です」

「だそうだ。ティエリナ、レンくんのために頑張れるかな?」

「は、はいっ! 私、頑張って働かせてもらいます! よろしくお願いしますね、レンさん!」

 目に涙を浮かべつつも弾けるような笑顔を見せるティエリナは、どこか幼いように見えた。

 嘘偽りのない、心からの純粋な笑顔。そんな笑顔をここまで間近で見るのは生まれて初めてで、どうすればいいのか分からなかった。

「よし、これでとりあえずこの件は終わりだ。早速だが、レンくんは冒険者登録をするのだろう? ティエリナ、専属になった初仕事だ。登録を済ませてあげるんだ」

「はいっ! レンさん、少しだけお待ちください!」

 そう言い残したティエリナは、弾けるような笑顔のまま来客室を後にする。

 そんなティエリナは扉の向こうで転んでしまったのか、なにやら大きな物音が聞こえてくる。だがきっと大丈夫だろう。

「ときにレンくん。少し聞きたいことがあるのだが」

「あ、はい。なんでしょうか」

「キミは別のギルドで冒険者をしていたと、ワタシは思うのだが……それについてどう思うかね?」

「そうですね……」

 別にここで隠し通す必要性はない。だが、もしここで「その通りです」と答えてしまうと、きっと裏で調べられてしまうだろう。

 そうなると自分が元Sランク冒険者であることがバレてしまう。特にそれでなにかが変わることはないと思うが、余計な期待を背負って生きていくことになってしまうだろう。

 それは特に嫌だった。せっかくの新生活。せめて最初のうちは自分が元Sランク冒険者であることは隠していたかった。

 それにまだスキルは開花していない。それで変な期待を向けられても、困るのは自分になってしまう。それだけは避けたかったのである。

「根拠はあったりするんですか?」

「なぁに、長年の勘だよ。これでもギルドマスターなんでね、数多の冒険者は見てきたつもりだよ」

「そうですか。でもあの男が弱かっただけですし、自分はそこまで強くはないですよ」

 正直なことを言い、レンは用意されたお茶を口に運ぶ。熱々というわけでもなく、生温いわけでもない。ちょうどいい温度。つい飲みやすくて一気に飲み干してしまった。

 そして次にお茶請けに手を伸ばそうとする。するとティエリナが来客室の扉を開けたと思えばレンの名前を呼び、来客室の外へ連れていった。

「ふむ……『あのディグルが弱かっただけです』か」

 ルーセフはレンが来客室から出たのを見計らって、机の引き出しからある1枚の紙を取り出す。

 その紙は冒険者の個人情報が記載されていた。そしてそこにはディグルの名前が書かれており、名前の後ろに《Bランク冒険者》のスタンプが押されていた。
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