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第1章:知らないことだらけのこの世界
第2話:シズナを愛でる信者(?)
しおりを挟むその後のお義母様は不満タラタラの表情のまま、晩餐の準備に取り掛かる。
帯刀家には2人の家政婦さんがいるので、準備と言ってもテーブルコーディネートの指示程度だから私の出番は特に無いようだ。
「初めまして、長男の榮太郎です。あはは、可愛い義妹が出来て嬉しいなあ」
「こちらこそ初めまして。松村零と申します」
噂の榮太郎さんも帰宅し、ようやくこれで一家勢揃いである。
どうでもいいが、榮太郎さん美しすぎ。
少女漫画で例えると2大ヒーローの髪が白い方という感じだ。…そうなると課長が髪が黒い方。イメージ的には榮太郎さんが天使で課長が悪魔。モテモテ博愛主義が榮太郎さんで、ツンデレ一匹狼が課長…はい、もう例えません。
いや、でも余りにもヒマなもので。
リビングのソファに座らされたものの、テレビが無いんですけど、この家。お義父様と課長は何やら仕事の話を始めたし、榮太郎さんは茉莉子さんと戯れている。
客人をもてなすというサービス精神が欠けておるぞ、この家は。しかしこれもお給金に含まれていると思えば、オールオッケイな私である。
ガンゴーン!
この重厚な鐘の音は、どうやらインターホンの音らしいが、誰も応対する気配が無い。
「…あの、来客のようですが、どうしますか?」
おずおずと課長に問うと、彼は当然であるかのように答えた。
「ああ、きっと弁護士だろう。応対を頼む」
「べ、弁護士…ですか?」
「先程、零がケーキを食べている間に母が『婚前契約書を作れ』と騒いでな。仕方なく呼ぶことにしたんだ」
「へえ、日曜なのに来てくれるんですね」
「ウチのお抱え弁護士だから」
「はあ…なるほど」
キョロキョロと周囲を見渡すと、家政婦さん2人はお義母様に無理難題を言われてんやわんやになっており。榮太郎さん夫婦は自室に行き、姿が見えない。
ではお義父様か課長が出迎えれば良いのだろうが、大御所感を漂わせているこの2人はそんな応対は自分がすべきで無いと思っているらしい。
だからって客人に任せるか??
その弁護士じゃなかったらどうすんのよ
…そんな言葉をグッと呑み込む。
何から何まで規格外の家なので、一般常識で推し量ってはならぬのだ。ここは私が譲歩するしかなかろう。
ガンゴーン!
再び玄関チャイムの音が鳴り響き、私は慌ててモニターを覗く。
べ、弁護士??
そこに映っていたのは、恐ろしいほど美しい女性のドアップだった。
「あ、公子さんだわ。いいわよ、私が応対する」
「えっ?!茉莉子さんのお知り合いですか??」
いつの間にか戻って来ていたコツメカワウソが嬉しそうに答える。
「ほら、さっき話に出てたでしょう?政親さんの従姉妹で弁護士の公子さんよ。うふふ、と言っても単なる従姉妹じゃなくて、政親さんの元カノでもあるのよねえ」
「も、元カノ…?」
ガ───ン!!
普通にショックを受けた自分に驚く。
ん??よく考えてみたら私、
本物の婚約者じゃないんだった。
なのに何を動揺しているんだ?!
目を覚ませ、シッカリするんだ!!
「じゃあお迎えに行ってきまーす」
「え、はいっ、お願いします」
水すましの如くスイスイとリビングを出て玄関に向かう茉莉子さんの背中を眺めていると、仕事の話がひと段落したのか課長が隣に座った。
「(コソコソ)早く教えてくださいよッ。いま来た弁護士さんって従姉妹で、しかも元カノだっていうじゃあないですか!」
「…いや、その件ならコソコソ話さなくていい。ここにいる全員が知っているからな」
「(コソコソ)そ、そうはいきませんよ!それに当の本人がここに来るんだし」
「だから通常のトーンで話して構わないんだ。…既に終わっていることだから」
一瞬、心臓が凍りそうな気がした。
そうか、そうなんだ。この人にとって恋愛なんて邪魔なだけで、別れてしまえばそれでもう処理済トレイ行きだ。1年間の契約結婚が終われば、きっと私も同じ扱いを受けるのだろう。
少しずつ2人の距離が近くなったと思ったけど、それは私の勝手な思い込みで。この人の中で私の存在は相も変わらず『金で雇った便利な女』のままなのだ。
うあああっ。こんなことをウジウジ考え出したということは、残念だが好きになり始めているのかもしれない
このクソが付くほど冷たい男に。
「ほら、前にも話したと思うけど、どの女も俺と付き合うとおかしくなるんだ。
知性的で成熟していて『今は恋愛なんかより仕事に集中したいの』とかなんとかクールに語ってた女が、『政親さんお願い、1分でいいから会って』と泣いて懇願するようになってしまうのな。
公子とは就職と同時に数カ月だけ付き合った。幼い頃からその性格はよく分かってたはずが、いざ付き合ってみるとヤッパリ豹変してさ。なんか勝手に思い詰めて、ときめきまくって、俺に会いに来るんだよ。
あれは怖かったなあ。
で、このままじゃお互いの為にも良くないと、両者合意の上で別れたってワケ」
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