完結■罪滅ぼしをエンジョイする陽キャ

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 遠くから「ぎぃ……っ」と謎の鳴き声が聴こえる。素朴系眼鏡女子、鎌谷かまたにさんだ。
 彼女と昼休みのお絵描きを楽しんでいた友達も、その少し離れたところで談笑していたサブカル男子達も、このクラスではいつもの三人組の次によく話す男子達も、その場にいた同級生が全員目を白黒させている。
 ひとつ文句を言えば百嫌味が返ってくるにれでさえ何が起きたか分からないまま床に座り込んでいた。
 すげえ、奈留なるくんが他の人にも聴こえる声量で喋ってる。
 感動するおれは気付くと奈留くんに二の腕を掴まれて教室を後にしていた。

「アンタがチンタラしてるせいで昼休みあと半分切ったんだけど」

 これは半ギレくらいの声です。
 でもどう考えてもこれ、俺の為に怒ってくれたんだよな。
 嬉しいからメロンパンは四分の三あげよう。潰れてるけど。生クリーム入りじゃなくてセーフだったよ吾妻あづま



「……でアレ何なの」
「アレとは」
「アンタに絡んでたゴミクズ」

 言いたい放題である。何ってお前クラスメイトですけども。
 食堂は人が大分まばらになっていた。
 メロンパンちぎって差し出そうとしたけど、奈留くんは普通にラーメン買ってた。そりゃ半分こよりそっち選ぶか。潰れてるしラーメン200円だし。

「楡? 最近機嫌悪いんだよね」
「縁切って」
「え」
「縁切って」

 二回言われた。もしかして半ギレどころじゃなくキレてます?
 確かにさっきの楡の言動は奈留くんをも貶めるものだった。普段楡が言い過ぎた時はさりげなく軌道逸らして怒らせないように話題変えてるから今回もそうすれば良かったはずなのに、おれも少々ムキになってしまった。
 ただなあ、なんだかんだ言って長い付き合いなんだよ楡は。
 大概悪い子だけど、おれが貧乏なのを延々弄って小突いたりバイ菌扱いしてきた中学の時のクラスメイトをすんげえ陰湿な嫌がらせでもって撃退してくれた事もある。

「あれでも友達なんだよなあ」
「俺の言うこと聞けないんだ?」

 ダメだこれは本気で逆鱗だ。説得できる気がしねえ。
 あんだけベッタリ密着してたし浮気とみなされたのかもなあ。禁止事項だ。

「一応いっぺん話させて。ダメそうだったら諦めて距離置くから」
「……ならそれでいいけど」

 奈留くんはラーメンに戻る。眼鏡真っ白だけど見えてんのかそれ。

「あと、…………掃除って今日もするの」
「掃除? ……ああ、うん、五時間目の休みに」
「毎日しなくていいから。無駄に腹壊して間抜け過ぎ」

 またもおれの体調を気遣ってくれてる。優しい。好き。
 大容量の浣腸液買ったけどアレもタダじゃないからね、その提案は結構助かる。
 余談だが、初日は慣れないこともあって昼休みをまるまる潰した腸内洗浄は、最終的に休み時間でさっさと終わらせられるようになった。人間は学習する生き物なのだ。

「あ、てゆうかまたするん?」
「……そうは言ってないでしょ」
「じゃあ何かこー祝日とかそういうめでたい日にする? クリスマスとか」
「三ヶ月後なんだけど……!」

 そこそこしたいみたいだ。急に照れ臭くなって熱くなった首を右手で隠した。

「……それと一月新番でバトスカ三期やるけど毎週観に来る? 深夜だから泊まりか次の日の録画になっていいなら、」
「えマジで!? 映画超スッキリ終わったからアレでラストだと思ってた! 観る観る! 最近ばあちゃん心配させ気味だし録画の方が嬉しいかも」
「ああ……卒倒しかけてたね今朝……」

 もうすっかり恋人感が板についてきたおれらであった。
 楡どうすっかなあという課題はあるものの、兎に角話し合わないと奴は何考えてるかわかんないからね。そん時何とかしよう。

 掃除のルーティンが無くなった五時間目の休み、移動教室の間に珍しく鎌谷さんが話しかけてきた。
 彼女と話す時は大体おれから声かけるから相当稀有な事態だ。

「あの、清白すずしろくん、お昼だいじょぶだった……?」

 心配してくれてたらしい。
 本当こんないい子を罰ゲームに利用しようとしてんじゃねえよ木ノ重このえ。だから毎回告白しても即答で振られるんだぞ。

「ん、大丈夫。ありがとー鎌谷さん」
「えと、そんな、あの、あの、留目とどめくん、すごかったね」
「ねーかっこよかった!」
「ね、ね!」

 鎌谷さんは目をキラキラさせている。わかってくれるか鎌谷さん、奈留くんは格好良いんだ。

「なー鎌谷さん奈留くんの事好き?」
「え!? あっえっ、好、えっ、好きっていうか、その推しっていうか」
「マジか! ちょっとさあおれと語り合わん? 推し活ってのしてみたくてさー」
「い、いいんですか!?」
「あはは、何で敬語」

 おれより頭ひとつぶん小さい鎌谷さんが、大きな仕草でバタバタしている。可愛い。
 ずっと奈留くんの良い所を誰かと語り合いたかったのに、その話題で盛り上がってくれそうな人が今まで誰も居なかったんだよ。

「鎌谷さん奈留くんのどこ好き?」
「はぇっ、えっと、顔面が強くて、」
「ぶはっ! つ、強いて! あっは、あっはっは! わかるのがおもろ……!」
「ホクロも強いです!」
「アレいいよねー!」

 嬉しさを隠せずニッコニコしながら奈留くんの好きなとこポイントを語り合っていると、教科書で後頭部を叩かれた。

「ねえ俺浮気禁止って言わなかったかな」

 声量はいつも通りに戻ったので鎌谷さんには聞こえなかったかもしれない。
 鎌谷さんは「はわ、はわわ……!」みたいな声を出してる。芸能人に遭遇した人だこれ。

「奈留くん大好きって話してたんだよ二人で」
「は!? に、二度としないで……!」

 奈留くんは怒った顔をしているが確実に照れている。
 こういうとこ、と鎌谷さんに視線を寄越すと、正しく伝わったのか彼女は大きくブンブンと首肯した。



 これも余談だけど、放課後奈留くんの家に着くなり「今すぐ準備してきて」と言い放たれた。マジでどこにスイッチがあるかわからん。
 やはり毎日掃除は変わらず行う必要がありそうだ。





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