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しおりを挟む昼休み、予定通りおれはチャイムが鳴ったと同時に席を立った。
奈留くんも既に移動を始めている。そうだよな、普段教室に居ないもんな。
「奈留くん奈留くん待って、約束通り弁当持ってきたぞ」
「……約束した覚え無いんだけど」
「約束してないけど弁当持ってきたぞ」
「…………」
お、表情的には肯定の無言かな。奈留くんもおれに少し慣れてきたようだ。
実は帰宅後送ったメッセージの中に好きなおかずを訊ねるものもあったんだけど、ものの見事に既読スルーされた。まあ返事しなくていいって言ったのおれだしね。選べるほどうちに余裕ねえし、返されないと知っての彼氏っぽいアピールなのだ。
「奈留くんはいつもどこで飯食べてんの? 学食?」
「…………」
「そっかー、うちの200円ラーメン安いもんな。具ねえけど」
「妄想で俺と会話するの気味悪いからやめてくれる?」
いや今絶対「はい」の顔だったじゃん。とは勿論言わないでおく。言ったら明日からマスク男子になりそうだ。
心に天岩戸飼ってんのか。
食堂は一旦校舎を出た先にある長方形の建物の中だ。
長い机がこれまた長ーく配置されて、それが四列くらいある。
室内の片側は全面ガラス張りで下駄箱と第二グラウンドへ続く道が見渡せるんだけど、特に食事中に見て楽しい風景じゃないからマジで謎の計らいだ。
奈留くんはカウンターから一番遠い席に座った。おれも隣に並ぶ。こういう時正面と隣どっちがベターなんだ?
食券を買いに行く気配の無い奈留くんに思わずニヤけそうになった。思ったより期待されてんだろうか。
「はいこっち奈留くんの分、召し上がれ」
「……小学生みたいな弁当箱持ち歩いて恥ずかしくないの?」
「おーよくわかったな、それおれのガキ時代のやつ」
「……本気で恥知らずなんだけど……」
「こっちはねーちゃんのだったやつ、可愛いだろ」
「…………」
これはですね、呆れの無言です。
余ってるのが姉が使ってたやつだけだったんだ、仕方ねえだろ。
「俺の水筒水道水だけど飲む?」
「おかしなもの薦めないでくれる?」
奈留くんはペットボトルのお茶を持ってたみたいだ。正直水はおすすめ出来ない代物だから良かった。
体格に似合った長い手が風呂敷を広げ、おれの弁当箱を開けるさまをぼんやりと眺める。
改めて見ても不思議な光景だ。昨日の放課後まではこんな事になるとは毛ほども思ってなかった。これがおれの彼氏かあ……。
「……鬱陶しいんだけど!」
そこそこ強めにキレられた。何故。
今日の昼飯はチキンライスと卵焼き、プチトマトにほうれん草茹でたやつである。
ちなみに朝飯も夕飯もチキンライスである。5合の米と具材全部ぶっ込んで炊飯したからね。
さっき最近スマホ使いがこなれてきたばあちゃんから「ウェッブの友人が九郎を褒めていました 今日も美味しそう」とメッセージが来たところだ。何で年配の人ってカタカナ打つの苦手なんだろーね。
奈留くんはどういう感情なのかいつも通り眉間に皺を作りながらチキンライスを一口食べる。ど、どうだろうか。友達にあげるより緊張するな流石に。
「で本当は誰が作ったの」
「そこから信用されてなかったかー! ちゃんとおれだよ、証人も居るから!」
「……アンタの言葉なんか鵜呑みにする訳ないだろ」
そりゃ出会いが嘘告白ですからね!
証拠のばあちゃんメッセージを見せながら奈留くんの顔を覗き込むと、初めて見る表情をしていた。
目がソワソワしてる。何だろう、気まずい? バツが悪い、かな。
……ああ、成程わかった。
「お口に合ったみたいで何よりだよ」
「うるさい、まだ何も言ってないだろ!」
いつものすました口調が崩れてる。可愛いとこあるじゃん。ここも好きポイントにしよう。
冷や汗が出たのか体温が上がったのか分厚い眼鏡が少し曇った奈留くんが「もういい要らない! 馬鹿にされる為に食べたんじゃない!」と席を立ちかけたので慌てて止める。
「ご、ごめんて、馬鹿にはしてねえよ、褒められた感じして嬉しかっただけ」
「……………………ッ」
「不味くないならもっと食べて欲しいなーって、ホラあの飯に罪は無えからさ」
何かこう、薄々そんな気はしてたけど、この人沸点低いな!?
いつもの友達とだとじゃれ合いになるような会話でも普通に地雷原になりかねん。
腰を浮かせた奈留くんは、一度深く息を吐くとまた座り直してくれた。熱しやすいけど冷めるのもクソ速いね。
「……………………これ」
チキンライスをよそう奈留くんの声は今まで以上に小さく掠れたものだった。よく聞く為に耳を寄せる。
「……これは、」
「うん」
「…………嫌いじゃない」
「…………ふへへ、そっか」
「……いつもアンタが作ってるの」
「へっ? え、そ、おう、おれが作ってるの」
初めておれに興味を持ってくれた。
……なんか、何か超嬉しい。鳩尾ぎゅってなった。
もっと色々話したいかも。今の奈留くんすげえ好きだ。
なんというか、こう、普段のツンツンした雰囲気が取れた感じ……。
「あっこれがツンデレか!」
「デレてないけど!!」
違ったらしい。
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