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しおりを挟むというわけで今おれは人生初の帰宅デート中なのである。
この、超絶早歩きの留目に食らいつきながら一方的に話しかける構図をデートと呼べるかは諸説あるけども。
現状を簡潔に解説すると、おれは馬鹿なゲームに巻き込んだ留目に罪滅ぼしをするために、彼と交際する運びとなったということだ。
つまり言うなればおれは前科一犯、真面目に刑期を終えにゃならん。 理想的な恋人同士を目指すことが当面の刑務作業になる。恐らく。
そうなってくると大事なのは相手への恋心だ。今んとこおれにそんなもんは無い。会話したのも今日が初めてだし。
まずは留目を好きになるところから始めるか。おれは競歩しながら留目の観察に精を出すのだった。
ていうかそんなに足動かせるなら絶対50メートル走もっとタイム縮められただろお前。
パッと見で好印象なのは高身長なとこ。
ヒョロいと思ったけどさっきのネクタイを掴む握力は相当だった。筋トレ程度はしてるのかもしれない。うん、努力家は好きだ。
今は前をスタコラ歩いてるから見えないけど、屋上で見た時の顔は綺麗だったと思う。常に伏せ気味のまつ毛が長かった。好き。
あと口元にホクロがあった気がする。元々好きな女性のタイプが強気でセクシーなお姉さんだから勿論ホクロも好き。
待って性格も強気じゃね? うんうん、好きだ。
あれ、思ったより行けそうじゃんおれ。
男同士であるということはネックになるかなと考えたけど、そもそも女子とも付き合ったことないから、異性と比べてどうとか分かんねえわ。分からんもんは考えても仕方ない。
そうだ、留目に聞きたいことがあるんだった。
「おーい、あのさあ」
「………………何」
おい声を発するまでに舌打ちが1回挟まったぞ。気持ちはわからんでもないけど。
留目の声は、それだけを拾おうと思えば存外聞き取れそうだ。
「ダーリンのこと奈留くんって呼んでいい?」
留目は目の前から消えた。
と思ったら地べたに蹲ってるだけだった。レンタルビデオ屋の看板に足をぶつけたらしい。
「わー痛そ、ダーリン大丈夫? 小指いった?」
「……なん、何その……何……?」
『何』が口癖なんだろうか、今日一日で結構聞いた気がする。
おれを軽蔑してても話を聞こうとしてくれる姿勢、好きポイント大増量です。
「何ってなんだ? ダーリン?」
「その呼び方やめてよ、気持ち悪い」
成程呼び名が不服だったのか。手っ取り早く交際感出るいい呼称だと思ったのに。
「じゃあ奈留くんで良いかな?」
「……………………」
「おれは九郎だからキューちゃんって呼んでいーよ、奈留くんだけ特別」
「絶対呼ばない」
しゃがんだままの留目改め奈留くんは何故か二の腕を擦っている。鳥肌でも立ったんだろうか。いきなり距離詰め過ぎたかな。
ここに来て今まで恋愛に興味無かった弊害が出てる気がするぞ……彼氏にはいい気分になってもらいたいんだけど。
いい気分か。パッと思いつかない。
「あっじゃあフェラでもしようか?」
「何からの『じゃあ』なんだよ……!!」
さっきまでの囁きボイスは何だったのかと思うほどの大声が出た。ツッコミもできるのか。奈留くん喋ると結構面白いな。
おれの彼氏は眉間をしわくちゃにしながら立ち上がった。「ちょっと来て」と腕を取られ、二人で歩き出す。
手繋ぎデートじゃん。
辿り着いたのはファストフード店だった。
奈留くんが胡乱な目で「アンタが奢れよ」と呟いてきたので、オッケー任せろ奢りは彼氏の特権だからな、と返事したら無言で自分の分だけ会計していった。何故。
「あのさあ、アンタ何考えてんの」
席に着くなりそんなことを言われる。さっきから怒らせてばっかだ。笑って欲しいんだけど、まだおれには無理か。
「俺はアンタと違って変態じゃないんだよ。往来で変なこと言わないでくれる?」
「いやおれも生まれて初めて言った単語まみれだけど」
奈留くんは街中で珍獣に出くわした時みたいな顔をしている。おれだって一応周囲に誰もいないか確認してから言ったんだぞ。
「それはもういいや、頭痛い」と座り直す奈留くん。本題は別だったらしい。
財布から出した頭痛薬は秒で突っ返された。
「……付き合うにあたっていくつかルールを決めるから」
ストローの紙袋をバネ上に折り畳みながら、奈留くんはそう提案してくる。手先器用だな。好き。
「まず許可しない限り俺に触れるな」
「許可されない限り奈留くんに触んない」
「俺の嫌がることはするな」
「奈留くんの嫌がることはしない」
「あと俺の言う事は極力聞いて」
「極力で良いんだ」
「……何でもって言って欲しいの?」
「極力でお願いしまあす!」
言われた事をひとつずつメモ帳に打ち込んでいく。ある程度言いなりになるつもりではいたけど、まあこの程度なら全然許容範囲内だ。
奈留くんはずっと顰め面をしている。べらぼうに嫌われたなこれは……。
「あの、別れたくなったらいつでも言ってな?」
流石に申し訳なくなって念の為に言っておいた。おれは自分のやった事のツケを払うべきだけど、その為に被害者の奈留くんが苦しむのはどう考えてもおかしい。
だけど奈留くんはますます機嫌を降下させて、
「絶対別れてやらない」
と吐き捨てるのだった。
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