ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第六章 エルフ王国編

幕間 プリンセスセレナーデ①

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 私の名前は、フェルミダ・エル・クリシュ・ルネ・エルフィニア。
 大陸で1,2位を争う大国エルフィニアの第一王女である。
 王位継承権は第4位。
 言ってしまえば、超高貴な生まれだ。
 満ち足りた権力と富。
 エルフィニア全国民に愛されて。
 私の人生は、バラ色のものになる。
 そう信じて疑わなかった。
 が現れるまでは。


 奴と私は同い年だった。
 しかも従姉妹同士。
 親戚の公爵家の娘。
 それが奴の肩書だった。
 物心つく前から、会ってはいたのかもしれない。
 でも、私が覚えているのは5歳の夏。
 王宮に遊びに来た奴と奴の妹との出会いだった。

「わたしるーな! よろしくね!」

 そう言って、奴は向日葵のような笑顔を浮かべた。
 一切の屈託もない、真っ直ぐな笑顔だった。
 お日様のような美しい金髪と、澄んだ水面のような青い瞳。
 幼いながらも整った顔立ち。
 悔しいが。
 本当に悔しいが、初めて奴を見た時に、私は見惚れてしまった。

「……は、はじめまして。ふぇるみだえるくりしゅるねえるふぃにあです。よろしくいおねがいしますわ、るーなさん」

 私は周りの大人達に厳しくしつけられて、やっと覚えたばかりの挨拶をした。
 スカートの裾を両手で摘んで、片足を斜め後ろに引く。
 できるまで何度も何度も練習させられた挨拶だ。
 自分の名前も全部言えたので、安心したのを覚えている。
 でも、奴は。

「んんー? ながいなまえだね! え、えーと、ふぇるみ……ふぇるみ……? ふぇるみー? うん、よろしくね、ふぇるみー!」

 奴はそう言って、ニコッと笑ったのだった。
 って、頭の三文字しか覚えてねえじゃねえか!!
 ニワトリかよ、お前!?
 誰がフェルミーじゃい!?
 だいたいルーナってなんだよ!?
 お前エリシフォン家の令嬢じゃねえのかよ!!!
 もっとちゃんとした名前があんだろうがよっ!!!
 私があんなに苦労して覚えたのに、お前は覚えてねえのかよ!!!!!
 はあはあ……はっ!?
 あらやだ、私ったらなんてはしたない。
 奴の事を考えると、昔から血圧が上がってしまうのだ。
 ちなみに共に30歳を超えた今でも、奴は私の正式名を覚えてないんじゃないか疑惑がある。
 奴は、昔から馬鹿だった。

「みてみて! おねいちゃん! おおきなお池があるよ!」

「え、池!? えらいぞ、しぇいら! ふぇるみーもいこ!」

 公爵家の姉妹は、なぜか庭の池に夢中だった。
 正直に言えば、いこ! じゃねえよ、とは思った。
 なんでお前が仕切ってんだよ、と。
 でも、この時の私は、新鮮な気持ちで、ワクワクもしていたのだ。
 エルフィニア王家第一王女である私に、周りの人間は気を使うばかりで。
 初めて出来た同格の友達に、心をときめかせていたのだ。

「それー!」

「あ、おねいちゃんわたしもー!!」

 姉妹が勢いよく池に飛び込むのを見るまでは。
 初めて出来た友達に、数秒で引いた瞬間だった。
 え、なにしてんのこいつ、と思った。

「あ、ああああっ!! わたしおよげないんだっ!」

「わ、わたしも!!」

「じゃあなんでとびこんだんですの!?」

 奴は初めて出来た友達ではなく、初めて見たキ○ガイだった。

「ルシアリーナ様!? シェイラザード様!?」

 お付きの少女が慌てて助け出していた。
 そして、私は奴の名前を初めて知ったのだ。
 ルシアリーナ。
 この時は、親戚の頭のおかしい子くらいにしか思っていなかった。



 15歳になった。
 私は受験勉強にいそしんでいた。
 目指すは、王都イグドラーナにある王立へライア学院。
 へライア学院は王国一の名門校である。
 入学試験は難関で、王族と言えども免除されることはない。

 私は必死に勉強した。
 寝る間も惜しんで。
 貴重な10代に何やってんだろう、と自分でも引くくらいの熱意で勉強しまくった。
 全ては、花のスクールライフを送るため。
 王族のプリンセスである私は、完璧でなければならないのだ。
 きっと同世代の男子国民は、私を見てこう思うだろう。
 ああ、なんて素敵なお姫様だ。
 そして、高貴な私に分不相応な恋心を抱くのだろう。
 なんて快感。

 正直に言って、私は美しい。
 エルフィニア王家は皆、見目が整っている。
 私もちゃんと血を受け継げたようで、美人だと思う。
 そんな私に? 更に学力まで加われば?
 パーフェクトプリンセスが爆誕してしまう。
 ヘライア学院の将来有望なイケメンたちにモテまくることであろう。
 逆ハーレムが出来てしまう。
 ちなみに、当たり前だけど、私はイケメンが好きだ。
 作るのだ。
 イケメンに囲まれた夢の逆ハーレム学院を。

 そんな昏い妄想をしながら、私は勉強に勤しんだ。


 結果として、ヘライア学院の入学試験は楽勝だった。
 正直に言って、1問たりとも間違えた気がしない。
 王国最難関の入学試験が楽勝て。
 どんだけ妄想に期待してんだよ、私。
 自分でも少し引いた。

 16歳の春。
 私はヘライア学院の入学式会場にいた。
 入学試験全問正解だったのだ。
 当たり前だろう。
 ちょっとやりすぎた気もするが、これはこれでありだ。
 入試の成績最優秀者は、新入生代表挨拶があるのだ。
 当然のごとく、私がやるのだろう。
 学院生の注目を集める良い機会である。
 ちなみに。
 この会場に着くなり、私は男子生徒のレベルを確認した。
 会場の全生徒を鷹のような目つきで値踏みした。
 そして思ったのだ。
 お、おっほー! と。
 いや、頭がおかしくなったのではなく。
 一言で言うなら、ヘライア学院はイケメン☆パラダイスだった。
 新入生も在校生も、イケメンのバーゲンセールだった。
 思わずガッツポーズしてしまったのも仕方ない。
 このイケメンたちが、全て私のハーレムになるのだ。
 ふふふ。ふふうふ。

「続きまして、新入生代表挨拶」

 おっと、イケメン☆パラダイスの事を考えていたらいつの間にか入学式が進行していた。
 私は慌てて緩みきった顔を引き締めた。
 この時の為に、ひと月前から挨拶の推敲と練習を重ねた。
 その甲斐あって、今では完璧。
 きっと学院史に残る挨拶になることだろう。
 そして、イケメンたちは私に首ったけ。
 ふふふ。
 さあ、決めようか入学デビューを。

「新入生代表――」

 私は自分の名前が呼ばれるのを背筋を正して待った。

「――ルシアリーナ・アルス・ルネ・エリシフォン!」

 え?
 え、今なんて??
 司会のハゲた教員が妙な名前を告げた。
 フェルミダ・エル・クリシュ・ルネ・エルフィニアではなく?
 なんでうちのアホな従姉妹の名前が出てくるのか。
 いやいや。
 ここは王都最難関のヘライア学院でしょう?
 名前を言い間違えるにしたって、もっと他にあるだろう。
 なんであのニワトリ娘の名前が出てくるのか。

「ふ、ふあい!」

 しかし、なぜかニワトリ娘はいた。
 私から離れた席に、なぜか座っていた。
 真っ赤な顔でカチンコチンになって、立ち上がっている。
 え、なんでいんの??
 私の脳内は疑問符だらけでパンクしそうだった。

 しかも、奴が立ち上がった瞬間。
 ――ザワザワ、と。
 式場内がザワついたのだ。

(あ、あれがエスメラルダ様の……)
(まさかヘライア学院に入学されていたなんて……しかも、入学生代表)
(家柄だけではなく勉強もお出来になるなんて……)
(しかも、な、なんて美しさだ……)
(本当に、すごい美人……)

 私は、一瞬自分の意識が異次元に飛ぶのを感じた。
 あ、あれー?
 あれれれー??
 なんかルシアリーナがデビューしてる!?
 私ではなく、なぜか従姉妹がデビューしてる!?
 なにこれ!?
 ていうか、そのザワザワ私が受けるはずだったんですけど!?
 家柄だけではなく、勉強もできる美人はここにいるんですけど!?

 一体何が起こったというの?
 まさかルシアも受験していたの??
 いやいや、あの子とはつい先日も会った。
 私が受験勉強真っ最中の頃だ。
 髪や肌の手入れもせずに、ひたすら昏い妄想の為にガリ勉している時に、奴は来たのだ。
 つやっつやのお肌で。

「あ、フェルミー! ねーねーフェルミーもバッタ好き?」

 バッタて。
 受験の疲れがピークだった私は奴のおバカなセリフで逆に癒やされたものだ。
 世の中には15にもなってバッタの話題を振ってくる頭のかわいそうな女もいるのだ。
 私はがんばろう、と。
 そんな先日の記憶を脳裏に浮かべた私は思った。
 いや、ないわ。
 あのバッタ女がヘライア学院に受かるわけがない。
 じゃあ、なんで奴がここにいて、しかも入学生代表になっているのか。
 まさか。

(……ほら、うちの学院長ってエスメラルダ様の大ファンだから)
(……ああ、神箭エスメラルダの七光ってことね)

 後ろの方で、性格の悪そうな女子生徒がそんな噂話をしていた。
 確かにありえる。
 奴自身はアホだが、国民的英雄であるエスメラルダ様の孫である。
 父親もお父様の弟、つまり王弟であるわけだから権威を効かせた裏口入学も十分に――。
 と、そこまで考えて、はたと気づいてしまった。
 じゃあ、私は!?
 王弟どころか、正真正銘、王の娘である私は、なんで過酷な受験戦争を勝ち抜いたの!?
 あっれええええ!?
 おっかしいだろ、ヘライア学院!!!

「あー、あー、みなさん聞こえますか?」

 そんな時、壇上の上では真っ赤な顔をしたルシアリーナが、拡声の魔道具に声を当てていた。
 本来なら私がやるべき代表挨拶。
 ニワトリでバッタなルシアリーナがなぜか行っている不思議。
 私が、血反吐まじりに練習した代表挨拶。

「し、新入生代表のルシアリーナです。み、みなさん、よろしくねっ!」

 ルシアリーナは噛みながらも言い切った。
 そして、ぺこりと頭を下げている。
 私は思った。
 え、おま、と。
 え、おま、マジで? と。
 何そのゴミカスみたいな挨拶?
 それで終わりかよ?
 私が原稿用紙何枚分の挨拶を考えたと思ってんだよ。
 ていうか、今、現在ポケットに原稿用紙入ってんだよ。
 そんな舐めた挨拶で華のヘライア学院イケメンズが納得すると思ってんのかよ?
 バッタをケツの穴にブち込んで泣かすぞ、こら?

 しかし、現実は残酷だった。

「か、かわいい!!!」
「ルシアリーナさんサイコーっ!!!」
「ぼ、ぼくと付き合って下さい!!!」

 なぜかヘライア学院イケメンズには大好評だった。
 みんな立ち上がって拍手喝采である。

 私は白目をむいていた。
 ええええええええええええ!?
 なにこれえええええええええ!?

「……うむ。こんな盛り上がった入学式は我が校始まって以来じゃ」

 司会のハゲのそんな呟きが聞こえた。
 ええええええええええええええ!?
 学院史に残っちゃった!?
 まじで?
 あんな中身ゼロの挨拶で!?
 黒歴史爆誕じゃん!!
 ハゲふざけんなよ、コラ!?

「え、えへへ」

 壇上のルシアリーナは困ったように照れ笑いをしていた。
 あざとっ!!
 何そのあざとさ!?
 今どきそんなあざとさで王都のイケメンを落とせると思うなよ!?

「か、かわいい。可愛すぎる!」
「美人で可愛いとか……!!」

 ちょれーな、おい!?
 お前ら全員眼科行けや!!

 なんだ。
 一体、私の周りで何が起こっているのだ。
 私の輝かしい学院デビューが。
 なんであんなバッタ女に。
 必死に勉強したのに。
 イケメン☆パラダイスはすぐそこだったのに。
 なんでルシアリーナなんかに邪魔されなきゃいけないのか。
 私は完璧なプリンセスなのに。

 その時、私の中で何かがぷつんと切れた。
 おもむろに立ち上がる。
 そして、吐露。

「なんじゃそりゃあああああああ!!!」

 それが私が入学式で発言した唯一のセリフだった。
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