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第六章 エルフ王国編
第248話 決着
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戦場を吸血馬で駆ける。
「ブヒッ!」「グオッ!!」
俺を見るや、オークやゴブリンが襲撃の手を止めていた。
称号『鬼殺し』の効果なのかもしれないが、魔物にビビられるって人間としてどうかと思うんだ。
「おお、三代目!」「我らを救って下さるのですか!?」
助かったエルフの皆さんが感謝してくれるのでいいのだが。
「いやあああっ!」
「グルオッ!?」
エルフの女兵士がオークに襲われてたので、駆け抜けざまにオークの首を落とした。
俺を見るだけで勝手にビビるのだが、サービスである。
「三代目……」
助けた女エルフさんが熱い視線を送って来た。
これは落ちてますわ。
今がチャンスと見た。
「GURAAA!!」
ファラチオの手綱を引いて、軽く停止。
渾身のアサギリスマイルを浮かべて、渾身の決めゼリフ。
「今度、乳を揉みに行く」
「ええ!? え、ええ……」
戸惑う女エルフさんを残してファラチオの腹を「はあっ!」と蹴った。
ふふふ。
決まった。
「え」だけ5回の返事ってどうなんだろうって気もするが。
あれ、もしかして決めゼリフ間違えた? という気もするが。
いやいや気のせいだろう。
だってあれ以上の決めゼリフは浮かばない。
そんなこんなでエルフさんを救いつつ、セクハラもしつつ俺はカーチャンのもとに向かった。
そして、俺が目の当たりにしたのは。
「忘れさせてやる……俺が抱き狂わせてやるわ! お前のような女には、俺こそが相応しい」
なんか青い男に、吊るし上げられるカーチャンの姿だった。
一瞬でカチンと来た。
え、何してんの? あの青い人。
俺の女に何してんの??
「何、お前の気もそのうち変わるだろうよ。何万もの同胞の死体を目にすれば、な」
カーチャンは馬上の青い人に顎を掴まれて宙吊りにされていた。
その美しい顔は苦悶に歪んでいて。
俺は考える前に叫んでいた。
「ちょっと待ったああああああ!!!」
紅鯨団的なセリフが出たのは、昭和生まれのせいである。
だってその女を抱くのは俺だからね。
「むっ!?」「ア、アサギリくん」
青い人とカーチャンが俺に気付く。
カーチャンの苦しそうな声。
ぷらぷらと宙に揺れる美脚。
俺を夢中にさせるむっちり太もも。
――そんなカーチャンを掴んでいる貴様は、一体何様なんだよ。
怒りは、ピークに達した。
歯をガチりと食いしばり、ラグニードを水平に構える。
ファラチオの馬腹を蹴って速度を上げる。
一撃で決める。
首を叩き落としてくれる。
「……くっ」
戦慄の表情を浮かべる魔族。
彼我の距離は、約5馬身。
この距離で、俺の腕に気付いたらしい。なかなかやる。
しかし、貴様はもう手遅れだ。
片手にカーチャンを掴んでいるせいで、対応が数手遅れる。
俺の女に手を出した罪である。
その距離、3馬身。
ラグニードを握る手にメキメキと力を込める。
2馬身。
大気を、切り裂くように振るわれるラグニード。
1馬――。
「殿!!!」
突然、赤い女が俺と魔族の間に割り込んでくる。
接敵間近のイレギュラー。
もう俺はラグニードを止められない。
なんだこの女は。
邪魔を――!?
「!?」
『《死域》が発動しました。』
刹那、発動させたスキル。
嫌な予感がしたのだ。
加速された知覚の世界。
黒く染まる世界で、全ての動きはスローモーションになる。
ぐんぐんと減っていくMP。
残像を残して進む白銀のラグニード。
コマ送りのように進んでいく景色。
そんな中で、俺は割り込んできた女を観察する。
赤い肌の女だった。
どう見ても人間ではない。
身長は俺と同じくらいで、女にしては背が高い。
華奢ながらも、その全身は引き締まっていて。
艷やかな白髪。
額から伸びた二本の角。
金色の瞳は決死の覚悟を浮かべる。
全力で魔族の男を守ろうと。
揺るぎない決意を浮かべながらも、わずかな不安が、艶やかな紅の塗られた口元を歪める。
口元から除くのは鋭い牙。
しかし、角も牙も彼女の魅力を少しも損なう事はない。
その顔立ちは整っていて。
必死に両手を広げて、魔族の男を庇おうとする姿は美しい。
彼女は、まるで日本の鎧武者のような格好をしていた。
白い着物に、朱色の和鎧。
小さな装甲を縫い合わせたような胴鎧に、同じく装甲を縫い合わせた板状の肩鎧。
そして、俺が嫌な予感を覚えたのは、その胸元だった。
ぷるん。
そんな聞こえもしないオノマトペが脳裏に浮かぶ。
なんだろう。
カーチャンと同じ感じがする。
俺のラグニードは、女を切り裂く軌道を描く。
加速された思考で、わずかにその軌道をズラした。
おもむろに軌道を変えていくラグニード。
俺の狙いは、もう決まっていた。
『《死域》が解除されました。』
景色が色を取り戻す。
等速に流れ始める時間。
―ザンッ。
鋭い斬撃の音。
カーチャン、魔族、鬼女の横を、ファラチオは駆け抜ける。
手綱を引くと、ファラチオは棒立ちになって嘶いた。
そして、振り返った時。
「なんてことだ……」
俺は目の前の光景に運命を呪った。
「…………くっ」
鬼女は悔しそうに牙を食いしばる。
――ぷるるるんっ!
その胸元が素敵な音を奏でていた。
俺の一撃は、正確に鬼女の鎧を切り裂いていた。
首の僅かに下。
鎧の連結部と、下に着た着物をまとめて。
その赤い肌には傷一つつけていない。
《達人剣術》がキラリと光る。
そして、お目見えしたのは2つの巨峰だった。
ばいんばいんと。
ぷるんぷるんと。
強烈な自己主張を放つ、見事な双乳。
ぷくっと膨れた山頂部にはピンク色の可愛らしい突起。
赤く染まりながらも、見事な美乳で巨乳。
『《自動演算》が発動しました。B98W61H87』
B98。
そのログは、俺の琴線を、断線しそうな勢いで震わせた。
B98。
再び見つめて噛みしめる。
そりゃあね。
セレナやエスメラルダさんには及ばない。
でもダナンさんやカーチャンに匹敵する。
世界トップ5(当社調べ)に食い込むのだ。
企業で言ったらアマゾンさんクラスですわ!!!(転生時のなんとなくな印象ランキング)
アマゾンパイである。
そんなアマゾンパイを、俺は……。
「なんてことだ……」
自分の愚かさに顔を覆ってしまう。
俺は、危うくあのおっぱいを斬ってしまうところだった。
なんて愚かな。
そして、なんて素晴らしい乳だろう。
「ナイスおっぱいだ……」
とりあえず褒めてみた。
これが敵に塩を送るというやつだろうか。
敵ながらあっぱれ……いや、あっぱれというよりおっぱいと言いたい。
敵ながらおっぱい(?)である。
なんか戦国武将みたいな事を考えてしまった。
もう俺は戦国武将と言っても過言ではない。
「……なんのつもりだ、人間」
鬼女が悔しそうに呟く。
あ、やっぱり喋るんだ。
しかも、なかなかに可愛い声だった。
鬼女は俺を思い切り警戒していた。
ジリジリと後ずさりながら、ぷるるるるるんっと揺れる乳を手で――。
「ああああああっ!?」
「!?」
――隠そうとしたのを奇声を上げることで阻止した。
いけないよ。
そんな見事な乳を隠すのは良くない。
あと俺の奇声にビクッとした鬼女ちゃんかわいい。
「くっ……なぜこんな所に脆弱な人間が……とりあえず斬ろう」
って斬るの!?
鬼女は俺を睨みながら、腰の刀に手を這わす。
やだな。
おっぱいとは戦いたくないのに。
「やめよ、シズル」
「……殿」
青い人がおっぱいを止めてくれた。
マジファインプレー。
青い人ナイス。
まだカーチャンを捕まえたままなので許さんが。
「……先の剣筋、只者ではない。見た目や奇行に惑わされるな。気が狂っているのかもしれないが、彼奴は強い」
青い人がめちゃくちゃ俺をディスるんですけど。
「そ、それほどでございますか」
「ああ。貴様の首を取るには十分な一撃だった。貴様が生きているのは、奴が手加減したからにすぎん」
「て、手加減!? な、なぜそんな事を!? 私はコレート砦副司令ですが……」
鬼女ちゃんが俺に怯えた目を向ける。
弑逆心を刺激する目線である。
レイプしたくなるからやめてほしいのだが。
「奴が手加減した理由は……わ、わからん」
「ええ!?」
「戦場で敵将に情けをかける理由がわからん。だから気が狂っていると……」
「くっ……私はキ○ガイに遊ばれたんでしょうか……」
青い男と赤い女がボソボソと俺の悪口を言っていた。
俺はキ○ガイではなく、元SEである。
まあ、所詮は魔物だ。
俺の崇高なおっぱいロジックは理解できないのかもしれない。
所詮は魔物ではあるものの、鬼女ちゃんは普通に抱けるのが生命の神秘。
「貴様は下がっておれ、シズルよ」
「ご武運を……」
青い人がカーチャンを鬼女ちゃんに投げる。
「うっ」
投げられたカーチャンは鬼パイにぼよよんっとぶつかった。
――ぼよよんっとぶつかった。
俺はそのシーンを必死に焼き付けた。
いざという時のオカズにするために。
美女が美女の巨乳に顔を埋めるシーンとか。
「我が名は、グラーフ。グラーフ・ドルゴポロフ。……勇敢な人間よ、名乗るがいい」
グラーフと名乗った青い肌の魔族は、緑色に輝く剣を構える。
ふむ。
強そうな雰囲気である。
「……アサギリ・コウ」
ラグニードと黒曜石の大剣を構えながら名乗ってみた。
先程の奇襲とは違う。
完全な立ち会い。
グラーフの構えは、一切の無駄がなかった。
無骨な巨岩を相手にしているような隙のなさ。
クソ。
苦労しそうである。
「参るぞっ!!」
正眼の構えからの打ち込み。
――キンッ
ラグニードで受けると、ズシンと骨身にしみる重さを感じた。
この魔族の武にかけた時間が滲み出るような一撃。
さぞ鍛錬を重ねたのだろう。
小細工も何もない正直な一撃だが、その分ヤバさを感じる。
掛け値なしに、この男は強い。
「オラッ!!」
黒曜石の大剣を振るう。
狙いは空いている脇腹。
「ふっ!」
ジャリッと火花を散らす緑色の大剣。
ラグニードの剣腹をなぞるように下段に向かう。
――ガギンッ!
あっさりと黒曜石の大剣を防がれてしまった。
やる。
この男相手に手数は意味がない。
「むお……」
俺はあっさりと黒曜石の大剣を消した。
土魔法レベル3:《石形成》で作った剣である。
消すのも自在だった。
受け止めていた黒曜石の大剣を消された魔族はわずかにバランスを崩した。
問答無用の一撃を叩き込む。
電光石火の打ち下ろし。
稲妻のような速度でラグニードが振り下ろされる。
――ガギッ!
当然のように受け止められた。
バランスを崩しながらも器用なものである。
「ふふっ」
グラーフは不敵な笑みを浮かべる。
楽しそうだな、おい。
「くは」
まあ、俺も笑ってしまうのだが。
悪くないかもしれない。
己の強さを、思う存分ぶつけられる相手というのは。
女を抱く方が楽しいし、好きではあるが。
こういうのもたまにはいい。
「……仕切り直すぞ、アサギリ」
「ああ」
再び距離を取って、お互いに構えた。
目の前の魔族は、頑丈そうである。
どっかのジジイと違って本気を出しても大丈夫そうだ。
「「はっ!!」」
昼下がりの陽光に、二本の魔剣が交差した。
そして、死合が始まる。
俺とグラーフの剣は拮抗していた。
お互いの剣技を全てぶつけ合う。
ビリビリと震える大気。
「くっ!!」
グラーフの横薙ぎをラグニードで受ける。
すかさず反撃の突き。
「うおおおっ!!」
巨体を捻るようにして躱すグラーフ。
素早い反応。
見事な体捌きだった。
――ギンッ!
全体重の乗った横薙ぎを受け止める。
やばいなこれ。
一度でも判断を誤ったら首が飛ぶ遊び。
刹那の判断と、数手先の読み合い。
脳がヒリヒリする。
「ふはははっ!!」
グラーフが歯をむき出しにして笑っていた。
この状況を楽しんでいるらしい。
なかなかにこいつも狂っている。
「悪いが、俺はこんなもんじゃないぜ?」
軽く挑発してみた。
「俺もだ!!!」
あっさり乗ってくる。
そして、俺達の死合は速度を上げていく。
「オラアアアアアッ!!」
「ウオオオオオオッ!!」
火花が舞う。
景色は刃に塗りつぶされる。
悲鳴を上げる思考。
剣戟の音で耳が麻痺しそうだ。
上段から振り下ろし。
下段を薙ぐ。
更に横薙ぎ。
喉元を小手でガード。
突き。
上。
右。右。
腹。
左。
小手。
上。
上。
左。
絶え間なく繰り出される攻撃。
最小限の動きで対応して反撃する。
ただ最善手を打ち合うだけ。
摩耗して判断を間違えたら、終わり。
「……す、すごい」
「まるで嵐のようだ……」
女の声が遠くから聞こえる。
カーチャンと鬼女ちゃんだろうか。
二人の美女の前だ。
たぎる。
「ぐおおおおおっ!!」
俺の視界を埋めるのは、汗だくの魔族だが。
――ギンッ。
俺と魔族の剣が再び交差した。
奇しくも力比べのような構図になる。
筋力ブーストを目一杯効かせても微動だにしない緑色の大剣。
こいつもかなりの馬鹿力だ。
「……このままでは埒が明かぬな」
苦し紛れにそんな強がりを言う魔族。
額に玉の汗を浮かべているくせによく言う。
……まあ、俺もかなり消耗しているが。
さっきから疲労耐性のログはずっと出ている。
お互いに限界は近いのかもしれない。
まあ、負ける気はないが。
『《死域》が発動しました。』
カーチャンもいるのだ。
ここで決めさせてもらう。
本日2度めの死域だが、まだまだMPには余裕がある。
黒く染まる景色。
スローモーションになる世界。
ピタリと止まったグラーフ。
緩やかながらもラグニードは確実に動き出す。
狙うは、その首。
ラグニードはゆっくりと魔族の首に吸い込まれていった。
なかなかの強敵だった。
こんなチート技で殺してしまうのはもったいないくらいの。
「くそ」
柄にもない感情を抱いてしまって毒づく。
情けというか、寂しさというか。
しかし、目的を間違えてはいけない。
俺の一番は、女達である。
事実上俺の女であるカーチャンを救うために、この男は邪魔なのだ。
悪いな。
そう小さく侘びながら、ラグニードが魔族の首に食い込むのを眺めていた。
――ピキリ。
瞬間。
黒く染まった世界に亀裂が交じる。
まるでガラスのように。
――ガラン。
俺の死域は砕けていった。
はあ!?
「ぐっ!!!」
流れ出した世界。
間一髪のタイミングでグラーフは顎を引く。
ぶんっと空を斬るラグニード。
はああ!?!?
俺は理解できないまま、腹を蹴飛ばされた。
咄嗟に後方に下がって勢いを殺す。
ノーダメージ。
わけも分からず着地すると、グラーフの大剣が淡く光っているのが見えた。
「……魔剣龍哭丸。俺に迫る死の因果を断ち切る剣よ」
グラーフがよくわかんない事を言っていた。
日本語で頼みます。
「死の因果……なるほど。先程、私の細雪を破ったのもその魔剣の権能か?」
「然り」
カーチャンは理解したそうで苦しそうに呟いていた。
さすがである。
なんかよくわからんけどチート級の魔剣なのはわかる。
え、ずるくない?
「アサギリ。先の一撃は見事だった。魔力の減りがジークリンデの10倍以上だったぞ」
「まだ何度か発動できるぜ?」
MPの残り的にはあと二回くらいはいける。
なんかよくわからんが、こいつはここで仕留めておいた方がいい気がする。
「俺の魔力とて、まだ余裕はある。……しかし、困ったな。貴様の攻めは防げても、貴様を殺す術が俺にはない。ここまでの使い手と出会ったのは初めてだ。アサギリよ」
なんか褒められたが、全然うれしくない。
とはいえですよ。
ふーむ。
死域が防がれると、俺にもこいつを殺す術がないかも。
いや、まだ火魔法とか色々あるけど、なんか効きそうにない感じがする。
「……殿、そろそろ限界かと」
「そうか」
鬼女ちゃんがグラーフの耳元で囁く。
艶やかな口紅がやけに目についた。
何あれエロい。
俺もやってもらいたい。
辺りを見渡せば、復活したエルフ兵達がオーク共を殲滅しつつあった。
戦は決着しつつある。
「あるじ、あるじー!!」
フェルちゃんが両手を真っ赤にしながら飛んでくる。
何あれオークの血?
ばっちいな。
フェルちゃんが来たならもう決まったようなもんだけど。
「……勝負は預ける。またなアサギリ」
しかし、グラーフは全く焦りもせずにそんな事を言った。
そしてあっさりと馬腹を蹴って後退しだす。
はあ?
またなじゃねえっての。
この状況で逃げられるわけねえだろうが。
周囲は完全にエルフ兵が取り囲んでいるのだ。
「オークにゴブリン共!! 俺を逃がせ!!」
グラーフの大音声。
その声に反応するように、殲滅されつつあったオークとゴブリンが息を吹き返した。
「グルルルル!」「グギャギャッ!!」
「な、なんだこいつら突然!?」
「もうほぼ死んでいるのに……」
オークとゴブリンが狂ったように反撃を始める。
己を攻撃されるのも厭わずに暴れまわっている。
グラーフを逃がすように。
え、まじで??
このまま逃げられちゃう感じ??
グラーフと数騎の魔族たちは、戦場を離脱していくのが見えた。
エルフ兵突破されてるし。
まあ、ルーナの種族だしな。
「くっ! ジークリンデ様!?」
カーチャンの側付き騎士が狂ったようなオークと戦いながら呻く。
ああ、それは俺もわかっている。
カーチャンを捕まえたままの鬼女ちゃんもグラーフについて撤退していた。
だけど、逃がすわけねえから。
《火形成》発動。最大魔力。
――ゴウッ!!
走り去るグラーフたちの前に極大の火の壁を出現させた。
その高さ10メートル。
巨大なビルのような高さの火壁がグラーフたちの行く手を阻む。
「ぬうっ!!」
しかし、躊躇いもせずに火壁に突っ込んでいくグラーフ。
まじで???
「打ち砕け――龍哭丸!!!」
パリンと、火壁の一部があっさりと消える。
チート!!!!
何そのずるいチート!?
「くっ!!」
しかし、鬼女ちゃんや魔族騎士たちは火の壁に普通に止まってくれた。
チャンスである。
咄嗟にファラチオを走らせた。
「急げ!! 間に合わなかったら、お前を桜ユッケにするかんな!!」
「GURAAA!!」
ファラチオの桜ユッケとかものすごく不味そうだが。
とりあえず、ファラチオは速度を上げた。
「なっ!? 人間!?」
鬼女ちゃんに追いつくと、俺を見てビビりまくっていた。
グラーフとやったチャンバラがだいぶ効いたらしい。
「くっ、貴様は魔族にとって危険だ! ここで――ぐっ」
刀を抜こうとした鬼女ちゃん。
咄嗟に接近して、ラグニードの柄で腹を殴る。
グラーフと違ってこの子の技量は、俺とは遥かな差がある。
このくらい楽勝だった。
あっさりと気絶する鬼女ちゃんを抱きとめる。
この子は殺さない。
おっぱいは殺さない、絶対に。
「ア、アサギリくん……」
鬼女ちゃんの馬の背中に縛り付けられていたのはカーチャンだった。
多少よろよろしているが、無事そうだ。
安心した。
「助けに来ましたよ、カーチャン」
「う、うん。ありがとう……」
カーチャンは俺を見て、目をうるませていた。
娘と同じで涙もろい。
とりあえず、カーチャンの顔を覗き込む。
プラチナブロンド美女のエメラルドの瞳には、俺の顔が写っていた。
娘と同じで美しい。
まあ、これくらいはご褒美でいいべ。
「アサギリくん、ちょっと近、あっ……うむっ……んっ」
カーチャンの唇。
暖かくて柔らかい。
そして人妻の芳醇な香りがする。
燃え盛る火炎の中で、俺はアナスタシアさんとキスをした。
がんばったご褒美である。
人妻キッスうめええええええ!!!
「んうっ……ちゅっ……あさ、あさぎりくん……」
カーチャンの手が、俺の頭を抱き寄せる。
結構、乗ってくれる。
お返しとばかりに、その華奢な体を抱きしめた。
柔らかい。
溢れ出るカーチャンの唾液をごくごく飲みながら、俺の股間はフルボッキしていた。
もうここでちんこいれたい。
その時だった。
『火魔法LV3を取得しました。』
『火魔法LV3:《光形成》が使用可能になりました。』
おお。
なんか火魔法がレベルアップした。
このタイミングでなぜ。
俺の溢れ出るパトスが熱と成って、火魔法の経験値に――!?
なったのではなく、普通に火壁を出し続けていたからだろう。
MPが尽きかけて、火の勢いがだいぶ収まっていた。
まあ、今そんな場合ではないので火魔法のことは置いておくが。
「……ちゅぷ、アナスタシアさん……」
唇を離して、カーチャンを熱く見つめる。
アサギリ・コウ。
ここで決める!!
「……はあ、はあ、あ、アサギリくん……」
頬を火照らせながら、俺に潤んだ瞳を向けるカーチャン。
その呼吸は荒く。
すべすべの頬に手を這わせると、おずおずと俺の手に触れてくる。
かわいい。
もう脱がす。
辛抱たまらなくなった俺は、その胸元の鎧に手をかけ――。
「あるじ、あるじー!!」
――た、所で飛んできたフェルちゃんに邪魔された。
あのトカゲーーー!!!
「んだよっ!? 今いいとこなんだよ!!! 場所をわきまえろよ、トカゲがっ!!!!」
「ええ!? ば、場所ってここは戦場だよ?」
たしかに。
トカゲのくせに正論を言う。
ふとここがラブホテルだと勘違いしていた。
うっかりうっかり。
「……は、はわわ。義息とちゅーしちゃった。ちゅーしちゃった!!」
腕の中では、アナスタシアさんが真っ赤になって身悶えていた。
可愛かったので、むっちり太ももを撫でておく。
「う、ううっ……」
ついでに気絶した鬼女ちゃんの巨乳も揉みしだく。
ええ乳や。
「あ、あるじ!! そんなことより、あいつが逃げちゃうよ!?」
またしてもトカゲが横槍を入れる。
なんて邪魔なトカゲだろう。
そういう生意気な事は乳首生やしてから言えよ。
この健全おっぱいが。
フェルちゃんが言ったとおり、グラーフの背中はだいぶ小さくなっていた。
このままでは普通に逃げられてしまうだろう。
とはいえ。
「アサギリくん……」
「うう……」
俺の腕の中にいるカーチャンと鬼女ちゃんを前にしては、あの魔族はだいぶ霞む。
俺の興味はどんどん薄れていった。
「まあ、もういいや。あいつはお前に任せるわ。……つうか、お前。そろそろ役に立たないと捨てるからな」
「ええええええええ!?」
この戦に来てから大した活躍をしていないトカゲにそんなセリフを残して、カーチャンの太ももと鬼女ちゃんの乳を触る作業に戻った。
至福の時間である。
俺の戦は、既に終わっていた。
「ア、アサギリくん! そんなエッチなことばかりしちゃ駄目じゃないか!!」
いえ、しますけど。
「あるじ!!! なんで捨てるとか言うの!? ……が、がんばるから!! 我、本気出すから!!! え、えーいっ!!!」
なんか必死になりながら、巨大化していくフェルちゃん。
久しぶりなドラゴンモードに変身するらしい。
今更すぎて、見ているのが辛い。
まあトカゲに興味は皆無なのでどうでもいいのだが。
『おええっ!!』
トカゲが特大ビームを吐いているが、本当に今更だ。
辺りの地形が変わるくらいの大爆発が起きていたが、本当に今更だ。
――ぱりん。
――ぱりん。
遠くで、聞き覚えのある嫌な音が聞こえてきた。
フェルちゃんの今更ビームでグラーフが死んでたらいいなと思いましたまる。
カーチャンと鬼女ちゃんを抱き寄せながら、そんな事を考えた。
そして、俺達のコレート山脈砦攻略戦は勝利に終わったのだった。
「ブヒッ!」「グオッ!!」
俺を見るや、オークやゴブリンが襲撃の手を止めていた。
称号『鬼殺し』の効果なのかもしれないが、魔物にビビられるって人間としてどうかと思うんだ。
「おお、三代目!」「我らを救って下さるのですか!?」
助かったエルフの皆さんが感謝してくれるのでいいのだが。
「いやあああっ!」
「グルオッ!?」
エルフの女兵士がオークに襲われてたので、駆け抜けざまにオークの首を落とした。
俺を見るだけで勝手にビビるのだが、サービスである。
「三代目……」
助けた女エルフさんが熱い視線を送って来た。
これは落ちてますわ。
今がチャンスと見た。
「GURAAA!!」
ファラチオの手綱を引いて、軽く停止。
渾身のアサギリスマイルを浮かべて、渾身の決めゼリフ。
「今度、乳を揉みに行く」
「ええ!? え、ええ……」
戸惑う女エルフさんを残してファラチオの腹を「はあっ!」と蹴った。
ふふふ。
決まった。
「え」だけ5回の返事ってどうなんだろうって気もするが。
あれ、もしかして決めゼリフ間違えた? という気もするが。
いやいや気のせいだろう。
だってあれ以上の決めゼリフは浮かばない。
そんなこんなでエルフさんを救いつつ、セクハラもしつつ俺はカーチャンのもとに向かった。
そして、俺が目の当たりにしたのは。
「忘れさせてやる……俺が抱き狂わせてやるわ! お前のような女には、俺こそが相応しい」
なんか青い男に、吊るし上げられるカーチャンの姿だった。
一瞬でカチンと来た。
え、何してんの? あの青い人。
俺の女に何してんの??
「何、お前の気もそのうち変わるだろうよ。何万もの同胞の死体を目にすれば、な」
カーチャンは馬上の青い人に顎を掴まれて宙吊りにされていた。
その美しい顔は苦悶に歪んでいて。
俺は考える前に叫んでいた。
「ちょっと待ったああああああ!!!」
紅鯨団的なセリフが出たのは、昭和生まれのせいである。
だってその女を抱くのは俺だからね。
「むっ!?」「ア、アサギリくん」
青い人とカーチャンが俺に気付く。
カーチャンの苦しそうな声。
ぷらぷらと宙に揺れる美脚。
俺を夢中にさせるむっちり太もも。
――そんなカーチャンを掴んでいる貴様は、一体何様なんだよ。
怒りは、ピークに達した。
歯をガチりと食いしばり、ラグニードを水平に構える。
ファラチオの馬腹を蹴って速度を上げる。
一撃で決める。
首を叩き落としてくれる。
「……くっ」
戦慄の表情を浮かべる魔族。
彼我の距離は、約5馬身。
この距離で、俺の腕に気付いたらしい。なかなかやる。
しかし、貴様はもう手遅れだ。
片手にカーチャンを掴んでいるせいで、対応が数手遅れる。
俺の女に手を出した罪である。
その距離、3馬身。
ラグニードを握る手にメキメキと力を込める。
2馬身。
大気を、切り裂くように振るわれるラグニード。
1馬――。
「殿!!!」
突然、赤い女が俺と魔族の間に割り込んでくる。
接敵間近のイレギュラー。
もう俺はラグニードを止められない。
なんだこの女は。
邪魔を――!?
「!?」
『《死域》が発動しました。』
刹那、発動させたスキル。
嫌な予感がしたのだ。
加速された知覚の世界。
黒く染まる世界で、全ての動きはスローモーションになる。
ぐんぐんと減っていくMP。
残像を残して進む白銀のラグニード。
コマ送りのように進んでいく景色。
そんな中で、俺は割り込んできた女を観察する。
赤い肌の女だった。
どう見ても人間ではない。
身長は俺と同じくらいで、女にしては背が高い。
華奢ながらも、その全身は引き締まっていて。
艷やかな白髪。
額から伸びた二本の角。
金色の瞳は決死の覚悟を浮かべる。
全力で魔族の男を守ろうと。
揺るぎない決意を浮かべながらも、わずかな不安が、艶やかな紅の塗られた口元を歪める。
口元から除くのは鋭い牙。
しかし、角も牙も彼女の魅力を少しも損なう事はない。
その顔立ちは整っていて。
必死に両手を広げて、魔族の男を庇おうとする姿は美しい。
彼女は、まるで日本の鎧武者のような格好をしていた。
白い着物に、朱色の和鎧。
小さな装甲を縫い合わせたような胴鎧に、同じく装甲を縫い合わせた板状の肩鎧。
そして、俺が嫌な予感を覚えたのは、その胸元だった。
ぷるん。
そんな聞こえもしないオノマトペが脳裏に浮かぶ。
なんだろう。
カーチャンと同じ感じがする。
俺のラグニードは、女を切り裂く軌道を描く。
加速された思考で、わずかにその軌道をズラした。
おもむろに軌道を変えていくラグニード。
俺の狙いは、もう決まっていた。
『《死域》が解除されました。』
景色が色を取り戻す。
等速に流れ始める時間。
―ザンッ。
鋭い斬撃の音。
カーチャン、魔族、鬼女の横を、ファラチオは駆け抜ける。
手綱を引くと、ファラチオは棒立ちになって嘶いた。
そして、振り返った時。
「なんてことだ……」
俺は目の前の光景に運命を呪った。
「…………くっ」
鬼女は悔しそうに牙を食いしばる。
――ぷるるるんっ!
その胸元が素敵な音を奏でていた。
俺の一撃は、正確に鬼女の鎧を切り裂いていた。
首の僅かに下。
鎧の連結部と、下に着た着物をまとめて。
その赤い肌には傷一つつけていない。
《達人剣術》がキラリと光る。
そして、お目見えしたのは2つの巨峰だった。
ばいんばいんと。
ぷるんぷるんと。
強烈な自己主張を放つ、見事な双乳。
ぷくっと膨れた山頂部にはピンク色の可愛らしい突起。
赤く染まりながらも、見事な美乳で巨乳。
『《自動演算》が発動しました。B98W61H87』
B98。
そのログは、俺の琴線を、断線しそうな勢いで震わせた。
B98。
再び見つめて噛みしめる。
そりゃあね。
セレナやエスメラルダさんには及ばない。
でもダナンさんやカーチャンに匹敵する。
世界トップ5(当社調べ)に食い込むのだ。
企業で言ったらアマゾンさんクラスですわ!!!(転生時のなんとなくな印象ランキング)
アマゾンパイである。
そんなアマゾンパイを、俺は……。
「なんてことだ……」
自分の愚かさに顔を覆ってしまう。
俺は、危うくあのおっぱいを斬ってしまうところだった。
なんて愚かな。
そして、なんて素晴らしい乳だろう。
「ナイスおっぱいだ……」
とりあえず褒めてみた。
これが敵に塩を送るというやつだろうか。
敵ながらあっぱれ……いや、あっぱれというよりおっぱいと言いたい。
敵ながらおっぱい(?)である。
なんか戦国武将みたいな事を考えてしまった。
もう俺は戦国武将と言っても過言ではない。
「……なんのつもりだ、人間」
鬼女が悔しそうに呟く。
あ、やっぱり喋るんだ。
しかも、なかなかに可愛い声だった。
鬼女は俺を思い切り警戒していた。
ジリジリと後ずさりながら、ぷるるるるるんっと揺れる乳を手で――。
「ああああああっ!?」
「!?」
――隠そうとしたのを奇声を上げることで阻止した。
いけないよ。
そんな見事な乳を隠すのは良くない。
あと俺の奇声にビクッとした鬼女ちゃんかわいい。
「くっ……なぜこんな所に脆弱な人間が……とりあえず斬ろう」
って斬るの!?
鬼女は俺を睨みながら、腰の刀に手を這わす。
やだな。
おっぱいとは戦いたくないのに。
「やめよ、シズル」
「……殿」
青い人がおっぱいを止めてくれた。
マジファインプレー。
青い人ナイス。
まだカーチャンを捕まえたままなので許さんが。
「……先の剣筋、只者ではない。見た目や奇行に惑わされるな。気が狂っているのかもしれないが、彼奴は強い」
青い人がめちゃくちゃ俺をディスるんですけど。
「そ、それほどでございますか」
「ああ。貴様の首を取るには十分な一撃だった。貴様が生きているのは、奴が手加減したからにすぎん」
「て、手加減!? な、なぜそんな事を!? 私はコレート砦副司令ですが……」
鬼女ちゃんが俺に怯えた目を向ける。
弑逆心を刺激する目線である。
レイプしたくなるからやめてほしいのだが。
「奴が手加減した理由は……わ、わからん」
「ええ!?」
「戦場で敵将に情けをかける理由がわからん。だから気が狂っていると……」
「くっ……私はキ○ガイに遊ばれたんでしょうか……」
青い男と赤い女がボソボソと俺の悪口を言っていた。
俺はキ○ガイではなく、元SEである。
まあ、所詮は魔物だ。
俺の崇高なおっぱいロジックは理解できないのかもしれない。
所詮は魔物ではあるものの、鬼女ちゃんは普通に抱けるのが生命の神秘。
「貴様は下がっておれ、シズルよ」
「ご武運を……」
青い人がカーチャンを鬼女ちゃんに投げる。
「うっ」
投げられたカーチャンは鬼パイにぼよよんっとぶつかった。
――ぼよよんっとぶつかった。
俺はそのシーンを必死に焼き付けた。
いざという時のオカズにするために。
美女が美女の巨乳に顔を埋めるシーンとか。
「我が名は、グラーフ。グラーフ・ドルゴポロフ。……勇敢な人間よ、名乗るがいい」
グラーフと名乗った青い肌の魔族は、緑色に輝く剣を構える。
ふむ。
強そうな雰囲気である。
「……アサギリ・コウ」
ラグニードと黒曜石の大剣を構えながら名乗ってみた。
先程の奇襲とは違う。
完全な立ち会い。
グラーフの構えは、一切の無駄がなかった。
無骨な巨岩を相手にしているような隙のなさ。
クソ。
苦労しそうである。
「参るぞっ!!」
正眼の構えからの打ち込み。
――キンッ
ラグニードで受けると、ズシンと骨身にしみる重さを感じた。
この魔族の武にかけた時間が滲み出るような一撃。
さぞ鍛錬を重ねたのだろう。
小細工も何もない正直な一撃だが、その分ヤバさを感じる。
掛け値なしに、この男は強い。
「オラッ!!」
黒曜石の大剣を振るう。
狙いは空いている脇腹。
「ふっ!」
ジャリッと火花を散らす緑色の大剣。
ラグニードの剣腹をなぞるように下段に向かう。
――ガギンッ!
あっさりと黒曜石の大剣を防がれてしまった。
やる。
この男相手に手数は意味がない。
「むお……」
俺はあっさりと黒曜石の大剣を消した。
土魔法レベル3:《石形成》で作った剣である。
消すのも自在だった。
受け止めていた黒曜石の大剣を消された魔族はわずかにバランスを崩した。
問答無用の一撃を叩き込む。
電光石火の打ち下ろし。
稲妻のような速度でラグニードが振り下ろされる。
――ガギッ!
当然のように受け止められた。
バランスを崩しながらも器用なものである。
「ふふっ」
グラーフは不敵な笑みを浮かべる。
楽しそうだな、おい。
「くは」
まあ、俺も笑ってしまうのだが。
悪くないかもしれない。
己の強さを、思う存分ぶつけられる相手というのは。
女を抱く方が楽しいし、好きではあるが。
こういうのもたまにはいい。
「……仕切り直すぞ、アサギリ」
「ああ」
再び距離を取って、お互いに構えた。
目の前の魔族は、頑丈そうである。
どっかのジジイと違って本気を出しても大丈夫そうだ。
「「はっ!!」」
昼下がりの陽光に、二本の魔剣が交差した。
そして、死合が始まる。
俺とグラーフの剣は拮抗していた。
お互いの剣技を全てぶつけ合う。
ビリビリと震える大気。
「くっ!!」
グラーフの横薙ぎをラグニードで受ける。
すかさず反撃の突き。
「うおおおっ!!」
巨体を捻るようにして躱すグラーフ。
素早い反応。
見事な体捌きだった。
――ギンッ!
全体重の乗った横薙ぎを受け止める。
やばいなこれ。
一度でも判断を誤ったら首が飛ぶ遊び。
刹那の判断と、数手先の読み合い。
脳がヒリヒリする。
「ふはははっ!!」
グラーフが歯をむき出しにして笑っていた。
この状況を楽しんでいるらしい。
なかなかにこいつも狂っている。
「悪いが、俺はこんなもんじゃないぜ?」
軽く挑発してみた。
「俺もだ!!!」
あっさり乗ってくる。
そして、俺達の死合は速度を上げていく。
「オラアアアアアッ!!」
「ウオオオオオオッ!!」
火花が舞う。
景色は刃に塗りつぶされる。
悲鳴を上げる思考。
剣戟の音で耳が麻痺しそうだ。
上段から振り下ろし。
下段を薙ぐ。
更に横薙ぎ。
喉元を小手でガード。
突き。
上。
右。右。
腹。
左。
小手。
上。
上。
左。
絶え間なく繰り出される攻撃。
最小限の動きで対応して反撃する。
ただ最善手を打ち合うだけ。
摩耗して判断を間違えたら、終わり。
「……す、すごい」
「まるで嵐のようだ……」
女の声が遠くから聞こえる。
カーチャンと鬼女ちゃんだろうか。
二人の美女の前だ。
たぎる。
「ぐおおおおおっ!!」
俺の視界を埋めるのは、汗だくの魔族だが。
――ギンッ。
俺と魔族の剣が再び交差した。
奇しくも力比べのような構図になる。
筋力ブーストを目一杯効かせても微動だにしない緑色の大剣。
こいつもかなりの馬鹿力だ。
「……このままでは埒が明かぬな」
苦し紛れにそんな強がりを言う魔族。
額に玉の汗を浮かべているくせによく言う。
……まあ、俺もかなり消耗しているが。
さっきから疲労耐性のログはずっと出ている。
お互いに限界は近いのかもしれない。
まあ、負ける気はないが。
『《死域》が発動しました。』
カーチャンもいるのだ。
ここで決めさせてもらう。
本日2度めの死域だが、まだまだMPには余裕がある。
黒く染まる景色。
スローモーションになる世界。
ピタリと止まったグラーフ。
緩やかながらもラグニードは確実に動き出す。
狙うは、その首。
ラグニードはゆっくりと魔族の首に吸い込まれていった。
なかなかの強敵だった。
こんなチート技で殺してしまうのはもったいないくらいの。
「くそ」
柄にもない感情を抱いてしまって毒づく。
情けというか、寂しさというか。
しかし、目的を間違えてはいけない。
俺の一番は、女達である。
事実上俺の女であるカーチャンを救うために、この男は邪魔なのだ。
悪いな。
そう小さく侘びながら、ラグニードが魔族の首に食い込むのを眺めていた。
――ピキリ。
瞬間。
黒く染まった世界に亀裂が交じる。
まるでガラスのように。
――ガラン。
俺の死域は砕けていった。
はあ!?
「ぐっ!!!」
流れ出した世界。
間一髪のタイミングでグラーフは顎を引く。
ぶんっと空を斬るラグニード。
はああ!?!?
俺は理解できないまま、腹を蹴飛ばされた。
咄嗟に後方に下がって勢いを殺す。
ノーダメージ。
わけも分からず着地すると、グラーフの大剣が淡く光っているのが見えた。
「……魔剣龍哭丸。俺に迫る死の因果を断ち切る剣よ」
グラーフがよくわかんない事を言っていた。
日本語で頼みます。
「死の因果……なるほど。先程、私の細雪を破ったのもその魔剣の権能か?」
「然り」
カーチャンは理解したそうで苦しそうに呟いていた。
さすがである。
なんかよくわからんけどチート級の魔剣なのはわかる。
え、ずるくない?
「アサギリ。先の一撃は見事だった。魔力の減りがジークリンデの10倍以上だったぞ」
「まだ何度か発動できるぜ?」
MPの残り的にはあと二回くらいはいける。
なんかよくわからんが、こいつはここで仕留めておいた方がいい気がする。
「俺の魔力とて、まだ余裕はある。……しかし、困ったな。貴様の攻めは防げても、貴様を殺す術が俺にはない。ここまでの使い手と出会ったのは初めてだ。アサギリよ」
なんか褒められたが、全然うれしくない。
とはいえですよ。
ふーむ。
死域が防がれると、俺にもこいつを殺す術がないかも。
いや、まだ火魔法とか色々あるけど、なんか効きそうにない感じがする。
「……殿、そろそろ限界かと」
「そうか」
鬼女ちゃんがグラーフの耳元で囁く。
艶やかな口紅がやけに目についた。
何あれエロい。
俺もやってもらいたい。
辺りを見渡せば、復活したエルフ兵達がオーク共を殲滅しつつあった。
戦は決着しつつある。
「あるじ、あるじー!!」
フェルちゃんが両手を真っ赤にしながら飛んでくる。
何あれオークの血?
ばっちいな。
フェルちゃんが来たならもう決まったようなもんだけど。
「……勝負は預ける。またなアサギリ」
しかし、グラーフは全く焦りもせずにそんな事を言った。
そしてあっさりと馬腹を蹴って後退しだす。
はあ?
またなじゃねえっての。
この状況で逃げられるわけねえだろうが。
周囲は完全にエルフ兵が取り囲んでいるのだ。
「オークにゴブリン共!! 俺を逃がせ!!」
グラーフの大音声。
その声に反応するように、殲滅されつつあったオークとゴブリンが息を吹き返した。
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「な、なんだこいつら突然!?」
「もうほぼ死んでいるのに……」
オークとゴブリンが狂ったように反撃を始める。
己を攻撃されるのも厭わずに暴れまわっている。
グラーフを逃がすように。
え、まじで??
このまま逃げられちゃう感じ??
グラーフと数騎の魔族たちは、戦場を離脱していくのが見えた。
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まあ、ルーナの種族だしな。
「くっ! ジークリンデ様!?」
カーチャンの側付き騎士が狂ったようなオークと戦いながら呻く。
ああ、それは俺もわかっている。
カーチャンを捕まえたままの鬼女ちゃんもグラーフについて撤退していた。
だけど、逃がすわけねえから。
《火形成》発動。最大魔力。
――ゴウッ!!
走り去るグラーフたちの前に極大の火の壁を出現させた。
その高さ10メートル。
巨大なビルのような高さの火壁がグラーフたちの行く手を阻む。
「ぬうっ!!」
しかし、躊躇いもせずに火壁に突っ込んでいくグラーフ。
まじで???
「打ち砕け――龍哭丸!!!」
パリンと、火壁の一部があっさりと消える。
チート!!!!
何そのずるいチート!?
「くっ!!」
しかし、鬼女ちゃんや魔族騎士たちは火の壁に普通に止まってくれた。
チャンスである。
咄嗟にファラチオを走らせた。
「急げ!! 間に合わなかったら、お前を桜ユッケにするかんな!!」
「GURAAA!!」
ファラチオの桜ユッケとかものすごく不味そうだが。
とりあえず、ファラチオは速度を上げた。
「なっ!? 人間!?」
鬼女ちゃんに追いつくと、俺を見てビビりまくっていた。
グラーフとやったチャンバラがだいぶ効いたらしい。
「くっ、貴様は魔族にとって危険だ! ここで――ぐっ」
刀を抜こうとした鬼女ちゃん。
咄嗟に接近して、ラグニードの柄で腹を殴る。
グラーフと違ってこの子の技量は、俺とは遥かな差がある。
このくらい楽勝だった。
あっさりと気絶する鬼女ちゃんを抱きとめる。
この子は殺さない。
おっぱいは殺さない、絶対に。
「ア、アサギリくん……」
鬼女ちゃんの馬の背中に縛り付けられていたのはカーチャンだった。
多少よろよろしているが、無事そうだ。
安心した。
「助けに来ましたよ、カーチャン」
「う、うん。ありがとう……」
カーチャンは俺を見て、目をうるませていた。
娘と同じで涙もろい。
とりあえず、カーチャンの顔を覗き込む。
プラチナブロンド美女のエメラルドの瞳には、俺の顔が写っていた。
娘と同じで美しい。
まあ、これくらいはご褒美でいいべ。
「アサギリくん、ちょっと近、あっ……うむっ……んっ」
カーチャンの唇。
暖かくて柔らかい。
そして人妻の芳醇な香りがする。
燃え盛る火炎の中で、俺はアナスタシアさんとキスをした。
がんばったご褒美である。
人妻キッスうめええええええ!!!
「んうっ……ちゅっ……あさ、あさぎりくん……」
カーチャンの手が、俺の頭を抱き寄せる。
結構、乗ってくれる。
お返しとばかりに、その華奢な体を抱きしめた。
柔らかい。
溢れ出るカーチャンの唾液をごくごく飲みながら、俺の股間はフルボッキしていた。
もうここでちんこいれたい。
その時だった。
『火魔法LV3を取得しました。』
『火魔法LV3:《光形成》が使用可能になりました。』
おお。
なんか火魔法がレベルアップした。
このタイミングでなぜ。
俺の溢れ出るパトスが熱と成って、火魔法の経験値に――!?
なったのではなく、普通に火壁を出し続けていたからだろう。
MPが尽きかけて、火の勢いがだいぶ収まっていた。
まあ、今そんな場合ではないので火魔法のことは置いておくが。
「……ちゅぷ、アナスタシアさん……」
唇を離して、カーチャンを熱く見つめる。
アサギリ・コウ。
ここで決める!!
「……はあ、はあ、あ、アサギリくん……」
頬を火照らせながら、俺に潤んだ瞳を向けるカーチャン。
その呼吸は荒く。
すべすべの頬に手を這わせると、おずおずと俺の手に触れてくる。
かわいい。
もう脱がす。
辛抱たまらなくなった俺は、その胸元の鎧に手をかけ――。
「あるじ、あるじー!!」
――た、所で飛んできたフェルちゃんに邪魔された。
あのトカゲーーー!!!
「んだよっ!? 今いいとこなんだよ!!! 場所をわきまえろよ、トカゲがっ!!!!」
「ええ!? ば、場所ってここは戦場だよ?」
たしかに。
トカゲのくせに正論を言う。
ふとここがラブホテルだと勘違いしていた。
うっかりうっかり。
「……は、はわわ。義息とちゅーしちゃった。ちゅーしちゃった!!」
腕の中では、アナスタシアさんが真っ赤になって身悶えていた。
可愛かったので、むっちり太ももを撫でておく。
「う、ううっ……」
ついでに気絶した鬼女ちゃんの巨乳も揉みしだく。
ええ乳や。
「あ、あるじ!! そんなことより、あいつが逃げちゃうよ!?」
またしてもトカゲが横槍を入れる。
なんて邪魔なトカゲだろう。
そういう生意気な事は乳首生やしてから言えよ。
この健全おっぱいが。
フェルちゃんが言ったとおり、グラーフの背中はだいぶ小さくなっていた。
このままでは普通に逃げられてしまうだろう。
とはいえ。
「アサギリくん……」
「うう……」
俺の腕の中にいるカーチャンと鬼女ちゃんを前にしては、あの魔族はだいぶ霞む。
俺の興味はどんどん薄れていった。
「まあ、もういいや。あいつはお前に任せるわ。……つうか、お前。そろそろ役に立たないと捨てるからな」
「ええええええええ!?」
この戦に来てから大した活躍をしていないトカゲにそんなセリフを残して、カーチャンの太ももと鬼女ちゃんの乳を触る作業に戻った。
至福の時間である。
俺の戦は、既に終わっていた。
「ア、アサギリくん! そんなエッチなことばかりしちゃ駄目じゃないか!!」
いえ、しますけど。
「あるじ!!! なんで捨てるとか言うの!? ……が、がんばるから!! 我、本気出すから!!! え、えーいっ!!!」
なんか必死になりながら、巨大化していくフェルちゃん。
久しぶりなドラゴンモードに変身するらしい。
今更すぎて、見ているのが辛い。
まあトカゲに興味は皆無なのでどうでもいいのだが。
『おええっ!!』
トカゲが特大ビームを吐いているが、本当に今更だ。
辺りの地形が変わるくらいの大爆発が起きていたが、本当に今更だ。
――ぱりん。
――ぱりん。
遠くで、聞き覚えのある嫌な音が聞こえてきた。
フェルちゃんの今更ビームでグラーフが死んでたらいいなと思いましたまる。
カーチャンと鬼女ちゃんを抱き寄せながら、そんな事を考えた。
そして、俺達のコレート山脈砦攻略戦は勝利に終わったのだった。
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