241 / 299
第六章 エルフ王国編
幕間 頂上決戦
しおりを挟む
セレナとエスメラルダの戦いは熾烈を極めていた。
繰り出される爪と弓の応酬。
超高等魔法の放ち合い。
2人の闘いは、余人の介入を許さず。
ただただ、エルフの国を激震が襲う。
「小癪なっ!」
「まだよ!」
魔術を極めし者だけが辿り着ける深淵魔法。
時間を操る能力に開眼した2人は、全く別の世界を見ていた。
ピタリと歩みを止めた世界。
慌てふためくエルフたちも。
唖然とした表情でセレナを見つめる少年も。
破壊される町並の崩壊すらも止まった世界。
動いているのは、吸血鬼の真祖と千年を生きるエルフの英雄だけ。
「殺った!!」
「ぐっ」
エルフの英雄が黄金の弓を吸血鬼に叩きつける。
弓とはいっても、その両端には鋭く光る刃が覗く。
弓槍とでも呼ぶべきその黄金の弓は、世界に数本しかない神によって作られた武器。
神器アルテミス。
アルテミスは吸血鬼の絶対防御を突き破る。
とっさに腕を組んでカードするセレナ。
その美しい細腕からは、真紅の血が滲む。
「舞え、眷属よ!」
赤く輝くセレナの瞳。
吸血鬼の固有技能――血流操作。
セレナの腕から滲んだ血液は、宙を舞い、エスメラルダに襲いかかった。
僅かの血液は、分子レベルまでに分裂し、数ミクロンの鋭い刃となる。
その小ささ故に、回避は不可能。
本人すら気づかぬ内に、細胞を傷つけられる猛毒となる――はずだったのだが。
「化け物めっ!」
エスメラルダは全身から魔力波を放って宙を舞う。
魔力波によって打ち消される吸血鬼の血流。
お互いの距離が開いたことを契機に、2人は大規模魔術を構築していく。
人間の魔術師であったのなら数時間はかかるであろう詠唱。
2人はそれを一呼吸の間にやってのけた。
「「天罰魔法」」
魔術の奥義となる枕詞。
2人の美声が重なった。
「ダイダロス・ウェーブ!!!」
「シルフィード・サイクロン!!!」
セレナから放たれる極大の水の渦。
世界の終わりを予感させる大洪水。
対するエスメラルダは空を切り裂かんが程の、荒れ狂う嵐を召喚していた。
生きとし生ける者、全てを風の彼方に葬り去る嵐。
水渦と嵐が衝突する。
世界樹が、激しく脈動した。
水の猛威が世界を飲み込み、嵐が全てを薙ぎ払う。
そして、対消滅。
激しすぎる魔力行使に2人の時間魔法が一瞬途切れる。
再び動きだす辺りの景色。
何事もなかったかのような様相。
止まった時間の中で、終末の大災害が起こっていたと気づくものはいない。
2人は再び衝突した。
あれから、どれだけの時がたったのだろう。
空中に浮かぶ2人の美女が見せる疲労の色は濃い。
度重なる大魔法と深淵魔法の行使に、魔力回路が悲鳴を上げていた。
「流石じゃのう……妾とここまでやり合えるのは、世界広しといえどもお主くらいじゃろうて」
肩で息をつきながらも、エルフはその整った相貌に笑みを浮かべる。
「それはこっちのセリフよ……妖怪ババアが……」
同じく呼吸を荒くするセレナは必死の悪態をつく。
「ババアじゃと……?」
エルフは形の良い眉をピクリと吊り上げた。
その言葉が、エルフを酷く怒らせるとセレナは知っていた。
とはいえ、手詰まりだった。
現在までの戦況は、互角。
普通だったら切り札になるはずの時間魔法は、このエルフには通用しない。
ふと地上を見れば、愛おしい少年はすでにこの場にはいない。
きっとあの生意気な小娘を迎えに行ったのだろう。
この化け物じみたエルフを足止めするのは、あと少しで良いはず。
セレナは覚悟を決めて、魔力を振り絞った。
その時、エスメラルダは嫌な予感に襲われていた。
対峙する銀髪の吸血鬼が両手にバカみたいな魔力を集中させている。
右手に感じるのは、自分もよく知る時間の力。
では左手は?
時間の力ではないが、濃厚な深淵の魔力を感じる。
まさか。
「これはいつか神に仕返しする為に準備していた魔法よ。光栄に思いなさい」
吸血鬼の神との因縁を知るエスメラルダは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
呪いだらけで弱っていた一人の少女が、700年の時を経て完成させた魔法。
まさかの――深淵魔法の多重詠唱。
「アナザーディメンション!!!」
時間と空間を操るものだけが開ける異次元の門。
両手を頭上で合わせたセレナから解き放たれた異次元空間。
エスメラルダは為すすべもなく、次元の渦に飲み込まれていく。
「くっ――セレナアアアアアアアア!!!」
エスメラルダの悔しそうな声を聞きながら、セレナは枯渇する魔力に顔をしかめていた。
こんなに魔力を使ったのは何百年ぶりか。
エスメラルダ。
次元の彼方に葬り去られて、この場にはいないエルフを思って、セレナはため息をついた。
神を殺すための魔法を使わされるなんて。
いくつか用意していたとはいえ、セレナにとっては大誤算だった。
これは、後でコウにいっぱいお礼してもらわねば。
いっぱいいっぱい愛してもらおう。
そんな事を考えながら、セレナが地上に降りようとした時。
――ピシッ。
空間に亀裂が入る。
ボロボロと、割れた鏡のように崩れ落ちる空間。
その中から、真っ白な美しい手が伸びる。
まさかもう出てきたというのか。
「……どんな抗魔力してんのよ。化物はあなたでしょう」
「……まだまだ小娘には負けん」
完全に顕現したエスメラルダは、血走った目でそんな憎まれ口を叩く。
しかし、消耗は激しいようでその全身はボロボロだった。
美しかった黄金と純白の鎧は、あちこちが崩れ、その美しい肌が顕になっている。
さて、どう止めを刺してやろうかしら。
セレナがそんな事を考えた時だった。
――ワアアアアアアアアアッ!
急に巻き起こる大歓声。
地上の大聖堂からだった。
セレナとエスメラルダは、中で何かとんでもないことが起こったのを悟った。
繰り出される爪と弓の応酬。
超高等魔法の放ち合い。
2人の闘いは、余人の介入を許さず。
ただただ、エルフの国を激震が襲う。
「小癪なっ!」
「まだよ!」
魔術を極めし者だけが辿り着ける深淵魔法。
時間を操る能力に開眼した2人は、全く別の世界を見ていた。
ピタリと歩みを止めた世界。
慌てふためくエルフたちも。
唖然とした表情でセレナを見つめる少年も。
破壊される町並の崩壊すらも止まった世界。
動いているのは、吸血鬼の真祖と千年を生きるエルフの英雄だけ。
「殺った!!」
「ぐっ」
エルフの英雄が黄金の弓を吸血鬼に叩きつける。
弓とはいっても、その両端には鋭く光る刃が覗く。
弓槍とでも呼ぶべきその黄金の弓は、世界に数本しかない神によって作られた武器。
神器アルテミス。
アルテミスは吸血鬼の絶対防御を突き破る。
とっさに腕を組んでカードするセレナ。
その美しい細腕からは、真紅の血が滲む。
「舞え、眷属よ!」
赤く輝くセレナの瞳。
吸血鬼の固有技能――血流操作。
セレナの腕から滲んだ血液は、宙を舞い、エスメラルダに襲いかかった。
僅かの血液は、分子レベルまでに分裂し、数ミクロンの鋭い刃となる。
その小ささ故に、回避は不可能。
本人すら気づかぬ内に、細胞を傷つけられる猛毒となる――はずだったのだが。
「化け物めっ!」
エスメラルダは全身から魔力波を放って宙を舞う。
魔力波によって打ち消される吸血鬼の血流。
お互いの距離が開いたことを契機に、2人は大規模魔術を構築していく。
人間の魔術師であったのなら数時間はかかるであろう詠唱。
2人はそれを一呼吸の間にやってのけた。
「「天罰魔法」」
魔術の奥義となる枕詞。
2人の美声が重なった。
「ダイダロス・ウェーブ!!!」
「シルフィード・サイクロン!!!」
セレナから放たれる極大の水の渦。
世界の終わりを予感させる大洪水。
対するエスメラルダは空を切り裂かんが程の、荒れ狂う嵐を召喚していた。
生きとし生ける者、全てを風の彼方に葬り去る嵐。
水渦と嵐が衝突する。
世界樹が、激しく脈動した。
水の猛威が世界を飲み込み、嵐が全てを薙ぎ払う。
そして、対消滅。
激しすぎる魔力行使に2人の時間魔法が一瞬途切れる。
再び動きだす辺りの景色。
何事もなかったかのような様相。
止まった時間の中で、終末の大災害が起こっていたと気づくものはいない。
2人は再び衝突した。
あれから、どれだけの時がたったのだろう。
空中に浮かぶ2人の美女が見せる疲労の色は濃い。
度重なる大魔法と深淵魔法の行使に、魔力回路が悲鳴を上げていた。
「流石じゃのう……妾とここまでやり合えるのは、世界広しといえどもお主くらいじゃろうて」
肩で息をつきながらも、エルフはその整った相貌に笑みを浮かべる。
「それはこっちのセリフよ……妖怪ババアが……」
同じく呼吸を荒くするセレナは必死の悪態をつく。
「ババアじゃと……?」
エルフは形の良い眉をピクリと吊り上げた。
その言葉が、エルフを酷く怒らせるとセレナは知っていた。
とはいえ、手詰まりだった。
現在までの戦況は、互角。
普通だったら切り札になるはずの時間魔法は、このエルフには通用しない。
ふと地上を見れば、愛おしい少年はすでにこの場にはいない。
きっとあの生意気な小娘を迎えに行ったのだろう。
この化け物じみたエルフを足止めするのは、あと少しで良いはず。
セレナは覚悟を決めて、魔力を振り絞った。
その時、エスメラルダは嫌な予感に襲われていた。
対峙する銀髪の吸血鬼が両手にバカみたいな魔力を集中させている。
右手に感じるのは、自分もよく知る時間の力。
では左手は?
時間の力ではないが、濃厚な深淵の魔力を感じる。
まさか。
「これはいつか神に仕返しする為に準備していた魔法よ。光栄に思いなさい」
吸血鬼の神との因縁を知るエスメラルダは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
呪いだらけで弱っていた一人の少女が、700年の時を経て完成させた魔法。
まさかの――深淵魔法の多重詠唱。
「アナザーディメンション!!!」
時間と空間を操るものだけが開ける異次元の門。
両手を頭上で合わせたセレナから解き放たれた異次元空間。
エスメラルダは為すすべもなく、次元の渦に飲み込まれていく。
「くっ――セレナアアアアアアアア!!!」
エスメラルダの悔しそうな声を聞きながら、セレナは枯渇する魔力に顔をしかめていた。
こんなに魔力を使ったのは何百年ぶりか。
エスメラルダ。
次元の彼方に葬り去られて、この場にはいないエルフを思って、セレナはため息をついた。
神を殺すための魔法を使わされるなんて。
いくつか用意していたとはいえ、セレナにとっては大誤算だった。
これは、後でコウにいっぱいお礼してもらわねば。
いっぱいいっぱい愛してもらおう。
そんな事を考えながら、セレナが地上に降りようとした時。
――ピシッ。
空間に亀裂が入る。
ボロボロと、割れた鏡のように崩れ落ちる空間。
その中から、真っ白な美しい手が伸びる。
まさかもう出てきたというのか。
「……どんな抗魔力してんのよ。化物はあなたでしょう」
「……まだまだ小娘には負けん」
完全に顕現したエスメラルダは、血走った目でそんな憎まれ口を叩く。
しかし、消耗は激しいようでその全身はボロボロだった。
美しかった黄金と純白の鎧は、あちこちが崩れ、その美しい肌が顕になっている。
さて、どう止めを刺してやろうかしら。
セレナがそんな事を考えた時だった。
――ワアアアアアアアアアッ!
急に巻き起こる大歓声。
地上の大聖堂からだった。
セレナとエスメラルダは、中で何かとんでもないことが起こったのを悟った。
1
お気に入りに追加
1,238
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる