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第六章 エルフ王国編
第209話 セランディア・クエスト ④
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「それで、今日は何がご入り用なのでしょうか?」
ケイトさんに改めてそう聞かれると、少しためらってしまう。
ご入り用なのは武器なのだが、普通に考えて武器の置いてあるコンビニってどこのヨハネスブルクだよ。
店内を見回してみても、日用雑貨が置いてあるだけで、武器なんてなさそうだし。
いくらなんでも武器なんて――。
「ございますよ。あなた?」
「わかったよ、ケイト!」
――あるらしい。
ケイトさんのコンビニには死角がない。
店長の指示を受けたバイトくんが奥からガラガラと大きな戸棚を引っ張ってくる。
まさかの拡張収納。
戸棚には、剣や槍、斧、弓、棍棒など、様々な武器が陳列されている。
それぞれの種類も豊富で、きらびやかな物、無骨な物、意匠の凝った物、実用に優れた物など、様々だ。
というか急に出てきた割には商品数が半端ない。
パッと見ただけでも百種類を超えている気がする。
つうか、この棚何キロあるんだよ。
「はぁはぁ、ぜぇぜぇ」
棚を引っ張ってきたバイトくんは、もともとやつれていたのに、更に疲労困憊している。
まあ、俺のケイトさんの旦那とかラリった事を言っているのでいい気味なのだが。
「あなた? 防具の棚があと3つほどあるでしょう? 早く出してくださいな」
「ええ!? わ、わかったよケイト!」
ケイトさんが血も涙もないことを命令して、バイトくんはヘロヘロになったまま、更に巨大な棚を奥から引きずり出してくる。
下にキャスターのようなものがついているようだが、重量はきっと百キロを超えているだろう。
更に3つの巨大棚を俺たちの前に出してくれた頃には、バイトくんは燃え尽きたように真っ白になっていた。
日用雑貨店からあっという間に武器屋にモードチェンジするケイトさんのコンビニ。
侮れない。
「あなた、そんなとこにへたり込んでないでさっさと在庫整理に戻ってくださいな。時は金なりよ?」
「け、ケイト!?」
燃え尽きていたバイトくんをケイトさんが更に追い込んでいた。
漂う濃厚なブラック臭が何かの記憶を呼び起こそうとして頭が痛む。
よろよろと店の奥に向かっていくバイトくんを見送りながら俺は思った。
あれは旦那っていうか奴隷だ。
ケイトさんが浮気してなかったようでよかったよかった。
「さあ、御覧くださいな。我が店の自慢の武具ですわ」
ケイトさんが極上の営業スマイルで武具棚に掌で向ける。
「あの……ご主人が足を引きずってましたけど大丈夫ですか?」
「うわー! 可愛いのがいっぱいある! ワクワクしてきた!!」
バイトくん改め奴隷くんを心配する優しいミレイに、武器を見て可愛いとか言い出すルーナ。
そんなルーナのセンスは気になるが、ワクワクするのはわかる。
3つある防具棚には、何体ものマネキンが並んでいる。
マネキンが着込んでいるのは様々な防具。
重厚な全身鎧に、動きやすそうな革鎧。
金縁の施された高そうな鎧もあれば、シンプルな鉄製の鎧もある。
中には禍々しい形をしたいかにも呪われていそうな鎧まであった。
暗黒騎士の琴線にビンビン触れてくる。
「こちらの村はなぜか平和ですが、今は乱世ですので。商人としては武具を取り扱ってこそ一人前。私が各地を回って収集したよりすぐりの一点物ばかりですわ」
ケイトさんが自慢げに言うだけあって、陳列された武具はどれも質が良さそうだった。
まあ、武具なんて見慣れていないので完全に勘だが。
「……コウ?」
ルーナがくりくりとした青い瞳を上目遣いにして見つめてくる。
それが、おねだり目線であることは、長い付き合いでわかっていた。
軽くイラッとするが、かわいいのは間違いない。
「なんでも好きなものを選びなさい。ミレイもな」
「やったー! いこう、ミレイ」
「は、はい!」
ルーナとミレイが嬉しそうに武具を物色しに行った。
武具というのが色気がないが、自分の女にものを買ってやるのは気分がいい。
そういえば、いつだったか王都で買い物をして以来なのだ。
たまにはこういうのもいいだろう。
俺は壁にもたれかかって、きゃいきゃいとはしゃぐルーナとミレイを眺めていた。
そして、漠然とした不安に襲われる。
武具っていくらすんの……?
平和な日本で育ったせいか、相場が全くわからない。
手持ちの現金は金貨10枚と銀貨1枚。
日本円にして、百万と千円。
うち百万円は女から貢がれたものという、なかなかのクズヒモマネーだ。
これで二人分の装備って買えるんだろうか。
結構な大金な気がするが、かつてこんな感じで指輪を買いに行って、3億円の借金を負ってしまった。
なんか嫌な予感がする。
そんなわけで、ニコニコと完璧な営業スマイルを浮かべているケイトさんにこっそりと聞いてみた。
「……あの、つかぬ事を伺いますけど、あの二人の装備って金貨10枚で買えますよね?」
だいぶかっこ悪いことを聞いてしまったが、ケイトさんは静かに頷くと、同じように声を潜めながら答えてくれた。
いろいろと察してくれたらしい。
「……中には多少足が出てしまうものもございますが、そこは勉強させて頂きますわ。ご安心くださいませ」
そう言って、にっこりと微笑むケイトさん。
出来る女過ぎて怖い。
ケイトさんが保険の外交員さんとかじゃなくて良かった。
尻の毛まで毟られそうだったので。
とはいえ、金貨10枚でなんとかなりそうなので、ホッとする。
その時、ケイトさんの眼が鋭く光った気がした。
「……ところで、領主様は買われないんですの?」
ケイトさんが不思議な事を聞いてくる。
俺の装備を買う余裕なんてなさそうなんだが。
ルーナとミレイの装備でギリギリっぽいのに。
「お金のことはご安心くださいませ。私共は様々なお支払い方法を用意してございます。ツケ払いはもちろん、別の金銭的価値のあるもので支払っていただくと言う方法もございますわ」
ケイトさんがスススっとすり寄ってくる。
ふわりといい匂いがして、ドキドキする。
なんか不穏な事を言っているのが気になるが。
もうこれ以上借金をするのは嫌なんだけど。
「……実はすでに、領主様のお好みに合わせた商品を入荷してしまいましたの。……領主様の男らしいところ見せていただきたいですわ」
ケイトさんはピッタリと密着してくると、俺の胸板に指を這わせて、「の」の字を描く。
普通に勃起した。
なんかいろいろとどうでも良くなってくる。
「……まあ、とりあえず見るだけなら」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、ケイトさんのプリンとした尻に手を伸ばそうとした。
こんな過剰スキンシップをしてくるのだ。
尻を触るくらいいいべ!
「良かった! さすが領主様! ……あなた? 例のものを持ってきてちょうだい!」
すばやく離れていくケイトさん。
尻を狙っていた俺の手が、虚しく空振る。
えええ!? と文句を言おうとするが、ケイトさんが満面の営業スマイルを浮かべるせいで何も言えない。
今、仕事中ですけど何か? みたいな感じを出されるのだ。
くそう、営業時間外に夜這いを掛けてやる。
「わかったよ! 少し待っててくれ、ケイト」
店の奥から奴隷くんの声が聞こえた。
どうでもいいのだが、奴隷くんが良いように使われ過ぎてて胃が痛い。
在庫整理中だったんじゃ……。
というかですよ。
つい「見るだけなら」とか言ってしまったが、俺は武具など買う気はない。
鎧ならセレナのがあるし、武器も王様がくれたラグニードがある。
なんなら武器なんて魔法で作れるし。
だいたい……。
ふと、脳裏に家の床の間にひっそりと飾られたデスサイズの事が偲ばれた。
――俺が本当に欲しい武器なんて。
そうひっそりと考えて、黄昏ていると。
「はあはあ、こ、これかい、ケイト? ふうふう」
ものすごく重そうに奴隷くんが宝箱を引きずってくる。
そうそれは紛うことなき宝箱だった。
赤くて、装飾の施された派手派手しい箱。
正直、リアルで初めて見たけど、なんかワクワクする。
棺桶くらいのバカでかさなのが気になったが。
「あがっ、こ、腰が!! ああああっ!!」
俺たちの前まで運んできた所で、奴隷くんが倒れたままピクリとも動かなくなる。
どう見てもギックリしちゃった感じなのだが。
「さあ、開けてみてくださいな」
ケイトさんが完全に無視しているので、俺は宝箱を開けてみることにした。
そして、中身を見て硬直する。
「あら、あなた。何を寝ているの? さっさと在庫整理に戻ってくださいな」
「ケ、ケイト!?」
ケイトさんの奴隷くんがコントみたいなことをしていたが、全く頭に入ってこない。
俺の眼は、箱の中に注がれたままだ。
だって、そこに入っていたのは。
長さは1メートル半ほど。
無骨な黒鉄の長い柄。
その先端から、鋭利な刃が蠱惑的な曲線を描いて伸びている。
まるで命そのものを刈り取るかのように。
刃には美しい刃紋が浮かび、その切れ味の鋭さを想像させる。
死神が持つに相応しい武器。
そう。
箱の中に入っていたのは。
「デスサイズじゃん!!!!」
完全なる死神の大鎌だった。
これぞ暗黒騎士の武器!!
かつて俺がネットの世界でブンブンと振り回しまくった武器だった。
しかも、土魔法で再現したやつより何倍もかっこいい!
「ふふふ。ルーナ様から情報収集した甲斐がございましたわ。気に入って頂けたようで何よりです」
気に入るも何も!!
したり顔を浮かべるケイトさんが怖かった。
このコンビニ、ニーズに応えすぎだろう!!
俺が欲しいもの直撃じゃん。
クリティカルヒットじゃん。
もう買うしかない。
けど。
「……ちなみに、これいくらなんすか?」
箱に鎮座するデスサイズは重厚な雰囲気を漂わせていて、どう考えても高そうなのが気になった。
ルーナとミレイの装備を買った余りで買える気がしない。
「金貨100枚程ですわ」
鼻血が出そうになった。
いやいやいや。
予算の10倍ですやん。
ルーナの結婚指輪買った時より酷いですやん。
デスサイズは欲しいけど、さすがに一千万はないわ……。
「じゃ、じゃあ、やめとき……」
「まあまあ、とりあえず手にとってみてくださいな。この商品の真価は見ただけじゃわかりませんのよ?」
しょんぼりと諦めようとしたら、ケイトさんがそんな事を言ってくる。
真価ってなんだよ。
まあ、せっかくだから持ってみたいけど。
そんなわけで、デスサイズに手を伸ばす。
ひんやりとした鉄の感触。
ズシリと感じる頼もしい重み。
そして。
――力が欲しいか。
「ええええ!?」
なんか脳裏に声が聞こえた。
――力が欲しいか。
しかも、すげえ厨二病っぽいこと言ってる!?
ワクワクする!!
「どうですか? 聞こえましたか? 一応魔剣の一種ですの。……まあ、声が響くってだけで別になんの効果もないんですけどね」
それなんの意味があんの!?
――力が欲しいか。
これ言ってるだけなのかよ。
が、しかしである。
「……嫌いじゃない」
この無駄さ。
ロマンがあっていいじゃないと思うのだ。
「良かった!! こんなの欲しがるのなんて、世界広しと言えども領主様しか――ゲフンゲフン……世界で領主様のためだけの一品ですわ! 賭けでしたが、仕入れた甲斐がありました」
意外とギャンブラーなケイトさんは、良いことを言っていた。
世界で俺のためだけの一品。
え、すげえ欲しい。
でもなー。
金が……。
「ご安心くださいな。私も鬼じゃありませんわ。領主様が払えない商品なんて、売りつけるわけがございません。……この書類にちょちょっとサインしていただくだけで……あ、拇印でも結構ですのよ」
ケイトさんは菩薩のような笑みを浮かべて、俺の親指にせっせとインクを塗ってくれる。
こっちの文字の読み書きができない俺を気遣って。
なんて優しいんだろう。
安心できるわー。
しかも、紙切れに拇印を押すだけでデスサイズ買えるらしい。
おサイフケータイなみの気軽さだわー。
「ちょっと待ってください!!!」
割って入ってきたのは、お買い物を楽しんでいたミレイだった。
何やら血相を変えて、ケイトさんの紙切れを熟読していく。
「こ、これ……エレインさんの人身売買契約書じゃないですか!?」
「えええ!?」
ミレイがドン引きする事を言っていた。
何その物騒な契約書。
いやいや、いくらなんでもケイトさんがそんなもんに拇印押せと言うわけが……。
そんな事を考えながら、ケイトさんの顔をちら見すると。
「……ちっ」
ものすごく悪い顔で舌打ちをしていた。
ケイトさん!?
鬼じゃないとか言ってたけど、完全に鬼畜じゃん!!
「……大丈夫ですわ。人身売買と言っても、ちょびーっと身体を売るだけの簡単なお仕事です」
全然大丈夫じゃなかった。
というか、俺の拇印でエレインの人身売買なんて成立するわけないのだが。
「そこは、ほら……エレイン様もただの女。なんだかんだと言いつつも、完全に領主様に惚れ込んでいます。領主様の借金を返すためなら、大人しく身体を売ると私は見ましたわ」
なぜか自信満々に言われた。
「あんな仕事一辺倒の堅物砂漠女を落とすなんて、さすが領主様ですわ!」
「ま、まあな」
なんか褒められた。
悪い気はしないが、堅物砂漠女て。
「……最近、村の権益の件で揉めてましたので、この際、遊女になってくれれば私も助かりますし」
ボソッとケイトさんが付け加えたが、どの際なのか本気でわからない。
「……コウさん?」
ミレイが嗜めるような目を向けてくる。
わかってるよ。
いくら俺でも、趣味武器を買うためにエレインをソープに沈めたりはしない。
自分で趣味武器って言っちゃったが。
まあ、今回は諦めるしか……。
「……残念ですわ」
あっさりと宝箱を閉じるケイトさん。
ああっ!? 俺のデスサイズが!
俺は未練たらたらだった。
「……すごく良い品ですのに」
ケイトさんが、チラりと箱を開ける。
チラ見えするデスサイズは、やっぱりかっこよかった。
くそが!!
ていうか、ケイトさんの掌の上でブレイクダンス踊っちゃう。転がされている気がする。
なんて悪い女。
「うう……領主様!!」
心の中で、ケイトさんの悪さに辟易していたら、突然、ぽすんと抱きつかれた。
ケイトさんって情緒不安定なんだろうかという気もするが、スタイルの良い肢体が押し付けられて、悪い気はしない。
「私だって、こんな事はしたくないんですの……でも、仕方ないのですわ。そういう時代なんですもの! 私のことは嫌いにならないでくださいな」
そう言って、むにゅっと胸を押し当てられた。
ケイトさんは悪くない。
悪いのは、時代。
自然とそんな考えが脳裏に刷り込まれる。
ケイトさんを嫌いになれるわけないじゃんか。
「……領主様がどうしてもとおっしゃるのなら、代替え案もございますわ。ルーナ様とセレナ様のもありますの。どちらになさいます?」
サッと新しい紙を二枚取り出すケイトさん。
ルーナとセレナて。
いやいやないな――。
「……触ってくださって、構いませんのよ?」
突然、ケイトさんに手を誘われた。
手が行き着いたのは、ケイトさんの尻。
すべすべで柔らかくて、期待通りの感触だった。
良尻!!!
「……それで、どっちになさいます? 私のおすすめは3人ともなんですが……」
耳元にケイトさんの熱い吐息が掛けられる。
素直に勃起した。
もういろいろとどうでも良くなって……。
「コウさん!!!」
突然、ミレイに引き剥がされる。
はっ!? 俺は何を……。
危ない危ない! 危うくルーナとセレナとエレインをソープに沈めるとこだった!?
ミレイには感謝である。
ただ、ケイト尻タッチまで中断されたのは納得がいかない。
「代わりにミレイの尻触っていい?」
「ええ!? い、良いですけど……んんっ、そこお尻じゃ……ああんっ」
ケイトさんの手練手管に戦慄した俺は、ミレイの股間を中指で思い切りつんつんした。
やっべー。ケイトさんこえええ。
ミレイの股間をツンツンしながら必死に心を落ち着かせる。
「……はあ。わかりました。では、こちらで手を打ちましょう。本日、領主様がお買い上げになる分は、金貨10枚を頭金として、あとは無利子のツケ払いとさせて頂きます」
おお。
なんかケイトさんが急に物分かりの良いことを言いだした。
「ただし、条件として、こちらの契約書に拇印を押していただきます。ご安心ください。人身売買契約書ではございませんわ。今後、こちらが依頼する公共事業は優先的にやっていただくのと、私とエレイン様の意見が対立した場合は、無条件に私の肩を持って頂くという契約書です」
なんかよくわからんが、俺の女たちをソープに沈めるより何倍もマシな気がする。
「……ミレイ様。内容の確認をよろしくおねがいします」
「は、はい……んんんっ! そ、その通りのことが書いてあります。んふぅ……」
俺にイタズラされたミレイが色っぽく喘ぎながら、太鼓判を押してくれた。
ていうか、エロい。
股間がちょっと湿ってきているのもエロい。
「じゃあ、こちらに拇印を……はい。これで契約完了ですわ。こちらの農具はもう領主様のものです!」
なんかサラッとデスサイズをバカにされた気がするのだが。
武器を買えたのは、素直に嬉しい。
早速デスサイズを持ってみる。
――力が欲しいか。
脳内にセリフが再生される。
しかも、いい感じに重い。
攻撃力も高そうだ。
これはいい買い物ですわ!!!
……普通に持っているのに、装備ログが出ないのが気になるのだが。
「……私よりおもちゃのほうがいいなんて……コウさんのバカ」
散々股間を弄くられたミレイが、真っ赤な顔でぶすっとしていた。
そういえば、弄るのをやめてしまっていた。
つうか、ふてくされるミレイすげえかわいい。
「金貨100枚のお買い上げ、ありがとーございまーす!」
ケイトさんが満面の笑みで、お辞儀をしていた。
そういえば、借金は残るのか。
あれ? 結局趣味武器に一千万払ったことになるの?
深く考えると、鬱になりそうなのでやめといた。
「なーなー? コウ! 私はこの弓が欲しいな?」
そんな時、嬉しそうにルーナがやってきた。
つい今しがたまで、人身売買されそうになっていたのに呑気すぎて泣けてくる。
ルーナが持ってきたのは、黒い弓だった。
金属っぽいけど、木材っぽくも見えて、不思議な材質の弓だった。
何でできているんだろう?
「ダマスカス鋼の弓なんだ!」
また伝説の金属の名前を言いだした!?
「金貨150枚のお買い上げ、ありがとーございまーす!」
「ええええ!?」
手慣れた感じで頭を下げるケイトさんの告げた金額に、尻から血が出そうになった。
俺のデスサイズより高いじゃねえか!!
「駄目だ! 返してこい!」
なんでわざわざダマスカス鋼の弓なんて持ってくんだよ。
木の弓とかでいいだろうが!!
「えええ!? やだやだやだ!! これが良いんだもん! ねえ、買って買って!!」
ルーナがじたばたと駄々をこねだした。
このバカは……。
そもそも弓を無くしたのが悪いのに。
今日という今日は甘やかす気はない!!!
「ケイトとミレイの前だけど……おっぱい触っていいぞ?」
ルーナがこっそりと胸を差し出してくる。
こいつは俺をなんだと思っているんだろうか。
あと床に転がっているが、奴隷くんもいるからな?
とりあえず、せっかくなので胸は触るが。
触ったからと言って、いつもわがままが通ると――あ、やわらかい。
「ん……もう、コウは私のおっぱいが本当に好きだな。えへへ」
嬉しそうな顔で照れるルーナ。
いや、まあ好きだけど。
良い形で、柔らかくて、コシもある最高の乳房だと思うけれど。
……まあ、弓くらい買ってやるかという気になってきた。
金貨150枚。
一千五百万だと思うと、ドン引きだが金貨だし?
考えるのをやめれば大したことないと思うの。
「……弓、買うか」
「やったー! コウ、大好き!!」
ルーナが嬉しそうに抱きついてくる。
ふふふ。
満更でもない。
「……あのう……コウさん……」
ミレイがモジモジしながら話しかけてくる。
手を尻の辺りに回して、何かを隠し持っているようだ。
買ってほしいものを言えずにいる子供みたいで可愛らしいのだが。
ミレイの尻の辺りに見え隠れする、無骨な金属のトゲが全然可愛くなかった。
「私は、これが欲しいです!」
照れながら、ミレイが差し出してきたのは、無骨な鉄球にトゲトゲがついた鈍器だった。
なんか全体的に赤い何かがこびり付いてて怖いんだけど。
つうか、お前のメインウェポン細剣じゃねえのかよ!
なんで数多ある武器の中から鈍器選ぶんだよ!!
「鮮血のモーニングスター。金貨200枚です。お買い上げありがとーございまーす!」
「ええええ!?」
ちんこから血が出そうになった。
今までで一番高いじゃねえか!
つうか鮮血て。
「伝説の傭兵キラー・ザ・トムが使用していたプレミアム武器ですの。それに目をつけるとは、さすがミレイ様。お目が高いですわ」
キラー・ザ・トムって誰だよ!?
プロレスラーみたいな名前しやがって。
「……私、子供の頃からキラー・ザ・トムのファンで」
ミレイが恥ずかしそうに言う。
もう少し女の子らしいもののファンになって欲しかった。
まあ、ミレイが欲しいなら買ってやりたいのだが。
「……わかってるな?」
「は、はい」
そう聞くと、ミレイは恥ずかしそうにしながらも、ルーナと同じように胸を差し出してくる。
ぷるんと揺れる豊乳。
さすがFカップは迫力が違う。
「あんっ! そ、そこはおっぱいじゃ……しかも、直接……ううん!」
ミレイの胸元に手を差し込んで、乳首をコリコリする。
ボテッとしていてエロい乳首だぜ。
「お、おい!! 私以外のおっぱいを直接触っちゃダメじゃないか!!! ていうか普通に浮気だ!!!!」
ルーナが至極まっとうな事を言いながら泣きついてくるが、金貨200枚だぞ!?
これくらいしないと頭がおかしくなりそうだった。
だって、今日俺が使った金額って三千五百万円…………。
「そうですわ! 防具の方はお安くしときますので!」
ケイトさんが、さも今しがた良案を思いつきましたみたいな感じで言ってくるのだが。
え、まだ買わせんの?
そして、結局防具代で金貨60枚使ってしまった。
なぜかセレナ鎧がある俺まで防具を買わされていた。
だって、暗黒の鎧とか言われたら買うしかないじゃんね。
「お買い上げありがとーございましたー! またのお越しをお待ちしておりますわ!」
ツヤツヤとした笑みを浮かべたケイトさんは、そう言って送り出してくれたのだが。
「……ちなみに、防具のお値段。普通に相場通りでしたよ?」
ミレイがボソッと教えてくれた。
全然お安くしてくれなかったっていう。
しかも、最後、合計金額が390枚だった時に、キリが悪いとか妙な事を言われて、ポーションを金貨10枚分も買わされてしまった。
ケイトコンビニ店恐るべし!!!
もうしばらく来るのはよそう。
何かに負けた感じがして、足取りの重い俺達の前に、ソレは現れた。
まだ春先だと言うのに暑苦しく汗だくになった男。
「あれ? 私の武具は買ってきて頂けたのですかな?」
妙な筋トレをしていて、ついてこなかった筋肉だった。
「うるせえバカ死ね!! お前はタンクトップがあんだろうが!!!」
「はっははっは! これは一本とられましたな!」
ケイトさんに散々やられた鬱憤を筋肉で晴らす虚しさよ。
■
『なかま』
・こう(LV34)
・るーな
・みれい
・だん
『もちもの』
・ですさいず
・だますかすこうのゆみ(Eるーな)
・せんけつのもーにんぐすたー(Eみれい)
・ばーるのようなもの(Eみれい)
・はがねのよろい(Eこう)
・かりうどのかわよろい(Eるーな)
・てつのむねあて(Eみれい)
・いっちょうらのたんくとっぷ(Eだん)
・ぽーしょん✕10
『おかね』
・-400G
『ぼうけんのしょ』
4000まんえんのしゃっきんをおった。
ケイトさんに改めてそう聞かれると、少しためらってしまう。
ご入り用なのは武器なのだが、普通に考えて武器の置いてあるコンビニってどこのヨハネスブルクだよ。
店内を見回してみても、日用雑貨が置いてあるだけで、武器なんてなさそうだし。
いくらなんでも武器なんて――。
「ございますよ。あなた?」
「わかったよ、ケイト!」
――あるらしい。
ケイトさんのコンビニには死角がない。
店長の指示を受けたバイトくんが奥からガラガラと大きな戸棚を引っ張ってくる。
まさかの拡張収納。
戸棚には、剣や槍、斧、弓、棍棒など、様々な武器が陳列されている。
それぞれの種類も豊富で、きらびやかな物、無骨な物、意匠の凝った物、実用に優れた物など、様々だ。
というか急に出てきた割には商品数が半端ない。
パッと見ただけでも百種類を超えている気がする。
つうか、この棚何キロあるんだよ。
「はぁはぁ、ぜぇぜぇ」
棚を引っ張ってきたバイトくんは、もともとやつれていたのに、更に疲労困憊している。
まあ、俺のケイトさんの旦那とかラリった事を言っているのでいい気味なのだが。
「あなた? 防具の棚があと3つほどあるでしょう? 早く出してくださいな」
「ええ!? わ、わかったよケイト!」
ケイトさんが血も涙もないことを命令して、バイトくんはヘロヘロになったまま、更に巨大な棚を奥から引きずり出してくる。
下にキャスターのようなものがついているようだが、重量はきっと百キロを超えているだろう。
更に3つの巨大棚を俺たちの前に出してくれた頃には、バイトくんは燃え尽きたように真っ白になっていた。
日用雑貨店からあっという間に武器屋にモードチェンジするケイトさんのコンビニ。
侮れない。
「あなた、そんなとこにへたり込んでないでさっさと在庫整理に戻ってくださいな。時は金なりよ?」
「け、ケイト!?」
燃え尽きていたバイトくんをケイトさんが更に追い込んでいた。
漂う濃厚なブラック臭が何かの記憶を呼び起こそうとして頭が痛む。
よろよろと店の奥に向かっていくバイトくんを見送りながら俺は思った。
あれは旦那っていうか奴隷だ。
ケイトさんが浮気してなかったようでよかったよかった。
「さあ、御覧くださいな。我が店の自慢の武具ですわ」
ケイトさんが極上の営業スマイルで武具棚に掌で向ける。
「あの……ご主人が足を引きずってましたけど大丈夫ですか?」
「うわー! 可愛いのがいっぱいある! ワクワクしてきた!!」
バイトくん改め奴隷くんを心配する優しいミレイに、武器を見て可愛いとか言い出すルーナ。
そんなルーナのセンスは気になるが、ワクワクするのはわかる。
3つある防具棚には、何体ものマネキンが並んでいる。
マネキンが着込んでいるのは様々な防具。
重厚な全身鎧に、動きやすそうな革鎧。
金縁の施された高そうな鎧もあれば、シンプルな鉄製の鎧もある。
中には禍々しい形をしたいかにも呪われていそうな鎧まであった。
暗黒騎士の琴線にビンビン触れてくる。
「こちらの村はなぜか平和ですが、今は乱世ですので。商人としては武具を取り扱ってこそ一人前。私が各地を回って収集したよりすぐりの一点物ばかりですわ」
ケイトさんが自慢げに言うだけあって、陳列された武具はどれも質が良さそうだった。
まあ、武具なんて見慣れていないので完全に勘だが。
「……コウ?」
ルーナがくりくりとした青い瞳を上目遣いにして見つめてくる。
それが、おねだり目線であることは、長い付き合いでわかっていた。
軽くイラッとするが、かわいいのは間違いない。
「なんでも好きなものを選びなさい。ミレイもな」
「やったー! いこう、ミレイ」
「は、はい!」
ルーナとミレイが嬉しそうに武具を物色しに行った。
武具というのが色気がないが、自分の女にものを買ってやるのは気分がいい。
そういえば、いつだったか王都で買い物をして以来なのだ。
たまにはこういうのもいいだろう。
俺は壁にもたれかかって、きゃいきゃいとはしゃぐルーナとミレイを眺めていた。
そして、漠然とした不安に襲われる。
武具っていくらすんの……?
平和な日本で育ったせいか、相場が全くわからない。
手持ちの現金は金貨10枚と銀貨1枚。
日本円にして、百万と千円。
うち百万円は女から貢がれたものという、なかなかのクズヒモマネーだ。
これで二人分の装備って買えるんだろうか。
結構な大金な気がするが、かつてこんな感じで指輪を買いに行って、3億円の借金を負ってしまった。
なんか嫌な予感がする。
そんなわけで、ニコニコと完璧な営業スマイルを浮かべているケイトさんにこっそりと聞いてみた。
「……あの、つかぬ事を伺いますけど、あの二人の装備って金貨10枚で買えますよね?」
だいぶかっこ悪いことを聞いてしまったが、ケイトさんは静かに頷くと、同じように声を潜めながら答えてくれた。
いろいろと察してくれたらしい。
「……中には多少足が出てしまうものもございますが、そこは勉強させて頂きますわ。ご安心くださいませ」
そう言って、にっこりと微笑むケイトさん。
出来る女過ぎて怖い。
ケイトさんが保険の外交員さんとかじゃなくて良かった。
尻の毛まで毟られそうだったので。
とはいえ、金貨10枚でなんとかなりそうなので、ホッとする。
その時、ケイトさんの眼が鋭く光った気がした。
「……ところで、領主様は買われないんですの?」
ケイトさんが不思議な事を聞いてくる。
俺の装備を買う余裕なんてなさそうなんだが。
ルーナとミレイの装備でギリギリっぽいのに。
「お金のことはご安心くださいませ。私共は様々なお支払い方法を用意してございます。ツケ払いはもちろん、別の金銭的価値のあるもので支払っていただくと言う方法もございますわ」
ケイトさんがスススっとすり寄ってくる。
ふわりといい匂いがして、ドキドキする。
なんか不穏な事を言っているのが気になるが。
もうこれ以上借金をするのは嫌なんだけど。
「……実はすでに、領主様のお好みに合わせた商品を入荷してしまいましたの。……領主様の男らしいところ見せていただきたいですわ」
ケイトさんはピッタリと密着してくると、俺の胸板に指を這わせて、「の」の字を描く。
普通に勃起した。
なんかいろいろとどうでも良くなってくる。
「……まあ、とりあえず見るだけなら」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、ケイトさんのプリンとした尻に手を伸ばそうとした。
こんな過剰スキンシップをしてくるのだ。
尻を触るくらいいいべ!
「良かった! さすが領主様! ……あなた? 例のものを持ってきてちょうだい!」
すばやく離れていくケイトさん。
尻を狙っていた俺の手が、虚しく空振る。
えええ!? と文句を言おうとするが、ケイトさんが満面の営業スマイルを浮かべるせいで何も言えない。
今、仕事中ですけど何か? みたいな感じを出されるのだ。
くそう、営業時間外に夜這いを掛けてやる。
「わかったよ! 少し待っててくれ、ケイト」
店の奥から奴隷くんの声が聞こえた。
どうでもいいのだが、奴隷くんが良いように使われ過ぎてて胃が痛い。
在庫整理中だったんじゃ……。
というかですよ。
つい「見るだけなら」とか言ってしまったが、俺は武具など買う気はない。
鎧ならセレナのがあるし、武器も王様がくれたラグニードがある。
なんなら武器なんて魔法で作れるし。
だいたい……。
ふと、脳裏に家の床の間にひっそりと飾られたデスサイズの事が偲ばれた。
――俺が本当に欲しい武器なんて。
そうひっそりと考えて、黄昏ていると。
「はあはあ、こ、これかい、ケイト? ふうふう」
ものすごく重そうに奴隷くんが宝箱を引きずってくる。
そうそれは紛うことなき宝箱だった。
赤くて、装飾の施された派手派手しい箱。
正直、リアルで初めて見たけど、なんかワクワクする。
棺桶くらいのバカでかさなのが気になったが。
「あがっ、こ、腰が!! ああああっ!!」
俺たちの前まで運んできた所で、奴隷くんが倒れたままピクリとも動かなくなる。
どう見てもギックリしちゃった感じなのだが。
「さあ、開けてみてくださいな」
ケイトさんが完全に無視しているので、俺は宝箱を開けてみることにした。
そして、中身を見て硬直する。
「あら、あなた。何を寝ているの? さっさと在庫整理に戻ってくださいな」
「ケ、ケイト!?」
ケイトさんの奴隷くんがコントみたいなことをしていたが、全く頭に入ってこない。
俺の眼は、箱の中に注がれたままだ。
だって、そこに入っていたのは。
長さは1メートル半ほど。
無骨な黒鉄の長い柄。
その先端から、鋭利な刃が蠱惑的な曲線を描いて伸びている。
まるで命そのものを刈り取るかのように。
刃には美しい刃紋が浮かび、その切れ味の鋭さを想像させる。
死神が持つに相応しい武器。
そう。
箱の中に入っていたのは。
「デスサイズじゃん!!!!」
完全なる死神の大鎌だった。
これぞ暗黒騎士の武器!!
かつて俺がネットの世界でブンブンと振り回しまくった武器だった。
しかも、土魔法で再現したやつより何倍もかっこいい!
「ふふふ。ルーナ様から情報収集した甲斐がございましたわ。気に入って頂けたようで何よりです」
気に入るも何も!!
したり顔を浮かべるケイトさんが怖かった。
このコンビニ、ニーズに応えすぎだろう!!
俺が欲しいもの直撃じゃん。
クリティカルヒットじゃん。
もう買うしかない。
けど。
「……ちなみに、これいくらなんすか?」
箱に鎮座するデスサイズは重厚な雰囲気を漂わせていて、どう考えても高そうなのが気になった。
ルーナとミレイの装備を買った余りで買える気がしない。
「金貨100枚程ですわ」
鼻血が出そうになった。
いやいやいや。
予算の10倍ですやん。
ルーナの結婚指輪買った時より酷いですやん。
デスサイズは欲しいけど、さすがに一千万はないわ……。
「じゃ、じゃあ、やめとき……」
「まあまあ、とりあえず手にとってみてくださいな。この商品の真価は見ただけじゃわかりませんのよ?」
しょんぼりと諦めようとしたら、ケイトさんがそんな事を言ってくる。
真価ってなんだよ。
まあ、せっかくだから持ってみたいけど。
そんなわけで、デスサイズに手を伸ばす。
ひんやりとした鉄の感触。
ズシリと感じる頼もしい重み。
そして。
――力が欲しいか。
「ええええ!?」
なんか脳裏に声が聞こえた。
――力が欲しいか。
しかも、すげえ厨二病っぽいこと言ってる!?
ワクワクする!!
「どうですか? 聞こえましたか? 一応魔剣の一種ですの。……まあ、声が響くってだけで別になんの効果もないんですけどね」
それなんの意味があんの!?
――力が欲しいか。
これ言ってるだけなのかよ。
が、しかしである。
「……嫌いじゃない」
この無駄さ。
ロマンがあっていいじゃないと思うのだ。
「良かった!! こんなの欲しがるのなんて、世界広しと言えども領主様しか――ゲフンゲフン……世界で領主様のためだけの一品ですわ! 賭けでしたが、仕入れた甲斐がありました」
意外とギャンブラーなケイトさんは、良いことを言っていた。
世界で俺のためだけの一品。
え、すげえ欲しい。
でもなー。
金が……。
「ご安心くださいな。私も鬼じゃありませんわ。領主様が払えない商品なんて、売りつけるわけがございません。……この書類にちょちょっとサインしていただくだけで……あ、拇印でも結構ですのよ」
ケイトさんは菩薩のような笑みを浮かべて、俺の親指にせっせとインクを塗ってくれる。
こっちの文字の読み書きができない俺を気遣って。
なんて優しいんだろう。
安心できるわー。
しかも、紙切れに拇印を押すだけでデスサイズ買えるらしい。
おサイフケータイなみの気軽さだわー。
「ちょっと待ってください!!!」
割って入ってきたのは、お買い物を楽しんでいたミレイだった。
何やら血相を変えて、ケイトさんの紙切れを熟読していく。
「こ、これ……エレインさんの人身売買契約書じゃないですか!?」
「えええ!?」
ミレイがドン引きする事を言っていた。
何その物騒な契約書。
いやいや、いくらなんでもケイトさんがそんなもんに拇印押せと言うわけが……。
そんな事を考えながら、ケイトさんの顔をちら見すると。
「……ちっ」
ものすごく悪い顔で舌打ちをしていた。
ケイトさん!?
鬼じゃないとか言ってたけど、完全に鬼畜じゃん!!
「……大丈夫ですわ。人身売買と言っても、ちょびーっと身体を売るだけの簡単なお仕事です」
全然大丈夫じゃなかった。
というか、俺の拇印でエレインの人身売買なんて成立するわけないのだが。
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「……コウさん?」
ミレイが嗜めるような目を向けてくる。
わかってるよ。
いくら俺でも、趣味武器を買うためにエレインをソープに沈めたりはしない。
自分で趣味武器って言っちゃったが。
まあ、今回は諦めるしか……。
「……残念ですわ」
あっさりと宝箱を閉じるケイトさん。
ああっ!? 俺のデスサイズが!
俺は未練たらたらだった。
「……すごく良い品ですのに」
ケイトさんが、チラりと箱を開ける。
チラ見えするデスサイズは、やっぱりかっこよかった。
くそが!!
ていうか、ケイトさんの掌の上でブレイクダンス踊っちゃう。転がされている気がする。
なんて悪い女。
「うう……領主様!!」
心の中で、ケイトさんの悪さに辟易していたら、突然、ぽすんと抱きつかれた。
ケイトさんって情緒不安定なんだろうかという気もするが、スタイルの良い肢体が押し付けられて、悪い気はしない。
「私だって、こんな事はしたくないんですの……でも、仕方ないのですわ。そういう時代なんですもの! 私のことは嫌いにならないでくださいな」
そう言って、むにゅっと胸を押し当てられた。
ケイトさんは悪くない。
悪いのは、時代。
自然とそんな考えが脳裏に刷り込まれる。
ケイトさんを嫌いになれるわけないじゃんか。
「……領主様がどうしてもとおっしゃるのなら、代替え案もございますわ。ルーナ様とセレナ様のもありますの。どちらになさいます?」
サッと新しい紙を二枚取り出すケイトさん。
ルーナとセレナて。
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「……触ってくださって、構いませんのよ?」
突然、ケイトさんに手を誘われた。
手が行き着いたのは、ケイトさんの尻。
すべすべで柔らかくて、期待通りの感触だった。
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素直に勃起した。
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「コウさん!!!」
突然、ミレイに引き剥がされる。
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ミレイには感謝である。
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やっべー。ケイトさんこえええ。
ミレイの股間をツンツンしながら必死に心を落ち着かせる。
「……はあ。わかりました。では、こちらで手を打ちましょう。本日、領主様がお買い上げになる分は、金貨10枚を頭金として、あとは無利子のツケ払いとさせて頂きます」
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なんかケイトさんが急に物分かりの良いことを言いだした。
「ただし、条件として、こちらの契約書に拇印を押していただきます。ご安心ください。人身売買契約書ではございませんわ。今後、こちらが依頼する公共事業は優先的にやっていただくのと、私とエレイン様の意見が対立した場合は、無条件に私の肩を持って頂くという契約書です」
なんかよくわからんが、俺の女たちをソープに沈めるより何倍もマシな気がする。
「……ミレイ様。内容の確認をよろしくおねがいします」
「は、はい……んんんっ! そ、その通りのことが書いてあります。んふぅ……」
俺にイタズラされたミレイが色っぽく喘ぎながら、太鼓判を押してくれた。
ていうか、エロい。
股間がちょっと湿ってきているのもエロい。
「じゃあ、こちらに拇印を……はい。これで契約完了ですわ。こちらの農具はもう領主様のものです!」
なんかサラッとデスサイズをバカにされた気がするのだが。
武器を買えたのは、素直に嬉しい。
早速デスサイズを持ってみる。
――力が欲しいか。
脳内にセリフが再生される。
しかも、いい感じに重い。
攻撃力も高そうだ。
これはいい買い物ですわ!!!
……普通に持っているのに、装備ログが出ないのが気になるのだが。
「……私よりおもちゃのほうがいいなんて……コウさんのバカ」
散々股間を弄くられたミレイが、真っ赤な顔でぶすっとしていた。
そういえば、弄るのをやめてしまっていた。
つうか、ふてくされるミレイすげえかわいい。
「金貨100枚のお買い上げ、ありがとーございまーす!」
ケイトさんが満面の笑みで、お辞儀をしていた。
そういえば、借金は残るのか。
あれ? 結局趣味武器に一千万払ったことになるの?
深く考えると、鬱になりそうなのでやめといた。
「なーなー? コウ! 私はこの弓が欲しいな?」
そんな時、嬉しそうにルーナがやってきた。
つい今しがたまで、人身売買されそうになっていたのに呑気すぎて泣けてくる。
ルーナが持ってきたのは、黒い弓だった。
金属っぽいけど、木材っぽくも見えて、不思議な材質の弓だった。
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「ダマスカス鋼の弓なんだ!」
また伝説の金属の名前を言いだした!?
「金貨150枚のお買い上げ、ありがとーございまーす!」
「ええええ!?」
手慣れた感じで頭を下げるケイトさんの告げた金額に、尻から血が出そうになった。
俺のデスサイズより高いじゃねえか!!
「駄目だ! 返してこい!」
なんでわざわざダマスカス鋼の弓なんて持ってくんだよ。
木の弓とかでいいだろうが!!
「えええ!? やだやだやだ!! これが良いんだもん! ねえ、買って買って!!」
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このバカは……。
そもそも弓を無くしたのが悪いのに。
今日という今日は甘やかす気はない!!!
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ルーナがこっそりと胸を差し出してくる。
こいつは俺をなんだと思っているんだろうか。
あと床に転がっているが、奴隷くんもいるからな?
とりあえず、せっかくなので胸は触るが。
触ったからと言って、いつもわがままが通ると――あ、やわらかい。
「ん……もう、コウは私のおっぱいが本当に好きだな。えへへ」
嬉しそうな顔で照れるルーナ。
いや、まあ好きだけど。
良い形で、柔らかくて、コシもある最高の乳房だと思うけれど。
……まあ、弓くらい買ってやるかという気になってきた。
金貨150枚。
一千五百万だと思うと、ドン引きだが金貨だし?
考えるのをやめれば大したことないと思うの。
「……弓、買うか」
「やったー! コウ、大好き!!」
ルーナが嬉しそうに抱きついてくる。
ふふふ。
満更でもない。
「……あのう……コウさん……」
ミレイがモジモジしながら話しかけてくる。
手を尻の辺りに回して、何かを隠し持っているようだ。
買ってほしいものを言えずにいる子供みたいで可愛らしいのだが。
ミレイの尻の辺りに見え隠れする、無骨な金属のトゲが全然可愛くなかった。
「私は、これが欲しいです!」
照れながら、ミレイが差し出してきたのは、無骨な鉄球にトゲトゲがついた鈍器だった。
なんか全体的に赤い何かがこびり付いてて怖いんだけど。
つうか、お前のメインウェポン細剣じゃねえのかよ!
なんで数多ある武器の中から鈍器選ぶんだよ!!
「鮮血のモーニングスター。金貨200枚です。お買い上げありがとーございまーす!」
「ええええ!?」
ちんこから血が出そうになった。
今までで一番高いじゃねえか!
つうか鮮血て。
「伝説の傭兵キラー・ザ・トムが使用していたプレミアム武器ですの。それに目をつけるとは、さすがミレイ様。お目が高いですわ」
キラー・ザ・トムって誰だよ!?
プロレスラーみたいな名前しやがって。
「……私、子供の頃からキラー・ザ・トムのファンで」
ミレイが恥ずかしそうに言う。
もう少し女の子らしいもののファンになって欲しかった。
まあ、ミレイが欲しいなら買ってやりたいのだが。
「……わかってるな?」
「は、はい」
そう聞くと、ミレイは恥ずかしそうにしながらも、ルーナと同じように胸を差し出してくる。
ぷるんと揺れる豊乳。
さすがFカップは迫力が違う。
「あんっ! そ、そこはおっぱいじゃ……しかも、直接……ううん!」
ミレイの胸元に手を差し込んで、乳首をコリコリする。
ボテッとしていてエロい乳首だぜ。
「お、おい!! 私以外のおっぱいを直接触っちゃダメじゃないか!!! ていうか普通に浮気だ!!!!」
ルーナが至極まっとうな事を言いながら泣きついてくるが、金貨200枚だぞ!?
これくらいしないと頭がおかしくなりそうだった。
だって、今日俺が使った金額って三千五百万円…………。
「そうですわ! 防具の方はお安くしときますので!」
ケイトさんが、さも今しがた良案を思いつきましたみたいな感じで言ってくるのだが。
え、まだ買わせんの?
そして、結局防具代で金貨60枚使ってしまった。
なぜかセレナ鎧がある俺まで防具を買わされていた。
だって、暗黒の鎧とか言われたら買うしかないじゃんね。
「お買い上げありがとーございましたー! またのお越しをお待ちしておりますわ!」
ツヤツヤとした笑みを浮かべたケイトさんは、そう言って送り出してくれたのだが。
「……ちなみに、防具のお値段。普通に相場通りでしたよ?」
ミレイがボソッと教えてくれた。
全然お安くしてくれなかったっていう。
しかも、最後、合計金額が390枚だった時に、キリが悪いとか妙な事を言われて、ポーションを金貨10枚分も買わされてしまった。
ケイトコンビニ店恐るべし!!!
もうしばらく来るのはよそう。
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■
『なかま』
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