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第六章 エルフ王国編
開幕
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暗黒の夜空に、紫光が走る。
春雷。
広い平原は、雷鳴に包まれていた。
やがて、ぽつぽつと降り出す大粒の雨。
そこは、人魔の死体で溢れる場所。
フレジア平原。
春の嵐が、広大な平原に吹き荒れる。
そんな中。
巨大な白竜が、ぽつんと佇んでいる。
戦後のフレジア平原には、人も魔物もいない。
ただ一匹の古龍を除いて。
古龍は思った。
(なぜ……我は置いて行かれたのだろう)
悠久の時を生きる古龍は、初めて寂しさと言う感情を抱いた。
その巨体を打ち付ける雨粒が、冷たい。
一月ほど前。
古馴染みの存在と激しい戦闘を行い、不覚にも傷を負ってしまった。
満足には飛べない状態だった自分に、主はこう言ったのだ。
『……あん、ケガした? んだよ、使えねえな! ……まあいいか。治ったら帰ってくれば?』
そう言って、主は褐色娘の腰を抱いて、さっさと帰って行った。
――使えねえな!
――まあいいか。
この最強の龍種として君臨する古龍は、ひどく傷ついた。
そして、思うのだ。
愛がない!!!
一際大きな稲妻が、大地を穿つ。
ある日、唐突に、ただの人間に忠誠を誓った。
人間なんて矮小な存在。
自分にとっては、虫けらにも等しい。
故に、普段は気にすら留めなかったというのに。
なぜかあの男に、狂おしいまでの忠誠を抱いた。
この世界の生態系の頂点に立つこの自分がである。
だというのに!!
あの男は、我に興味がなさすぎる!!!
我は主人に比べて、こんなに巨大な体躯をしているのに。
あの男は、我を無視して、メスのことばかり!!!
口惜しい。
なんとも口惜しい。
純色の五竜の一柱として、なんとかしなくては。
平原に再びの稲光が走る。
激しい豪雨に濡れる巨大龍の体躯を、刹那に浮かび上がらせた。
どうすれば主の関心を引くことができる?
主は我になんと言っていた?
『お前、ちょっとオークだけを狙っちゃうような素敵なビーム吐けない?』
敵味方の区別を可能とする殲滅攻撃を開発するか?
『お前は、どっか邪魔にならない所で小さくなってろ』
待機場所を取らないような小型化をするか?
『移動中暇だから、背中にベッド括り付けろよ。そうすれば女を抱けるし』
輸送能力の強化?
(…………)
なぜか主のセリフを思い起こしていたら、虚しさを感じた。
やはり、このままではいけないと思う。
主を見返してやろう。
我は最古の龍フェルナノーグ。
千年に渡って蓄積した膨大な魔力と精力。
この力を使うときは、今この時を置いて他になし。
主に見せてやろうではないか。
龍の秘術を――!
春雷蠢く土地にて、白龍は、決意した。
春雷。
広い平原は、雷鳴に包まれていた。
やがて、ぽつぽつと降り出す大粒の雨。
そこは、人魔の死体で溢れる場所。
フレジア平原。
春の嵐が、広大な平原に吹き荒れる。
そんな中。
巨大な白竜が、ぽつんと佇んでいる。
戦後のフレジア平原には、人も魔物もいない。
ただ一匹の古龍を除いて。
古龍は思った。
(なぜ……我は置いて行かれたのだろう)
悠久の時を生きる古龍は、初めて寂しさと言う感情を抱いた。
その巨体を打ち付ける雨粒が、冷たい。
一月ほど前。
古馴染みの存在と激しい戦闘を行い、不覚にも傷を負ってしまった。
満足には飛べない状態だった自分に、主はこう言ったのだ。
『……あん、ケガした? んだよ、使えねえな! ……まあいいか。治ったら帰ってくれば?』
そう言って、主は褐色娘の腰を抱いて、さっさと帰って行った。
――使えねえな!
――まあいいか。
この最強の龍種として君臨する古龍は、ひどく傷ついた。
そして、思うのだ。
愛がない!!!
一際大きな稲妻が、大地を穿つ。
ある日、唐突に、ただの人間に忠誠を誓った。
人間なんて矮小な存在。
自分にとっては、虫けらにも等しい。
故に、普段は気にすら留めなかったというのに。
なぜかあの男に、狂おしいまでの忠誠を抱いた。
この世界の生態系の頂点に立つこの自分がである。
だというのに!!
あの男は、我に興味がなさすぎる!!!
我は主人に比べて、こんなに巨大な体躯をしているのに。
あの男は、我を無視して、メスのことばかり!!!
口惜しい。
なんとも口惜しい。
純色の五竜の一柱として、なんとかしなくては。
平原に再びの稲光が走る。
激しい豪雨に濡れる巨大龍の体躯を、刹那に浮かび上がらせた。
どうすれば主の関心を引くことができる?
主は我になんと言っていた?
『お前、ちょっとオークだけを狙っちゃうような素敵なビーム吐けない?』
敵味方の区別を可能とする殲滅攻撃を開発するか?
『お前は、どっか邪魔にならない所で小さくなってろ』
待機場所を取らないような小型化をするか?
『移動中暇だから、背中にベッド括り付けろよ。そうすれば女を抱けるし』
輸送能力の強化?
(…………)
なぜか主のセリフを思い起こしていたら、虚しさを感じた。
やはり、このままではいけないと思う。
主を見返してやろう。
我は最古の龍フェルナノーグ。
千年に渡って蓄積した膨大な魔力と精力。
この力を使うときは、今この時を置いて他になし。
主に見せてやろうではないか。
龍の秘術を――!
春雷蠢く土地にて、白龍は、決意した。
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