ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第四章 竜騎士編

第146話 ルーナの指輪

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 夕暮れ時の王都をルーナと2人で歩く。
 あの家具を買った店はどこだったか。
 多分、向かっている方向は合っていると思うのだが。
 グーグ○先生に聞きたくなる。

「…………」

 というか、手を繋いだルーナが静かだ。
 黙って大人しくついてくる。
 さっきまでかなりはしゃいでいたのに。

「どうした? 調子でも悪いのか?」

 ちょっと心配になったので、聞いてみるとルーナはぽーっとした顔で俺を見つめる。

「う、ううん。大丈夫だ。……王都を2人で歩くのは初めてだな」

 そう言って、ルーナは照れながらキュッとしがみついてきた。
 なんかやっぱりいつもより大人しい気がする。
 可愛いからいいのだが。


 そんなこんなで王都を歩いていると、一際金の匂いがする通りに出た。
 例の高級家具屋があった辺りだ。
 銀座とか表参道みたいな感じがする。
 立ち並ぶ店舗も、行き交う人々もすごくおしゃれで。
 なんというか。
 俺なんかがここに存在していいのかな、と思ってしまうような。
 ごめんなさいと意味もなく謝ってしまいそうな。
 言いようのない場違い感を感じる。

「お、おい! ……どこ触ってるんだ」

 とりあえず、ルーナの尻を撫で回しながら深呼吸をする。
 大丈夫、今の俺は金持ち。
 もうかつての底辺サラリーマンではないのだ。
 そう自分に言い聞かせて、王都の高級店舗街を歩きだす。

 そんな中、指輪のマークが書かれている看板のぶら下がった店を見つけた。
 多分、ここで指輪が買えるのだろう。
 窓からちょろっと中を覗くと、明るくて清潔感のある店内だった。
 入りづらいわ。
 もう少し場末な感じや、民度の低い感じを漂わせてくれないと気軽に入れないのだが。
 ド○キ的な。

 まあ、ここまで来たら入るしかないのだが。
 ルーナを連れて、店のドアをキョドりながら開ける。
 カランカランとドアに付けられた鐘が鳴っただけでドキッとした。

「いらっしゃいませ。レディアント宝飾店へようこそ」

 ビシっとしたスーツを着込んだ妙齢の女性がお辞儀で出迎えてくれる。
 スーツ女子は好きだが、この店員さんにはエロさを感じなかったので気後れしてしまう。

「婚約指輪か結婚指輪をお探しですか?」

 俺とルーナの繋いだ手を見て、店員さんがそんなことを言った。
 婚約指輪か結婚指輪って何が違うんだっけ。
 給料の三ヶ月分の高い指輪が婚約指輪で、普段つけるシンプルな指輪が結婚指輪だったかな。
 そんな事を考えていると。

「どっちも買いに来た」

 ルーナが勝手に答えていた。
 どっちも買うらしい。
 まあいいんだけど。

「承知いたしました。この度は、ご結婚おめでとうございます」

 そんな事を言われると、なんか取り返しのつかない事をしているような気がするのでやめて欲しい。
 俺はただ指輪を買いに来ただけなのに。

「……えへへ。ありがとう」

 ルーナは照れながらも、嬉しそうに俺の腕を抱く。
 どうしよう、可愛い。

「それでは、いかが致しましょうか。婚約指輪か結婚指輪も出来合いの商品もございますが、婚約指輪は当店自慢の彫金師による特注品(オーダーメイド)も承っております」

「特注品(オーダーメイド)……」

「少々お値段は張ってしまいますが、愛する奥様の為に、世界でたった一つの指輪を作られてはいかがでしょうか?」

「愛する奥様……世界でたった一つ……」

 店員さんの術中にルーナがあっさりとハマっていく。
 ほんとチョロいんだけど。
 値段が張るって言ってたのを聞こえていたのだろうか。

「なあ、コウ……」

 ルーナは甘えたような声で、俺の袖をくいくいと引っ張る。
 チョロすぎるとは思う。
 でも、悔しいけど可愛いんだなこれが。
 おねだりルーナはずるい。
 まあ、金ならたんまりあるからいいんだけど。

「わかったよ」

「やったあ! えへへ」

 ルーナが嬉しそうに抱きついてくる。
 まんざらでもない気分になった。

「よろしゅうございました。では、当店自慢の彫金師を紹介いたします。クラウス」

 店員さんがそう声をかけると、店の奥から一人の男がやってきた。

「はじめまして。クラウスと申します」

 そう言って、俺に手を差し出す男は、20代後半くらいだろうか。
 サラサラの金髪に真っ青な瞳。
 スラリと背の高い男で、爽やかな笑みを浮かべている。
 超イケメンだった。
 当然の如く、差し出された手は無視する。
 俺は常日頃からイケメンなんて死ねばいいと思っているからだ。

「それじゃあ、私は結婚指輪を選んでいるから、婚約指輪はお前に任せるな。……私に似合うの作ってくれたら嬉しいな」

 ルーナは恥ずかしそうにはにかんでから、スーツ姿の女性店員と指輪が並んだカウンターの方へ行ってしまう。
 え、イケメンと二人きりにされたんだけど。
 俺がこのイケメンに持つ唯一のアドバンテージは、連れてる女(ルーナ)が超絶美女という点だけだったのに。
 こいつと二人きりになってしまったら、もはや俺に勝てるものはない。
 いや、子供の頃から一人ぼっちでやりこんだマリオ○ートならあるいは……。

「では、私たちは奥でエンゲージリングのデザインを話し合いましょうか」

「お、おう」

 イケメンに促されて、すごすごと店の奥についていく。
 というか、エンゲージリングってなんだよ。
 なんでわざわざ英語にするんだよ。
 こっちの世界の日本語と英語の違いはわからない。
 そもそも文字読めないのに、なんで言葉通じてるんだよとは思うが。
 ただ、ひとつだけわかるのは、こいつは意識高い系(笑)だと思う。
 なんかイラッとするし。
 そもそもイケメンだし。
 思わぬ所で天敵に出会ってしまった。


 店の奥には格式の高いテーブルが設置されていて、その上には紙束と羽ペンが置かれている。

「どうぞおかけください」

 テーブルを挟んで、イケメンと向かい合うように座った。
 こうして改めて見てみると、イケメンはやっぱりイケメンだった。
 イラッとした。
 20代後半でイケメンで、高級宝飾店のデザイナー?
 絶対にモテんじゃん!!
 女とやりまくってるに違いない。
 ろくな人間ではないな!!

「失礼ですが、先にご予算を伺ってもよろしいですか?」

 心の中で盛大にイケメンをディスっていると、そんな事を言われたので、抱えていた大量の金貨をテーブルの上にドンっと乗せる。

「予算は金貨1000枚だ」

 俺の言葉にイケメンが顔を青くさせる。
 金額にビビったらしい。
 1億円を突然ポンと出されたら、誰だってビビる。
 でも、気分は良かった。

「……か、確認しても?」

「うむ」

 すると別の若い店員がやってきて、俺の金貨を1枚1枚数え始めた。
 当然だが、いちいち手で数えるらしい。
 うわ、めんどくさそ。

「正確な枚数は数えてみないとわかりませんが、おっしゃる通り1000枚はありそうですね。それだけのご予算があれば、素晴らしい指輪が出来ると思います。……ちょっと一枚書いてみますね」

 そう言って、イケメンが紙に羽ペンでサラサラと絵を書いていく。
 指輪のデザインを書いてくれているらしい。

「こんなのは如何でしょうか?」

 しばらくして出来上がったのは、見事な指輪の絵だった。
 これぞ婚約指輪と言った感じだ。
 これだけで広告にできそうな出来だった。

「中央には我が店で仕入れられる最高級のダイヤモンドを使用いたします。またプラチナを使用したリング部分には精緻な彫刻を入れておりますし、お二人の名前を刻印することも出来ます」

「ふむ」

 イケメンの説明を聞きながら、俺は指輪の絵よりも、右下に書かれたサインのようなミミズ文字が気になった。

「これはなんだ?」

「それは私のサインでございます。これも歴とした私の作品ですので。職人の矜持のようなものと思っていただければ」

 そう言って、イケメンは爽やかな笑顔を浮かべた。
 うわあ、意識高いー。

 かなりイラッとしたので、俺はそのデザイン画を火魔法で燃やした。

「え、えええ!」

 作品(笑)を燃やされたイケメンが驚きながら顔を引きつらせてせている。

「な、なにかお気に召さない点でも?」

 なんとか引きつった顔を取り繕いながら、イケメンが聞いてくる。

「なんというかさ、普通だよね。これくらいなら、俺でも書けたっていうか」

 イケメンが書いたのは、上手い絵だったが、普通のありきたりな結婚指輪の絵だった。
 普通の指輪でデザイナーとか何言っちゃってんのと思うのだ。
 なので、半笑いで言ってみた。

「うっ、ぐっ……わ、わかりました。職人のプライドに掛けて、貴方のお気に召すものをデザインして見せましょう! ……ちなみに、どういった指輪をお望みですか?」

 イケメンは悔しそうな表情を浮かべた後、今更そんな事を聞いてくる。
 まず真っ先に客のニーズを確認しろよと思うのだが。
 ドヤ顔で普通の指輪なんて書くから燃やされるのだ。
 これだらイケメンは!

「うーん、カッコイイやつかな」

 指輪に対しての思い入れは、特に無いので俺は思いつくままを答えてみた。
 男なら格好良さを求めるべきだ。

「承知いたしました。少々お待ちくださいね」

 シュッシュッとイケメンが紙にペンを走らせていく。

「こ、今度は如何でしょうか?」

 イケメンがデザインしてきたのは、なんというかガン○ムの角の上に宝石が載っているような指輪だった。
 確かにカッコイイ。
 ガン○ムを出す辺り、こいつはなかなか非凡なものを持っている。
 だけど、こういうデザインにするのであれば。

「もっと攻撃力ある感じがいいかな。だから、ボツ」

 とりあえず、そのデザイン画も燃やした。
 ちなみに、当然の如く右下にサインが書いてあったのでイラッとした。

「ああああ! せっかく書いたのに……わかりました。攻撃力ですね……」

 イケメンは再びペンを走らせる。

「こ、今度はどうでしょう?」

 今度のデザインは確かに攻撃力がありそうだった。
 指輪というか、指全体を覆うフィンガーサックのような形状をしていて、真ん中に宝石が申し訳程度に付いている。
 確かに、攻撃力はありそうだ。
 こいつをつけていれば、デコピンだけで敵を倒せそうだ。
 だが。

「これもう婚約指輪っていうか武器だよね。だから、ボツ」

 再び燃えカスになるデザイン画。

「ああああ! い、一体何がお気に召さなかったのですか!?」

 ちょっと涙ぐんだイケメンがそんな事を聞いてくる。
 一から十まで聞かないと何もできないのだろうか。
 このゆとりイケメンが!
 まあ、俺は優しいので答えてやるが。
 とはいえ、どう答えよう。
 というか、そもそも婚約指輪に攻撃力は必要かという疑問が湧いてきた。
 これはルーナに付けさせるのだ。
 それならやっぱり。

「もっとエロい感じが欲しいかな」

「……さっきと言ってることが全然違うような気が」

「ああん!?」

「ひいっ!」

 イケメンが口答えするので、睨みを効かせて黙らせる。
 イケメンはビクビクしながら、黙ってペンを走らせた。
 イケメンのメッキがどんどん剥がれていく感じがたまらなかった。
 結構楽しいです。

「こ、今度こそ如何でしょうか?」

 イケメンはどこか自身に満ちた表情を浮かべていた。
 しかし、今度の指輪は全体的に丸みを帯びた何の変哲もない指輪だった。

「……これのどこがエロいんだ?」

 全然エロさを感じながったので、聞いてみるとイケメンは得意げな表情を浮かべた。

「女性特有のなめらかな曲線を表現してみました。艶やかなラインを出せたと自負しております」

 ペラペラと饒舌に話すイケメンにイラッとした。

「じゃあ、お前この指輪見てヌケんのか?」

 なんか勘違いしているイケメンにそんな事を聞いてみた。

「え? 抜け? どういうことでしょうか?」

「この指輪でオナニーできんのかって聞いてんだよ!! エロいってそういうことだろうが!!」

「ええええ!? そういうことだったんですか? ……オナニーできないです」

「だろう? だから、ボツな」

 いつもより火炎多目に燃やしてみた。
 イケメンが白目を剥いていた。

「あんまかっこつけんな。殴るぞ」

 なめらかな曲線にエロさを感じちゃう程溜まっていないのだ。

「は、はい! わかりましたっ」

 イケメンはビビりながらも、必死にペンを走らせる。

「こ、今度こそ! 恥や外聞など、色んなものを全て捨てて書いてみました!」

 イケメンは恥ずかしそうにしながら、新しいデザイン画を差し出す。
 それは指輪の上に女性の上半身のミニチュアが乗っかるという奇抜なものだった。
 奇抜というか頭がおかしい。
 嫌いじゃないが。
 ちゃんとおっぱいも書いている辺り、たしかに色んなモノを捨てて書いたのだろう。
 そうは思うものの、普段ルーナの美乳を見慣れている俺にとって、イケメンの書いた乳は全然ぐっと来なかった。
 所詮、絵に書いたモチだ。

「……今までの中で一番いい出来だ。しかし、これは俺のルーナの乳には遠く及ばない」

 なので当然の如く燃やした。
 イケメンは、ぐはっと吐血したような声を上げていた。

「もうなんなんですか!? あなたの奥様のことなんて知りませんよっ!!」

 発狂しそうな勢いでイケメンが叫んでいる。
 この程度でキレるなんて、堪え性のないやつである。
 これだからイケメンは。

「馬鹿野郎!! 指輪を送る相手の事を考えないでどうする!? ルーナのルーナによるルーナのための指輪をデザインしろ!!」

「わ、わかりました」

 イケメンは何やら疲れの溜まった顔で、サッサとペンを走らせていく。

「出来ました」

 そう言って渡されたのは、指輪の上にルーナの顔を模したオブジェが載っているものだった。
 確かにルーナのための指輪だが。
 イケメンはかなり疲れが溜まっているらしい。
 やっつけ仕事にも程があるのでイラッとしたが。
 ちょっとこのルーナの似顔絵上手く書けてる。
 デザイン力はともかく、こいつ絵は上手いんだよな。
 とりあえず燃やすけど。

「……おい、このルーナの顔の下にさっきの女性の裸体を書いてみろ」

「そ、それって何の注文ですか?」

 イケメンはブツブツ言いながら、ペンを走らせる。
 出来上がったのは、上半身裸のルーナ絵だった。

「この野郎! 俺の女でクソコラ作りやがって!!!」

「え、ええええ!? く、くそこらって??」

 とりあえず、イケメンを叱り飛ばしながら、ルーナのエロイラストは燃やさずに懐にしまう。
 後で困ったときに使おうと思う。

「あ、あのそろそろ閉店の時間なんですけど……また次回お越しいただくというわけには?」

 目の下に隈を作って疲労困憊といった具合のイケメンがそんな事を言い出した。
 めんどくさい客を閉店を理由に追っ払おうという魂胆がありありと見えた。
 というか、はあ???
 まだ仕事が終わってないのに、定時で帰ろうとでもしているのだろうか。
 ブラック企業出身の俺に何言っちゃってんの。
 午前0時の終電間際に明日の朝イチ期限の仕事を振られて、電車無くなっちゃうじゃんと困惑していたら、まだ9時間もあるから楽勝だよねとニッコリ微笑まれた時の気持ちをこいつにも味わわせたい。

「ふざけんな。デザインが出来上がるまで俺は帰らん!!」

「えええええ!?」

 もはや泣き出すイケメンを怒鳴りつけて、その後もあーでもないこーでもないとデザインを書かせ続けた。
 なんというか、いつもなら一刻も早く家に帰りたいはずなのに。
 イケメンをいじめるのは楽しくて仕方なかった。



 そんなこんなで夜がどっぷりと更けた頃。

「……ぜえぜえ、で、出来ました」

 そう言ってペンを置いたイケメンは、精も根も尽き果てたように机に突っ伏した。
 そして、出来上がったデザイン画は息を飲むようなものだった。
 絡み合う蔦を模したリング。
 土台には2体の天使の像が宝石を掲げるように持ってる。
 その上に鎮座するのは希少なブルーダイヤモンド。
 ルーナの瞳の色から着想を得たらしい。

「おお……」

 難癖つけていじめまくってたら、すごいの出来た。
 多分、3時間くらいぶっ続けでやってた。
 でも、これなら俺も納得である。

「……よく頑張ったな。根性あるぜ、お前」

 とりあえず、思い切り上からイケメンの苦労をねぎらう。

「……これで、お作りしてもよろしいですか?」

「ああ」

 そう頷くとイケメンはだーっと滝のように涙を流した。

「ありがとうございます。貴方のお陰で、職人としての殻を何枚も突き破れた気がします」

 あれだけいじめてやったのに、なぜかイケメンは喜んでいた。
 追い込みすぎて、変なテンションになっちゃったらしい。
 殻を一枚ではなく何枚もとか言ってる辺り、こいつの苦労が伺える。

「じゃあ、早速これで見積もりしてもらってきますね!」

 イケメンは晴れやかな表情で店の奥に引っ込んでいく。
 あの指輪が実際にいくらで作れるかは、別の人が算出するらしい。

 というか、いちゃもんを付けているだけだったが、俺もちょっと精神的な疲労を感じた。
 そう思って身体を伸ばしていると。

「……随分、熱心だったな」

 いつの間にか真っ赤な顔をしたルーナが傍に立っていた。
 そういえばずっと放置してしまっていた。

「悪かったな。待たせすぎて疲れちゃったか?」

 そう聞くと、ルーナはふるふると首を振る。
 そのままギュッと俺の首筋に抱きついてきた。

「うう、ひっく、ぐすっ」

 そして、小さく嗚咽を漏らし始める。
 なぜ泣く。

「……う、嬉しくて。お前があんなに真剣に私の指輪を考えてくれるなんて思ってなかったから」

 3時間イケメンをいじめてただけなのだが、傍から見れば真剣な議論に見えたらしい。

 ルーナは顔を上げると、熱の篭った目で俺を見つめる。

「……ここに連れてきてくれた時から、ずっと夢を見ているようだった。セレナもミレイも連れずに、私だけを連れてきてくれて……お前の気持ちが痛いほどよくわかった。……うう、ちゃんと立派な妻になるからね。ぐすっ」

 そう言って、鼻を鳴らすルーナは可愛くて。
 今だって十分立派な――。

「コウ、大好きだぞ」

 そして、俺たちは長いキスをした。

「あの、お取り込み中のところすみません……」

 そんな時、イケメンが声をかけてきた。
 今ルーナといい雰囲気なのに何だよ。
 空気読めよ。

 そんな憎しみを込めて睨みつけたのに、イケメンはビビりながらも俺だけを店の隅っこに連れて行く。
 一人残されたルーナが寂しそうにこちらを見つめていた。

「見積もりが出来ました」

 おお、早いな。

「……それが、ちょっとご予算から足が出てしまいまして」

 イケメンは気まずそうな顔をしていた。
 ちょっとっていくらだよ。
 金貨100枚くらいは家からルーナが持ってきた分があるが。

「いくらになったんだ?」

「……金貨3000枚です」

 イケメンはボソッと言った。
 え、馬鹿なの??
 予算の3倍じゃん。

「ブルーダイヤモンドとか、精緻な彫刻とかがだいぶ嵩みまして」

「はあ!? じゃあ、なんでそんな高い宝石使ったんだよ!?」

「一度、サファイアをご提案したら、普通……とか言って鼻で笑ったじゃないですか!?」

 そりゃ笑ったけれども。
 あれはサファイアを笑ったのではなく、イケメンを小馬鹿にしたかっただけなのだ。

「……どうしたんだ?」

 イケメンの首をしめようとしていたら、不安そうな顔をしたルーナがやってきた。
 金の問題で揉めてたとかルーナには言いたくない。

「な、なんでもないぞ」

 なので、とりあえず誤魔化すことにする。

「それならいいけど……あ、そういえばな? 私もかわいい結婚指輪選んでおいたぞ」

 ルーナは嬉しそうにそんな事を言い出した。
 そういえば、結婚指輪の事すっかり忘れていた。
 まあ結婚指輪の相場なんて大したことないだろう。
 多分、10万円くらいだ。
 金貨1枚だろうから、金貨3000枚にくらべたら誤差みたいなものだ。

「色んなのがあって迷ったんだけどな? オリハルコンの指輪にすることにしたんだ」

 なんか伝説の金属の名前を言い出した。
 オリハルコン??
 そんなの実在すんのかよ!?
 さすが異世界。

「……ちなみに、それはいくらなんだ?」

 こっそりとルーナに聞こえないように、イケメンに耳打ちしてみた。

「……金貨1000枚ですね」

 気が遠くなった。
 はあ??
 金貨1000枚って1億円じゃん!!
 婚約指輪の3000枚と合わせたら4億円じゃん!!!
 どこの石油王だ!?

「普通のプラチナとかだったら金貨1枚くらいで出来るんですけどね……ちなみに、婚約指輪にもオリハルコンは使用します。あの彫刻はオリハルコンくらいの強度がないと無理なので」

 イケメンがボソボソとそんな事を教えてくれる。
 だったらプラチナでいいよ。
 もう全部プラチナにしようよ。

 そんなわけで、さり気なくルーナにプラチナを勧めてみた。

「えー! だってオリハルコン緑色でかわいいんだもん。私はグリーンが好きだ」

 そういえばいつも緑色の服着てるけど。
 オリハルコンって緑色なのか。
 初めて知った。
 それはいいけど、値段が可愛くねえんだよ。

「ねえ、ダメ?」

 ルーナがうるうるしながら、上目遣いをしてくる。
 くそ、可愛い。
 さっき嬉し涙流してたしな。
 出来れば買ってやりたい。
 はあ。

「……ルーナ。とりあえず、会計を済ませるから、お前はちょっと外に出てなさい」

 俺は覚悟を決めた顔で、ルーナを店の外に追っ払う。
 これからすることは、ルーナには見られたくないのだ。

「え? 買ってくれるのか? ……というか、突然、そういう顔をするな! ドキドキしちゃうだろ!」

 ルーナは真っ赤になりながら、店の外に出ていく。
 ちょろ可愛くて仕方ない。

 店内に俺だけ残ると、イケメンに店長を呼んでこさせた。
 しばらくして、奥から厳しい顔をした初老のオジサンが出てくる。
 うわ、すげえ怖そう。

 かなり気圧されるが、これもルーナのためだ。

 今こそ、俺の男を見せてやんよ!!

 俺は店長の前で勢い良く土下座を決めた。
 さっきまでいじめまくっていたイケメンもいたが、プライドなんてどうでも良かった。

「ローンを組ませてください!!! できればフルローンで!!!!」

 俺の悲痛な叫びが、とっくに閉店を向かえた店内に木霊した。
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