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第四章 竜騎士編
第140話 幕間 魔術師達の悪巧み
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王都屈指の高級娼館「夜蝶館」。
その一階には、小規模ながら酒場も備え付けられていた。
その酒場の一角を黒尽くめの集団が占拠していた。
「まったく、羨ましいですな。あの小僧は、今頃、上であの傾国のアイリーンとよろしくやっているわけですか……アイリーンって一晩いくら取られるんですか?」
「金貨十枚ほどらしい。今回は無理を言ったのもあるし」
「……普通の家族だったら3ヶ月は生活できますな」
「……ちゃんと経費で落ちるんでしょうか」
黒尽くめの集団は、店で最も安い酒をちびちび飲みながら、自分たちがもてなす少年への怒りを露わにする。
主な酒の肴は少年へのグチである。
「だいたい、あの小僧いくつですか? まだ十代でしょう?」
「……あの若さで王都最高の遊女に相手をしてもらえるなんて……羨ましい」
「将来ロクな人間になりませんな」
「ただ、あの小僧、妙に女慣れしてませんでしたか?」
「前の娼館で、いきなり女を両手に抱いて乳を弄ってましたな……。とても十代の少年の所業とは思えませんでした……」
「……既にロクな人間ではないですな」
黒尽くめの男たちが、少年への文句で盛り上がる中、ずっと黙っていたアダルフィンが口を開く。
「……とはいえ、あの小僧の力は無視できん。我らがいくら力を付けた所で、あの小僧に敵対されては太刀打ちできんだろう」
アダルフィンの言葉に、黒尽くめの男たちは息を飲んで押し黙る。
「……しかし、アダルフィン様。近日中に、我ら王国魔術師協会は、勅命にて勇者召喚を行う事になっております」
「そ、そうです。勇者さえ召喚してしまえば、あんな小僧、どうってことないのでは?」
「いや、あの小僧はともかく、あの原色の古龍(エンシェントドラゴン)が厄介だ。あれはかなり強力だぞ」
「しかし、今回召喚する勇者は3人です。多大な犠牲も払いますが……。3人も勇者がいれば、原色の古龍(エンシェントドラゴン)といえど、恐れることはないのではないでしょうか」
「うーむ。微妙な所だな……」
黒尽くめの男たちが、喧々諤々とする中、アダルフィンは重い溜息をついた。
「そこもとらは何もわかっていない。真に恐るるべきは、あのダーグリュン女伯爵が小僧の背後についているという事実だ」
「あの吸血鬼という噂の?」
「噂ではない。歴然とした事実よ。しかも、ただの吸血鬼ではない。あれこそ、始まりの吸血鬼、真祖よ」
「……真祖」
その言葉に、黒尽くめの男たちはゴクリと生唾を嚥下する。
「かつて、100年以上昔、我が王国は一人の吸血鬼に支配された事がある」
「……吸血公(ヴァンパイアロード)イスマンメルですな」
「確か、王国守備軍も王国近衛もあっという間に操られてしまったとか……」
吸血公(ヴァンパイアロード)の恐ろしさは、民間では眉唾ものの伝説として語り継がれているのみだが、ちゃんとした歴史を学んだ男たちは、その恐ろしさを事実として知っていた。
「ダーグリュン女伯爵は、あの吸血公(ヴァンパイアロード)よりも更に上位の存在なのだ。その強さは計り知れぬ。……私の予想では、古龍(エンシェントドラゴン)よりも上だ」
「オーク数万体を一瞬のうちに屠ったという古龍(エンシェントドラゴン)よりも、でございますか……?」
「……謁見の間や、晩餐会でチラッとお見かけしたが、とてもそんな強力な存在には見えませんでしたが……」
「……むしろ、絶世の美女でしたな」
「ええ。本当に……」
黒尽くめの男達のうち数人が、何かに思いを馳せて遠い目をした。
そんな男たちを戒めるように、アダルフィンが咳払いをする。
「とにかく、あの小僧は危険だ。古龍(エンシェントドラゴン)に吸血鬼の真祖など冗談ではない。多大な犠牲を払う勇者召喚をして、王国内での発言権を増した所で、あの小僧に背かれては、せっかくの苦労が水の泡よ」
「……最高級娼婦で抱き込めるなら、安いものというわけですな」
「その通りだ。幸い、あの小僧は女好きであるし……」
「馬鹿そうでしたな」
「女以外のことは何も考えていないな。あれは」
「せいぜい、女を与えてチヤホヤしますか」
「……我らの計画の為に、ですな?」
「その通り」
そして、黒尽くめの男たちは悪い笑みを浮かべ合う。
「……ただ、ちょっと長くないですかな?」
時間は既に夜明けに近かった。
「……自分、明日も仕事なんですけど」
いつになっても上階から降りてこない少年に対して、男たちの不満は再び募っていった。
その一階には、小規模ながら酒場も備え付けられていた。
その酒場の一角を黒尽くめの集団が占拠していた。
「まったく、羨ましいですな。あの小僧は、今頃、上であの傾国のアイリーンとよろしくやっているわけですか……アイリーンって一晩いくら取られるんですか?」
「金貨十枚ほどらしい。今回は無理を言ったのもあるし」
「……普通の家族だったら3ヶ月は生活できますな」
「……ちゃんと経費で落ちるんでしょうか」
黒尽くめの集団は、店で最も安い酒をちびちび飲みながら、自分たちがもてなす少年への怒りを露わにする。
主な酒の肴は少年へのグチである。
「だいたい、あの小僧いくつですか? まだ十代でしょう?」
「……あの若さで王都最高の遊女に相手をしてもらえるなんて……羨ましい」
「将来ロクな人間になりませんな」
「ただ、あの小僧、妙に女慣れしてませんでしたか?」
「前の娼館で、いきなり女を両手に抱いて乳を弄ってましたな……。とても十代の少年の所業とは思えませんでした……」
「……既にロクな人間ではないですな」
黒尽くめの男たちが、少年への文句で盛り上がる中、ずっと黙っていたアダルフィンが口を開く。
「……とはいえ、あの小僧の力は無視できん。我らがいくら力を付けた所で、あの小僧に敵対されては太刀打ちできんだろう」
アダルフィンの言葉に、黒尽くめの男たちは息を飲んで押し黙る。
「……しかし、アダルフィン様。近日中に、我ら王国魔術師協会は、勅命にて勇者召喚を行う事になっております」
「そ、そうです。勇者さえ召喚してしまえば、あんな小僧、どうってことないのでは?」
「いや、あの小僧はともかく、あの原色の古龍(エンシェントドラゴン)が厄介だ。あれはかなり強力だぞ」
「しかし、今回召喚する勇者は3人です。多大な犠牲も払いますが……。3人も勇者がいれば、原色の古龍(エンシェントドラゴン)といえど、恐れることはないのではないでしょうか」
「うーむ。微妙な所だな……」
黒尽くめの男たちが、喧々諤々とする中、アダルフィンは重い溜息をついた。
「そこもとらは何もわかっていない。真に恐るるべきは、あのダーグリュン女伯爵が小僧の背後についているという事実だ」
「あの吸血鬼という噂の?」
「噂ではない。歴然とした事実よ。しかも、ただの吸血鬼ではない。あれこそ、始まりの吸血鬼、真祖よ」
「……真祖」
その言葉に、黒尽くめの男たちはゴクリと生唾を嚥下する。
「かつて、100年以上昔、我が王国は一人の吸血鬼に支配された事がある」
「……吸血公(ヴァンパイアロード)イスマンメルですな」
「確か、王国守備軍も王国近衛もあっという間に操られてしまったとか……」
吸血公(ヴァンパイアロード)の恐ろしさは、民間では眉唾ものの伝説として語り継がれているのみだが、ちゃんとした歴史を学んだ男たちは、その恐ろしさを事実として知っていた。
「ダーグリュン女伯爵は、あの吸血公(ヴァンパイアロード)よりも更に上位の存在なのだ。その強さは計り知れぬ。……私の予想では、古龍(エンシェントドラゴン)よりも上だ」
「オーク数万体を一瞬のうちに屠ったという古龍(エンシェントドラゴン)よりも、でございますか……?」
「……謁見の間や、晩餐会でチラッとお見かけしたが、とてもそんな強力な存在には見えませんでしたが……」
「……むしろ、絶世の美女でしたな」
「ええ。本当に……」
黒尽くめの男達のうち数人が、何かに思いを馳せて遠い目をした。
そんな男たちを戒めるように、アダルフィンが咳払いをする。
「とにかく、あの小僧は危険だ。古龍(エンシェントドラゴン)に吸血鬼の真祖など冗談ではない。多大な犠牲を払う勇者召喚をして、王国内での発言権を増した所で、あの小僧に背かれては、せっかくの苦労が水の泡よ」
「……最高級娼婦で抱き込めるなら、安いものというわけですな」
「その通りだ。幸い、あの小僧は女好きであるし……」
「馬鹿そうでしたな」
「女以外のことは何も考えていないな。あれは」
「せいぜい、女を与えてチヤホヤしますか」
「……我らの計画の為に、ですな?」
「その通り」
そして、黒尽くめの男たちは悪い笑みを浮かべ合う。
「……ただ、ちょっと長くないですかな?」
時間は既に夜明けに近かった。
「……自分、明日も仕事なんですけど」
いつになっても上階から降りてこない少年に対して、男たちの不満は再び募っていった。
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