ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第四章 竜騎士編

第104話 再び戦場へ

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 王様からの使者が来たのは、雨が降りしきる寒い日だった。

「南部にて本格的な蛮族侵攻の兆しあり! アサギリ卿は速やかに戦支度を整え、南部ダーガン平原に向かわれたし! 以上」

 使者はそう言い残すと、雨の中を騎馬で去っていった。

「うわーん! コウがまた戦に行っちゃう!」

 ルーナが泣き崩れている。
 そんなルーナを眺めながら思うのだ。
 え、早くね?
 戦争って3ヶ月に一回じゃないのだろうか。
 前回、戦争に行ってからまだ1ヶ月半くらいしか経ってないのだが。
 夏休み半ばの登校日に嫌々来てみたら、明日から2学期がスタートしますと言われたような気分になる。
 つまり、心の準備が全然出来てない。
 まあ、王様に来いって言われたら行くしかないのだろうが。

「魔族に続いて、今度は蛮族か。いよいよ王国もきな臭くなって来たのう」

 使者が来るのを見て、俺んちに詰め掛けてきたヴァンダレイジジイがそんな事を言っていた。
 ジジイだけじゃなく、この辺に住むほぼ全ての人間が家に集まっていた。
 物凄く息苦しい。

 というか、今度の敵は魔族じゃないのだろうか。
 え、魔族だけでも手一杯っだったんじゃないの??

「王国は南部に住む蛮族とちょいちょい小競り合いをしておってのう。普通は南部国境に詰める騎士団が対応しておるんじゃが、お主にまで声がかかるということは、かなりの大攻勢があるんじゃろう」

 南部の蛮族?
 象に乗ってパオーンと攻めてくるアレだろうか。
 三国志に出てくる。
 どうしよう。
 先日、象さん滑り台を作った身としては、象さんとは戦いたくないんだけど。

「まあ最近、身体が鈍っていた所じゃ。蛮族相手にひと暴れするかのう」

 ヴァンダレイジジイが剣呑な表情を浮かべている。
 なぜ行く気まんまんなのか。
 というか。

「引退したんだし、怪我人なんだから大人しくしてろよ」

「な、なんじゃと!? 貴様ごときが儂を怪我人扱いするのか!?」

 ジジイが気色ばむ。
 本当に怒りっぽいジジイだ。
 ジジイは利き目を欠損している。
 確かに化物みたいに強いが戦場では何が起こるかわからないので不安だ。
 何よりも、もういい年なんだから大人しくしていて欲しい。

「怪我人扱いも何も、怪我人だろうが。……留守を頼みたい。ここでアンやルーナ達を守ってやってくれ」

「……むう。そういう事か。判った。貴様のいない間は、儂がこの村を守ってやるわい」

 ジジイをなんとか丸め込むことに成功した。
 ここにはセレナがいるので、ジジイなんかいなくても問題ないのだが。
 まあ、それは言わぬが花だ。
 ジジイはここで孫娘でも可愛がっている方がいい。

「俺はコウと一緒にいくぞ。子分だからな」

 ピートがそんな事を言った。
 最初からそういう約束だったな。
 弱っちいのが気になるが、ピートは連れて行くか。

「わ、わだじも行ぐ! うう、ぐすっ」

 ドサクサに紛れて、泣きじゃくるルーナが鼻声でそう言ったので、軽くデコピンしておいた。

「あう」

 ルーナは論外だ。
 あれだけ言い聞かせたのに、まだわからないのだろうか。

「アサギリ卿、うちのラッセルも連れて行ってやってくだされ」

 そう言ったのは、ラッセルだった。
 は? ラッセルはお前だろうが。
 自分の事を名前で呼んじゃう萌えキャラでも目指しているのだろうか。
 かなり方向性を見失っている気がするが。

「私はラッセルの父のダウニーです。ラッセルは今、キノコの栽培中です」

「お、おう」

 ホント紛らわしいな。
 ラッセルを連れて行く、か。
 多分ラッセルはピートより弱いので、連れていく意味があんまりない気がするが、まあお父さんがこう言うなら連れて行ってもいいかな。


 そんなわけでピートとラッセルと再び戦争に行くことになった。

 戦の準備とか言われたが、準備することは殆ど無いので、明日の朝には出発することになった。
 王様に行けと言われたダーガン平原は、ここから南に歩いて1週間くらいの距離らしい。
 水は俺の魔法でなんとかするとして、食料はセレナが携帯食料を用意してくれるそうだ。


 その日の夜は、泣きじゃくるルーナをずっと抱きしめていた。

「……ちゃんと帰ってくるから、そんなに泣くなって」

 そう声をかけてみても、ルーナは答えずに俺の胸に顔を押し付けて嗚咽を漏らすだけだった。
 なんかまた追いかけてきそうで、すげえ不安だ。
 大丈夫だろうか。



 出発の朝、皆が見送りに来てくれた。
 ルーナと、セレナにカンナさん、フィリス、ミレイ、メグ、ヴァンダレイジジイとアン、ソフィさん一家、ラッセルズ。
 こうして見ると結構な人数だ。
 確かにもう村と言ってもいいかもしれない。

「まだ全部は出来ていないのだけれど」

 セレナがそう言いながら、自分の血で作った装備を装着させてくれた。
 今回用意してくれたのは、小手、鎧、ブーツの3点だった。
 ほぼフルセットじゃないか。
 今回の装備は、相変わらず真赤だったが、キラキラと輝く鎖帷子とは違って、やや落ち着いた深みのある色合いになっている。
 装甲部分には細かな意匠もついていて、すごくかっこいい。

 鎧の固定具を付けてくれているセレナの手は震えていた。
 そのせいで、鎧の装着が遅々として進まない。

「ご、ごめんなさい。どうしたのかしら」

 声まで震えているセレナを思わず抱きしめてしまった。
 震えているセレナを見ていたら、王都で言われた告白を思い出したのだ。

「……お願い。どうか無事で帰ってきて」

 セレナはそう呟くと涙を流す。
 明るい所で泣いているセレナを見るのは初めてだったが、物凄く綺麗だ。
 そのままセレナとキスをした。

 思わずルーナの目の前なのにセレナとキスしてしまった。
 怒っているだろうか。
 そう思って、ルーナを見ると、ルーナは不安そうな顔をするだけだった。
 泣きはらした真っ赤な目で、俺をじっと見つめている。
 そんなルーナが一歩前に出た。
 そして、顔を引き締めて口を開く。

「あなた」

「お、おう」

 ルーナにあなたとか呼ばれてしまった。
 突然よそ行きルーナになってどうしたんだろうか。

「どうかご武運を。戦場での無事をお祈りしていま……ふえ……」

 結局じわじわ涙を浮かべ始めるルーナ。
 そんなルーナが可愛すぎて、思わず笑いそうになる。
 途中まですげえ妻っぽかったのに。

「ありがとう。よく頑張ったな」

 そう言いながら、ルーナを抱きしめる。

「うん。私はお前の妻だからな。ぐすっ……ちゃんと帰ってきてね」

「わかっている」

 そしてルーナにキスをする。
 よく泣く女だが、可愛くて仕方ない。
 ルーナなりにちゃんと覚悟をしていたようだ。
 今回は追ってこないで待っててくれるだろう。


 さて、他の皆との別れも済ませたし、そろそろ行くか。
 準備万端のピートと、なんかまごついているラッセルを伴って出発した。
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