ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第三章 戦争編

第91話 論功行賞 ③

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 予想した通り、王都は物凄い人だった。
 老若男女、さまざまな色の肌の人間達でごった返している。
 ルーナと同じエルフや、何やらケモミミが生えた人までいる。
 人種の多様さは東京以上だ。
 というか、ケモミミ!?
 あれ本物だろうか。
 コスプレだとしたら、人口の3割ほどをレイヤーが占めていることになる。
 王都の闇は深い。

 そんな人々は、背の高い建築物に囲まれた路地をせわしなく歩いていた。
 王都の建築物はどれも複数階の建物になっていて、塔のように背の高い建物があちこちに見受けられる。
 道路もきちんと舗装されているし、建築技術はかなりのもののようだ。

 俺はそんな王都の様子を馬車の中から眺めていた。
 ちなみに、車内の雰囲気は最悪だった。
 ルーナはグズっているし、セレナは何かを考え込んでいて無口だし。
 とりあえず、ルーナを抱きしめて頭を撫でながら慰めている。
 少しは機嫌が良くなるといいのだが。

 馬車が止まったのは、大きな屋敷の前だった。

「ここがフィンデル子爵家のお屋敷でございます」

 御者さんがそう案内してくれた。
 ということは、ここにレティーお嬢様がいるのだろうか。
 久しぶりにあの幸薄そうな笑顔に癒やされたい。

 そんな事を楽しみにしながら、馬車を降りて屋敷に入る。
 しかし、待っていたのは太っていて、かつ、脂ぎったオッサンだった。

「おお、キミがコウか。待っていたぞ」

「はあ」

「私はフィガロ・フィンデル子爵だ。よろしくな」

 太ったオッサンが握手を求めてくるので、嫌々応じた。
 オッサンの手に触れた瞬間、ネチョっとオッサン脂が手についた。
 吐きそうだった。

「こっちは倅のイーノックだ」

「……よろしく」

 そう言って、握手を求めてきたのは、痩せていて、陰険そうなオッサンだった。
 とりあえず、こっちにも渋々握手に応じる。
 こっちのオッサンの手はパサパサしていて、オッサン脂は少なめだった。
 とはいえ、オッサンには変わりないので吐きそうだった。

 というか、レティーお嬢様に再会できると思っていたのに、2人のオッサンが出て来るとは、これいかに。
 詐欺にも程がある。

「……あのう、レティーお嬢様は?」

 そう聞いてみると、太ったオッサンは思い切り顔をしかめた。

「レティシアのことか? あいつは領地の屋敷で留守番だ。あんな役立たずの娘、王都に連れてきたら、いい恥さらしだからな」

「はあ」

 なんか知らないが、レティーお嬢様は来ていないらしい。
 がっかりどころの騒ぎではない。
 レティーお嬢様は別れ際、一緒に王都に行きましょうとか言っていた。
 一緒にとか、ちょっと俺に気がある風のセリフだったので、もしかしたら近いうちに抱けるかもしれないと思っていたのに。
 そんな淡い期待を抱いていた俺に、オッサンを差し向けるとはいい度胸である。
 この借りはいつか身体で支払ってもらおうと思う。
 うーん。
 なんか脳裏にピートの悲しそうな顔が浮かんだ。
 なぜだ。
 解せぬ。

「そちらのご婦人方はご内儀かね?」

 オッサンがルーナとセレナを見やる。
 ご内儀って妻とかって意味だっただろうか。
 とりあえず、頷くと、オッサンは興味無さそうな顔をした。
 俺のルーナとセレナを見て、興味無さそうとか。
 2人をエロい目で見られても殺意が湧くだけなのだが、興味無さそうなのも腹が立つ。
 こいつホモなのだろうか。

「もうしばらくしたら王宮に向かうので、用意した客間で準備したまえ。わかっているとは思うが、陛下に謁見するのだ。平民とはいえ、身なりはそれなりに整えるようにな」

 そう言い残して、オッサン達は屋敷の奥に引っ込んでしまった。
 なんか嫌な感じである。
 恐らくレティーお嬢様の父親と兄なのだろうが、全然似てない。

「貴族なんて、あんなものだぞ」

 ルーナが達観した目で、そんな事を言っていた。
 あんなものらしい。
 貴族とは嫌な人種だ。
 じゃあ、何がいい人種なのかと言うと、ニンゲンは全員嫌いなので、嫌なのは貴族だけではないのだが。
 あ、美女は別だよ?



 俺と、ルーナ、セレナの3人は広い客室に通された。

「それでは、準備が整いましたらお声がけ下さい」

 そう言って、俺たちを案内してくれた執事のオジサンが退出していく。
 客室には俺たち3人だけが残された。

 というか、この屋敷にはオジサンの執事しかいなかった。
 メイドさんの姿が見えない。
 本気でフィンデル子爵ホモ説が真実味を帯びてきて、ちょっと背筋が冷たくなる。

「カレリア? ちょっと来てちょうだい」

 セレナは遠く離れた森の城でお留守番しているはずのカレリアさんに声をかける。
 突然、何を言い出したんだろう。
 これも抱きすぎた弊害だろうか。
 ほんとゴメンな。
 そう思いつつも、今後も抱く気満々なのだが。

「はい、お嬢様」

「うお!」

 しかし、突然、何もない空間からカレリアさんが出現する。
 驚いて変な声を上げてしまった。

「何を驚いているの? カレリアは空間魔法が使えるから、距離なんて関係ないのよ」

 なにそれ便利。
 テレポート的なものだろうか。
 カレリアさんは俺を見るとニコっと笑ってくれた。
 カレリアさんはルーナと同じ金髪の美女なのだが、ルーナより金髪の色が濃い気がする。
 というか、ほんと吸血鬼ってチートなんだけど。
 時間を止めたり、テレポートしたり、相手を魅了したり。
 うーん。
 俺も深淵魔法を覚えられるのだが、どの魔法を取るか本気で迷うな。

「悪いけど、ドレスの着付けを手伝ってくれる?」

「かしこまりました」

 その為だけにカレリアさんを呼んだらしい。
 ドレスくらい自分で着れるんじゃないかと思うのだが。

 そんな事を考えていたら、カレリアさんはルーナとセレナを囲うように、せっせと衝立を立てていく。
 え、何してんのこの人。
 そんな事をしたら、2人の生着替えが見えないじゃないか!

「申し訳ございません。アサギリ様。親しき中にも礼儀ありでございますので。お嬢様方の着付けが終わりましたら、アサギリ様の着付けを致します。少々お待ちください」

 そんな常識的な事を言われてしまった。
 なんということだ。
 カレリアさんも吸血鬼のはずなのに。
 吸血鬼って頭のネジがぶっ飛んでいて、何よりもエロを優先する素敵種族だと思っていたのだが。
 フィリスやカンナさんの姉とは思えない。
 カンナさんなら、お嬢様が着替えている間にお姉ちゃんとエッチして待ってましょうかくらい言ってくれると思うのだ。
 しょんぼりしてしまう。

「そんな顔しないの。私達の裸なんて何度も見ているでしょうに」

 それとこれとは話は別なのである。
 生着替えは別腹なのだ。
 今来ている服を脱いで、新しい服を着るまでの一瞬の間だけ、裸体が拝めるのがいい。
 刹那の美学がある。
 きっとああいうのを侘び寂びと言うのだと思う。

「……コウは私の裸しか見ないもん」

 ルーナがそんなツッコミを入れているが、なんか元気とキレがない。
 まだ貴族うんぬんを気にしているのだろうか。
 いつもだったら、セレナと取っ組み合いの喧嘩を初めて、泣かされている頃なのだが。

 そんな事を考えていたら、カレリアさんに衝立を完全に閉められてしまった。
 パサッ、パサッとルーナとセレナが服を脱いでいく音だけが聞こえる。
 なかなか素敵な音だった。
 想像力が掻き立てられていい。
 しばらく、衝立の前でニヤニヤしながら聞き入っていたが、これではただのアホではないかと気づいた。
 とりあえず、セレナに借りた燕尾服を着る。
 さっきカレリアさんが手伝ってくれると言っていたが、こんなの一人でも着れるのである。
 社畜時代は週7でスーツを着ていたのだ。
 あれと同じようなものだろう。
 というか、週7日って毎日じゃんとも思ったが、気にせずに5分位で着替え終わった。
 蝶ネクタイだけは付け方がわからなかったので、後でカレリアさんに付けてもらおうと思って、床にポイした。

「なあ、俺もう着終わったんだけど、そっち入ってもいいか?」

 ドサクサに紛れて着替えに乱入しようとしてみた。

「ダメでございます」

 しかし、カレリアさんにあっさり拒絶されてしまった。
 酷いんだけど。

「……じゃあ、外で待ってる」

 しょんぼりしながら、とぼとぼ客室を後にする。
 客室の外の廊下は中庭に面していた。
 目の前には、広い中庭が広がっている。
 中庭がある家とか、どこのセレブだよと言いたくなるが、フィンデル子爵はセレブなのだろう。
 中庭とかちょっと憧れるなー。
 うちにも今度作ろうかな。

 フィンデル子爵家の中庭はよく手入れされている感じだったが、あいつなんて言ったかな、あの庭師のスケルトン、あいつが手掛けたセレナ邸の風呂場から見える庭に比べたら数段落ちる。
 セレナ邸の庭は、こないだ見た時は、なんか冬仕様にマイナーチェンジしていた。
 冬仕様の庭も見事だった。
 あの骸骨が言う事を翻訳したフィリスによると、雪が積もっても見栄えがするように計算されているらしい。
 ほんと骸骨のくせに芸が細かいというか、生粋の職人と言うか。
 ほんの少しだけだけど憧れてしまう。

 そんな事を考えながら、中庭をぶらぶらしていると、客室のドアが空いた。
 2人のドレスアップが終わったのだろうか。
 そう思って振り返って、俺は息が止まるかと思った。

 客室から出て来たのはルーナだった。
 それはいいのだが、あいつふざけんなよ。
 限度というものを知らないのだろうか。

 ルーナは薄いグリーンのドレスに身を包んでいた。
 そのドレスは装飾こそ少ないものの、光沢を帯びた品のいい生地で仕立てられていることがわかる。
 ドレスの胸元は、下品になりすぎない程度にルーナの滑らかな素肌を覗かせている。
 ルーナはわずかに化粧をしていて、鮮やかな唇に、ほんのりと桜色の頬、ふんわりと盛られた睫毛、目蓋は赤みがかっている。
 そして、美しい金髪は見事に結い上げられていて。
 ただでさえ美人だとは思っていたのに、ちょっと今のルーナは洒落になっていない。
 その美しさは神々しいまでで、目を向けていられないくらいだ。
 というか、そういえばあいついつもスッピンだった。
 スッピンでアレなのに、化粧なんかしちゃったらこうなってしまうのだ。
 化粧はカレリアさんがしたのだろうか、けばけばしくなることなく、ルーナの美しさをよく引き立たせている。
 というか、マジで美しすぎて直視できない。

 とりあえず、まばたきをたくさんしながら、地面を見つめた。
 不意に、得も知れぬいい香りが鼻孔をくすぐった。

「ネクタイを床に投げつけておいちゃダメじゃないか。ほら、付けてやるからこっち向け?」

 そんな普段通りのルーナの声が聞こえて安心した。
 そして、顔を上げて言葉を失う。
 キラキラと輝くような美しさのルーナがすぐ目の前にいた。

「あ、あの、ルーナさん近いです」

 心臓が物凄い速さで鼓動する。
 なんだこれ。

「はあ? 馬鹿なこと言っていないでじっとしていろ」

 ルーナが蝶ネクタイを結んでくれる。
 なんか物凄い緊張する。
 ルーナはいつもどおりの口調だし、ルーナとこの距離で接近するなんて珍しくない。
 いつもなら、さっと乳を揉む所だが、手はぴくりとも動かない。
 ただ、ただ緊張する。

「……お前、どうしたんだ? なんか変だぞ。お腹痛くなっちゃったのか?」

「いや、そんな、子供じゃないんだから、はは」

 とりあえず、笑い飛ばしてみようと思ったが、上手く笑えなかった。

「……やっぱり変だぞ。だいたい、なんで私の顔を見ないんだ?」

 ルーナがそんな事を言う。
 なんか面倒くさくなってきたので、恥ずかしいけど正直に言ってみようかと思った。

「いや、お前が綺麗すぎて、ちょっと直視できない」

 ルーナが息を飲む音が聞こえる。
 そして、よろよろと後ずさった。

「そ、そんなありきたりの褒め言葉で、わ、私が喜ぶと思うなよ?」

 そりゃそうだ。
 自分でもさっきの褒め言葉はどうかと思っていた。
 よく映画なんかでフラれる噛ませ犬キャラが口にしそうなセリフだった。
 軽く死にたくなるくらい後悔しながら、チラッとルーナに目を向けた。

 ルーナは顔を真赤にしながら、満面の笑みを浮かべていた。
 え、めちゃくちゃ喜んでるじゃん。

 ルーナはすかさず抱きついてくる。

「なー? もっとよく見ろ? 目の前にいるのはお前の妻なんだぞ? 妻が綺麗でお前も嬉しいだろ?」

「う、うん」

「えへへ! じゃあ、ちゅーしよう? ちゅー」

 ルーナの唇が近づいてくる。
 ルーナとのキスなんて毎日しているのに、なんか物凄く緊張する。
 唇はどんどん近づいてきて。

「ほげ!」

 突然ルーナの口から間抜けな声が漏れた。
 見れば、セレナの拳骨がルーナの頭頂部に突き刺さっている。

「紅が落ちちゃうでしょう!? まったくお前は、目を離すとすぐに発情して!」

「……いたい」

 セレナはぷりぷり怒りながらルーナを説教している。

 というか、セレナも大概なんだけど。
 セレナはいつもとは違って、青い海のような色のドレスを着ていた。
 鮮やかな海色のドレスは、いつも黒いドレスを着ているセレナには新鮮で目に焼き付く。
 そのドレスは肌に吸い付くような形をしていて、セレナのキュッとしまった細い腰と尋常ならざる見事な巨乳を浮き上がらせているのに、少しも厭らしさはなく、むしろ上品さを醸し出している。
 セレナは日頃から化粧をしているのだが、今日は少し気合が入っていて、その整った顔立ちにさりげない華やかさが加わっている。
 銀髪はルーナと同じように見事に結い上げられ、いつもの白い花飾りではなく、銀細工の花飾りが美しい銀髪のアクセントになっていた。

「だいたい、男の褒め言葉くらい軽く受け流しなさい? それなのに、お前はホイホイ発情して――」

「セレナもすごく綺麗だ」

 思わずそんな本音を漏らしてしまうと、ガミガミしていたセレナの説教がピタリと止まる。
 そして、つつつっと近寄ってきた。

「……よ、よく聞こえなかったのだけれど、もう一度言ってくれるかしら?」

「え? 綺麗だって言ったんだけど」

「ううっ」

 セレナはジュンっと顔を真赤にさせて、その瞳を潤ませる。
 そのまま、俺の肩に手を回して顔を寄せてきた。

「ぜ、全然聞こえなかったわ。今度は耳元で囁いてくれる? 出来るだけ感情を込めてね」

 そんな事を、唇と唇が振れそうな程の距離で言ってくる。
 なぜかセレナは足を絡めてくる。
 俺はセレナの熱い吐息がかかるのを感じてミナギッてしまった。

「おい!!!! 言ってることとやってることが全然違うじゃないか!!!」

 突然、ルーナが割り込んできた。
 俺とセレナの顔を掴んで、引き離そうとしている。
 ルーナの微々たる筋力ステータスでは俺とセレナを離せるわけないのに。
 健気で可愛い。

「ちょっと何すんのよ! 邪魔しないでくれる? お前はその辺で遊んでなさい」

「はあ!? なんでお前とコウが抱き合ってるのを放って遊んでなきゃいけないんだ!? 私は妻なんだぞ?」

「妻、妻ってうるさいわね。お前それしか言うことないの? 本当、薄っぺらい小娘ね。そんなんだから貧乳なのよ」

「い、今、胸の事は関係ないじゃないか!!」

 そして、ルーナとセレナは取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 良かった。
 なんか知らんがルーナは元気になったらしい。
 問題は俺の胃がキリキリ言い出した事と、せっかく綺麗に着込んでいたドレスが着崩れそうになっている事だけだ。

「それでは私はこれでお暇させて頂きます。また何かありましたらお申し付け下さい」

 そんな事を言い残して、カレリアさんは何もない空間に溶け込むように消えていった。
 空間魔法で帰ったのだろうか。
 というか、凄いタイミングで帰ったな。
 主が絶賛乱闘中なんだけど。

「うわーん、コウ! セレナが、セレナがあ」

 案の定、ルーナが泣きついてきた。
 今回も泣かされるの早かったな。
 せっかくのお化粧が落ちてしまうので、抱きしめながら涙を拭ってやる。

「ちょっと! ドサクサに紛れて何抱きついてんのよ! たまには私と交換しなさいよ!」

 セレナがよくわからない事を言いながら、ルーナのグリーンのドレスを引っ張っている。
 破けちゃう。
 破けちゃうからやめたげて。

「……あの、準備できたのなら声をかけていただきたかったのですが」

 完全に存在を忘れていたフィンデル家の執事のオジサンがそんな声を掛けてきた。
 そういえば、ずっと客室の前に立っていたな、この人。

 執事のオジサンにちょっと申し訳なく思いながら、俺たちは用意された馬車に乗って王城に向かった。
 馬車に乗る際、別の馬車に乗り込もうとしていたフィンデル子爵に会った。
 脂ぎってる方のオッサンだ。
 フィンデル子爵はルーナとセレナを見ると、ふんっと鼻を鳴らしてさっさと馬車に乗り込んでしまった。
 今の2人を見て、鼻を鳴らすだけとか、どんだけ強靭なメンタルをしているんだろうか。
 もう間違いなくホモなんだろうと思う。
 ただ、ほぼホモ確定なのだが、もしかして、と思った。
 よくルーナは俺をかっこいいと言っている。
 犯されすぎて、脳にダメージを負ったのだと思っていたが、もしかして俺もダメージを負っているのだろうか。
 ふとルーナとセレナを見やると、二人とも眩いばかりの美しさを放っている。
 これは俺が2人を犯しすぎて、盲目的に美しいと思わされてしまっているだけなのかもしれない。
 美しいと思っているのは俺だけで、世間的にはごく一般的な女でしかないのかもしれない。
 なにそれ怖い。

 そんな事を考えていると、10分くらいで馬車は王城に到着した。
 王城はセレナの城の何倍もの大きさだった。
 その天辺を見ようとすると、首が痛くなるくらい高くそびえ立っている。
 見事な城だ。
 俺もいつかこんな城を建ててみたいものだ。
 大工の匠としての血が騒ぐ。

 馬車から降りると、城の前にはたくさんの人が集まっていた。
 皆、これでもかというくらい着飾っている。
 この人達も王様に会いに行くのだろうか。

 その時、王城の前に集まっている人たちがザワザワしだした。
 馬車からルーナとセレナが顔を出したのだ。

「おお神よ。私が見ているのは幻か」

「なんと美しい」

「一体、どこのご令嬢だ。あんなに美しいご婦人方は見たことがない」

 そんな声があちこちから聞こえてくる。
 とりあえず、2人の手をとって馬車から降りるのを助ける。
 2人ともヒールの高い靴を履いているので、歩きにくいそうだ。

「平民の妻らしく、なるべく地味なドレスにしたんだが」

「そうね。私も目立たないように気を使ったつもりだったのだけれど」

 結構派手な色のドレスを着ている気がしたが、こいつらは何を言っているのだろうと思った。
 というか、ルーナもセレナも何を着たって目立つだろう。
 これだけ美人なんだから。
 そう思った瞬間、俺の中でフィンデル子爵がホモであることが確定した。
 ルーナとセレナの美しさに辺りは騒然としているのだ。
 おかしいのは俺じゃなかった。
 薄いリアクションをしたあいつがホモだっただけだ。

 というか、人々の視線を集めてしまっている。
 日々、目立たないようにひっそりと生きてきた俺には拷問のように感じられる。
 とはいえ、注目されているのはルーナとセレナであって俺ではないのだ。
 俺は目立つ2人からそっと距離をとった。
 このまま王城の壁際に隠れて、あわよくば壁の材質を調べようと思う。
 匠の俺は壁にはうるさいのだ。

「おい、どこ行くんだ。ちゃんとエスコートしろ」

 しかし、ルーナに捕まって腕を抱かれてしまう。

「私のこともお願いね」

 反対側の腕にはセレナがしっかりと抱きついてきた。

 その瞬間、周囲の視線に殺意がこもるのを感じた。
 胃がきゅーっと収縮する。

「なんだあの貧相なクソガキは……」

「あんな美女を2人も抱えて、う、うらやましい」

「あんな小僧より、私のほうが何倍も整った顔をしているのに」

「……死ね」

 周囲から罵詈雑言を浴びせられる。
 ううう。
 これだから!
 これだからニンゲンは嫌いなのだ。
 本当に外は怖い。
 誰も来ない我が家に今すぐ引きこもりたい。

「……あいつら私のコウになんてことを言うんだ」

 ルーナがギリギリと歯を食いしばる。

「堪えなさい。でも、ちゃんと顔を覚えておくのよ? あとで私がカラカラになるまで血を吸い尽くしてやるわ」

 セレナは物騒な事を言っていた。
 怒り始めた2人は足を早める。
 俺はそんな2人に引きずられるようにして、王城に入っていった。
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