ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第三章 戦争編

第77話 初めての戦場 ⑦

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 目が覚めたのは昼ごろだった。
 2、3時間は寝ていたことになる。
 思ったよりも長く寝れた。
 お陰でHPは全快だし、ヴァンダレイジジイに殴られたせいで火照っていた体も調子が良くなっている。
 というか、今日の昼までには戦場に着く予定だったらしいが、大分出発が遅れている。
 完全に遅刻だが良いのだろうか。

「これより進発する!」

 十分に休憩して疲れが取れたらしいヴァンダレイジジイがそんな声をあげる。
 ジジイは俺を見ると、ムカつく顔で鼻を鳴らした。
 戦争中のどさくさに紛れて殺ってやろうかと思ってしまう。

 俺達は戦場に向けて、いつものようにダラダラと歩き出した。



 初めて見る戦場は、物凄い光景だった。
 見渡せる全ての範囲で、人とオークが戦っている。
 舞い上がる土埃。
 吹き上がる血しぶき。
 鼻につく鉄と血の臭い。
 僅かに糞尿の臭いも混じっている。
 何人もの怒号と悲鳴が聞こえてくる。
 想像していた以上だった。
 俺は思わず、生唾を飲み込んで後ずさってしまう。
 こんな広範囲で殺し合いが行われているなんて。

 そんな時、馬に乗った騎士らしき人が駆けて来た。
 全身をフルプレートの鎧に包んだ、俺が想像する騎士そのものだ。

「貴殿らの所属を述べよ」

 騎士は馬上で叫ぶように言う。
 叫ばないと、周りの喧騒にかき消されてしまうのだろう。

「フィンデル子爵軍100名、只今、見参致した!」

 ヴァンダレイジジイも叫ぶように答える。

「遅いぞ! 戦は既に始まっておる!」

 ああ、やっぱり怒られた。

「申し訳ござらん。見ての通り皆、老骨でのう。歩くのも遅いのじゃ」

「……むう。現在、王国軍本体は東の丘にて集結中である。貴殿ら領主軍の役目は王国軍が集結するまで敵を足止めすることである。速やかに参戦されたし。遅参した分は槍働きで挽回せよ! 以上!」

 遅刻した言い訳を、皆ジジイだからで納得させてしまった。
 ヴァンダレイジジイ恐るべしである。
 まあ、本当に皆ジジイなんだけど。

 というか、すぐに参戦しろとか言っていたけど、いきなり戦争が始まるのだろうか。
 心の準備がまだ出来ていないのだが。
 とりあえずタバコを2、3本吸いたくなった。

 騎士は言うだけ言って、さっさと馬に乗って帰っていった。
 この場にいるのは俺達だけになる。
 俺達はヴァンダレイジジイに言われて、円陣を組んだ。
 中心にいるのは、もちろんヴァンダレイジジイである。

「よいか。これより参戦となるが、儂が先陣を切る。皆は儂に続け! 絶対に儂より先には出るな!」

「「「おう!」」」

 ヴァンダレイジジイに言われて、ジジイどもが一斉に頷いている。

「お嬢様は指揮官として最後方からついて来て下され。それから、騎馬では目立つ故、申し訳ないが降りて頂けますかのう」

「は、はい!」

 お嬢様はコクコクと一生懸命頷きながら、言われるがまま馬から降りる。
 もはやどう考えても指揮官はヴァンダレイジジイだった。
 お嬢様は危なくないように、後ろからついて来てねという事だろう。
 傀儡にも程がある。

「貴様ら3人もわかっておるな? 絶対に功を焦って前に出るでないぞ? 貴様らはまだ若い。功を立てる機会なぞ、これからいくらでもあるからの」

「はい!」

 元気よくピートが頷く。
 俺とラッセルも頷いておいた。
 要はヴァンダレイジジイについていけばいいのだろう。
 わかりやすくていい。

「では行くぞ! 声を上げろ! うおおおおお!」

 ヴァンダレイジジイはあのかっこいい黒い長剣を抜き放つと、雄叫びを上げて駆け出す。
 ジジイ達もそれぞれの武器を振りかざしながら、雄叫びを上げてジジイに続く。
 俺もとりあえず月光魔剣を抜きながらも、恥ずかしいので声は上げなかった。
 叫ぶ意味がわからないので。
 とはいえ、走っていくジジイ達に遅れないようについていった。

 戦争が始まる。

 剣撃の音が近づいてくる。
 殺し合うオークと人間。
 物凄い迫力が伝わってくる。
 すぐ目の前で殺し合いが行われているのだ。
 人を殺すのは初めてじゃない。
 でも、なぜだろう。
 心臓がドキドキする。
 恐怖なのか。
 それとも興奮なのか。
 周りのジジイたちの叫び声が一層大きくなる。
 もう狂ってるんじゃないかと疑うレベルだ。
 とはいえ、何かが込み上げてくるのだ。
 抑えきれない何かが。

「うおおおおおおお!」

 気づけば俺も叫び声を上げていた。


 もう数メートル先でオークと人間が殺し合っていた。
 人間の方が数が圧倒的に多い。
 オークは傷だらけで、今にも逃げ出しそうな気配だ。

 そんなオーク達に向かって。
 ヴァンダレイジジイが剣を一閃させる。
 宙にオークの首が飛ぶ。

 ジジイ達も次々にオークと剣を合わせていく。

 俺の目の前にも手負いのオークが1体。
 月光魔剣を振り抜く。
 オークが血しぶきを上げる。
 思い切り顔にかかってしまった。
 オークの血は生臭くて、熱かった。

 心臓が痛いほど高鳴っている。
 別のオークが粗末な大剣を振り下ろしてきた。
 欠伸が出そうなほど遅い動き。
 難なく躱して、カウンターでその首を飛ばした。

 次の獲物を探す。
 辺りには土煙が舞っていて視界が悪い。

 オークの巨体が辛うじて見える。
 あれが次の獲物だ。

 そう思って移動しようとした時。
 隣で戦っていた見知らぬジジイが躓いていた。
 バランスを崩すジジイ。
 そんなジジイにオークの無慈悲な一撃が振り下ろされる。
 オークの剣はジジイの頭から喉元まで食い込んでいた。
 咄嗟にオークの首を飛ばす。
 オークにやられたジジイを抱きかかえた。

 判ってはいたが、即死だった。
 くそ。
 嘆いていられたのは一瞬だけ。

 2体のオークが俺に向かって来る。
 ジジイを離して、オークを2体まとめて薙ぎ払った。
 オーク共が腸を撒き散らして地面に沈んでいく。
 そして、更に別のオークが襲い掛かってきた。
 俺は夢中で剣を振り回していた。
 
 身体が重い。
 まだ全然身体を動かしていないと言うのに。
 見えない重圧が全身に纏わり付いてくる。
 これが戦争なのだろうか。

「ようし、ここはもういい。小休止の後、次に向かう」

 気づけばオーク達が潰走していた。
 俺達の勝ちだ。
 とはいえ、オークとの戦闘はあちこちで起こっており、俺達がいるのはほんの一箇所でしかない。

 どのくらいの時間が経ったのだろう。
 全身が気怠く、息が切れていた。
 疲労耐性のログが出ている。

 辺りを見渡すと、オークの死体が山のように積まれていた。
 そんな中にぽつぽつとジジイたちが、疲れ果ててへたり込んでいる。
 ピートとラッセルの姿もあった。
 良かった。生きているらしい。
 後ろを見ると、お嬢様がオロオロしていた。
 お嬢様も無事だ。
 というか、うちの隊はほとんど生き残っていた。
 血を流して地面に倒れている者もいたが。
 生存率はかなりのものだと思う。
 多分90%以上は生きている。
 ジジイばかりのはずなのに、意外だ。

「小休止終わり。次に向かう!」

 ヴァンダレイジジイの号令が聞こえる。
 俺は気怠い身体を起こして、ジジイに続いた。
 ジジイは剣を振り上げて、走っていく。
 元気のいいジジイである。
 俺はそんなジジイの後に続いて走りながら、今回もいつのまにか雄叫びを上げていた。



 俺達はオークと小競り合いを続ける人間の集団に加勢をするように、戦場を転々とした。
 そんな事をもう何度繰り返しただろうか。
 今は小休止中だ。
 さすがに精神的な疲労を感じる。

「……お前すげえよ。ほとんどお前と副長殿でオーク倒してるじゃないか」

 俺の横でへたり込んでいるピートが、息を荒げながらそんな事を言う。
 そうだろうか。
 あまり実感はないが。
 ピートの鋼の鎧は返り血に濡れていた。
 ピートも何体かオークを倒したのだろう。
 ラッセルはピートの隣でボロい槍を抱えるようにして座り込んでいた。
 2人とも無事だ。
 怪我もしていないように見える。
 2人以外にもジジイ達の殆どは無事だった。
 お嬢様ももちろん無事だ。
 皆、運が良かったのだろうか。
 
 いや、ヴァンダレイジジイが凄いのだ。
 
 戦場を何度か転々としてわかったことがある。
 ヴァンダレイジジイが突っ込んでいく戦場は、ほとんど味方の優勢が決まっている場所ばかりだった。
 もうほぼ勝ちが決まっている場所に突っ込んで、勝ちを確定的なものにしているのだ。
 なので、うちの部隊の損耗率は物凄く低い。
 今にして思えば、ヴァンダレイジジイが遅刻したのは、戦局を見定めやすくする為だったのだと思う。
 せこいような気もするが、戦う一兵卒からすると物凄くありがたい。
 ヴァンダレイジジイはもしかすると、優秀な指揮官なんじゃないかという気になってきた。
 このまま行けば、それほど大きな被害もなく戦争が終わるかもしれない。
 もうすぐルーナの所に帰れる。

 辺りを揺るがす轟音が響いたのは、そんな時だった。
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