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第三章 戦争編
第75話 初めての戦場 ⑤
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その日の夜は、昨夜と同じように焚き火を囲って野営した。
今は食事も終わって、就寝時間だ。
地面に直に横になっている。
相変わらず、夜空の星が綺麗だった。
結局、昼間に続いて、夜もヴァンダレイさんにボコられてしまった。
本気で歯が立たない。
今回も一撃も入れることが出来なかった。
なんか、セレナと戦った時以上の絶望を感じる。
とはいえ、剣や二刀流、打撃などのスキルの熟練度はガンガン上がっているはずだ。
このままヴァンダレイさんと戦っていれば、そのうちスキルのレベルが上って、どかんと強くなるかもしれない。
あのジジイが泣きを見るのはその時だろう。
戦場につくまでには、ジジイを地べたに這いつくばらせたい。
というか、顔や身体がじんじんして眠れない。
ヴァンダレイさんに殴られすぎたせいだ。
痛みはないが、アドレナリンがドパドパ出ている気がする。
くそ、あのジジイ。
もういっそ、闇討ちしてやろうかと思った。
今は結構な夜更けで、みんな寝静まっている。
あのジジイも寝ているはずだ。
殺るなら、今だ。
まるで天啓のように閃いた。
俺はムクリと起き上がった。
「眠れないのか?」
急にそんな声をかけたれた。
見れば、ピートがばっちり目を開けて、仰向けになりながら俺を見ている。
ばっちり犯行現場を見られてしまう所だった。
「お、おう」
今からヴァンダレイジジイの息の根を止めに行こうとしたとは言えない。
「俺も眠れなくてな。なあ、ちょっと話をしないか?」
ピートは身を起こしながら言う。
まあ付き合ってやってもいいか。
「いいけど」
「よし、じゃあ、河原にでも行こうぜ」
え、なんで夜中に男と河原になんか行かなきゃいけないのか。
しかし、ピートはすたすたと歩いていってしまう。
なんか人に聞かれたくない話でもあるのだろうか。
とりあえず、ピートについていった。
俺達は川に沿って行軍している。
この川はメーナス川と言うらしい。
川幅は結構広く、向こう岸までは25メートルくらいだろうか。
川の流れは穏やかで、水は澄み切っている。
というか、川に沿って行軍というのはなかなか賢いやり方だと思った。
100人とは言え、人数分の水を確保するのはなかなか大変だろう。
川沿いならばその問題をクリアできる。
恐らくヴァンダレイさんが考えた行軍進路なのだろうが、なかなか出来るジジイである。
まあ、息の根は止めるが。
とはいえ、今夜は月の綺麗な夜だった。
辺りは、まるで昼間のように明るい。
完全犯罪を成し遂げるためには、別の夜にした方がいいかもしれない。
「なあ、レティーお嬢様をどう思う?」
ピートはさらさらと流れるメーナス川を眺めながら、そんな事を言う。
突然、何を言い出すのか。
まあ、女の話なだけマシだが。
なあ、ラッセルをどう思う?
とか聞かれるよりはマシである。
生きているな、くらいの感想しか言えないので。
「美人だと思うぞ」
素直にそう答えてみると、ピートは嬉しそうな顔をした。
「だよな? すげえ美人だよな! レティーお嬢様」
すげえと言う程でもない気がするけど。
ルーナの方が遥かに美人だし。
ああ、ルーナに会いたい。
とはいえ、ピートが嬉しそうなので、とりあえず頷いてみた。
というか、あのお嬢様ってレティシアとかいう名前だったと思う。
レティシアの愛称でレティーなのだろうか。
なんか親しげで腹が立つな。
そういえば、ヴァンダレイジジイに上書きされて忘れていたが、ピートも〆ようとしていたんだった。
今は周りに誰もない。
〆るなら今だ。
「……俺さあ、レティーお嬢様がいるから、この討伐軍に志願したんだ」
おもむろに殴りかかろうとしていたら、ピートがそんな事を言うので止めてしまった。
女のために志願?
良い所を見せて、押し倒そうとしたのだろうか。
下心しかねえじゃねえか。
嫌いじゃないけど。
「子供の頃から、レティーお嬢様は綺麗でな。ずっと憧れていたんだ」
いや、下心というか。
もしかして、これは……。
「……ちょっと待て。お前は何の話をしようとしている?」
思わずピートに確認してしまう。
「何って……れ、恋愛の話だよ」
ひいいいいいいいいいい!
こ、恋バナ!?
この俺に恋バナ!?
「ぐっ! 頭が!」
急に頭に激痛が走る。
なぜだ。
飲みすぎて終電を逃してタクシーで帰宅中に、嘔吐が我慢できなくなって、中央分離帯に降ろされた記憶。
パチスロに負け続けて、台パンした記憶。
本番禁止のファッションヘルスで嬢に、先っちょだけだからと懇願した記憶。
そんなろくでもない記憶ばかりがフラッシュバックしてくる。
違う。違うんだ。
俺は汚れてない。
悪いのは世間なんだ。
「おい、コウ? 大丈夫か? すごい汗だぞ」
ピートが俺の顔を覗き込んでくる。
やめろ。
そんな汚れなき眼で俺を見るな。
「……いや、気にしないで続けてくれ」
「そうか? ……俺なんてしがない庭師の息子だから、レティーお嬢様とは全然身分違うんだけどさ。そ、その、す、好きな気持は誰にも負けないっていうか」
す、好き!?
ぐああああああ!
頭が割れる。
怨霊にとっての読経とはこんな感じなのだろうか。
というか、恥ずかしい。
聞いているこっちが恥ずかしくなってくるとはこのことか。
「だから、せめて最期は一緒にいたいと思ってな」
やめてくれ!
オッサンに青春は毒なんだあああ!
うん? 最期?
「……なんで最期なんだ?」
「戦は何が起こるかわからないだろう? お嬢様だって無事じゃすまないかもしれないじゃないか」
まあ、そうだな。
戦争に行くんだから、何が起きても不思議じゃない。
だから俺もルーナを連れてこなかったのだ。
ただちょっと気になった事がある。
「司令官のお嬢様って、偉い貴族の娘なんだよな?」
「ああ。フィンデル子爵家のご長女だ」
「長女!? ……長女がなんで軍隊の指揮官なんてやってるんだよ」
以前、ルーナに聞いた話では、貴族の娘の結婚は親が勝手に決めると言っていた。
つまりそれは娘の結婚が家にとって重大な利益があるということだ。
そんな大切な娘に軍隊の指揮官なんてやらせるんだろうか。
そんなのやらせてないで、さっさと結婚させろよと思う。
「……他の人に言いふらさないと誓えるか?」
「うむ」
自信満々に頷いた。
なぜなら他の人と関わる気がないからだ。
というか、言いふらされると困る話なのだろうか。
「レティーお嬢様は、3年前に、その、け、結婚してたんだ」
ピートは結婚の部分だけ言いづらそうだった。
好きな女が他の男と結婚したとか言いたくないのだろう。
なんとなくわかる。
かつての俺もそんな感じだった気がする。
というか、ピートの考えていることが手に取るように判ってしまう。
ピートへの生暖かい好感度が大気圏突破してしまうじゃないか。
「でも、レティーお嬢様は子供の産めない身体だったみたいで、今年の夏に離縁されたんだ。しかも、相手の貴族っていうのがタチの悪いやつで、レティーお嬢様の事を欠陥品みたいに、あちこちに言いふらしやがって」
ピートが奥歯を食いしばる。
うんうん。
好きな女が悪く言われたらムカつくよなあ。
というか、その貴族クソ野郎だな。
しかも3年前のレティーお嬢様と結婚?
今20くらいのレティーお嬢様の3年前って17じゃないか。
17歳って女子高生の年齢だ。
女子高生と結婚?
奥さまは女子高生?
「おい、ピート。そのクソ貴族の名前を教えてくれ。ぶっ飛ばしてやる」
「え? デロニア男爵っていうんだけど……って、そんな怖い顔すんなよ。やっぱり良い奴だな、お前」
いや、嫉妬に狂いそうになっただけなのだが。
「とにかく、そんな噂を流されたお嬢様は結婚相手がいなくなっちゃってな。フィンデル子爵は、まるでお嬢様を切り捨てるみたいに、今回の討伐軍の司令官に任命したんだ。本来なら子爵自身か、息子の誰かが率いるべきなのに、戦に怖気づいたのさ。結婚できないお嬢様なら丁度いいと思ったんだな」
吐き捨てるようにピートは言った。
ふーむ。
フィンデル子爵というのもクソ野郎だな。
「ちなみに子供が産めないと結婚できないのか?」
結構美人なお嬢様なのにな。
「そりゃあ、貴族にとっては世継ぎが必要だろうからな。子供産めない女は嫌なんだろうさ」
「お前もか?」
「嫌なもんか! お嬢様だったら大歓迎だ!」
一瞬のためらいもなく、ピートは言い切った。
そうだ、それでいい。
子供が産めなくても抱ければ良いのだ。
ピートはもう少し青臭いことを考えている気がするが。
ピートの肩をポンと叩く。
「……ちなみに、お嬢様って前の結婚相手とやったのかな?」
なんかピートが可愛くなってきた。
ちょっとからかってやりたくなってしまう。
ちなみに可愛くなってきたと言っても、ホモ的な感情ではない。
会社に新しく入ってきた若い新入社員的な感じだ。
俺の言葉に、ピートは激しく動揺した。
顔を真っ青にして俯いてしまう。
「そのことを考えると、死にたくなるんだ。この世界はどうなっているんだ。全員呪われろ」
予想通りの反応で、思わず笑いそうになってしまう。
俺も昔、こんなんだったのだろうか。
ピートを見ていると、恥ずかしくて切なくて。
「気にすんな。抱いた時に、前の男とどっちが良かったか聞いてみるっていうプレイが楽しめるしな」
あれはいいものだ。
優越感が半端ない。
セレナに700年間で一番いいと言わせた時には、嬉しくて2、3日腰が止まらなかったほどだ。
「……抱いたときって、ええ!? 俺なんかがお嬢様を抱けるわけないだろ!」
そんな事を言いながら、ピートと深夜まで話し込んでしまった。
ヴァンダレイジジイへの闇討ちも、ピートを〆ようとしていた事も、いつの間にか忘れていた。
夜中に男同士で話し合うのも、たまには良いものだった。
あまり強くないので、普段は飲みたいとは思わない酒が欲しくなってしまう。
行軍2日目の夜はこうして更けていった。
今は食事も終わって、就寝時間だ。
地面に直に横になっている。
相変わらず、夜空の星が綺麗だった。
結局、昼間に続いて、夜もヴァンダレイさんにボコられてしまった。
本気で歯が立たない。
今回も一撃も入れることが出来なかった。
なんか、セレナと戦った時以上の絶望を感じる。
とはいえ、剣や二刀流、打撃などのスキルの熟練度はガンガン上がっているはずだ。
このままヴァンダレイさんと戦っていれば、そのうちスキルのレベルが上って、どかんと強くなるかもしれない。
あのジジイが泣きを見るのはその時だろう。
戦場につくまでには、ジジイを地べたに這いつくばらせたい。
というか、顔や身体がじんじんして眠れない。
ヴァンダレイさんに殴られすぎたせいだ。
痛みはないが、アドレナリンがドパドパ出ている気がする。
くそ、あのジジイ。
もういっそ、闇討ちしてやろうかと思った。
今は結構な夜更けで、みんな寝静まっている。
あのジジイも寝ているはずだ。
殺るなら、今だ。
まるで天啓のように閃いた。
俺はムクリと起き上がった。
「眠れないのか?」
急にそんな声をかけたれた。
見れば、ピートがばっちり目を開けて、仰向けになりながら俺を見ている。
ばっちり犯行現場を見られてしまう所だった。
「お、おう」
今からヴァンダレイジジイの息の根を止めに行こうとしたとは言えない。
「俺も眠れなくてな。なあ、ちょっと話をしないか?」
ピートは身を起こしながら言う。
まあ付き合ってやってもいいか。
「いいけど」
「よし、じゃあ、河原にでも行こうぜ」
え、なんで夜中に男と河原になんか行かなきゃいけないのか。
しかし、ピートはすたすたと歩いていってしまう。
なんか人に聞かれたくない話でもあるのだろうか。
とりあえず、ピートについていった。
俺達は川に沿って行軍している。
この川はメーナス川と言うらしい。
川幅は結構広く、向こう岸までは25メートルくらいだろうか。
川の流れは穏やかで、水は澄み切っている。
というか、川に沿って行軍というのはなかなか賢いやり方だと思った。
100人とは言え、人数分の水を確保するのはなかなか大変だろう。
川沿いならばその問題をクリアできる。
恐らくヴァンダレイさんが考えた行軍進路なのだろうが、なかなか出来るジジイである。
まあ、息の根は止めるが。
とはいえ、今夜は月の綺麗な夜だった。
辺りは、まるで昼間のように明るい。
完全犯罪を成し遂げるためには、別の夜にした方がいいかもしれない。
「なあ、レティーお嬢様をどう思う?」
ピートはさらさらと流れるメーナス川を眺めながら、そんな事を言う。
突然、何を言い出すのか。
まあ、女の話なだけマシだが。
なあ、ラッセルをどう思う?
とか聞かれるよりはマシである。
生きているな、くらいの感想しか言えないので。
「美人だと思うぞ」
素直にそう答えてみると、ピートは嬉しそうな顔をした。
「だよな? すげえ美人だよな! レティーお嬢様」
すげえと言う程でもない気がするけど。
ルーナの方が遥かに美人だし。
ああ、ルーナに会いたい。
とはいえ、ピートが嬉しそうなので、とりあえず頷いてみた。
というか、あのお嬢様ってレティシアとかいう名前だったと思う。
レティシアの愛称でレティーなのだろうか。
なんか親しげで腹が立つな。
そういえば、ヴァンダレイジジイに上書きされて忘れていたが、ピートも〆ようとしていたんだった。
今は周りに誰もない。
〆るなら今だ。
「……俺さあ、レティーお嬢様がいるから、この討伐軍に志願したんだ」
おもむろに殴りかかろうとしていたら、ピートがそんな事を言うので止めてしまった。
女のために志願?
良い所を見せて、押し倒そうとしたのだろうか。
下心しかねえじゃねえか。
嫌いじゃないけど。
「子供の頃から、レティーお嬢様は綺麗でな。ずっと憧れていたんだ」
いや、下心というか。
もしかして、これは……。
「……ちょっと待て。お前は何の話をしようとしている?」
思わずピートに確認してしまう。
「何って……れ、恋愛の話だよ」
ひいいいいいいいいいい!
こ、恋バナ!?
この俺に恋バナ!?
「ぐっ! 頭が!」
急に頭に激痛が走る。
なぜだ。
飲みすぎて終電を逃してタクシーで帰宅中に、嘔吐が我慢できなくなって、中央分離帯に降ろされた記憶。
パチスロに負け続けて、台パンした記憶。
本番禁止のファッションヘルスで嬢に、先っちょだけだからと懇願した記憶。
そんなろくでもない記憶ばかりがフラッシュバックしてくる。
違う。違うんだ。
俺は汚れてない。
悪いのは世間なんだ。
「おい、コウ? 大丈夫か? すごい汗だぞ」
ピートが俺の顔を覗き込んでくる。
やめろ。
そんな汚れなき眼で俺を見るな。
「……いや、気にしないで続けてくれ」
「そうか? ……俺なんてしがない庭師の息子だから、レティーお嬢様とは全然身分違うんだけどさ。そ、その、す、好きな気持は誰にも負けないっていうか」
す、好き!?
ぐああああああ!
頭が割れる。
怨霊にとっての読経とはこんな感じなのだろうか。
というか、恥ずかしい。
聞いているこっちが恥ずかしくなってくるとはこのことか。
「だから、せめて最期は一緒にいたいと思ってな」
やめてくれ!
オッサンに青春は毒なんだあああ!
うん? 最期?
「……なんで最期なんだ?」
「戦は何が起こるかわからないだろう? お嬢様だって無事じゃすまないかもしれないじゃないか」
まあ、そうだな。
戦争に行くんだから、何が起きても不思議じゃない。
だから俺もルーナを連れてこなかったのだ。
ただちょっと気になった事がある。
「司令官のお嬢様って、偉い貴族の娘なんだよな?」
「ああ。フィンデル子爵家のご長女だ」
「長女!? ……長女がなんで軍隊の指揮官なんてやってるんだよ」
以前、ルーナに聞いた話では、貴族の娘の結婚は親が勝手に決めると言っていた。
つまりそれは娘の結婚が家にとって重大な利益があるということだ。
そんな大切な娘に軍隊の指揮官なんてやらせるんだろうか。
そんなのやらせてないで、さっさと結婚させろよと思う。
「……他の人に言いふらさないと誓えるか?」
「うむ」
自信満々に頷いた。
なぜなら他の人と関わる気がないからだ。
というか、言いふらされると困る話なのだろうか。
「レティーお嬢様は、3年前に、その、け、結婚してたんだ」
ピートは結婚の部分だけ言いづらそうだった。
好きな女が他の男と結婚したとか言いたくないのだろう。
なんとなくわかる。
かつての俺もそんな感じだった気がする。
というか、ピートの考えていることが手に取るように判ってしまう。
ピートへの生暖かい好感度が大気圏突破してしまうじゃないか。
「でも、レティーお嬢様は子供の産めない身体だったみたいで、今年の夏に離縁されたんだ。しかも、相手の貴族っていうのがタチの悪いやつで、レティーお嬢様の事を欠陥品みたいに、あちこちに言いふらしやがって」
ピートが奥歯を食いしばる。
うんうん。
好きな女が悪く言われたらムカつくよなあ。
というか、その貴族クソ野郎だな。
しかも3年前のレティーお嬢様と結婚?
今20くらいのレティーお嬢様の3年前って17じゃないか。
17歳って女子高生の年齢だ。
女子高生と結婚?
奥さまは女子高生?
「おい、ピート。そのクソ貴族の名前を教えてくれ。ぶっ飛ばしてやる」
「え? デロニア男爵っていうんだけど……って、そんな怖い顔すんなよ。やっぱり良い奴だな、お前」
いや、嫉妬に狂いそうになっただけなのだが。
「とにかく、そんな噂を流されたお嬢様は結婚相手がいなくなっちゃってな。フィンデル子爵は、まるでお嬢様を切り捨てるみたいに、今回の討伐軍の司令官に任命したんだ。本来なら子爵自身か、息子の誰かが率いるべきなのに、戦に怖気づいたのさ。結婚できないお嬢様なら丁度いいと思ったんだな」
吐き捨てるようにピートは言った。
ふーむ。
フィンデル子爵というのもクソ野郎だな。
「ちなみに子供が産めないと結婚できないのか?」
結構美人なお嬢様なのにな。
「そりゃあ、貴族にとっては世継ぎが必要だろうからな。子供産めない女は嫌なんだろうさ」
「お前もか?」
「嫌なもんか! お嬢様だったら大歓迎だ!」
一瞬のためらいもなく、ピートは言い切った。
そうだ、それでいい。
子供が産めなくても抱ければ良いのだ。
ピートはもう少し青臭いことを考えている気がするが。
ピートの肩をポンと叩く。
「……ちなみに、お嬢様って前の結婚相手とやったのかな?」
なんかピートが可愛くなってきた。
ちょっとからかってやりたくなってしまう。
ちなみに可愛くなってきたと言っても、ホモ的な感情ではない。
会社に新しく入ってきた若い新入社員的な感じだ。
俺の言葉に、ピートは激しく動揺した。
顔を真っ青にして俯いてしまう。
「そのことを考えると、死にたくなるんだ。この世界はどうなっているんだ。全員呪われろ」
予想通りの反応で、思わず笑いそうになってしまう。
俺も昔、こんなんだったのだろうか。
ピートを見ていると、恥ずかしくて切なくて。
「気にすんな。抱いた時に、前の男とどっちが良かったか聞いてみるっていうプレイが楽しめるしな」
あれはいいものだ。
優越感が半端ない。
セレナに700年間で一番いいと言わせた時には、嬉しくて2、3日腰が止まらなかったほどだ。
「……抱いたときって、ええ!? 俺なんかがお嬢様を抱けるわけないだろ!」
そんな事を言いながら、ピートと深夜まで話し込んでしまった。
ヴァンダレイジジイへの闇討ちも、ピートを〆ようとしていた事も、いつの間にか忘れていた。
夜中に男同士で話し合うのも、たまには良いものだった。
あまり強くないので、普段は飲みたいとは思わない酒が欲しくなってしまう。
行軍2日目の夜はこうして更けていった。
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