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第三章 戦争編

第68話 料理対決

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 結構な時間、セレナとしていたような気がするが、風呂は全然冷めていなかった。
 まるでさっき入れたばかりのようだ。
 セレナが言っていた時間を止めたというのは本当らしい。

「あー、疲れた」

 広い湯船の中で、思い切り身体を伸ばしてみる。
 久しぶりに思う存分、女を抱いてしまった。
 なんか腰の辺りが軽い気がする。
 なんにせよ、心地よい疲労感である。

 しばらく、そのまま湯船に使って疲れを癒やしていた。
 すると不意に肩をちょんちょんとつつかれる。
 誰だろうと思って、振り返ってみると、カンナさんがジト目で睨んでいた。
 カンナさんは風呂桶を覗き込むようにして立っている。
 ビシっと着こなしたメイド服が濡れてしまわないか心配だ。

「コウくん。聞きたいことがあるんですけど」

「な、なんでしょう」

 俺にはわかる。
 カンナさんのこの雰囲気は、説教される前兆だ。
 一体、なんの説教だろうか。
 善良なる俺としては、何も心当たるフシがないのだが。

「セレナお嬢様がお部屋で、数万の軍隊に輪姦されたみたいになっているんですけど。何か知りませんか?」

「あ、あー……」

 どうしよう。
 心当たりありまくりだった。
 つうか、数万の軍隊て。

「知っているような、知らないような……」

 とめどなく汗が出てくる。
 咄嗟にシラを切ってしまった。

「はあ、やっぱりコウくんでしたか」

 しかし、あっさりバレてしまった。
 なぜだ。解せぬ。

「あんな事するのコウくんしかいないでしょう? はあ、一体どれだけしたらセレナお嬢様があんなふうになるんですか。まったく……」

「ええと……」

 両手で行為を思い出しながら数えてみる。
 どうしよう。
 両手両足を使っても全く足りる気がしない。

「数えなくていいです。もう、コウくん? 女性をあんなにぐちゃぐちゃにしてはいけませんよ? 溜まっているなら、いくらでもお姉ちゃんが相手をしてあげますから」

 全く溜まっている自覚はなかったが、相手をしてくれると言うのなら、早速――。
 しかし、カンナさんにギロリと睨まれてしまった。

「今はダメです。これから、コウくんがぐちゃぐちゃにしたお部屋とお嬢様をお掃除しなきゃいけないんですから」

 お嬢様をお掃除て。
 メイドがそんな事を言って良いのだろうか。

「だいたい、あれだけしておいて、まだしたいんですか? コウくん、お姉ちゃんはちょっと心配です。いくらコウくんが底なしでも、人間、限度というものが――」

 そのままカンナさんにクドクドと説教をされ続けた。
 風呂に入りながら、メイドに説教される。
 それはそれでなかなか乙だった。


 風呂から上がって、まったりしていたら途端に眠気を感じたので、家に帰ってしばらく昼寝をした。
 さすがにちょっと疲れていたらしい。
 起きた頃には、既に日が暮れていた。
 仕事もせずに昼間から昼寝をするなんて、なんという贅沢なのだろう。
 ずっと憧れていたシチュエーションだ。
 本当に異世界に来てよかったと思う。
 というか、昼寝をする前にセレナとしたので、正確には、仕事もせずに昼間から女を抱いて寝るとなるのだが、途端にクソ野郎臭が漂いだした。
 深く考えないことにしよう。

 欠伸をしながら外に出る。
 セレナ邸の前には、篝火が焚かれ、大きなテーブルが設置されていた。
 そういえば、そろそろ夕食会の時間だった。
 というか、外でやるんだろうか。
 家の中に結構な広さの食堂も作った気がするのだが。

「あ、コウ様」

 いそいそと椅子を並べていたフィリスが俺に気づく。

「外で夕食会やるのか? せっかくだから中でやればいいのに」

「ええ、そうなんですけど。なんか急にお家の中が汚れたってカンナ姉様が怒ってて、大掃除しなきゃいけないから、夕食会は外でやることになったんです」

「ほ、ほお」

 気まずくなって、目線を反らす。
 新築の家を汚すなんて、酷いやつもいたものだ。
 まあ、私なんですが。

 その時、不意に物凄い殺気を感じた。
 首を何者かに掴まれる。

「コウ様?」

 フィリスが気づく間もなく、俺は凄い勢いで木陰に引き込まれていた。
 そして、目の前には真赤な目を血走らせた吸血鬼の真祖がいた。
 牙をむき出しにして肩を怒らせながら、俺を思い切り睨みつけている。
 とてもさっきまでアヘ顔を浮かべていた女には見えない。

「あ、ああセレナ、気づいたみたいで良かった」

 とりあえず、片手を挙げて挨拶してみる。
 セレナはいつも通りの漆黒ドレスに身を包み、髪も綺麗に整っている。
 アヘってた状態からは完全に復活したらしい。
 少し目の下に隈ができているような気もするが。

「良かったじゃないわよ! 犯され死ぬかと思ったわ!」

 ぎりぎりと俺の首を掴むセレナの手に力が込められていく。
 というか、思い切り爪が食い込んでいた。

「痛い痛い、そもそも、お前がやらせてくれるって言ったんじゃないか」

 お互いが了承した上での行為である。
 犯したとか心外だ。
 部屋に招いたのもセレナだし、裁判起こしても勝てるはずだ。

「限度ってものがあるでしょう!? 10日間以上、犯され続けるなんて思ってもみなかったわ!」

 10日?
 いやいや、そんなバカな。
 せめて2、3日のはずだ。
 10日以上なんて、そんなに人間の体力が持つわけないじゃないか。
 2、3日も大概な気がするが。
 冗談はヨシヒコさんである。

「あんなの700年生きてきて初めてよ。危うくあなたに服従しかけたわ。人間のくせに生意気な。殺してやろうか!?」

 どうしよう。
 セレナサンが完全にブチ切れている。
 あれ、というか今ならセレナのステータス見れるんじゃなかろうか。

#############################################
【ステータス】
名前:セレナ・ダーグリュン
LV:--
称号:神の怒りを買いし者、原初の吸血鬼
HP:81332/81332
MP:94372/94372
筋力:86131
防御:75429
敏捷:54897
器用:58901
知能:85760
精神:67845
スキルポイント:--
#############################################

「…………」

 ああ、見なきゃ良かった。
 つうか、カンナふざけんな。
 俺の100倍どころの騒ぎじゃないぞ。
 もう別のゲームになってるじゃねえか。
 というか、ステータスの価値が違う別のゲームだと信じたい。

「吸血鬼の誇りを踏みにじった報いを受けなさい」

 セレナは空いている手をバキバキさせながら鋭い爪を出現させていく。
 あの爪でデコピンされただけで死んでしまう気がする。
 どう考えても勝てる気がしない。
 かといって逃げられそうにもない。

「ええい、ままよ!」

 とりあえずセレナに抱きつく。
 こうなったら泣いて許しを請うしかない。
 というか、首を掴まれていたセレナの拘束は、思いの外あっさり外れた。

 俺に抱きつかれたセレナはビクンと震えた。
 そのまま思い切り力を込めて抱きしめると、セレナは何度か痙攣する。
 なんでかはわからないが、予測していた爪の攻撃もなかった。

「悪かったよ。セレナみたいな美人を抱いたことなかったら、思わず我を忘れてしまって」

 咄嗟にそんな歯の浮く言い訳をしてみたが、セレナからの反応はない。
 謎の痙攣を繰り返すばかりだ。
 不審に思って、セレナの顔を覗き込んで見る。

「……ふわあ、ごしゅじんさま」

「…………」

 セレナは顔を赤らめながら、舌を出している。
 その目は完全にイッていた。
 あれ、デジャブだろうか。
 ちょっと前に同じようなセレナを見たような気がする。
 というか、誰だこれは。

「……はっ!? って何言わせんのよ!」

 正気に戻ったセレナにドンと思い切り突き飛ばされた。
 8万の筋力で突き飛ばされたにしては力が弱く、ちょっとたたらを踏む程度だったが。

「と、とにかく、あなた、絶対にどこかおかしいわよ? 絶倫なんてものじゃなくて、絶対に何かの病気だわ」

 肩で息をつきながら、顔を赤らめたセレナに罵倒される。
 さっきまで感じていた凄まじい殺気は弱々しくなっていた。
 吸血鬼の誇りを踏みにじった報いは受けなくて済みそうだ。
 というか、俺って病気なんだろうか。

「いい? 自分の異常さを認識しなさい。他の女の子をあんな風に抱いてはダメよ? とくにあの新しく来た人間の女の子達なんて即死するわよ。私が吸血鬼だから良かったようなものの」

 人間の女の子達とはメグとミレイの事だろうか。
 2人を抱くつもりなんて全くないのだが。
 ミレイはちょっとあるけど。
 というか、さっきは人間のくせに生意気なとか言ってたくせに、2人の心配をするあたりセレナは意外と人間に優しい。

「はあ、とにかく、我慢できなくなっちゃったら、私がさせてあげるから、他の子達に本気出したらダメよ? 小娘にもね?」

「え、させてくれるって、また時間止めてくれんの?」

「それだけは二度と嫌!」

 思い切り睨まれてしまった。
 あの何も気にすることなく、行為に没頭できる感じが良かったのだが。
 嫌だと言われて、ちょっとしょんぼりしてしまう。

「そんな顔しないの。小娘にバレない程度だったら、いくらでもしていいから。それで満足なさい。さあ、そろそろお夕食の準備ができたみたいだから、行きましょう?」

 セレナに手を引かれて、夕食会のテーブルに向かう。
 というか、セレナもカンナさんも我慢できなくなったらいつでもやらせてくれるらしい。
 吸血鬼って本当に素晴らしい種族だと思う。


 セレナ邸の前に設置されたテーブルには既にメグとミレイが席についていた。
 2人に軽く挨拶をして、セレナと一緒に席に着く。
 ルーナはまだだろうか。

「あ、コウ様、どこにいらしたんですか? 探したんですよ」

 フィリスに声をかけれる。
 さっきセレナに木陰に連れ込まれてボコられそうになったとは言えない。
 男のプライドにかけて。

 フィリスいわくルーナは最後の仕上げ中らしいので、先に食事会が始まった。
 様々な料理や酒がカンナさんとフィリスによってテーブルに並べられていく。

「それじゃあ、2人ともこれからよろしくね」

「はい!」

「……はい」

 セレナがメグとミレイに笑顔で話しかけているが、元気なメグとは対象的に、ミレイの顔が真っ青だ。
 ミレイはよっぽどセレナが怖いらしい。
 セレナのステータスを見れば怖がるのも納得である。
 というか俺も怖い。

「ねえ、これ美味しいわ。食べてみなさいな」

 それなのにセレナがさっきからめっちゃ話しかけてくる。
 心なしか距離も近い。
 別々の椅子に座っているはずなのに、太ももやら肩やらが当たるのはどういうことだろう。
 どうしようもないくらいムラムラするからやめて欲しい。

 ルーナがセレナ邸から出てきたのはそんな時だった。
 ルーナに続いて宙に浮くコック帽も出てきたので、アントニオさんも来たようだ。
 アントニオさんを見たミレイが気色ばんでいた。
 退魔師としての血が騒ぐのだろうか。
 というかミレイが、このアンデッド一家とご近所付き合いができるのか、心配で仕方ない。

 ルーナは俺を見つけると、嬉しそうに料理を運んでくる。

「なあなあ、自信作なんだ。食べてみてくれ。お前のために作ったんだぞ」

 ルーナの料理は魚介とトマトを一緒に煮込んだものだった。
 アクアパッツァみたいなものだろうか。
 食べてみるとトマトの酸味が効いていて、普通に美味しい。
 やっぱりルーナの味付けは俺好みだ。

「うん。美味しい」

「本当か? えへへ、嬉しい」

 ルーナは満面の笑みで抱きついてくる。
 相変わらずルーナは可愛いのだが。

「……お行儀が悪いわよ。小娘」

 セレナが物凄く不機嫌になっているのが気になる。
 ちょっと怖かったので、ルーナを大人しく席に座らせた。

「ルーナさん、すごくおいしいです!」

「ええ、本当に」

 メグもミレイもルーナの料理が気に入ったみたいだ。
 ルーナも嬉しそうにしている。

 次に別の料理の載った皿がフワフワと宙に浮きながら運ばれてくる。
 アントニオさんが料理を運んでいるらしい。

「さあ、次は俺っちの料理を食べてくんな! とアントニオさんが言っています」

 アントニオさんの料理は普通のオムレツだった。
 ルーナの料理のほうが何倍も手が込んでいる気がする。
 とはいえ、オムレツを食べるのは久しぶりだ。
 たまには良いかもしれない。
 そう思いながら、オムレツにフォークを入れる。
 一口サイズに切り取ると、オムレツの断面からはとろりと半熟の卵が溢れ出す。
 というか、このオムレツ、やけに色艶が良い気がする。
 卵の黄色が黄金色にすら見える。
 オムレツを一口食べてみた。
 口の中に芳醇な卵の味が広がって――。

「ば、ばかな……!?」

 口の中に広がったのは卵の味だけじゃなかった。
 肉や野菜、わずかに魚介の風味も混じっている。
 さまざまな食材の味が見事な調和を持って、オムレツの中に閉じ込められている。
 なんという味だ。
 これは美味い。

 周りのみんなもアントニオさんのオムレツを食べて驚愕している。
 メグなんか泣いている。

「……わ、私の負けだ」

 ルーナは悔しそうに俯いていた。
 その手はわずかにプルプルと震えている。

「どうだ、坊主。俺っちの料理は美味かったかい? とアントニオさんが言っています。……アントニオさん、コウ様に失礼ですよ?」

「確かに美味かった。だが、俺はルーナの料理のほうが好きだ」

 そう答えると、宙に浮かぶコック帽が激しく揺れる。

「な、なぜ!? とアントニオさんが言っています」

「おそらくオッサンであろう幽霊が作った料理と、美人のエルフが作った料理。男なら誰だって、後者を選ぶに決まっているだろうが!」

 叫ぶようにそう言い放つ。
 男とはそういうものだ。
 すると揺れていたコック帽がピタッと止まった。

「た、たしかに……!」

 そのままコック帽がぐにゃりと萎んだ。
 というか、フィリスの通訳が完璧すぎる。
 むしろ演技力が凄い。

「……美人、えへ」

 ルーナが密かに喜んでいた。
 しかし、他の女達がドン引きしているのが辛い。

「俺っちは、料理人として一番大切な事を忘れていたようだ。食べてもらう人の気持ちを考えるって事をな」

 アントニオさんはそれっぽいことを言っていた。
 ただ、食べてもらう人(俺)の気持ちを考えちゃうと、一生ルーナには勝てないことになるのだがいいいのだろうか。

「俺っちの負けだ。いい勝負だったぜ。本当にもう、思い残すことはない、くらい、の……」

 そう言い残して、アントニオさんは天に召されかけたが、セレナに怒られて無理やり現世に留まるという一幕があった。

「……そのまま召されればいいのに」

 もどかしそうにミレイは呟いていた。

「あ、愛の勝利かな」

 ルーナは顔を真赤にしながらそんな事を言っていた。
 照れるなら言わなきゃいいのに。
 ちなみに愛の勝利ではない。



 それからは充実した毎日だった。
 ルーナとイチャつき、カンナさんとオネショタプレイをし、ミレイにセクハラをする。
 フィリスはよく懐いてくれているし、メグも可愛い。
 セレナは、抱くと心配になるくらい従順になるのが気になるが。
 ちなみに従順になったセレナはなんでも言うことを聞いてくれるので、あれから2、3回くらい時間を止めてもらった。
 その後、正気に戻ったセレナに散々怒られたが。
 とにかく、そんな美女や美少女に囲まれた酒池肉林のような日々を送った。
 なんか最近は、ここは異世界ではなく天国なんじゃないかという錯覚すら覚えている。
 いやあ、毎日が楽しくて素晴らしい。

 しかし、俺の幸せは長くは続かなかった。
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