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第三章 戦争編
第67話 セレナの受難
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今日はセレナが引っ越してくる日だった。
今朝からグール達が列をなして、高そうな家具なんかを別荘に運び込んでいる。
その光景はこれ以上ないくらいのホラーだった。
とりあえず、見なかったことにしようと思う。
セレナ邸に引っ越してくるのは、セレナとフィリス、カンナさんに加えて、シェフのアントニオさんという人もいるらしい。
アントニオさんは、以前、セレナの城でご馳走になったディナーを作ってくれた人だった。
ルーナが会ってみたいというので、一緒に厨房を訪ねてみた。
ただ不思議なことに、厨房には誰もいなかった。
もっと不思議な事にオタマやら包丁やらが宙を舞っている。
ついでに、背の高いコック帽も宙に浮かんでいる。
「こちらがレイスのアントニオさんです」
一緒について来たフィリスがそう紹介してくれる。
レイスって幽霊みたいなものだっただろうか。
ついに和製ホラーが出てきてしまった感があるが、何も見えないのであんまし怖くない。
「アントニオさんは究極の味にたどり着けないまま死んだせいで、レイスとなったそうです」
うーん、ストイックな怨霊だ。
おそらくアントニオさんであろうコック帽はわずかに揺れている。
「コウ様? もしかしてレイス語は苦手ですか?」
「レイス語ってなんだよ!」
アントニオさんは一言も発していなかった。
コック帽が揺れただけである。
「アントニオさんが、この間のディナーは口に合ったかと聞いていますが?」
どの辺りで言葉を発したのか全然わからない。
スケルトンのジミーさんの時とは違って、声すら発していないし。
ジミーさんは声というかカシャカシャした音だけだったが。
もはや言語ってなんだっけっていう感想しか出てこない。
というか、フィリスはスケルトン語だのグール語だのバイリンガルってレベルじゃないな。
「すごく美味しかった! 一見、単純に見える一皿の中にも奥深い技術が隠れていたぞ」
どうしよう。
ルーナが料理漫画みたいな事を言い出した。
「へへっ、嬢ちゃん、俺っちの技に気づくたあ、あんたも只者じゃないな、と言っています」
フィリスの翻訳は完璧で、声音まで再現している。
そこまで再現する必要があるのだろうか。
というか、俺っちて。
「そんな、私なんてまだまだ……」
「いいや、数多の料理人を見てきた俺っちの目はごまかせないぜ。嬢ちゃん、今夜のディナーのメインディッシュをかけて、俺っちと勝負しないかい?」
アントニオさんのセリフ(フィリス訳)にルーナの目が鋭く光る。
「食材は何があるんだ?」
「熟成された肉、とれたての魚介、新鮮野菜なんでもあるぜ」
「ふふ、いいだろう。その勝負受けて立とうじゃないか」
「……いい目だ。俺っちの若い頃を思い出すぜ」
なんかついていけない雰囲気になってきたので、こっそり厨房を後にする。
ちなみに今夜は、引っ越しの挨拶を兼ねてセレナが食事会を開いてくれるらしい。
おそらくアントニオさんが言っているディナーというのは、その食事会のことだろう。
挨拶される側のルーナがその料理づくりに参戦しちゃうのはどうかと思うが、なんか燃えていたので放っておくことにした。
一人になった俺は露天風呂にやってきた。
露天風呂からは、相変わらず見事な庭を眺めることが出来る。
さらさらとした小川のせせらぎが涼やかに聞こえる。
スケルトンの庭師ジミーさんのドヤ顔が脳裏に浮かんできて腹が立つ。
ただ悔しいけど、こんな庭を眺めながら風呂に入ったらさぞ気持ちいいだろう。
うーん。
ひとんちの風呂だけど、入ってみたくてしょうがない。
「入ってもいいわよ?」
突然、背後から声をかけられた。
振り返ると、セレナが立っている。
「いや、一番最初はセレナが入るべきだろう」
セレナの家の風呂なのだから当たり前だと思う。
「ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいのだけれど、あなたが頑張って作ってくれたのだから、一番最初に入ってもかまわないわ。素敵なお風呂を作ってくれたお礼だと思ってちょうだい」
ふむ。
そこまで言ってくれるなら、お言葉に甘えようか。
昼間から入る風呂というのも趣があっていい。
そういえば、ルーナも入りたがってたな。
料理対決に水を差すのは気が引けるが、せっかくセレナが入っていいって言ってくれてるんだから呼んでこようか。
「ちょっとルーナも呼んで――」
「それはダメ。私の家のお風呂で小娘と何をする気? いくら私でも怒るわよ?」
いや、何もする気はない――とは言い切れない。
高確率でイチャつくだろうし。
さすがにひとんちの風呂でルーナとするのはまずいか。
セレナを怒らせたら勝てないし。
「小娘も後でちゃんと入らせてあげるわよ」
そう言ってくれるので、今回は一人で入ることにした。
水魔法と火魔法の二重詠唱(デュアルスペル)でお湯を生成して、広い浴槽に注いでいく。
浴槽はかなり大きく作ったので、一杯にするのに結構な魔力を使う。
というか、うちとメグんちとミレイんちとセレナんち全ての風呂を、これから毎日いれなきゃいけないのか。
結構な重労働な気がしてきた。
まあ、火魔法と水魔法のレベルを上げるためだと思ってがんばるか。
浴槽にお湯を張り終わると、結構熱めにしたせいか湯気が立ち込める。
木のいい香りがする。
素晴らしい庭の風景と相まって、湯気の立ち込める風呂は、有名旅館のパンフレットのようだ。
思わず生唾を飲み込んでしまう。
入ったら、すげえ気持ちよさそう。
俺はポイポイと服を脱ぎ捨てると、とりあえず身体を洗った。
あくまでセレナんちの風呂なので、いつもよりも念入りに洗う。
そして、湯船に飛び込んだ。
目一杯張ったお湯が、ザバーッと勢い良く溢れていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
気持ちよすぎて、変な声が漏れてしまう。
やっぱり広い風呂はいい。
お湯の量感が全然違う。
肌に感じる木の質感も優しくていい。
しかも、目の前に広がる侘び寂び溢れる庭の景色も最高だ。
これは癖になりそうだ。
これで温泉だったら最高なんだが。
「お湯加減はどう?」
風呂のあまりの気持ちよさに脳を蕩けさせていたら、そんな声をかけられた。
「さいこうだ」
反射的に答えながら、一人で入浴しているのに誰に声をかけられたんだと思った。
「そう。それじゃあ、私も失礼するわね」
ちゃぷんと隣で水音がする。
俺は水音がした方を振り返って。
「…………」
目が飛びでるかと思った。
そこには一糸まとわぬ姿のセレナが気持ちよさそうに入浴していたのだ。
「ああ、これは素敵ね。すごく気持ちいいわ」
綺麗な銀髪をまとめ上げたセレナはうなじを覗かせていて艶めかしい。
そのシミひとつない素肌は、風呂に入っているせいかほんのりと桜色に染まっていて眩しく。
というか。
セレナの胸についている何かがお湯にぷかぷかと浮いている。
なんか浮いている!
なんだ。
何が起きているんだ。
信じられないことが起こっている。
脳が事象を処理しきれていない。
とはいえですよ。
とにかく今起きている出来事を脳内HDDに記録しなくてはと思った。
俺は全力で視覚の解像度を8Kにまで高め、必死に記憶していく。
脳が焼き切れてもいい。
この映像よ、永遠に――!
その時、ばしゃっとお湯をかけられた。
「いくらなんでも見すぎよ? さすがに恥ずかしいわ」
全く恥ずかしがっているようには見えないセレナが身を寄せてくる。
必然的にお湯に浮かんでいる何かも近寄ってくるわけで。
「セ、セレナ!?」
「なあに? ふふ、どうしたのかしら、顔が真赤よ?」
当たってる!
柔らかい何かが二の腕に当たってる。
つうか、ナニコレ。
俺の知っているおっぱいとは桁が違う。
「ねえ、あなたには改めてお礼を言いたいのだけれど。別荘もお風呂もとても素敵だわ」
「い、いえいえ」
「最初に私が言ったこと覚えていて? 別荘を建ててくれたら、私がなんでも言うことを聞いてあげるって言ったのだけれど」
その言葉にはっとした。
覚えているも何も、がんばって別荘を作っていたのはたったひとつの目的のためだった。
その目的を忘れた事は一度もない。
思えば長く苦しい日々だった。
森で大量の木を伐採することから始まって……。
……なんか思い返してみると、フィリスとかカンナさんとキャッキャウフフしていただけのような気もしてきたが。
とにかく、万感の思いを経て、ついに今、俺の夢が実現する。
「おっぱいを揉ませてくれ!!!」
想いが強すぎて、思い切り叫んでいた。
叫びすぎて、辺りにエコーしてしまっている。
ルーナに聞かれたらどうしよう。
そこはかとなく不安になって、風呂場の入り口を振り返ってしまう。
入り口に人の気配はなかったので胸を撫で下ろす。
セレナは俺の叫びを聞いて、ポカンとした顔をしていた。
しまった。
いくらなんでも引かれただろうか。
いや、よく考えたら引かれないわけない気がしてきた。
「ぷっ、ふふ、あはははは!」
しかし、セレナは可笑しそう腹を抱えて笑っている。
なんか知らないが、またウケを取ってしまった(してやった感)。
「あはは、あー、おかしい。何を言い出すのかと思えば。そんなのお礼じゃなくたっていつでも揉ませてあげるわよ」
言いながら、セレナはぷるんと胸を俺に差し出す。
わざわざ両手で抱えるようにして強調してくれる。
いやいや、ただでさえアレなのに強調しちゃったら……。
ごくり。
思わず生唾を飲み込んでしまった。
なんという迫力だ。
例え銃口を向けられたとしても、これほどの迫力は受けまい。
というか、いつでも揉ませてくれるとか言ってるんだけど……。
「べ、べつにいつも揉みたいわけじゃないから!」
俺はそんな分別のない男ではない。
そりゃたまには魔が差すというか、男の性というか。
「思い切り鷲掴みながら、そんな事を言われても説得力がないのだけれど」
言われて気がついたが、俺の両手は既にセレナの胸に伸びていた。
というか、埋まっていた。
どこまで埋まっても底にたどり着かない……だと……!?。
柔らかすぎる感触に両手が歓喜している。
「あっ、こ、こら、もっと優しくしなさい」
物凄い高速で両手がもみもみと動きだす。
腱鞘炎になっても構わないくらいの勢いで手を動かし続ける。
俺の手は今この時の為に存在したと言っても過言ではない。
「ふふ、気に入ってくれたみたいで良かったわ。……ねえ」
セレナの言葉を乳という漢字で埋め尽くされた頭で聞く。
「私としては、別荘のお礼はもっと凄いことを期待していたのだけれど」
なん……だと……!?
もっと凄いことってなんだ。
まあ、ひとつしかないが。
ただ、ダメだ。
絶対にダメだ。
もう戻れなくなる。
帰ってこれなくなる。
どう考えても今夜のディナーには間に合わない。
絶対にルーナが泣く。
「……もっと凄い事はダメだ。ルーナにバレるし」
「あの小娘は、さっき厨房で凄い勢いで包丁を振り回していたから、しばらくは大丈夫だと思うのだけれど」
「しばらくじゃ済まない気がする」
具体的には三日三晩くらいは止まらない気がする。
「あら、大胆な事言うのね。……そうね、たしかに時間を気にするのも無粋ね」
セレナは言いながらゆっくりと立ち上がると、見事な肢体にお湯が滴っていく。
どこからともなく現れた見慣れぬメイドさんがセレナの身体を拭いていた。
フィリスの妹だろうか。
見知らぬメイドさんは俺の身体も拭いてくれた。
見ず知らずの女の人に身体を拭かれるのは、ちょっとどころじゃなく恥ずかしい。
「ついてきなさい」
セレナは俺を一瞥すると、スタスタと歩きだす。
そのまま全裸で別荘の中に入っていってしまう。
一瞬、服を着ようか迷ったが、堂々と全裸のまま歩いていったセレナに負けた感じがするので、俺も全裸のままセレナについていった。
セレナが向かった先は、別荘の3分の1を占めるセレナの寝室だった。
ダンスパーティーでも開けそうな程広い空間に、5,6人は寝れそうな巨大なベッドがぽつんと置かれている。
まだ他の家具は搬入している最中らしい。
ちなみに、部屋の中はセレナの要望通り真っ暗で、いくつかの燭台の灯りがぼんやりと照らすだけだった。
「ベッドはもう運び終わっているのね。良かったわ」
セレナは突然、指をパチンと鳴らした。
刹那、全身を言い表せぬ違和感が駆け抜けていく。
一瞬、空間が歪んだ気がした。
「何をしたんだ?」
「あら、気づいたの? 今、この部屋の時間を止めたのよ。魔法でね」
え、まじで?
魔法って時間を止められんの?
なにそれ、俺も使いたい。
火水土風のどれを極めればいいんだろうか。
「属性魔法じゃないわ。深淵魔法って言うのだけれど」
深淵魔法?
俺の覚えられる魔法にそんなのはない。
何か解放条件があるのだろうが、さっぱり見当がつかない。
「というか、本当に時間が止まっているのか?」
「止まっているわよ? この部屋でどれだけ過ごしても、外に出たら一瞬も経っていないわ」
おお。
社畜時代に何度もした妄想だ。
仕事が終わらなすぎて、時間が止まってくれればいいのにと思った。
今、セレナをつれて日本に戻ることが出来たら……。
いや、あんな修羅場に戻りたくないな。
「さて、それじゃあ、時間を気にせずゆっくり楽しみましょう?」
セレナはぽすんと巨大なベッドに横たわる。
はい、楽しみましょう。
そんなセリフを素直に言いかけて、思い留まった。
なんか全く躊躇なく浮気する流れになっているがいいのだろうか。
いや、でも時間が止まっているならルーナにはバレなそうだし。
いやいや、そもそも時間は本当に止まっているというのが孔明の罠である可能性も……。
そんな事をしてもセレナになんの得があるのかわからないが。
万超えステータスのセレナサンだったらそれくらいできそうだし。
ううむ。
「ねえ、しないの? それとも噛みましょうか?」
いろいろ悩んでいたら、セレナにそんな事を言われた。
噛まれたら、一瞬で我を失ってセレナに襲いかかるだろう。
そんな事をするくらいだったら――。
「いや、せっかくならシラフで抱きたい」
「あら、嬉しい。あっ、むむぅ」
そのまま、セレナに覆いかぶさってキスをした。
こんな機会めったにない。
据え膳食わぬはなんとやらである。
浮気もなんのそのだ。
というか、俺は絹ごし豆腐の意思の持ち主だからね。
シラフとか言っていたが、セレナの身体は素晴らしく、俺はどんどん我を忘れて夢中になっていった。
セレナはかなり経験があるらしく俺が何をやっても応えてくれる。
というかセレナは何をしても余裕な感じだった。
ちょっと癪に障る。
俺の『性技』スキルが火を噴く時が来たようだ。
俺はひたすらセレナとの行為に没頭していった。
それからどのくらいの時が流れたのだろうか。
さすがにちょっと疲れを感じ始めた。
最初は余裕だったセレナは、今やビクビクと痙攣を繰り返すばかりだ。
そこはかとなく達成感を感じる。
いつのまにか『性技』レベル7になっていた。
というか、さっきから『飢餓耐性』が発動している。
本当にどれくらいの時間が経ったのだろうか。
「……呆れたわ。一体何回出来るのよ」
良かった。セレナが気づいたようだ。
ちょっとヤバイくらい痙攣していたので、少し心配していたのだ。
セレナはよろよろしながら身体を起こそうとしていたので、慌てて支えてやる。
「大丈夫か? 悪かったな、ちょっと夢中になりすぎてしまった」
「……気持ちよかったから良いのだけれど」
ちょっとやりすぎてしまったと思っていたけど、セレナは特に怒っていなかった。
「じゃあ、もう少しやってもいいかな?」
ニコっと出来るだけ爽やかに言ってみた。
「……いいけれど。言っておくけれど、普通の人間だったらそろそろ死ぬわよ? わかっているの?」
ははは、まさか。
セレナは冗談も上手い。
人間がそう簡単に死ぬわけないのである。
とりあえず、呆れるセレナをそのまま押し倒した。
そして、再びいくらかの時間が流れた。
さすがにそろそろきつくなってきた。
『飢餓耐性』はいつのまにかカンストしているし。
ついでに、『性技』もカンストしている。
そして、セレナは酷いことになっていた。
ルーナもここまでなったことはないかもしれない。
全ての穴から色んな液体を垂れ流し、舌がべろりと外に出ている。
さっきからグール語のような言葉しかしゃべらないし。
大丈夫だろうか。
ちょっと心配になる。
とはいえ、万超えステータスのセレナサンである。
この程度屁でもないだろう。
なんせセレナの100分の1のステータスの俺が大丈夫なのだ。
ただ、ちょっとキツイんだよなー。
仕方ない、そろそろアレをやってもらうか。
俺はぐったりとしているセレナを抱き起こす。
セレナの目は焦点が定まっておらず、何を言っても聞こえなそうだったので、頬を軽く叩いてみた。
「うっ、うあ?」
セレナの瞳にわずかな光が灯る。
良かった。
気づいたみたいだ。
「セレナ、そろそろ俺の血を吸ってくれるか?」
「うぇ? ち、血?」
ぼんやりしながらも、セレナは時間をかけて俺の言っていることを理解していく。
そして、完全に理解すると、怯えたように首を弱々しく振り始める。
まるでいやいやと言っているように。
吸血鬼なのになぜ血を吸うのを嫌がるのだろう。
解せない。
「セレナ」
とりあえず、名前を呼んでみると、セレナはビクッとした。
そのまま首筋を見せつけると、よろよろしながらセレナは口を近づけていく。
かぷり。
僅かな痛みを伴って、セレナに血を吸われる。
おお。
みなぎってきた。
さすがの催淫効果だ。
今までの疲れも吹っ飛ぶ。
俺はそのまま、再度セレナを押し倒した。
押し倒す際、セレナが泣き叫んでいたような気がするが、気のせいだろう。
催淫効果が切れたのは、それからまたしばらく経ってからのことだった。
この部屋に入って、今日で何日目だろうか。
『飢餓耐性』がカンストしたためか、空腹感は全く感じないが、凄まじい疲労を感じる。
そういえば、『疲労耐性』のログも出続けていている。
なんかよく分からないが、HPがわずかに減っていた。
しばらく水も飲んでなかった事に気づいて、《水生成》で喉を潤した。
かなり喉が乾いていたらしく、ごくごくと飲みまくってしまった。
喉が潤った所で少し落ち着いた。
さて。
一体全体、何が起きたのだろうか。
今気づいたけど、部屋が物凄い事になっている。
かなり広い部屋のはずだが、余すとこなく謎の液体が滴っている。
なんとなく身に覚えがあるような、ないような。
それよりも、セレナが……。
さっきから気づいてはいたのだが、見て見ぬふりをしていたセレナをチラッと見る。
セレナはダラダラと涎を垂らしながら、アヘアヘと笑っていた。
俺は直視できずに、咄嗟に視線を反らせた。
いつも優雅で上品で、大人だったセレナが見る影もない。
一体どうしてしまったのだろう。
とりあえず、未だ健在の大迫力の巨乳を揉んでみると、嬉しそうな奇声を上げる。
ちょっと本気で心配になって、顔を覗き込んで見る。
「ああっ、好き、大好きです。愛してます。もっとしてください」
急に愛を囁きながら濃厚なキスをされた。
物凄く濁った目で。
うーん、誰だこれは。
これはいかん。
壊れちゃった感が半端ない。
とりあえず、セレナを引き離すとべちゃっと粘着質な音がした。
よし。
見なかったことにしよう!
セレナのためにもそれが良い気がする。
俺はそそくさと逃げるように部屋を後にした。
部屋の扉を開けた瞬間、再び違和感を感じた。
淀んでいた空気が流れ出すような錯覚に陥る。
セレナの魔法が解けたのだろうか。
なんか自分が物凄く臭い気がするので、とりあえず風呂場に向かうことにした。
今朝からグール達が列をなして、高そうな家具なんかを別荘に運び込んでいる。
その光景はこれ以上ないくらいのホラーだった。
とりあえず、見なかったことにしようと思う。
セレナ邸に引っ越してくるのは、セレナとフィリス、カンナさんに加えて、シェフのアントニオさんという人もいるらしい。
アントニオさんは、以前、セレナの城でご馳走になったディナーを作ってくれた人だった。
ルーナが会ってみたいというので、一緒に厨房を訪ねてみた。
ただ不思議なことに、厨房には誰もいなかった。
もっと不思議な事にオタマやら包丁やらが宙を舞っている。
ついでに、背の高いコック帽も宙に浮かんでいる。
「こちらがレイスのアントニオさんです」
一緒について来たフィリスがそう紹介してくれる。
レイスって幽霊みたいなものだっただろうか。
ついに和製ホラーが出てきてしまった感があるが、何も見えないのであんまし怖くない。
「アントニオさんは究極の味にたどり着けないまま死んだせいで、レイスとなったそうです」
うーん、ストイックな怨霊だ。
おそらくアントニオさんであろうコック帽はわずかに揺れている。
「コウ様? もしかしてレイス語は苦手ですか?」
「レイス語ってなんだよ!」
アントニオさんは一言も発していなかった。
コック帽が揺れただけである。
「アントニオさんが、この間のディナーは口に合ったかと聞いていますが?」
どの辺りで言葉を発したのか全然わからない。
スケルトンのジミーさんの時とは違って、声すら発していないし。
ジミーさんは声というかカシャカシャした音だけだったが。
もはや言語ってなんだっけっていう感想しか出てこない。
というか、フィリスはスケルトン語だのグール語だのバイリンガルってレベルじゃないな。
「すごく美味しかった! 一見、単純に見える一皿の中にも奥深い技術が隠れていたぞ」
どうしよう。
ルーナが料理漫画みたいな事を言い出した。
「へへっ、嬢ちゃん、俺っちの技に気づくたあ、あんたも只者じゃないな、と言っています」
フィリスの翻訳は完璧で、声音まで再現している。
そこまで再現する必要があるのだろうか。
というか、俺っちて。
「そんな、私なんてまだまだ……」
「いいや、数多の料理人を見てきた俺っちの目はごまかせないぜ。嬢ちゃん、今夜のディナーのメインディッシュをかけて、俺っちと勝負しないかい?」
アントニオさんのセリフ(フィリス訳)にルーナの目が鋭く光る。
「食材は何があるんだ?」
「熟成された肉、とれたての魚介、新鮮野菜なんでもあるぜ」
「ふふ、いいだろう。その勝負受けて立とうじゃないか」
「……いい目だ。俺っちの若い頃を思い出すぜ」
なんかついていけない雰囲気になってきたので、こっそり厨房を後にする。
ちなみに今夜は、引っ越しの挨拶を兼ねてセレナが食事会を開いてくれるらしい。
おそらくアントニオさんが言っているディナーというのは、その食事会のことだろう。
挨拶される側のルーナがその料理づくりに参戦しちゃうのはどうかと思うが、なんか燃えていたので放っておくことにした。
一人になった俺は露天風呂にやってきた。
露天風呂からは、相変わらず見事な庭を眺めることが出来る。
さらさらとした小川のせせらぎが涼やかに聞こえる。
スケルトンの庭師ジミーさんのドヤ顔が脳裏に浮かんできて腹が立つ。
ただ悔しいけど、こんな庭を眺めながら風呂に入ったらさぞ気持ちいいだろう。
うーん。
ひとんちの風呂だけど、入ってみたくてしょうがない。
「入ってもいいわよ?」
突然、背後から声をかけられた。
振り返ると、セレナが立っている。
「いや、一番最初はセレナが入るべきだろう」
セレナの家の風呂なのだから当たり前だと思う。
「ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいのだけれど、あなたが頑張って作ってくれたのだから、一番最初に入ってもかまわないわ。素敵なお風呂を作ってくれたお礼だと思ってちょうだい」
ふむ。
そこまで言ってくれるなら、お言葉に甘えようか。
昼間から入る風呂というのも趣があっていい。
そういえば、ルーナも入りたがってたな。
料理対決に水を差すのは気が引けるが、せっかくセレナが入っていいって言ってくれてるんだから呼んでこようか。
「ちょっとルーナも呼んで――」
「それはダメ。私の家のお風呂で小娘と何をする気? いくら私でも怒るわよ?」
いや、何もする気はない――とは言い切れない。
高確率でイチャつくだろうし。
さすがにひとんちの風呂でルーナとするのはまずいか。
セレナを怒らせたら勝てないし。
「小娘も後でちゃんと入らせてあげるわよ」
そう言ってくれるので、今回は一人で入ることにした。
水魔法と火魔法の二重詠唱(デュアルスペル)でお湯を生成して、広い浴槽に注いでいく。
浴槽はかなり大きく作ったので、一杯にするのに結構な魔力を使う。
というか、うちとメグんちとミレイんちとセレナんち全ての風呂を、これから毎日いれなきゃいけないのか。
結構な重労働な気がしてきた。
まあ、火魔法と水魔法のレベルを上げるためだと思ってがんばるか。
浴槽にお湯を張り終わると、結構熱めにしたせいか湯気が立ち込める。
木のいい香りがする。
素晴らしい庭の風景と相まって、湯気の立ち込める風呂は、有名旅館のパンフレットのようだ。
思わず生唾を飲み込んでしまう。
入ったら、すげえ気持ちよさそう。
俺はポイポイと服を脱ぎ捨てると、とりあえず身体を洗った。
あくまでセレナんちの風呂なので、いつもよりも念入りに洗う。
そして、湯船に飛び込んだ。
目一杯張ったお湯が、ザバーッと勢い良く溢れていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
気持ちよすぎて、変な声が漏れてしまう。
やっぱり広い風呂はいい。
お湯の量感が全然違う。
肌に感じる木の質感も優しくていい。
しかも、目の前に広がる侘び寂び溢れる庭の景色も最高だ。
これは癖になりそうだ。
これで温泉だったら最高なんだが。
「お湯加減はどう?」
風呂のあまりの気持ちよさに脳を蕩けさせていたら、そんな声をかけられた。
「さいこうだ」
反射的に答えながら、一人で入浴しているのに誰に声をかけられたんだと思った。
「そう。それじゃあ、私も失礼するわね」
ちゃぷんと隣で水音がする。
俺は水音がした方を振り返って。
「…………」
目が飛びでるかと思った。
そこには一糸まとわぬ姿のセレナが気持ちよさそうに入浴していたのだ。
「ああ、これは素敵ね。すごく気持ちいいわ」
綺麗な銀髪をまとめ上げたセレナはうなじを覗かせていて艶めかしい。
そのシミひとつない素肌は、風呂に入っているせいかほんのりと桜色に染まっていて眩しく。
というか。
セレナの胸についている何かがお湯にぷかぷかと浮いている。
なんか浮いている!
なんだ。
何が起きているんだ。
信じられないことが起こっている。
脳が事象を処理しきれていない。
とはいえですよ。
とにかく今起きている出来事を脳内HDDに記録しなくてはと思った。
俺は全力で視覚の解像度を8Kにまで高め、必死に記憶していく。
脳が焼き切れてもいい。
この映像よ、永遠に――!
その時、ばしゃっとお湯をかけられた。
「いくらなんでも見すぎよ? さすがに恥ずかしいわ」
全く恥ずかしがっているようには見えないセレナが身を寄せてくる。
必然的にお湯に浮かんでいる何かも近寄ってくるわけで。
「セ、セレナ!?」
「なあに? ふふ、どうしたのかしら、顔が真赤よ?」
当たってる!
柔らかい何かが二の腕に当たってる。
つうか、ナニコレ。
俺の知っているおっぱいとは桁が違う。
「ねえ、あなたには改めてお礼を言いたいのだけれど。別荘もお風呂もとても素敵だわ」
「い、いえいえ」
「最初に私が言ったこと覚えていて? 別荘を建ててくれたら、私がなんでも言うことを聞いてあげるって言ったのだけれど」
その言葉にはっとした。
覚えているも何も、がんばって別荘を作っていたのはたったひとつの目的のためだった。
その目的を忘れた事は一度もない。
思えば長く苦しい日々だった。
森で大量の木を伐採することから始まって……。
……なんか思い返してみると、フィリスとかカンナさんとキャッキャウフフしていただけのような気もしてきたが。
とにかく、万感の思いを経て、ついに今、俺の夢が実現する。
「おっぱいを揉ませてくれ!!!」
想いが強すぎて、思い切り叫んでいた。
叫びすぎて、辺りにエコーしてしまっている。
ルーナに聞かれたらどうしよう。
そこはかとなく不安になって、風呂場の入り口を振り返ってしまう。
入り口に人の気配はなかったので胸を撫で下ろす。
セレナは俺の叫びを聞いて、ポカンとした顔をしていた。
しまった。
いくらなんでも引かれただろうか。
いや、よく考えたら引かれないわけない気がしてきた。
「ぷっ、ふふ、あはははは!」
しかし、セレナは可笑しそう腹を抱えて笑っている。
なんか知らないが、またウケを取ってしまった(してやった感)。
「あはは、あー、おかしい。何を言い出すのかと思えば。そんなのお礼じゃなくたっていつでも揉ませてあげるわよ」
言いながら、セレナはぷるんと胸を俺に差し出す。
わざわざ両手で抱えるようにして強調してくれる。
いやいや、ただでさえアレなのに強調しちゃったら……。
ごくり。
思わず生唾を飲み込んでしまった。
なんという迫力だ。
例え銃口を向けられたとしても、これほどの迫力は受けまい。
というか、いつでも揉ませてくれるとか言ってるんだけど……。
「べ、べつにいつも揉みたいわけじゃないから!」
俺はそんな分別のない男ではない。
そりゃたまには魔が差すというか、男の性というか。
「思い切り鷲掴みながら、そんな事を言われても説得力がないのだけれど」
言われて気がついたが、俺の両手は既にセレナの胸に伸びていた。
というか、埋まっていた。
どこまで埋まっても底にたどり着かない……だと……!?。
柔らかすぎる感触に両手が歓喜している。
「あっ、こ、こら、もっと優しくしなさい」
物凄い高速で両手がもみもみと動きだす。
腱鞘炎になっても構わないくらいの勢いで手を動かし続ける。
俺の手は今この時の為に存在したと言っても過言ではない。
「ふふ、気に入ってくれたみたいで良かったわ。……ねえ」
セレナの言葉を乳という漢字で埋め尽くされた頭で聞く。
「私としては、別荘のお礼はもっと凄いことを期待していたのだけれど」
なん……だと……!?
もっと凄いことってなんだ。
まあ、ひとつしかないが。
ただ、ダメだ。
絶対にダメだ。
もう戻れなくなる。
帰ってこれなくなる。
どう考えても今夜のディナーには間に合わない。
絶対にルーナが泣く。
「……もっと凄い事はダメだ。ルーナにバレるし」
「あの小娘は、さっき厨房で凄い勢いで包丁を振り回していたから、しばらくは大丈夫だと思うのだけれど」
「しばらくじゃ済まない気がする」
具体的には三日三晩くらいは止まらない気がする。
「あら、大胆な事言うのね。……そうね、たしかに時間を気にするのも無粋ね」
セレナは言いながらゆっくりと立ち上がると、見事な肢体にお湯が滴っていく。
どこからともなく現れた見慣れぬメイドさんがセレナの身体を拭いていた。
フィリスの妹だろうか。
見知らぬメイドさんは俺の身体も拭いてくれた。
見ず知らずの女の人に身体を拭かれるのは、ちょっとどころじゃなく恥ずかしい。
「ついてきなさい」
セレナは俺を一瞥すると、スタスタと歩きだす。
そのまま全裸で別荘の中に入っていってしまう。
一瞬、服を着ようか迷ったが、堂々と全裸のまま歩いていったセレナに負けた感じがするので、俺も全裸のままセレナについていった。
セレナが向かった先は、別荘の3分の1を占めるセレナの寝室だった。
ダンスパーティーでも開けそうな程広い空間に、5,6人は寝れそうな巨大なベッドがぽつんと置かれている。
まだ他の家具は搬入している最中らしい。
ちなみに、部屋の中はセレナの要望通り真っ暗で、いくつかの燭台の灯りがぼんやりと照らすだけだった。
「ベッドはもう運び終わっているのね。良かったわ」
セレナは突然、指をパチンと鳴らした。
刹那、全身を言い表せぬ違和感が駆け抜けていく。
一瞬、空間が歪んだ気がした。
「何をしたんだ?」
「あら、気づいたの? 今、この部屋の時間を止めたのよ。魔法でね」
え、まじで?
魔法って時間を止められんの?
なにそれ、俺も使いたい。
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「属性魔法じゃないわ。深淵魔法って言うのだけれど」
深淵魔法?
俺の覚えられる魔法にそんなのはない。
何か解放条件があるのだろうが、さっぱり見当がつかない。
「というか、本当に時間が止まっているのか?」
「止まっているわよ? この部屋でどれだけ過ごしても、外に出たら一瞬も経っていないわ」
おお。
社畜時代に何度もした妄想だ。
仕事が終わらなすぎて、時間が止まってくれればいいのにと思った。
今、セレナをつれて日本に戻ることが出来たら……。
いや、あんな修羅場に戻りたくないな。
「さて、それじゃあ、時間を気にせずゆっくり楽しみましょう?」
セレナはぽすんと巨大なベッドに横たわる。
はい、楽しみましょう。
そんなセリフを素直に言いかけて、思い留まった。
なんか全く躊躇なく浮気する流れになっているがいいのだろうか。
いや、でも時間が止まっているならルーナにはバレなそうだし。
いやいや、そもそも時間は本当に止まっているというのが孔明の罠である可能性も……。
そんな事をしてもセレナになんの得があるのかわからないが。
万超えステータスのセレナサンだったらそれくらいできそうだし。
ううむ。
「ねえ、しないの? それとも噛みましょうか?」
いろいろ悩んでいたら、セレナにそんな事を言われた。
噛まれたら、一瞬で我を失ってセレナに襲いかかるだろう。
そんな事をするくらいだったら――。
「いや、せっかくならシラフで抱きたい」
「あら、嬉しい。あっ、むむぅ」
そのまま、セレナに覆いかぶさってキスをした。
こんな機会めったにない。
据え膳食わぬはなんとやらである。
浮気もなんのそのだ。
というか、俺は絹ごし豆腐の意思の持ち主だからね。
シラフとか言っていたが、セレナの身体は素晴らしく、俺はどんどん我を忘れて夢中になっていった。
セレナはかなり経験があるらしく俺が何をやっても応えてくれる。
というかセレナは何をしても余裕な感じだった。
ちょっと癪に障る。
俺の『性技』スキルが火を噴く時が来たようだ。
俺はひたすらセレナとの行為に没頭していった。
それからどのくらいの時が流れたのだろうか。
さすがにちょっと疲れを感じ始めた。
最初は余裕だったセレナは、今やビクビクと痙攣を繰り返すばかりだ。
そこはかとなく達成感を感じる。
いつのまにか『性技』レベル7になっていた。
というか、さっきから『飢餓耐性』が発動している。
本当にどれくらいの時間が経ったのだろうか。
「……呆れたわ。一体何回出来るのよ」
良かった。セレナが気づいたようだ。
ちょっとヤバイくらい痙攣していたので、少し心配していたのだ。
セレナはよろよろしながら身体を起こそうとしていたので、慌てて支えてやる。
「大丈夫か? 悪かったな、ちょっと夢中になりすぎてしまった」
「……気持ちよかったから良いのだけれど」
ちょっとやりすぎてしまったと思っていたけど、セレナは特に怒っていなかった。
「じゃあ、もう少しやってもいいかな?」
ニコっと出来るだけ爽やかに言ってみた。
「……いいけれど。言っておくけれど、普通の人間だったらそろそろ死ぬわよ? わかっているの?」
ははは、まさか。
セレナは冗談も上手い。
人間がそう簡単に死ぬわけないのである。
とりあえず、呆れるセレナをそのまま押し倒した。
そして、再びいくらかの時間が流れた。
さすがにそろそろきつくなってきた。
『飢餓耐性』はいつのまにかカンストしているし。
ついでに、『性技』もカンストしている。
そして、セレナは酷いことになっていた。
ルーナもここまでなったことはないかもしれない。
全ての穴から色んな液体を垂れ流し、舌がべろりと外に出ている。
さっきからグール語のような言葉しかしゃべらないし。
大丈夫だろうか。
ちょっと心配になる。
とはいえ、万超えステータスのセレナサンである。
この程度屁でもないだろう。
なんせセレナの100分の1のステータスの俺が大丈夫なのだ。
ただ、ちょっとキツイんだよなー。
仕方ない、そろそろアレをやってもらうか。
俺はぐったりとしているセレナを抱き起こす。
セレナの目は焦点が定まっておらず、何を言っても聞こえなそうだったので、頬を軽く叩いてみた。
「うっ、うあ?」
セレナの瞳にわずかな光が灯る。
良かった。
気づいたみたいだ。
「セレナ、そろそろ俺の血を吸ってくれるか?」
「うぇ? ち、血?」
ぼんやりしながらも、セレナは時間をかけて俺の言っていることを理解していく。
そして、完全に理解すると、怯えたように首を弱々しく振り始める。
まるでいやいやと言っているように。
吸血鬼なのになぜ血を吸うのを嫌がるのだろう。
解せない。
「セレナ」
とりあえず、名前を呼んでみると、セレナはビクッとした。
そのまま首筋を見せつけると、よろよろしながらセレナは口を近づけていく。
かぷり。
僅かな痛みを伴って、セレナに血を吸われる。
おお。
みなぎってきた。
さすがの催淫効果だ。
今までの疲れも吹っ飛ぶ。
俺はそのまま、再度セレナを押し倒した。
押し倒す際、セレナが泣き叫んでいたような気がするが、気のせいだろう。
催淫効果が切れたのは、それからまたしばらく経ってからのことだった。
この部屋に入って、今日で何日目だろうか。
『飢餓耐性』がカンストしたためか、空腹感は全く感じないが、凄まじい疲労を感じる。
そういえば、『疲労耐性』のログも出続けていている。
なんかよく分からないが、HPがわずかに減っていた。
しばらく水も飲んでなかった事に気づいて、《水生成》で喉を潤した。
かなり喉が乾いていたらしく、ごくごくと飲みまくってしまった。
喉が潤った所で少し落ち着いた。
さて。
一体全体、何が起きたのだろうか。
今気づいたけど、部屋が物凄い事になっている。
かなり広い部屋のはずだが、余すとこなく謎の液体が滴っている。
なんとなく身に覚えがあるような、ないような。
それよりも、セレナが……。
さっきから気づいてはいたのだが、見て見ぬふりをしていたセレナをチラッと見る。
セレナはダラダラと涎を垂らしながら、アヘアヘと笑っていた。
俺は直視できずに、咄嗟に視線を反らせた。
いつも優雅で上品で、大人だったセレナが見る影もない。
一体どうしてしまったのだろう。
とりあえず、未だ健在の大迫力の巨乳を揉んでみると、嬉しそうな奇声を上げる。
ちょっと本気で心配になって、顔を覗き込んで見る。
「ああっ、好き、大好きです。愛してます。もっとしてください」
急に愛を囁きながら濃厚なキスをされた。
物凄く濁った目で。
うーん、誰だこれは。
これはいかん。
壊れちゃった感が半端ない。
とりあえず、セレナを引き離すとべちゃっと粘着質な音がした。
よし。
見なかったことにしよう!
セレナのためにもそれが良い気がする。
俺はそそくさと逃げるように部屋を後にした。
部屋の扉を開けた瞬間、再び違和感を感じた。
淀んでいた空気が流れ出すような錯覚に陥る。
セレナの魔法が解けたのだろうか。
なんか自分が物凄く臭い気がするので、とりあえず風呂場に向かうことにした。
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