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第三章 戦争編
第66話 充実していく引きこもり生活 ③
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朝食を食べた後、ルーナとお茶を楽しんでいた。
いつもならそろそろフィリスが迎えに来て、セレナの別荘を作りに行く時間だったが、別荘は昨日で完成したので今日はまったりしている。
というか、ライフワークと言っても良かった別荘作りが終わってしまった今、やることがなくて暇だ。
これから毎日何をして過ごそうか。
「なあなあ、それじゃあ、私と街に行かないか? 美味しいもの食べて、綺麗な服とか見て回ったりして、すごく楽しいぞ?」
ルーナは嬉々としながらそんな事を言う。
何を言っているんだ、この女は。
「はあ? 街なんて行くわけないだろうが」
引きこもりが街なんて行くわけないのだ。
行って良いのは近所のコンビニだけだ。
近所にコンビニはないので、すなわち、俺が行っていい場所はない。
「ううっ、すごく冷たく言われた……でも、そろそろ買い出しに行かないと、日用品とかいろいろ足りないものも出てきたんだ」
日用品か。
確かに塩とか足りなくなってきているとか言ってたな。
石鹸とかも欲しいし。
「うーん、じゃあ、お前一人で行け」
「ええっ!? わ、私一人で!? ひ、ひどすぎる……」
ルーナが物凄くショックを受けている。
なんかとても酷いことを言っている気分になってきた。
でも仕方ないのだ。
街ににはおそらく人がたくさんいる。
すなわち敵だらけということだ。
そんな場所に行くなんて、自殺行為も同然だ。
「ここから一番近い街まで、歩いて2、3日かかるんだぞ? 往復で1週間くらいだ。そ、そんなに長い間、私を一人にするのか? さ、寂しくて死んじゃうぞ」
ルーナが泣きついてくる。
街まで往復1週間とか。
田舎すぎるにも程があるな。
というか、街に行ったら俺が死ぬ。
街に行かなくてもルーナが死ぬらしい。
なんていうか。
死にやすいな、俺達。
「じゃあ、街になんて行かなければ良いんだ。街に行かないか、一人で街に行くかの2択だ。選べ」
「……街に行かない」
物凄く理不尽な2択を突きつけると、ルーナはあっさりと街を諦めてくれた。
可愛いやつだ。
とりあえず、抱きしめて頭を撫でてやる。
「えへへ」
ルーナはコロッと嬉しそうにしていた。
とは言え、日用品の問題は全然解決していない。
うーん。
密林的なECサイトが恋しい。
まあ、俺も男だ。
いざとなったら、セレナに土下座しよう。
それでいいのかという気もするが。
「そういえば、今日はメグとミレイが来るって言ってたぞ」
俺に抱きついたまま、膝の上に座るルーナがそんな事を言う。
「ふーん。何しに来るんだ?」
「ええと、メグは勉強をしに来て、ミレイは料理を教えて欲しいらしい」
メグの勉強はわかるが、ミレイの料理は初耳だった。
「ミレイって料理できないのか?」
「うん。苦手だって言ってた」
そういえば、毎日食材を届ける時に気まずそうな顔をしていた気がする。
俺も一人暮らしをしていたからわかるけど、料理できないのに食材なんて貰っても、苦笑いするしかない。
というか、今までどうやって食事してたんだよ。
「なんとか頑張って焼いたりして食べてたけど、もう限界らしい」
焼いたりて。
「……しばらくは、ミレイも食事に呼んでやるか」
「そうだな」
というか、俺もルーナがいなかったら同じような状態に陥っていたのだ。
困ったときはお互い様だ。
「というか、ルーナ先生すごいな。大活躍じゃないか」
「ふふん」
ルーナは誇らしげに胸を張っていた。
そんな風に胸を張られたら、咄嗟に揉んでしまう。
条件反射なので仕方なかった。
メグとミレイが家に来るなら、いつか作ろうとしていたダイニングを作っちゃおうかと思った。
たぶん、ベットが異臭を放っているはずだし。
とりあえず、ルーナの手を引いて家の外に出る。
「何をするんだ?」
黙ってついてきたルーナが不思議そうな顔をしている。
「今から、家を拡張しようと思ってな」
さて、どうやって拡張しようか。
我が家は既に道に面して建っていて、奥には物置がある。
なので、前後には拡張できない。
床の間くらいの小さなスペースだったら可能だが。
左右は風呂場とキッチンがあるし。
となると、上に拡張するしかない。
「2階建てにするか」
「ええっ!?」
驚くルーナを無視して、地面に両手をつく。
ベッドの置いてある部屋の下に新たな部屋を作るのだ。
魔力を流し込んでオーバーロードさせた《土形成》を発動させる。
すでにある壁を下から押し上げるように、新しい壁が生成されていく。
ゴゴゴと家全体が重い音を立てて軋む。
結構な魔力を消費したが、我が家はあっという間に2階建てになっていた。
入り口を作ってから中に入り、床や採光用の窓、キッチンや風呂場に繋がる入り口を生成した。
家の玄関に当たる部分には、蝶番付きの扉を作る。
そして、2階へと繋がる階段も作った。
2階に上がって、かつての入り口や、キッチン、風呂場に繋がっていた出入り口を塞いで行く。
「ふう、こんなところかな。終わったぞ」
「……どんどん家を作るスピードが上がっていく」
今の工事にかかった時間はだいたい30分くらいだろうか。
土壁なんて腐る程生成しているので、たしかに早くなっているかもしれない。
とりあえず、呆れるルーナにドヤ顔を返しておく。
「ううっ」
ルーナは真っ赤になって俯いた。
メグにもミレイにも微妙な反応をされたドヤ顔なのに。
「お前、この顔を見てイラッとしないのか?」
ちょっと気になったので聞いてしまった。
別にイラッとして欲しいわけではないのだが。
「え? ……そ、その、かっこよくてキュンとするけど」
ルーナは視線をきょろきょろと彷徨わせながら、そんな事を口走った。
……本格的に、大丈夫だろうかこいつ。
かなり心配になってしまう。
今度からはドヤ顔じゃなくて、変顔をしてみようか。
変顔をしても、キュンとするようになったら医者に連れて行こうと思う。
チョロいルーナを連れて、家の中に入る。
入る時にドアをガチャっと開けるのがいい感じだ。
今までただの穴を入り口としていたが、やっぱりドアがあった方が、外界との隔絶度が上がった気がして、引きこもり的にポイントが高い。
新しく作ったダイニングはガランとしていて、何もない。
とりあえずテーブルと椅子を生成しておいた。
2階にも今まで使っていたテーブルと椅子があるので、そのうち分解しておこうと思う。
「そういえば、広さはこれくらいで大丈夫か? 前、広すぎると嫌だとか言ってたけど」
「うん。これくらいなら問題ないぞ」
ルーナは作ったばかりの椅子に座って、にこにこと上機嫌だ。
気に入ってくれたみたいで良かった。
というか、ソファーとか欲しいな。
ふとそんな事を思った。
椅子だけだといまいち寛げない。
とりあえず、部屋の奥に、ソファーっぽい形のものを土魔法で作ってみた。
背もたれがあって、2人で腰掛けられるくらいの座席部分に、両側に手を置く場所を付けてみた。
うーん。
ただのベンチだ。
もっとモコモコにしたい。
「なあ、このベンチをウールでモコモコにできないか? ミレイん家のベッドみたいに」
「うーん、やってみるけど……」
ルーナはいまいち自信がなさそうだったが、ものは試しである。
物置からウールを大量に持ってきて、裁縫スキルを試してもらう。
ベンチが虹色に発光し始め、どんどんモコモコしていく。
「ふう、こんな感じでどうだ?」
とりあえず、モコモコしたベンチに座ってみる。
バフっと全身が柔らかい感触に包まれる。
おお。
ちょっと強度が足りないけど、ふかふかで気持ちい。
というかこれ人間をダメにする奴だ。
「すごくいい」
全身から力が抜けきった声が出た。
ルーナも隣に座ってくる。
「あ、ホントだ。ふかふかで気持ちいい」
やっぱりソファーがあるといい。
リラックスできる。
というか、もうソファーから立ち上がりたくない。
そのままルーナを抱き寄せてイチャイチャした。
というか、裁縫スキルってかなり自由度が高い。
俺も早くレベル3になりたい。
というか、しばらくルーナとイチャつき続けていて気づいた。
このままではソファーがベッドと同じことになってしまう。
とりあえずソファーカバーも作ってもらった。
これでソファーで何をしても大丈夫のはずだ。多分。
午後になって、メグとミレイがやってきた。
「あのう、急にお家が2階建てになっているんですけど……まあ、コウさんのすることにいちいち驚いていたらキリがないですが」
ミレイが拡張したばかりの我が家を眺めてそんな事を言っている。
うちのご近所さんとして、慣れてきてくれたようで良かった。
ミレイは恥ずかしそうに恐縮しながら、ルーナとキッチンに入っていった。
さっき聞いていたとおり、ルーナに料理を教えてもらうのだろう。
ダイニングにメグと2人で残される。
仕方ない。
今日はメグの勉強は俺が見てやるか。
「どうだ? もう結構読み書き出来るようになったか?」
「はい! ルーナさんに教えてもらって、自分の名前が書けるようになりました」
メグは嬉しそうに小さな黒板に何かを書いていく。
黒板はルーナに貰ったらしい。
というか、メグのルーナの呼び方が奥さまからルーナさんに変わっている。
仲良くなったみたいで良かった。
「できました! ほら」
メグが黒板を見せてくれた。
そこにはミミズが這いずり回ったような線が書いてある。
なんだこれは。
字が下手くそってレベルじゃないぞ。
「うーん、ちょっと違うんじゃないかな」
まあ、メグはまだ文字を勉強中なので仕方ない。
とりあえず、メグから黒板を借りると、なるべく丁寧にメグの名前を書いてみた。
『めぐ』と書かれた黒板を見せてやる。
「ほら、メグの名前はこうだろう?」
「……え?」
メグは黒板の文字を見て、途端に不安そうな表情を浮かべる。
なぜそんなリアクションをするのかわからない。
「で、でも、ルーナさんにならった文字は……」
「どうしたんだ?」
その時、キッチンからルーナが顔を覗かせる。
「あ、ルーナさん。コウさまが、わたしの名前の書き方がちがうって……」
「うーん? 昨日は書けていたじゃないか」
あれ、なんか嫌な予感がしてきた。
メグは黒板に書いた『めぐ』の文字を消してから、せっせと再びミミズ文字を書いていく。
「合っているじゃないか。ちゃんと練習したんだな。昨日より上手くなっている。偉いぞ」
ルーナに褒められて、メグが嬉しそうにしている。
え、というか、合ってんの?
あのミミズ文字で。
「あれ、でも、コウさまの文字は……」
メグが気まずそうに俺の方をチラチラと見ている。
あれ、なんか物凄いピンチを迎えている気がする。
今気づいたけど、異世界なんだから日本語が通用するわけがない気がしてきた。
普通に会話できているから気にしなかったけど。
文字だけは別なのかもしれない。
「コウさん……?」
ミレイまで出てきた。
どうしよう。
汗がどんどん出てくる。
いつも天真爛漫なメグが俺を訝しんだ目で見ている。
その目が語っている。
え、お前、あんなドヤ顔で字書けるって自慢してたのに、もしかして書けないの? 小学生以下じゃん、ダッサ!
「ぐはっ!」
脳内メグのアテレコで多大な精神ダメージを受けてしまった。
「そうか。お前、こっちの文字はわからないんだな?」
俺が異世界出身だと知っているルーナが気づいてくれたようだ。
とりあえず、ルーナに縋り付くような目を向ける。
「こっち?」
「……ええと、こいつは遠くの生まれでな。別の文字を使ってたんじゃないかな」
ナイスフォローだ。
「そ、そうなんだ。いやあ、地元では読み書きなんて楽勝だったのになあ!」
さり気なくホントは読み書き出来るんだぜアピールをしてみる。
32にもなって、そんなアピールをしなきゃいけなくなるなんて、情けなくて泣きそうになる。
「そうだったんですかあ。コウさまは遠い国の方だったんですね」
メグがホッとしたような表情を浮かべている。
良かった。
メグの好感度がガンガン下がって行くのを感じて怖かったのだ。
「遠い国って……別の文字を使っている国なんてあったかしら」
しかし、ミレイはいまいち納得していないようだ。
この世界には文字は1種類しかないらしい。
地球と違ってはるかにグローバル化が進んでいる。
というか、俺が異世界から来たって説明すればいいじゃん。
そう思って、ルーナを見てみると、ルーナは首を横に振っている。
説明しちゃダメらしい。
まあ、普通信じられないだろうしな。
とりあえず、俺はこの世界で文盲であることが確定した。
今度メグと一緒にミミズ文字を習おうと思う。
いつもならそろそろフィリスが迎えに来て、セレナの別荘を作りに行く時間だったが、別荘は昨日で完成したので今日はまったりしている。
というか、ライフワークと言っても良かった別荘作りが終わってしまった今、やることがなくて暇だ。
これから毎日何をして過ごそうか。
「なあなあ、それじゃあ、私と街に行かないか? 美味しいもの食べて、綺麗な服とか見て回ったりして、すごく楽しいぞ?」
ルーナは嬉々としながらそんな事を言う。
何を言っているんだ、この女は。
「はあ? 街なんて行くわけないだろうが」
引きこもりが街なんて行くわけないのだ。
行って良いのは近所のコンビニだけだ。
近所にコンビニはないので、すなわち、俺が行っていい場所はない。
「ううっ、すごく冷たく言われた……でも、そろそろ買い出しに行かないと、日用品とかいろいろ足りないものも出てきたんだ」
日用品か。
確かに塩とか足りなくなってきているとか言ってたな。
石鹸とかも欲しいし。
「うーん、じゃあ、お前一人で行け」
「ええっ!? わ、私一人で!? ひ、ひどすぎる……」
ルーナが物凄くショックを受けている。
なんかとても酷いことを言っている気分になってきた。
でも仕方ないのだ。
街ににはおそらく人がたくさんいる。
すなわち敵だらけということだ。
そんな場所に行くなんて、自殺行為も同然だ。
「ここから一番近い街まで、歩いて2、3日かかるんだぞ? 往復で1週間くらいだ。そ、そんなに長い間、私を一人にするのか? さ、寂しくて死んじゃうぞ」
ルーナが泣きついてくる。
街まで往復1週間とか。
田舎すぎるにも程があるな。
というか、街に行ったら俺が死ぬ。
街に行かなくてもルーナが死ぬらしい。
なんていうか。
死にやすいな、俺達。
「じゃあ、街になんて行かなければ良いんだ。街に行かないか、一人で街に行くかの2択だ。選べ」
「……街に行かない」
物凄く理不尽な2択を突きつけると、ルーナはあっさりと街を諦めてくれた。
可愛いやつだ。
とりあえず、抱きしめて頭を撫でてやる。
「えへへ」
ルーナはコロッと嬉しそうにしていた。
とは言え、日用品の問題は全然解決していない。
うーん。
密林的なECサイトが恋しい。
まあ、俺も男だ。
いざとなったら、セレナに土下座しよう。
それでいいのかという気もするが。
「そういえば、今日はメグとミレイが来るって言ってたぞ」
俺に抱きついたまま、膝の上に座るルーナがそんな事を言う。
「ふーん。何しに来るんだ?」
「ええと、メグは勉強をしに来て、ミレイは料理を教えて欲しいらしい」
メグの勉強はわかるが、ミレイの料理は初耳だった。
「ミレイって料理できないのか?」
「うん。苦手だって言ってた」
そういえば、毎日食材を届ける時に気まずそうな顔をしていた気がする。
俺も一人暮らしをしていたからわかるけど、料理できないのに食材なんて貰っても、苦笑いするしかない。
というか、今までどうやって食事してたんだよ。
「なんとか頑張って焼いたりして食べてたけど、もう限界らしい」
焼いたりて。
「……しばらくは、ミレイも食事に呼んでやるか」
「そうだな」
というか、俺もルーナがいなかったら同じような状態に陥っていたのだ。
困ったときはお互い様だ。
「というか、ルーナ先生すごいな。大活躍じゃないか」
「ふふん」
ルーナは誇らしげに胸を張っていた。
そんな風に胸を張られたら、咄嗟に揉んでしまう。
条件反射なので仕方なかった。
メグとミレイが家に来るなら、いつか作ろうとしていたダイニングを作っちゃおうかと思った。
たぶん、ベットが異臭を放っているはずだし。
とりあえず、ルーナの手を引いて家の外に出る。
「何をするんだ?」
黙ってついてきたルーナが不思議そうな顔をしている。
「今から、家を拡張しようと思ってな」
さて、どうやって拡張しようか。
我が家は既に道に面して建っていて、奥には物置がある。
なので、前後には拡張できない。
床の間くらいの小さなスペースだったら可能だが。
左右は風呂場とキッチンがあるし。
となると、上に拡張するしかない。
「2階建てにするか」
「ええっ!?」
驚くルーナを無視して、地面に両手をつく。
ベッドの置いてある部屋の下に新たな部屋を作るのだ。
魔力を流し込んでオーバーロードさせた《土形成》を発動させる。
すでにある壁を下から押し上げるように、新しい壁が生成されていく。
ゴゴゴと家全体が重い音を立てて軋む。
結構な魔力を消費したが、我が家はあっという間に2階建てになっていた。
入り口を作ってから中に入り、床や採光用の窓、キッチンや風呂場に繋がる入り口を生成した。
家の玄関に当たる部分には、蝶番付きの扉を作る。
そして、2階へと繋がる階段も作った。
2階に上がって、かつての入り口や、キッチン、風呂場に繋がっていた出入り口を塞いで行く。
「ふう、こんなところかな。終わったぞ」
「……どんどん家を作るスピードが上がっていく」
今の工事にかかった時間はだいたい30分くらいだろうか。
土壁なんて腐る程生成しているので、たしかに早くなっているかもしれない。
とりあえず、呆れるルーナにドヤ顔を返しておく。
「ううっ」
ルーナは真っ赤になって俯いた。
メグにもミレイにも微妙な反応をされたドヤ顔なのに。
「お前、この顔を見てイラッとしないのか?」
ちょっと気になったので聞いてしまった。
別にイラッとして欲しいわけではないのだが。
「え? ……そ、その、かっこよくてキュンとするけど」
ルーナは視線をきょろきょろと彷徨わせながら、そんな事を口走った。
……本格的に、大丈夫だろうかこいつ。
かなり心配になってしまう。
今度からはドヤ顔じゃなくて、変顔をしてみようか。
変顔をしても、キュンとするようになったら医者に連れて行こうと思う。
チョロいルーナを連れて、家の中に入る。
入る時にドアをガチャっと開けるのがいい感じだ。
今までただの穴を入り口としていたが、やっぱりドアがあった方が、外界との隔絶度が上がった気がして、引きこもり的にポイントが高い。
新しく作ったダイニングはガランとしていて、何もない。
とりあえずテーブルと椅子を生成しておいた。
2階にも今まで使っていたテーブルと椅子があるので、そのうち分解しておこうと思う。
「そういえば、広さはこれくらいで大丈夫か? 前、広すぎると嫌だとか言ってたけど」
「うん。これくらいなら問題ないぞ」
ルーナは作ったばかりの椅子に座って、にこにこと上機嫌だ。
気に入ってくれたみたいで良かった。
というか、ソファーとか欲しいな。
ふとそんな事を思った。
椅子だけだといまいち寛げない。
とりあえず、部屋の奥に、ソファーっぽい形のものを土魔法で作ってみた。
背もたれがあって、2人で腰掛けられるくらいの座席部分に、両側に手を置く場所を付けてみた。
うーん。
ただのベンチだ。
もっとモコモコにしたい。
「なあ、このベンチをウールでモコモコにできないか? ミレイん家のベッドみたいに」
「うーん、やってみるけど……」
ルーナはいまいち自信がなさそうだったが、ものは試しである。
物置からウールを大量に持ってきて、裁縫スキルを試してもらう。
ベンチが虹色に発光し始め、どんどんモコモコしていく。
「ふう、こんな感じでどうだ?」
とりあえず、モコモコしたベンチに座ってみる。
バフっと全身が柔らかい感触に包まれる。
おお。
ちょっと強度が足りないけど、ふかふかで気持ちい。
というかこれ人間をダメにする奴だ。
「すごくいい」
全身から力が抜けきった声が出た。
ルーナも隣に座ってくる。
「あ、ホントだ。ふかふかで気持ちいい」
やっぱりソファーがあるといい。
リラックスできる。
というか、もうソファーから立ち上がりたくない。
そのままルーナを抱き寄せてイチャイチャした。
というか、裁縫スキルってかなり自由度が高い。
俺も早くレベル3になりたい。
というか、しばらくルーナとイチャつき続けていて気づいた。
このままではソファーがベッドと同じことになってしまう。
とりあえずソファーカバーも作ってもらった。
これでソファーで何をしても大丈夫のはずだ。多分。
午後になって、メグとミレイがやってきた。
「あのう、急にお家が2階建てになっているんですけど……まあ、コウさんのすることにいちいち驚いていたらキリがないですが」
ミレイが拡張したばかりの我が家を眺めてそんな事を言っている。
うちのご近所さんとして、慣れてきてくれたようで良かった。
ミレイは恥ずかしそうに恐縮しながら、ルーナとキッチンに入っていった。
さっき聞いていたとおり、ルーナに料理を教えてもらうのだろう。
ダイニングにメグと2人で残される。
仕方ない。
今日はメグの勉強は俺が見てやるか。
「どうだ? もう結構読み書き出来るようになったか?」
「はい! ルーナさんに教えてもらって、自分の名前が書けるようになりました」
メグは嬉しそうに小さな黒板に何かを書いていく。
黒板はルーナに貰ったらしい。
というか、メグのルーナの呼び方が奥さまからルーナさんに変わっている。
仲良くなったみたいで良かった。
「できました! ほら」
メグが黒板を見せてくれた。
そこにはミミズが這いずり回ったような線が書いてある。
なんだこれは。
字が下手くそってレベルじゃないぞ。
「うーん、ちょっと違うんじゃないかな」
まあ、メグはまだ文字を勉強中なので仕方ない。
とりあえず、メグから黒板を借りると、なるべく丁寧にメグの名前を書いてみた。
『めぐ』と書かれた黒板を見せてやる。
「ほら、メグの名前はこうだろう?」
「……え?」
メグは黒板の文字を見て、途端に不安そうな表情を浮かべる。
なぜそんなリアクションをするのかわからない。
「で、でも、ルーナさんにならった文字は……」
「どうしたんだ?」
その時、キッチンからルーナが顔を覗かせる。
「あ、ルーナさん。コウさまが、わたしの名前の書き方がちがうって……」
「うーん? 昨日は書けていたじゃないか」
あれ、なんか嫌な予感がしてきた。
メグは黒板に書いた『めぐ』の文字を消してから、せっせと再びミミズ文字を書いていく。
「合っているじゃないか。ちゃんと練習したんだな。昨日より上手くなっている。偉いぞ」
ルーナに褒められて、メグが嬉しそうにしている。
え、というか、合ってんの?
あのミミズ文字で。
「あれ、でも、コウさまの文字は……」
メグが気まずそうに俺の方をチラチラと見ている。
あれ、なんか物凄いピンチを迎えている気がする。
今気づいたけど、異世界なんだから日本語が通用するわけがない気がしてきた。
普通に会話できているから気にしなかったけど。
文字だけは別なのかもしれない。
「コウさん……?」
ミレイまで出てきた。
どうしよう。
汗がどんどん出てくる。
いつも天真爛漫なメグが俺を訝しんだ目で見ている。
その目が語っている。
え、お前、あんなドヤ顔で字書けるって自慢してたのに、もしかして書けないの? 小学生以下じゃん、ダッサ!
「ぐはっ!」
脳内メグのアテレコで多大な精神ダメージを受けてしまった。
「そうか。お前、こっちの文字はわからないんだな?」
俺が異世界出身だと知っているルーナが気づいてくれたようだ。
とりあえず、ルーナに縋り付くような目を向ける。
「こっち?」
「……ええと、こいつは遠くの生まれでな。別の文字を使ってたんじゃないかな」
ナイスフォローだ。
「そ、そうなんだ。いやあ、地元では読み書きなんて楽勝だったのになあ!」
さり気なくホントは読み書き出来るんだぜアピールをしてみる。
32にもなって、そんなアピールをしなきゃいけなくなるなんて、情けなくて泣きそうになる。
「そうだったんですかあ。コウさまは遠い国の方だったんですね」
メグがホッとしたような表情を浮かべている。
良かった。
メグの好感度がガンガン下がって行くのを感じて怖かったのだ。
「遠い国って……別の文字を使っている国なんてあったかしら」
しかし、ミレイはいまいち納得していないようだ。
この世界には文字は1種類しかないらしい。
地球と違ってはるかにグローバル化が進んでいる。
というか、俺が異世界から来たって説明すればいいじゃん。
そう思って、ルーナを見てみると、ルーナは首を横に振っている。
説明しちゃダメらしい。
まあ、普通信じられないだろうしな。
とりあえず、俺はこの世界で文盲であることが確定した。
今度メグと一緒にミミズ文字を習おうと思う。
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僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
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