ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第三章 戦争編

第66話 充実していく引きこもり生活 ③

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 朝食を食べた後、ルーナとお茶を楽しんでいた。
 いつもならそろそろフィリスが迎えに来て、セレナの別荘を作りに行く時間だったが、別荘は昨日で完成したので今日はまったりしている。
 というか、ライフワークと言っても良かった別荘作りが終わってしまった今、やることがなくて暇だ。
 これから毎日何をして過ごそうか。

「なあなあ、それじゃあ、私と街に行かないか? 美味しいもの食べて、綺麗な服とか見て回ったりして、すごく楽しいぞ?」

 ルーナは嬉々としながらそんな事を言う。
 何を言っているんだ、この女は。

「はあ? 街なんて行くわけないだろうが」

 引きこもりが街なんて行くわけないのだ。
 行って良いのは近所のコンビニだけだ。
 近所にコンビニはないので、すなわち、俺が行っていい場所はない。

「ううっ、すごく冷たく言われた……でも、そろそろ買い出しに行かないと、日用品とかいろいろ足りないものも出てきたんだ」

 日用品か。
 確かに塩とか足りなくなってきているとか言ってたな。
 石鹸とかも欲しいし。

「うーん、じゃあ、お前一人で行け」

「ええっ!? わ、私一人で!? ひ、ひどすぎる……」

 ルーナが物凄くショックを受けている。
 なんかとても酷いことを言っている気分になってきた。
 でも仕方ないのだ。
 街ににはおそらく人がたくさんいる。
 すなわち敵だらけということだ。
 そんな場所に行くなんて、自殺行為も同然だ。

「ここから一番近い街まで、歩いて2、3日かかるんだぞ? 往復で1週間くらいだ。そ、そんなに長い間、私を一人にするのか? さ、寂しくて死んじゃうぞ」

 ルーナが泣きついてくる。
 街まで往復1週間とか。
 田舎すぎるにも程があるな。
 というか、街に行ったら俺が死ぬ。
 街に行かなくてもルーナが死ぬらしい。
 なんていうか。
 死にやすいな、俺達。

「じゃあ、街になんて行かなければ良いんだ。街に行かないか、一人で街に行くかの2択だ。選べ」

「……街に行かない」

 物凄く理不尽な2択を突きつけると、ルーナはあっさりと街を諦めてくれた。
 可愛いやつだ。
 とりあえず、抱きしめて頭を撫でてやる。

「えへへ」

 ルーナはコロッと嬉しそうにしていた。
 とは言え、日用品の問題は全然解決していない。
 うーん。
 密林的なECサイトが恋しい。
 まあ、俺も男だ。
 いざとなったら、セレナに土下座しよう。
 それでいいのかという気もするが。

「そういえば、今日はメグとミレイが来るって言ってたぞ」

 俺に抱きついたまま、膝の上に座るルーナがそんな事を言う。

「ふーん。何しに来るんだ?」

「ええと、メグは勉強をしに来て、ミレイは料理を教えて欲しいらしい」

 メグの勉強はわかるが、ミレイの料理は初耳だった。

「ミレイって料理できないのか?」

「うん。苦手だって言ってた」

 そういえば、毎日食材を届ける時に気まずそうな顔をしていた気がする。
 俺も一人暮らしをしていたからわかるけど、料理できないのに食材なんて貰っても、苦笑いするしかない。
 というか、今までどうやって食事してたんだよ。

「なんとか頑張って焼いたりして食べてたけど、もう限界らしい」

 焼いたりて。

「……しばらくは、ミレイも食事に呼んでやるか」

「そうだな」

 というか、俺もルーナがいなかったら同じような状態に陥っていたのだ。
 困ったときはお互い様だ。

「というか、ルーナ先生すごいな。大活躍じゃないか」

「ふふん」

 ルーナは誇らしげに胸を張っていた。
 そんな風に胸を張られたら、咄嗟に揉んでしまう。
 条件反射なので仕方なかった。



 メグとミレイが家に来るなら、いつか作ろうとしていたダイニングを作っちゃおうかと思った。
 たぶん、ベットが異臭を放っているはずだし。
 とりあえず、ルーナの手を引いて家の外に出る。

「何をするんだ?」

 黙ってついてきたルーナが不思議そうな顔をしている。

「今から、家を拡張しようと思ってな」

 さて、どうやって拡張しようか。
 我が家は既に道に面して建っていて、奥には物置がある。
 なので、前後には拡張できない。
 床の間くらいの小さなスペースだったら可能だが。
 左右は風呂場とキッチンがあるし。
 となると、上に拡張するしかない。

「2階建てにするか」

「ええっ!?」

 驚くルーナを無視して、地面に両手をつく。
 ベッドの置いてある部屋の下に新たな部屋を作るのだ。

 魔力を流し込んでオーバーロードさせた《土形成》を発動させる。

 すでにある壁を下から押し上げるように、新しい壁が生成されていく。

 ゴゴゴと家全体が重い音を立てて軋む。

 結構な魔力を消費したが、我が家はあっという間に2階建てになっていた。

 入り口を作ってから中に入り、床や採光用の窓、キッチンや風呂場に繋がる入り口を生成した。
 家の玄関に当たる部分には、蝶番付きの扉を作る。
 そして、2階へと繋がる階段も作った。
 2階に上がって、かつての入り口や、キッチン、風呂場に繋がっていた出入り口を塞いで行く。

「ふう、こんなところかな。終わったぞ」

「……どんどん家を作るスピードが上がっていく」

 今の工事にかかった時間はだいたい30分くらいだろうか。
 土壁なんて腐る程生成しているので、たしかに早くなっているかもしれない。
 とりあえず、呆れるルーナにドヤ顔を返しておく。

「ううっ」

 ルーナは真っ赤になって俯いた。
 メグにもミレイにも微妙な反応をされたドヤ顔なのに。

「お前、この顔を見てイラッとしないのか?」

 ちょっと気になったので聞いてしまった。
 別にイラッとして欲しいわけではないのだが。

「え? ……そ、その、かっこよくてキュンとするけど」

 ルーナは視線をきょろきょろと彷徨わせながら、そんな事を口走った。
 ……本格的に、大丈夫だろうかこいつ。
 かなり心配になってしまう。
 今度からはドヤ顔じゃなくて、変顔をしてみようか。
 変顔をしても、キュンとするようになったら医者に連れて行こうと思う。

 チョロいルーナを連れて、家の中に入る。
 入る時にドアをガチャっと開けるのがいい感じだ。
 今までただの穴を入り口としていたが、やっぱりドアがあった方が、外界との隔絶度が上がった気がして、引きこもり的にポイントが高い。

 新しく作ったダイニングはガランとしていて、何もない。
 とりあえずテーブルと椅子を生成しておいた。
 2階にも今まで使っていたテーブルと椅子があるので、そのうち分解しておこうと思う。

「そういえば、広さはこれくらいで大丈夫か? 前、広すぎると嫌だとか言ってたけど」

「うん。これくらいなら問題ないぞ」

 ルーナは作ったばかりの椅子に座って、にこにこと上機嫌だ。
 気に入ってくれたみたいで良かった。

 というか、ソファーとか欲しいな。

 ふとそんな事を思った。
 椅子だけだといまいち寛げない。

 とりあえず、部屋の奥に、ソファーっぽい形のものを土魔法で作ってみた。
 背もたれがあって、2人で腰掛けられるくらいの座席部分に、両側に手を置く場所を付けてみた。
 うーん。
 ただのベンチだ。
 もっとモコモコにしたい。

「なあ、このベンチをウールでモコモコにできないか? ミレイん家のベッドみたいに」

「うーん、やってみるけど……」

 ルーナはいまいち自信がなさそうだったが、ものは試しである。
 物置からウールを大量に持ってきて、裁縫スキルを試してもらう。
 ベンチが虹色に発光し始め、どんどんモコモコしていく。

「ふう、こんな感じでどうだ?」

 とりあえず、モコモコしたベンチに座ってみる。
 バフっと全身が柔らかい感触に包まれる。
 おお。
 ちょっと強度が足りないけど、ふかふかで気持ちい。
 というかこれ人間をダメにする奴だ。

「すごくいい」

 全身から力が抜けきった声が出た。
 ルーナも隣に座ってくる。

「あ、ホントだ。ふかふかで気持ちいい」

 やっぱりソファーがあるといい。
 リラックスできる。
 というか、もうソファーから立ち上がりたくない。

 そのままルーナを抱き寄せてイチャイチャした。
 というか、裁縫スキルってかなり自由度が高い。
 俺も早くレベル3になりたい。

 というか、しばらくルーナとイチャつき続けていて気づいた。
 このままではソファーがベッドと同じことになってしまう。
 とりあえずソファーカバーも作ってもらった。
 これでソファーで何をしても大丈夫のはずだ。多分。



 午後になって、メグとミレイがやってきた。

「あのう、急にお家が2階建てになっているんですけど……まあ、コウさんのすることにいちいち驚いていたらキリがないですが」

 ミレイが拡張したばかりの我が家を眺めてそんな事を言っている。
 うちのご近所さんとして、慣れてきてくれたようで良かった。

 ミレイは恥ずかしそうに恐縮しながら、ルーナとキッチンに入っていった。
 さっき聞いていたとおり、ルーナに料理を教えてもらうのだろう。

 ダイニングにメグと2人で残される。
 仕方ない。
 今日はメグの勉強は俺が見てやるか。

「どうだ? もう結構読み書き出来るようになったか?」

「はい! ルーナさんに教えてもらって、自分の名前が書けるようになりました」

 メグは嬉しそうに小さな黒板に何かを書いていく。
 黒板はルーナに貰ったらしい。
 というか、メグのルーナの呼び方が奥さまからルーナさんに変わっている。
 仲良くなったみたいで良かった。

「できました! ほら」

 メグが黒板を見せてくれた。
 そこにはミミズが這いずり回ったような線が書いてある。
 なんだこれは。
 字が下手くそってレベルじゃないぞ。

「うーん、ちょっと違うんじゃないかな」

 まあ、メグはまだ文字を勉強中なので仕方ない。
 とりあえず、メグから黒板を借りると、なるべく丁寧にメグの名前を書いてみた。
 『めぐ』と書かれた黒板を見せてやる。

「ほら、メグの名前はこうだろう?」

「……え?」

 メグは黒板の文字を見て、途端に不安そうな表情を浮かべる。
 なぜそんなリアクションをするのかわからない。

「で、でも、ルーナさんにならった文字は……」

「どうしたんだ?」

 その時、キッチンからルーナが顔を覗かせる。

「あ、ルーナさん。コウさまが、わたしの名前の書き方がちがうって……」

「うーん? 昨日は書けていたじゃないか」

 あれ、なんか嫌な予感がしてきた。
 メグは黒板に書いた『めぐ』の文字を消してから、せっせと再びミミズ文字を書いていく。

「合っているじゃないか。ちゃんと練習したんだな。昨日より上手くなっている。偉いぞ」

 ルーナに褒められて、メグが嬉しそうにしている。
 え、というか、合ってんの?
 あのミミズ文字で。

「あれ、でも、コウさまの文字は……」

 メグが気まずそうに俺の方をチラチラと見ている。
 あれ、なんか物凄いピンチを迎えている気がする。
 今気づいたけど、異世界なんだから日本語が通用するわけがない気がしてきた。
 普通に会話できているから気にしなかったけど。
 文字だけは別なのかもしれない。

「コウさん……?」

 ミレイまで出てきた。
 どうしよう。
 汗がどんどん出てくる。

 いつも天真爛漫なメグが俺を訝しんだ目で見ている。
 その目が語っている。
 え、お前、あんなドヤ顔で字書けるって自慢してたのに、もしかして書けないの? 小学生以下じゃん、ダッサ!

「ぐはっ!」

 脳内メグのアテレコで多大な精神ダメージを受けてしまった。

「そうか。お前、こっちの文字はわからないんだな?」

 俺が異世界出身だと知っているルーナが気づいてくれたようだ。
 とりあえず、ルーナに縋り付くような目を向ける。

「こっち?」

「……ええと、こいつは遠くの生まれでな。別の文字を使ってたんじゃないかな」

 ナイスフォローだ。

「そ、そうなんだ。いやあ、地元では読み書きなんて楽勝だったのになあ!」

 さり気なくホントは読み書き出来るんだぜアピールをしてみる。
 32にもなって、そんなアピールをしなきゃいけなくなるなんて、情けなくて泣きそうになる。

「そうだったんですかあ。コウさまは遠い国の方だったんですね」

 メグがホッとしたような表情を浮かべている。
 良かった。
 メグの好感度がガンガン下がって行くのを感じて怖かったのだ。

「遠い国って……別の文字を使っている国なんてあったかしら」

 しかし、ミレイはいまいち納得していないようだ。
 この世界には文字は1種類しかないらしい。
 地球と違ってはるかにグローバル化が進んでいる。

 というか、俺が異世界から来たって説明すればいいじゃん。
 そう思って、ルーナを見てみると、ルーナは首を横に振っている。
 説明しちゃダメらしい。
 まあ、普通信じられないだろうしな。

 とりあえず、俺はこの世界で文盲であることが確定した。
 今度メグと一緒にミミズ文字を習おうと思う。
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