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第二章 吸血鬼編
第54話 傷跡
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ルーナと部屋で二人きりになった。
なんというか気まずい。
ルーナはつーんとしながら、目を閉じてそっぽを向いている。
めちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。
「……とりあえず、その変な鎧を脱いで、くつろいだらどうだ」
ルーナがボソッとそんな事を言う。
変な鎧というのは、山賊長からパクった鉄シリーズの装備のことだろうか。
結構いい感じだと思っていたのにショックだ。
「かっこよくないか?」
両手を広げて、ルーナに鎧を見せつける。
すると、ルーナはチラリとこちらを見て、顔を赤らめた。
「……か、かっこいいけど」
なぜ顔を赤らめるのかはわからないけど、かっこいいなら良い。
山賊長も浮かばれる事だろう。
とりあえず、鎧を脱いで部屋の片隅に置く。
月光魔剣やベルトに刺していた鉄の剣などもついでに外して鎧の傍に立てかけておいた。
後で、これらの装備をしまっておく場所を用意しようと思う。
身軽になって、改めてルーナの隣に座った。
なんとなく正座だ。
「……とりあえず、何があったのか聞こうか」
ルーナは相変わらずツンとしながら、ぶっきらぼうに言う。
多分、怒っているのだろうけど、ちょっとかわいいと思ってしまう。
「そうだな……ええと、まず、山賊のアジトについた後……」
「そこからじゃなくて、私が斬られた後から話してくれ」
え、そんな前からと思うが、ルーナの機嫌を取るために仕方なく話し始める。
あの時のことはあまり思い出したくないが。
俺はあまり話すのが上手くないので、ちょいちょい辿々しい話し方になるが、ルーナは黙って聞いてくれた。
斬られたルーナをなんとか回復魔法で治した事、その後しばらく気を失っていた事、山賊が再び襲ってこないように、殲滅しに行った事、帰り際にメグとミレイに会った事。
結構な時間をかけて、そこまで話した。
「……だから、メグもミレイも帰る家がないんだ。可哀想だと思うだろ?」
ミレイについては、その気になれば帰れるような気がするが、話すとややこしいというか、キスしたらついてきたなんて絶対に言えないので、メグと同じように帰る家がないことにしておいた。
俺の嘘なんてすぐにバレるような気がして不安だが。
「……う、うん。可哀想だな」
しかし、ルーナは気づいていないようだ。
コクコクと頷いている。
しかも、顔を真赤にして、胸元で手を握りしめている。
「家の近所に家を建ててやって、そこに住んで貰おうと思うんだけど、いいよな?」
「うん。私は構わないぞ」
あっさりルーナは承諾してくれた。
なんだろう、嫌に物分りが良い。
さっきまでの不機嫌が嘘のようだ。
どこか嬉しそうですらある。
解せない。
ルーナは、顔を真赤にしてそわそわしている。
機嫌が治ったなら良かったけど。
「……まあ、俺の話はこれくらいかな。どうする? 風呂でも入るか?」
「うん。入るけど……。なあ、もう一回最初から話してくれないか?」
「なんで!?」
せっかく今話し終えた所なのに、もう一度話せとか。
鬼畜すぎるにも程がある。
「そ、その、私に対する気持ちとかをもっと詳しくさせて、もう一度……」
ルーナがギュッとしがみついてくる。
熱でもあるのかルーナの身体は熱く、息も少し荒い。
蕩けきった瞳で俺をじっと見つめている。
うーん。
予想しなかった反応だ。
ただ、よく考えてみれば、ルーナの為に痛みを堪えて回復魔法を使ったとか、ルーナの為に病み上がりの身体を押して山賊と戦いに行ったとか、聞こえようによっては、お前どんだけルーナの事好きなんだよと突っ込まれそうな事をしている気もする。
そんなつもりは全然なかったのだが。
いや、本当に。
べ、べつにルーナの事なんか好きじゃないし。
ただ、本気でもう一度初めから話すのだけは勘弁してもらいたい。
恥ずかしくて死にそうになる。
「……もう忘れた。初めから話すのなんて無理だな」
とりあえず、そんなバレバレの嘘をついてみた。
ちょっと顔が熱い。
ルーナはむくれると思ったが、きょとんとした顔をした後、嬉しそうにギューっとしがみつく力を強くする。
「えへへ。私もお前の事大好きだぞ」
さらっとそんな事を言う。
私もってなんだ。もって。
ただ、死ぬほど可愛かったので、押し倒すのを堪えるのにすごく苦労した。
まあ、メグとミレイの事も無事に認知? してくれたみたいだし。
良かった良かった。
風呂を念入りに洗ってからルーナを入れる。
少し迷ったが、俺は一緒に入るのをやめておいた。
ルーナの傷は塞がったばかりだし、バイ菌とか入ったら大変だと思ったからだ。
「もうすっかり魔法は使えるようになったんだな?」
湯加減を調整していると、気持ちよさそうに風呂に浸かるルーナがそんな事を言う。
「ああ、ミレイのお陰でな」
「そうか。明日きちんとお礼を言わないとな。……なあ、お前は、その」
ルーナは何かを言いかけたのを止めて、口を湯船につけてブクブクさせている。
「どうした?」
気になって聞き返してみると、ルーナは意を決したように口を開く。
「……お前は、あのミレイって女とか、姉メイドみたいに、その、おっぱいの大きいのが好きなのか?」
軽く吹き出しそうになった。
何言ってんの、この女。
確かにミレイもカンナさんも巨乳だけど。
好きかどうか聞かれたら、好きだけど。
ただ俺はルーナのような美乳を愛する紳士だ。
「いや、別に好きじゃないぞ」
なので、あっさりと嘘をついてみた。
ルーナを安心させるために。
しかし、ルーナはまだモヤモヤしているような表情を見せる。
「も、もしかして、メグって娘とか、フィリスみたいな、その、小さいのが好きなのか?」
更に吹き出しそうになる。
俺は主義者(ロリコン)じゃない。
まあ、小さい胸も好きか嫌いかと聞かれたら、好きだけど。
あれ、今気づいたけど俺はおっぱいに対して否がない。
おっぱいに貴賎なしだ。
全部好きだ。
「好きなわけないじゃないか」
ただ、この場は空気を呼んで嘘をついておく。
俺はTPOをわきまえる大人の男なのだ。
「……じゃ、じゃあ、私のが一番好き?」
もじもじしながらルーナがそんな事を言う。
ルーナのおっぱいはちょうど俺の手の平に収まる大きさで、ツンと上向きなのが可愛らしい。
それは、正に俺の理想とするおっぱいで、なんというか、型をとって美術館に飾りたいくらいだ。
他の男には絶対に見せないけど。
「うん!」
今度は嘘じゃないので、俺は元気よく頷いておいた。
ちなみに、おっぱいと言われて真っ先に思いつくのはセレナのおっぱいだったが、それは言わないでおく。
なんというか、アレは凄まじい。
ドロドロの紛争が続く地域で、セレナがぽろんと胸をはだけさせたら一瞬で和平が訪れるんじゃないかと思うくらいの力がある気がする。
「ほ、本当だな? 浮気しちゃダメだからな?」
バシャバシャとお湯を跳ねさせて、ルーナが浴槽にしがみついてくる。
俺を上目遣いで見つめて、綺麗な尻が見えて……。
「…………」
俺は思わず息を飲んだ。
ルーナの背中が丸見えだったのだ。
白く美しいルーナの柔肌に、痛々しい斬傷が生々しく浮かんでいる。
傷は赤いカサブタで覆われているが、まだ患部が少し腫れている。
その傷を見て、俺は胃が締め付けられるような気がした。
「あっ、悪い!」
ルーナも背中が丸見えなのに気づいたのか、慌てて俺から隠すようにして身体を起こす。
なぜ謝るのか。
ルーナは何も悪くない。
悪いのは、全部俺だ。
「傷、残っちゃったな」
とりあえず、そんな事を言ってみたが、自分でも驚くほど、俺の声は震えていた。
「……うん」
ルーナは悲しそうに頷く。
女性にとって、肌に傷が残るという事がどれほどショックなのだろうか。
想像もできない。
今、ルーナがどんな気持ちなのかも想像できない。
俺に償う事はできるのだろうか。
いや、償いきれる事ではない。
ただ、傷をもっと目立たせなくする事はできるかもしれない。
俺は歯を思い切り食いしばった。
今なら、どんな痛みにも耐えられる気がする。
再び、回復魔法を発動させるのだ。
もう一生魔法が使えなくなってもいい。
俺の全魔力を使って、オーバーロードさせて、いや、禁止されていたオーバライドを発動させてもいい。
ルーナの肌を、再び元の美しい状態に。
俺は両手に魔力を集中させていく。
「ダメだ! 絶対にダメだ!」
突然、ルーナが風呂から飛び出て、抱きついてくる。
「ちょっと待ってろ。今、傷を消してやるからな」
「いいから! そんなことしなくていい!」
「いいって、そういうわけにはいかないだろう?」
「……お前は私の傷が嫌か? そ、その、こんな傷がある女は、嫌いか?」
ルーナは俺に縋り付くような目を向ける。
ルーナの傷は俺のせいでついた傷だ。
そんなルーナを嫌いなんて思えるわけがない。
「嫌いなわけ無いだろう!」
思わず怒鳴るような声を上げて、ルーナを抱きしめる。
「それなら、私は構わない。お前に嫌われないのなら、こんな傷があっても大丈夫だ」
ルーナは優しく俺を抱き返してくれる。
「それよりも、もう二度と回復魔法は使わないと約束してくれ。お前のあんな姿はもう見たくないんだ。何日も死んだみたいに眠って、わ、私がどんな気持ちだったか……」
言いながら、ルーナは嗚咽をあげ始める。
ルーナに結構な心配をかけてしまったらしい。
確かに7日間眠りっぱなしは、さすがにどうかと思うが。
ただ、心配については俺も言いたいことがある。
俺は泣き始めるルーナの肩を思い切り掴んで引き離す。
そして、真正面からルーナを見据える。
ルーナは驚いた表情を浮かべている。
「なら、お前も約束しろ。二度と俺を庇ったりしないと。二度と俺の目の前で死にそうにならないと。次、死にかけたら、俺は絶対に許さない」
ルーナに怒りをぶつけるように俺は立て続けに喋った。
あの時の事は一生忘れられそうにない。
死相を浮かべるルーナの顔なんて、思い出しただけで吐き気がする。
この女はいつも楽しそうに笑っているべきなのだ。
ましてや、俺のようなクズを庇って死ぬなんてあってはならない。
全人類の幸福のためにも、そんなのは間違っている。
俺は今までにないくらい真剣だった。
睨みつけるようにルーナを見つめ続ける。
「…………」
「…………ぷっ」
しかし、なぜかルーナが吹き出す。
目に涙を貯めたまま、可笑しそうにくすくす笑い始める。
「……お前を庇わないなんて約束できない。これからも、お前が危なくなったらいつでもこの身でお前を庇うぞ。お前のことを愛しているからな。当たり前だろう?」
この女は全然わかっていない。
俺は再び口を開こうとした。
しかし、ルーナの言葉に遮られてしまう。
「ただ、心配をさせてしまった事は謝る。悪かったな。だから、そんな顔をするな」
ルーナはそう言いながら俺の頬を撫でた。
そして、俺の目元に浮かんだ何かを拭ってくれる。
俺は愕然とした。
いやいや、そんな馬鹿な。
こんな事で俺が泣くわけない。
俺が最後に泣いたのは、子供の頃に見た怪獣映画でモス○が地球を守ろうとゴ○ラと……。
そういえば、ルーナが目覚めた時もちょっとウルッと来た気もするが、あれは汗だ。
というか、どうしよう。
死ぬほど恥ずかしい。
ルーナに何かを言おうとしたが、どうでもよくなるくらい恥ずかしい。
「というか、そもそもお前が悪いんだぞ? 山賊たちの安い挑発に乗るから」
「挑発?」
はてそんなことされたっけか。
「私があんな山賊共に犯されるわけ無いだろう? まったく、お前、私の事好きすぎだぞ?」
ルーナは可笑しそうにくすくす笑っている。
というか、その言葉に愕然とした。
そういえば、そうだった。
家を襲撃に来た山賊たちが、ゲラゲラ笑いながらルーナを犯すとか言うからキレて頭に血が昇ったんだった。
たしかに、あれで周りが見えなくなった気がする。
ルーナが怪我をした原因と言えなくもない。
どうしよう。
更に恥ずかしくなってくる。
恥ずかしさで空も飛べそうだ。
というか、消えてなくなりたい。
「服濡らしちゃって悪かったな。このままじゃ、風邪引いちゃうぞ? なあ、やっぱり一緒にお風呂入ろう?」
俺は恥ずかしさの限界値を超えてしまったせいで、呆然としながらルーナに言われるがまま、濡れた服を脱いで風呂に入った。
バイ菌とか色々考えていた気がするが、どうでも良くなった。
風呂に入るなり、ルーナが抱きついてくる。
ルーナは好き好き言いながら、キスを何度もしてきた。
お互いに裸でそんな事をしていれば、ここ数日溜まりに溜まっていた俺が我慢できるはずもなかった。
カンナさんにあれだけダメだと言われていたのに、俺はルーナを抱きまくった。
一応、普段よりは優しくしたつもりだったが、少し心配だった。
次の日の朝、目が覚めるといつもの様に、胸の中でルーナがすーすーと寝息を立てていた。
病み上がりのルーナとしてしまった罪悪感から、俺は心配しながらルーナの寝顔をしばらく見つめていた。
怪我が悪化していたらどうしよう。
「……ん? うーん」
しばらくして、ルーナが目を覚ます。
ルーナはぼんやりしながら、俺を見つめると、いつものように軽くキスしてきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう。……身体、大丈夫か?」
「うん? ああ、なんともないぞ。どうしたんだ?」
「いや、昨日は、その、悪かったな。お前、病み上がりなのに」
「まったくだぞ。少しは手加減しろ」
呆れたような事を言いながらも、ルーナは嬉しそうに顔をすり寄せてくる。
とりあえずルーナの頭を撫でながら、ルーナがなんともなさそうなので安心した。
「なあ?」
不意にルーナが顔をあげる。
「……今、すごく幸せだぞ」
そう言って、ルーナは嬉しそうに微笑む。
突然、何を言い出すんだと思ったが、その笑顔は、なんというか愛しさに満ちあふれていて。
ルーナが元気になって本当に良かったと思った。
なんというか気まずい。
ルーナはつーんとしながら、目を閉じてそっぽを向いている。
めちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。
「……とりあえず、その変な鎧を脱いで、くつろいだらどうだ」
ルーナがボソッとそんな事を言う。
変な鎧というのは、山賊長からパクった鉄シリーズの装備のことだろうか。
結構いい感じだと思っていたのにショックだ。
「かっこよくないか?」
両手を広げて、ルーナに鎧を見せつける。
すると、ルーナはチラリとこちらを見て、顔を赤らめた。
「……か、かっこいいけど」
なぜ顔を赤らめるのかはわからないけど、かっこいいなら良い。
山賊長も浮かばれる事だろう。
とりあえず、鎧を脱いで部屋の片隅に置く。
月光魔剣やベルトに刺していた鉄の剣などもついでに外して鎧の傍に立てかけておいた。
後で、これらの装備をしまっておく場所を用意しようと思う。
身軽になって、改めてルーナの隣に座った。
なんとなく正座だ。
「……とりあえず、何があったのか聞こうか」
ルーナは相変わらずツンとしながら、ぶっきらぼうに言う。
多分、怒っているのだろうけど、ちょっとかわいいと思ってしまう。
「そうだな……ええと、まず、山賊のアジトについた後……」
「そこからじゃなくて、私が斬られた後から話してくれ」
え、そんな前からと思うが、ルーナの機嫌を取るために仕方なく話し始める。
あの時のことはあまり思い出したくないが。
俺はあまり話すのが上手くないので、ちょいちょい辿々しい話し方になるが、ルーナは黙って聞いてくれた。
斬られたルーナをなんとか回復魔法で治した事、その後しばらく気を失っていた事、山賊が再び襲ってこないように、殲滅しに行った事、帰り際にメグとミレイに会った事。
結構な時間をかけて、そこまで話した。
「……だから、メグもミレイも帰る家がないんだ。可哀想だと思うだろ?」
ミレイについては、その気になれば帰れるような気がするが、話すとややこしいというか、キスしたらついてきたなんて絶対に言えないので、メグと同じように帰る家がないことにしておいた。
俺の嘘なんてすぐにバレるような気がして不安だが。
「……う、うん。可哀想だな」
しかし、ルーナは気づいていないようだ。
コクコクと頷いている。
しかも、顔を真赤にして、胸元で手を握りしめている。
「家の近所に家を建ててやって、そこに住んで貰おうと思うんだけど、いいよな?」
「うん。私は構わないぞ」
あっさりルーナは承諾してくれた。
なんだろう、嫌に物分りが良い。
さっきまでの不機嫌が嘘のようだ。
どこか嬉しそうですらある。
解せない。
ルーナは、顔を真赤にしてそわそわしている。
機嫌が治ったなら良かったけど。
「……まあ、俺の話はこれくらいかな。どうする? 風呂でも入るか?」
「うん。入るけど……。なあ、もう一回最初から話してくれないか?」
「なんで!?」
せっかく今話し終えた所なのに、もう一度話せとか。
鬼畜すぎるにも程がある。
「そ、その、私に対する気持ちとかをもっと詳しくさせて、もう一度……」
ルーナがギュッとしがみついてくる。
熱でもあるのかルーナの身体は熱く、息も少し荒い。
蕩けきった瞳で俺をじっと見つめている。
うーん。
予想しなかった反応だ。
ただ、よく考えてみれば、ルーナの為に痛みを堪えて回復魔法を使ったとか、ルーナの為に病み上がりの身体を押して山賊と戦いに行ったとか、聞こえようによっては、お前どんだけルーナの事好きなんだよと突っ込まれそうな事をしている気もする。
そんなつもりは全然なかったのだが。
いや、本当に。
べ、べつにルーナの事なんか好きじゃないし。
ただ、本気でもう一度初めから話すのだけは勘弁してもらいたい。
恥ずかしくて死にそうになる。
「……もう忘れた。初めから話すのなんて無理だな」
とりあえず、そんなバレバレの嘘をついてみた。
ちょっと顔が熱い。
ルーナはむくれると思ったが、きょとんとした顔をした後、嬉しそうにギューっとしがみつく力を強くする。
「えへへ。私もお前の事大好きだぞ」
さらっとそんな事を言う。
私もってなんだ。もって。
ただ、死ぬほど可愛かったので、押し倒すのを堪えるのにすごく苦労した。
まあ、メグとミレイの事も無事に認知? してくれたみたいだし。
良かった良かった。
風呂を念入りに洗ってからルーナを入れる。
少し迷ったが、俺は一緒に入るのをやめておいた。
ルーナの傷は塞がったばかりだし、バイ菌とか入ったら大変だと思ったからだ。
「もうすっかり魔法は使えるようになったんだな?」
湯加減を調整していると、気持ちよさそうに風呂に浸かるルーナがそんな事を言う。
「ああ、ミレイのお陰でな」
「そうか。明日きちんとお礼を言わないとな。……なあ、お前は、その」
ルーナは何かを言いかけたのを止めて、口を湯船につけてブクブクさせている。
「どうした?」
気になって聞き返してみると、ルーナは意を決したように口を開く。
「……お前は、あのミレイって女とか、姉メイドみたいに、その、おっぱいの大きいのが好きなのか?」
軽く吹き出しそうになった。
何言ってんの、この女。
確かにミレイもカンナさんも巨乳だけど。
好きかどうか聞かれたら、好きだけど。
ただ俺はルーナのような美乳を愛する紳士だ。
「いや、別に好きじゃないぞ」
なので、あっさりと嘘をついてみた。
ルーナを安心させるために。
しかし、ルーナはまだモヤモヤしているような表情を見せる。
「も、もしかして、メグって娘とか、フィリスみたいな、その、小さいのが好きなのか?」
更に吹き出しそうになる。
俺は主義者(ロリコン)じゃない。
まあ、小さい胸も好きか嫌いかと聞かれたら、好きだけど。
あれ、今気づいたけど俺はおっぱいに対して否がない。
おっぱいに貴賎なしだ。
全部好きだ。
「好きなわけないじゃないか」
ただ、この場は空気を呼んで嘘をついておく。
俺はTPOをわきまえる大人の男なのだ。
「……じゃ、じゃあ、私のが一番好き?」
もじもじしながらルーナがそんな事を言う。
ルーナのおっぱいはちょうど俺の手の平に収まる大きさで、ツンと上向きなのが可愛らしい。
それは、正に俺の理想とするおっぱいで、なんというか、型をとって美術館に飾りたいくらいだ。
他の男には絶対に見せないけど。
「うん!」
今度は嘘じゃないので、俺は元気よく頷いておいた。
ちなみに、おっぱいと言われて真っ先に思いつくのはセレナのおっぱいだったが、それは言わないでおく。
なんというか、アレは凄まじい。
ドロドロの紛争が続く地域で、セレナがぽろんと胸をはだけさせたら一瞬で和平が訪れるんじゃないかと思うくらいの力がある気がする。
「ほ、本当だな? 浮気しちゃダメだからな?」
バシャバシャとお湯を跳ねさせて、ルーナが浴槽にしがみついてくる。
俺を上目遣いで見つめて、綺麗な尻が見えて……。
「…………」
俺は思わず息を飲んだ。
ルーナの背中が丸見えだったのだ。
白く美しいルーナの柔肌に、痛々しい斬傷が生々しく浮かんでいる。
傷は赤いカサブタで覆われているが、まだ患部が少し腫れている。
その傷を見て、俺は胃が締め付けられるような気がした。
「あっ、悪い!」
ルーナも背中が丸見えなのに気づいたのか、慌てて俺から隠すようにして身体を起こす。
なぜ謝るのか。
ルーナは何も悪くない。
悪いのは、全部俺だ。
「傷、残っちゃったな」
とりあえず、そんな事を言ってみたが、自分でも驚くほど、俺の声は震えていた。
「……うん」
ルーナは悲しそうに頷く。
女性にとって、肌に傷が残るという事がどれほどショックなのだろうか。
想像もできない。
今、ルーナがどんな気持ちなのかも想像できない。
俺に償う事はできるのだろうか。
いや、償いきれる事ではない。
ただ、傷をもっと目立たせなくする事はできるかもしれない。
俺は歯を思い切り食いしばった。
今なら、どんな痛みにも耐えられる気がする。
再び、回復魔法を発動させるのだ。
もう一生魔法が使えなくなってもいい。
俺の全魔力を使って、オーバーロードさせて、いや、禁止されていたオーバライドを発動させてもいい。
ルーナの肌を、再び元の美しい状態に。
俺は両手に魔力を集中させていく。
「ダメだ! 絶対にダメだ!」
突然、ルーナが風呂から飛び出て、抱きついてくる。
「ちょっと待ってろ。今、傷を消してやるからな」
「いいから! そんなことしなくていい!」
「いいって、そういうわけにはいかないだろう?」
「……お前は私の傷が嫌か? そ、その、こんな傷がある女は、嫌いか?」
ルーナは俺に縋り付くような目を向ける。
ルーナの傷は俺のせいでついた傷だ。
そんなルーナを嫌いなんて思えるわけがない。
「嫌いなわけ無いだろう!」
思わず怒鳴るような声を上げて、ルーナを抱きしめる。
「それなら、私は構わない。お前に嫌われないのなら、こんな傷があっても大丈夫だ」
ルーナは優しく俺を抱き返してくれる。
「それよりも、もう二度と回復魔法は使わないと約束してくれ。お前のあんな姿はもう見たくないんだ。何日も死んだみたいに眠って、わ、私がどんな気持ちだったか……」
言いながら、ルーナは嗚咽をあげ始める。
ルーナに結構な心配をかけてしまったらしい。
確かに7日間眠りっぱなしは、さすがにどうかと思うが。
ただ、心配については俺も言いたいことがある。
俺は泣き始めるルーナの肩を思い切り掴んで引き離す。
そして、真正面からルーナを見据える。
ルーナは驚いた表情を浮かべている。
「なら、お前も約束しろ。二度と俺を庇ったりしないと。二度と俺の目の前で死にそうにならないと。次、死にかけたら、俺は絶対に許さない」
ルーナに怒りをぶつけるように俺は立て続けに喋った。
あの時の事は一生忘れられそうにない。
死相を浮かべるルーナの顔なんて、思い出しただけで吐き気がする。
この女はいつも楽しそうに笑っているべきなのだ。
ましてや、俺のようなクズを庇って死ぬなんてあってはならない。
全人類の幸福のためにも、そんなのは間違っている。
俺は今までにないくらい真剣だった。
睨みつけるようにルーナを見つめ続ける。
「…………」
「…………ぷっ」
しかし、なぜかルーナが吹き出す。
目に涙を貯めたまま、可笑しそうにくすくす笑い始める。
「……お前を庇わないなんて約束できない。これからも、お前が危なくなったらいつでもこの身でお前を庇うぞ。お前のことを愛しているからな。当たり前だろう?」
この女は全然わかっていない。
俺は再び口を開こうとした。
しかし、ルーナの言葉に遮られてしまう。
「ただ、心配をさせてしまった事は謝る。悪かったな。だから、そんな顔をするな」
ルーナはそう言いながら俺の頬を撫でた。
そして、俺の目元に浮かんだ何かを拭ってくれる。
俺は愕然とした。
いやいや、そんな馬鹿な。
こんな事で俺が泣くわけない。
俺が最後に泣いたのは、子供の頃に見た怪獣映画でモス○が地球を守ろうとゴ○ラと……。
そういえば、ルーナが目覚めた時もちょっとウルッと来た気もするが、あれは汗だ。
というか、どうしよう。
死ぬほど恥ずかしい。
ルーナに何かを言おうとしたが、どうでもよくなるくらい恥ずかしい。
「というか、そもそもお前が悪いんだぞ? 山賊たちの安い挑発に乗るから」
「挑発?」
はてそんなことされたっけか。
「私があんな山賊共に犯されるわけ無いだろう? まったく、お前、私の事好きすぎだぞ?」
ルーナは可笑しそうにくすくす笑っている。
というか、その言葉に愕然とした。
そういえば、そうだった。
家を襲撃に来た山賊たちが、ゲラゲラ笑いながらルーナを犯すとか言うからキレて頭に血が昇ったんだった。
たしかに、あれで周りが見えなくなった気がする。
ルーナが怪我をした原因と言えなくもない。
どうしよう。
更に恥ずかしくなってくる。
恥ずかしさで空も飛べそうだ。
というか、消えてなくなりたい。
「服濡らしちゃって悪かったな。このままじゃ、風邪引いちゃうぞ? なあ、やっぱり一緒にお風呂入ろう?」
俺は恥ずかしさの限界値を超えてしまったせいで、呆然としながらルーナに言われるがまま、濡れた服を脱いで風呂に入った。
バイ菌とか色々考えていた気がするが、どうでも良くなった。
風呂に入るなり、ルーナが抱きついてくる。
ルーナは好き好き言いながら、キスを何度もしてきた。
お互いに裸でそんな事をしていれば、ここ数日溜まりに溜まっていた俺が我慢できるはずもなかった。
カンナさんにあれだけダメだと言われていたのに、俺はルーナを抱きまくった。
一応、普段よりは優しくしたつもりだったが、少し心配だった。
次の日の朝、目が覚めるといつもの様に、胸の中でルーナがすーすーと寝息を立てていた。
病み上がりのルーナとしてしまった罪悪感から、俺は心配しながらルーナの寝顔をしばらく見つめていた。
怪我が悪化していたらどうしよう。
「……ん? うーん」
しばらくして、ルーナが目を覚ます。
ルーナはぼんやりしながら、俺を見つめると、いつものように軽くキスしてきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう。……身体、大丈夫か?」
「うん? ああ、なんともないぞ。どうしたんだ?」
「いや、昨日は、その、悪かったな。お前、病み上がりなのに」
「まったくだぞ。少しは手加減しろ」
呆れたような事を言いながらも、ルーナは嬉しそうに顔をすり寄せてくる。
とりあえずルーナの頭を撫でながら、ルーナがなんともなさそうなので安心した。
「なあ?」
不意にルーナが顔をあげる。
「……今、すごく幸せだぞ」
そう言って、ルーナは嬉しそうに微笑む。
突然、何を言い出すんだと思ったが、その笑顔は、なんというか愛しさに満ちあふれていて。
ルーナが元気になって本当に良かったと思った。
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