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第二章 吸血鬼編
第41話 青空の下で
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俺はしばらく丸太に腰掛けて、空を見上げていた。
何も遮るもののない広大な空だった。
雲がゆっくりと流れていく。
いつか新宿で見た空とは比べるべくもない。
しばらくそうやっていて、時間がどれくらい流れたのだろうか。
気づけば、太陽は天辺まで昇りつめていた。
昨日から何も食べていないお腹が鳴る。
もうお昼頃だろうか。
「ごきげんよう」
ずっと空を見上げていたせいで、誰かが近づいてくるのがわからなかったらしい。
突然、声をかけられた。
思わず、顔を戻すと、そこにはセレナが立っていた。
今日のセレナは相変わらずの黒ドレスに、黒いレースの日傘を差していた。
当たり前だが、今日も相変わらず美人だ。
セレナの背後には、かしこまったフィリスがいる。
今日はセレナと一緒に来たらしい。
「隣いいかしら?」
隣とは俺の座っている丸太の事だろうか。
「いいけど、汚れるぞ?」
セレナの高そうなドレスは黒いため、木くずにまみれたら目立ちそうだ。
「かまわないわ」
全く気にせず、丸太に腰掛けようとするセレナに、慌ててフィリスがハンカチを敷く。
セレナが横に座ると、ふわりといい匂いがした。
「……それで? あの娘とケンカしたの? 家にお邪魔したら、小娘が泣きついてきたのだけれど」
「……まあな。実家に帰るって言ってたぞ」
あれから結構経っているが、まだルーナは家にいるらしい。
「ふうん、あんまりビービー泣くものだから、うるさくて思わず凍らせてしまったわ」
物凄く不穏な事を言うセレナに咎めるような目を向けてしまう。
セレナは、俺にそんな目を向けられてもどこ吹く風で、日傘をくるくると回していた。
「そんなに、心配しなくても大丈夫よ。魔法で一時的に凍らせただけ。今頃、溶けているでしょう」
「べ、べつに心配してないし」
「……ふうん、ねえ、いいの?」
セレナはその赤い瞳で、俺を覗き込むようにしながら、俺に身を寄せてきた。
巨大な胸がむにゅっと腕に押し付けられる。
「あの娘がいないと、あなたは私のものになるしかないのだけれど」
「セ、セレナお嬢様!」
「…………」
セレナが言っているのは、吸血時の異常なムラムラ感の事だろうか。
今までは、ルーナを抱くことでなんとかなっていたが、ルーナがいなくなったら確かに我慢できそうにない。
間違いなくセレナを押し倒すだろう。
ただ、思うのだ。
「……それが何か問題なのか?」
セレナは誰がどう見ても、絶世の美女だ。
そんな美女を押し倒せるなんて、願ってもない。
「お前こそいいのか。俺は問答無用でお前を犯すぞ?」
「あら、怖い。……望むところよ?」
ニヤリと笑ったセレナが顔を近づけてくる。
こんな所で真っ昼間から始めるのだろうか。
まあいいけど。
ルーナは出て行くし。
むしろ楽しみだ。
セレナはルーナより巨乳だし。
ルーナより色っぽいし。
ルーナか。
そしてセレナは俺の首筋に顔をつけると、軽く口付けをした。
そして、そのまま軽く抱きしめられる。
「今日は、かわいそうだから血を吸うのは許してあげる」
セレナは耳元でそう囁くと、頭を優しく撫でてくれた。
なぜセレナが血を吸わないのか不思議だった。
むしろ俺は準備万端だったので、肩透かしを食らった形になった。
非常に不満だ。
というか、誰がかわいそうなのか。
「……はあはあ、あのコウ様? じゃあ、私がお相手しましょうか? ルーナお嬢様の代わりにこの身を好きにしてくださって結構ですよ?」
なぜか興奮しているフィリスが近づいてくる。
「フィリス? じゃあって何?」
しかし、一瞬でセレナに氷漬けにされていた。
セレナの氷魔法は便利だった。
俺も覚えたい。
しばらくしてから、俺達は別荘の建築現場で間取りを確認していた。
昨日、基礎部分を作っていたので、今日はセレナの意見を聞きながら、部屋の割当を作っていくのだ。
そういえば、今日はカンナさんはどうしたのだろう。
昨日あんな事があったので、ちょっと会うのが楽しみだった。
「カンナ姉様は、気持ち悪いくらい上機嫌でしたよ? またカンナ姉様の番になったら来るので、コウ様によろしくと言っておりました」
ということは、次にカンナさんに会えるのは2日後か。
ちょっとさみしい。
「……まあ、あの子は気まぐれだから。というか、あなたあの子と何かあったの?」
セレナに疑いの目を向けられたので、ゆっくりと首を振っておいた。
ナニモナイヨ?
「そんなことより、間取りはどうする? 広さはこのくらいでいいのか?」
「なんか誤魔化された気がするのだけれど……。そうね、広さはこのくらいで我慢してあげるわ」
セレナは上機嫌に、家の基礎の中を歩き回り、間取りを指示していく。
「このあたりが、リビングでしょう。こっちは私の寝室ね。あとは、あなたに懐いているフィリスとカンナの部屋も作ってあげましょうか」
「……お前の寝室でかすぎないか? 3分の1くらいが寝室だぞ」
「あら、これくらい必要よ。あなたもいるのだから。狭い部屋じゃ嫌でしょう?」
「え、俺もいるの?」
「当たり前でしょう? 小娘がいなくなるんだったら、あなたはもう私の性奴隷も同じなのよ? かわいがってあげるから、広い寝室にしてね?」
いつの間にか奴隷階級に落とされていた。
「セ、セレナお嬢様、私も」
「はいはい、あなたは私の後でね」
どうしよう。
せっかく俺の楽しい引きこもりライフが再開されるはずだったのに、いきなり暗雲が立ち込めてきた。
このままでは、楽しいヒモライフになってしまう。
あれ、それはそれで楽しそうだ。
セレナはそんな俺の葛藤を無視して、部屋の間取りをガンガン決めていく。
一通り、部屋の割当が決まった所で、俺は改めて《石形成》で部屋ごとの基礎部分を作った。
「……器用なものね」
セレナが感心した声を上げている。
まあ、匠ですからね。
これで基礎部分は完成だ。
あとは、基礎の上に丸太を積み上げて、本格的なログハウス作りだ。
結構、順調な進捗だった。
というか、気づいてしまった。
「……なあ、風呂は?」
セレナは、きょとんとした表情を浮かべる。
これは絶対、忘れていた表情だ。
「あなたに任せるわ。お風呂の場所は決めなかったけれど、なんとかして頂戴」
さらりと無理難題を言う。
部屋がないのにどうしろと言うのか。
やっぱりセレナはドSだと思う。
だが、その言葉に匠のプライドに火がついた。
まったく、わがままなクライアントだぜっ。
その後、どこからともなくグラードさんがやってきて、ささっとテーブルと椅子を用意してくれて、サンドイッチ等の軽食やお茶を出してくれた。
グラードさんが有能すぎてちょっと引いた。
しばらくものを食べていなかった俺には、そのサンドイッチが物凄く美味しく感じたが、ちょっぴり、ルーナのウサギ肉が食べたいような気もした。
俺達はそのまま軽いピクニックみたいな気分を味わいながら、午後を過ごした。
夕方になって、セレナたちと別れると、俺は一人で家に帰った。
もうルーナは実家に帰った頃だろう。
荷物もそんなにないだろうし。
これからしばらくは、こうやって誰もいない家に帰るのだ。
「……あっ」
しかし、家の中には普通にルーナがいた。
いつか見た荷物は既に用意されていて、旅立つ準備は出来ているようだ。
それなのに、ルーナはしょぼんとベッドに腰掛けている。
「と、止めても無駄だぞ! 私はもう実家に帰るからな!」
そう言いながら、ルーナは勢い良く、ぷいっとそっぽを向く。
今は既に夕方で、どこからともなくカラスの鳴く声が聞こえる。
なぜ未だにルーナがこの家にいるのかわからない。
ケンカしたのは早朝で、今は夕方だ。
ルーナの荷物を見ると、荷造りなんてすぐに終わりそうだった。
……考えたくはないが、もしかして今のセリフを言いたくてずっと待っていたのだろうか。
「……なあ、止めるなら今だぞ?」
ルーナの声はさっきとは打って変わって弱々しかった。
「というか、もっと早く止めに来てほしかったんだけど」
ぼそぼそとルーナが何かを言っているが、聞こえないふりをした。
「……お前、まだいたのか? もう陽が暮れちゃったじゃないか。夜に旅立つのは危ないぞ?」
「ううっ」
俺が結構、本気で心配して言うと、ルーナの目にじわりと涙が浮かんでくる。
「な、なあ、今なら許してやるぞ? ちょっとだけ、頭をなでなでしてくれるだけで許すから、その……」
目にいっぱい涙を貯めながら、上目遣いでそんなことを言うルーナ。
その仕草は死ぬほど可愛かった。
思わず、気を許してしまいそうになる。
だが、俺は心を鬼にすると決めたのだ。
このままでは元の木阿弥だ。
「お前なあ、だから俺は――」
俺がそうやって口を開きかけた時だった。
家のすぐ側で、馬の嘶きと激しい馬蹄の音が聞こえた。
それも複数。
セレナの所のホラー馬車の嘶きとは違う。
何かが、家に近づいてくる。
何も遮るもののない広大な空だった。
雲がゆっくりと流れていく。
いつか新宿で見た空とは比べるべくもない。
しばらくそうやっていて、時間がどれくらい流れたのだろうか。
気づけば、太陽は天辺まで昇りつめていた。
昨日から何も食べていないお腹が鳴る。
もうお昼頃だろうか。
「ごきげんよう」
ずっと空を見上げていたせいで、誰かが近づいてくるのがわからなかったらしい。
突然、声をかけられた。
思わず、顔を戻すと、そこにはセレナが立っていた。
今日のセレナは相変わらずの黒ドレスに、黒いレースの日傘を差していた。
当たり前だが、今日も相変わらず美人だ。
セレナの背後には、かしこまったフィリスがいる。
今日はセレナと一緒に来たらしい。
「隣いいかしら?」
隣とは俺の座っている丸太の事だろうか。
「いいけど、汚れるぞ?」
セレナの高そうなドレスは黒いため、木くずにまみれたら目立ちそうだ。
「かまわないわ」
全く気にせず、丸太に腰掛けようとするセレナに、慌ててフィリスがハンカチを敷く。
セレナが横に座ると、ふわりといい匂いがした。
「……それで? あの娘とケンカしたの? 家にお邪魔したら、小娘が泣きついてきたのだけれど」
「……まあな。実家に帰るって言ってたぞ」
あれから結構経っているが、まだルーナは家にいるらしい。
「ふうん、あんまりビービー泣くものだから、うるさくて思わず凍らせてしまったわ」
物凄く不穏な事を言うセレナに咎めるような目を向けてしまう。
セレナは、俺にそんな目を向けられてもどこ吹く風で、日傘をくるくると回していた。
「そんなに、心配しなくても大丈夫よ。魔法で一時的に凍らせただけ。今頃、溶けているでしょう」
「べ、べつに心配してないし」
「……ふうん、ねえ、いいの?」
セレナはその赤い瞳で、俺を覗き込むようにしながら、俺に身を寄せてきた。
巨大な胸がむにゅっと腕に押し付けられる。
「あの娘がいないと、あなたは私のものになるしかないのだけれど」
「セ、セレナお嬢様!」
「…………」
セレナが言っているのは、吸血時の異常なムラムラ感の事だろうか。
今までは、ルーナを抱くことでなんとかなっていたが、ルーナがいなくなったら確かに我慢できそうにない。
間違いなくセレナを押し倒すだろう。
ただ、思うのだ。
「……それが何か問題なのか?」
セレナは誰がどう見ても、絶世の美女だ。
そんな美女を押し倒せるなんて、願ってもない。
「お前こそいいのか。俺は問答無用でお前を犯すぞ?」
「あら、怖い。……望むところよ?」
ニヤリと笑ったセレナが顔を近づけてくる。
こんな所で真っ昼間から始めるのだろうか。
まあいいけど。
ルーナは出て行くし。
むしろ楽しみだ。
セレナはルーナより巨乳だし。
ルーナより色っぽいし。
ルーナか。
そしてセレナは俺の首筋に顔をつけると、軽く口付けをした。
そして、そのまま軽く抱きしめられる。
「今日は、かわいそうだから血を吸うのは許してあげる」
セレナは耳元でそう囁くと、頭を優しく撫でてくれた。
なぜセレナが血を吸わないのか不思議だった。
むしろ俺は準備万端だったので、肩透かしを食らった形になった。
非常に不満だ。
というか、誰がかわいそうなのか。
「……はあはあ、あのコウ様? じゃあ、私がお相手しましょうか? ルーナお嬢様の代わりにこの身を好きにしてくださって結構ですよ?」
なぜか興奮しているフィリスが近づいてくる。
「フィリス? じゃあって何?」
しかし、一瞬でセレナに氷漬けにされていた。
セレナの氷魔法は便利だった。
俺も覚えたい。
しばらくしてから、俺達は別荘の建築現場で間取りを確認していた。
昨日、基礎部分を作っていたので、今日はセレナの意見を聞きながら、部屋の割当を作っていくのだ。
そういえば、今日はカンナさんはどうしたのだろう。
昨日あんな事があったので、ちょっと会うのが楽しみだった。
「カンナ姉様は、気持ち悪いくらい上機嫌でしたよ? またカンナ姉様の番になったら来るので、コウ様によろしくと言っておりました」
ということは、次にカンナさんに会えるのは2日後か。
ちょっとさみしい。
「……まあ、あの子は気まぐれだから。というか、あなたあの子と何かあったの?」
セレナに疑いの目を向けられたので、ゆっくりと首を振っておいた。
ナニモナイヨ?
「そんなことより、間取りはどうする? 広さはこのくらいでいいのか?」
「なんか誤魔化された気がするのだけれど……。そうね、広さはこのくらいで我慢してあげるわ」
セレナは上機嫌に、家の基礎の中を歩き回り、間取りを指示していく。
「このあたりが、リビングでしょう。こっちは私の寝室ね。あとは、あなたに懐いているフィリスとカンナの部屋も作ってあげましょうか」
「……お前の寝室でかすぎないか? 3分の1くらいが寝室だぞ」
「あら、これくらい必要よ。あなたもいるのだから。狭い部屋じゃ嫌でしょう?」
「え、俺もいるの?」
「当たり前でしょう? 小娘がいなくなるんだったら、あなたはもう私の性奴隷も同じなのよ? かわいがってあげるから、広い寝室にしてね?」
いつの間にか奴隷階級に落とされていた。
「セ、セレナお嬢様、私も」
「はいはい、あなたは私の後でね」
どうしよう。
せっかく俺の楽しい引きこもりライフが再開されるはずだったのに、いきなり暗雲が立ち込めてきた。
このままでは、楽しいヒモライフになってしまう。
あれ、それはそれで楽しそうだ。
セレナはそんな俺の葛藤を無視して、部屋の間取りをガンガン決めていく。
一通り、部屋の割当が決まった所で、俺は改めて《石形成》で部屋ごとの基礎部分を作った。
「……器用なものね」
セレナが感心した声を上げている。
まあ、匠ですからね。
これで基礎部分は完成だ。
あとは、基礎の上に丸太を積み上げて、本格的なログハウス作りだ。
結構、順調な進捗だった。
というか、気づいてしまった。
「……なあ、風呂は?」
セレナは、きょとんとした表情を浮かべる。
これは絶対、忘れていた表情だ。
「あなたに任せるわ。お風呂の場所は決めなかったけれど、なんとかして頂戴」
さらりと無理難題を言う。
部屋がないのにどうしろと言うのか。
やっぱりセレナはドSだと思う。
だが、その言葉に匠のプライドに火がついた。
まったく、わがままなクライアントだぜっ。
その後、どこからともなくグラードさんがやってきて、ささっとテーブルと椅子を用意してくれて、サンドイッチ等の軽食やお茶を出してくれた。
グラードさんが有能すぎてちょっと引いた。
しばらくものを食べていなかった俺には、そのサンドイッチが物凄く美味しく感じたが、ちょっぴり、ルーナのウサギ肉が食べたいような気もした。
俺達はそのまま軽いピクニックみたいな気分を味わいながら、午後を過ごした。
夕方になって、セレナたちと別れると、俺は一人で家に帰った。
もうルーナは実家に帰った頃だろう。
荷物もそんなにないだろうし。
これからしばらくは、こうやって誰もいない家に帰るのだ。
「……あっ」
しかし、家の中には普通にルーナがいた。
いつか見た荷物は既に用意されていて、旅立つ準備は出来ているようだ。
それなのに、ルーナはしょぼんとベッドに腰掛けている。
「と、止めても無駄だぞ! 私はもう実家に帰るからな!」
そう言いながら、ルーナは勢い良く、ぷいっとそっぽを向く。
今は既に夕方で、どこからともなくカラスの鳴く声が聞こえる。
なぜ未だにルーナがこの家にいるのかわからない。
ケンカしたのは早朝で、今は夕方だ。
ルーナの荷物を見ると、荷造りなんてすぐに終わりそうだった。
……考えたくはないが、もしかして今のセリフを言いたくてずっと待っていたのだろうか。
「……なあ、止めるなら今だぞ?」
ルーナの声はさっきとは打って変わって弱々しかった。
「というか、もっと早く止めに来てほしかったんだけど」
ぼそぼそとルーナが何かを言っているが、聞こえないふりをした。
「……お前、まだいたのか? もう陽が暮れちゃったじゃないか。夜に旅立つのは危ないぞ?」
「ううっ」
俺が結構、本気で心配して言うと、ルーナの目にじわりと涙が浮かんでくる。
「な、なあ、今なら許してやるぞ? ちょっとだけ、頭をなでなでしてくれるだけで許すから、その……」
目にいっぱい涙を貯めながら、上目遣いでそんなことを言うルーナ。
その仕草は死ぬほど可愛かった。
思わず、気を許してしまいそうになる。
だが、俺は心を鬼にすると決めたのだ。
このままでは元の木阿弥だ。
「お前なあ、だから俺は――」
俺がそうやって口を開きかけた時だった。
家のすぐ側で、馬の嘶きと激しい馬蹄の音が聞こえた。
それも複数。
セレナの所のホラー馬車の嘶きとは違う。
何かが、家に近づいてくる。
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