ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第38話 ログハウスを作る! ②

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 別荘を作るための丸太の生成は、かなり順調に進んだ。
 午後を過ぎた辺りで、全ての倒木を丸太にし終わったくらいだ。
 本当は、昨日のうちに終わる予定だったのだが……。
 昨日は、ルーナとフィリスがケンカしまくるせいで、全然進まなかった。
 でも、今日はすぐにカンナさんがフィリスを黙らせてくれる(物理的に)ので、静かなものだった。

 そういえば、丸太を作っているうちに、木工スキルがレベル2になって《下級木材生成》を覚えた。
 《下級木材生成》は丸太から板や角材等を生成できるスキルだった。
 作れる木材の厚さや長さ、形等は、込める魔力量によって調整が可能だ。
 床板や、屋根なんかを作る時に使ってみようと思う。

「あら、アサギリ様、手を擦りむいていらっしゃいますよ?」

 カンナさんに指摘されて、手を見てみると、確かに擦りむいていて、血が僅かに滲んでいる。

「ああ、さっき丸太を運ぶ時に擦りむいちゃったみたいです」

「大変、すぐに手当をしますね」

 カンナさんは俺の手に、自分の手を添える。
 そして、魔力を流し始めた。
 淡い緑色の光りが、カンナさんの手から発せられる。
 緑色の光から、感じる暖かさ。
 俺の手の擦過傷が、みるみる塞がっていく。

 おお、これはまさか。

「回復魔法です。吸血鬼には無用の長物ですが、一応使えるのですよ」

 そう言いながら、カンナさんは微笑む。
 なんという癒し系お姉さん。

「ありがとうございます」

 そう俺がお礼を言った時だった。

『エクストラスキル解放条件を達成しました。』
『解放条件:回復魔法を受ける。』
『解放スキル:魔法スキル 回復魔法』
『取得に必要なスキルポイントは1です。』

 ログが出力される。
 回復魔法が開放されたらしい。

 まあ、俺の美学に反するので取る気はないが。
 暗黒騎士を目指す俺には、回復魔法など無用だ。

 とはいえ、この前セレナ戦でHPがゼロになりかけたので、取っておいた方がいいような気もする。
 うーん、どうしようかなー。
 少し考えて、スキルポイントも結構余っているので、とってみることにした。

『スキルポイントを1ポイント消費しました。』
『回復魔法LV1を取得しました。』
『回復魔法LV1:《体力回復》を取得しました。』
『使用可能スキルポイントは5ポイントです。』

 《体力回復》とか言う魔法を覚えた。
 その名の通り、体力を回復するんだろうか。
 ふと、自分のHPを確認してみると、全快だった。
 これではかけてもしかたない。

 そんな時、俺の側でニコニコ楽しそうにしているルーナと目があった。
 今日は、フィリスに邪魔をされない上に、カンナさんがちょいちょいヨイショをするので、ルーナはすこぶる上機嫌だ。

「どうしたんだ? 寂しくなっちゃったのか? 抱っこしてあげるぞ?」

 ルーナは嬉しそうに両手を広げる。
 こいつは一体どれだけ俺が寂しがり屋だと思っているのか。
 孤高を愛する俺に寂しいという感情はないのである。
 ……まあ、せっかく抱っこしてくれると言っているので、抱っこされてみるが。

「あはは、よしよし」

 ルーナに抱きつくと、背中をポンポン叩いてくれた。
 相変わらず、ルーナの抱き心地はいい。
 いい匂いがするし。

 ……はて、俺は何をしようとしていたんだっけ。

 普段なら、フィリスが舌打ちとかしてルーナとイチャつくのを阻止されるのだが、フィリスは先程、カンナさんにレバーを強打されて、気を失ったままだ。
 ちょっと心配だ。

「……じゅるり」

 その時、カンナさんから何かをすするような音が聞こえた。
 怪訝に思って、カンナさんに目をやると、上品な笑みを浮かべているだけで、別段変わったことはなかった。
 なんだろうとは思ったが、当初の目的を思い出した。

「なあ、そういえばさっき、回復魔法を覚えてみたんだけど、ちょっとお前に使ってみていいか?」

「……また唐突にすごい魔法を覚えたな。回復魔法は結構貴重な魔法なんだぞ? 私に使うのはかまわないけど」

「え、回復魔法を、今、覚えた?」

 ちょっとルーナは引いていたし、カンナさんはめちゃくちゃ訝しんだ表情を浮かべていたが気にしない。
 とりあえず、ルーナに《体力回復》を発動してみた。

 その時、頭がズキンと痛む。

「うぐっ!」

 思わず頭を抱えて、うずくまってしまう。

「え? ど、どうしたんだ!?」

「アサギリ様!?」

 ルーナとカンナさんが心配してくれるが、俺にも何がなんだかわからない。
 突然、頭が割れそうになったのだ。
 痛かったのは一瞬だけだったが。

「いや、回復魔法を使おうとしたら、急に頭が割れそうになって……」

 ルーナの手を借りて、立ち上がる。
 なんだったんだろう、今のは。

「……きっとそれは魔法の適性の問題ではないかと思われます」

 カンナさんが人差し指を立てて説明してくれる。

「魔法の適性ですか?」

「はい。魔法にも適性があり、適性のない魔法を使おうとすると、時として痛みを感じる場合もあるそうです。普通は、適性のない魔法など、そもそも覚えられませんが……。アサギリ様は、回復魔法の適性がないのではないでしょうか? 私も火魔法や風魔法などは扱えませんし、セレナお嬢様も回復魔法や土魔法は苦手だとおっしゃっていました。それと同じではないかと」

「……いや、そもそも普通はそんなにたくさんの魔法を覚えられないぞ」

「なるほど」

 つまり、俺には回復魔法が合わないと言うことだろうか。
 ふっ、どうやら俺は生まれついての暗黒騎士ってことらしい。
 ちょっとかっこいい。
 ……でも、スキルポイント損した。
 まあ、回復魔法は封印かな。

「それにしても、驚きました。まさか私が回復魔法を使うのを見て、一瞬で覚えたのですか?」

「……まあ、そうなりますね」

 正確には、カンナさんの回復魔法でスキルが開放されたのだが。
 とにかく回復魔法を覚えられたのはカンナさんのお陰だ。

「凄まじいものですね。セレナお嬢様から伺ってはいましたが……」

「えへへ、凄いだろう」

 なぜかルーナが誇らしげな顔で、俺の腕を抱く。

「はい、さすがルーナお嬢様の旦那様です」

 そして、すかさずカンナさんのヨイショが入る。
 ルーナなんかを持ち上げて、一体カンナさんは何をしたいのだろう。
 少し気になった。



 しばらく休憩してから、俺はログハウスの基礎部分を作ることにした。
 ログハウスの土台となる部分である。
 ログハウスといっても、さすがに全部丸太で作るのはどうかと思ったので、土台は《石形成》で作ろうと思う。
 《石形成》で土壁ならぬ石壁を作れば、まるでコンクリートで固めたよううな感じになるのではないかと思ったのだ。

 そんなわけで、先日、基礎工事として小石で埋めたばかりの場所に両手をついて、《石成形》のイメージを固める。
 この土台作りで、家のだいたいの大きさが決まる。
 基礎工事は100メートル四方くらいの土地に対して行ったが、改めて見てみるといくら屋敷くらいの大きさと言っても、さすがに大きすぎる気がした。
 ルーナの実家が1キロくらいあると言うので、感覚が麻痺したのだ。
 なので、土台としては一回りくらい小さくしてみようと思う。
 だいたい80メートル四方くらいだろうか。
 イメージとしてはこんなところか。

 俺は込める魔力を調節すると、《石成形》を発動させた。

 イメージに沿うように、地面についた両手から魔力がほとばしる。

 魔力は地面に直線を描いていく。
 直線はイメージ通りの80メートル四方の四角形を形成し、そして、線に沿うようにバキバキと石壁が生成されていった。
 高さはだいたい、俺の膝下くらいだ。

「すごい、本当に土魔法で家を作るのですね」

 あっという間に家の土台を作った俺を、カンナさんはポカンとした表情で見つめている。
 まあ、匠ですからね。

「ああ、コウ様、素敵です」

 いつの間にか、フィリスも復活していた。
 今日何度かカンナさんに気絶させられている割には元気で安心した。

 あとは、セレナと相談しながら部屋の間取りを決めて、今作った土台の内側に、間取りに沿うように更に石壁を作ろうと思う。
 ちょうど、明日はセレナが俺の血を吸いにやってくる日だ。
 俺は最後に、作った土台に何箇所か風通しを良くするための通気口を作った。

「さて、今日の作業はこのくらいですかね。もう暗くなってきましたし」

「……そうですか。あまり、お役に立てなかった気がします」

 カンナさんは残念そうな表情を浮かべている。

「いえ、丸太を綺麗に並べて頂けたので、すごく助かりましたよ」

 今日は、フィリスがほとんど気絶していたので、カンナさんがほぼ丸太を運んでくれたのだ。
 カンナさんは、フィリスの姉というだけあって、丸太を軽々持ち上げていた。
 そういえば、フィリスとカンナさんって全然似ていないけど、血は繋がっていないのだろうか。

「……私は、本当にお役に立てませんでした。申し訳ありません」

 フィリスがしゅんと項垂れる。
 まあ、ほとんど気絶していたからな。

「いえ、フィリスがいてくれるだけで元気が出ましたよ」

 なのでとりあえず励ましておいた。

「はう、コウ様……」

 たったそれだけなのに、フィリスが興奮し始めたので、少し距離をとった。
 催淫効果っていつ切れるんだろうか。
 このままでは、フィリスの将来が心配だ。
 フィリスは300歳らしいので、物凄く歳上なのだが。

「……それでは、アサギリ様、ルーナお嬢様、あまりお役に立てなかったので、厚かましいとは思うのですが、お約束の血を頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、そうだったな。ちょっと待ってくれ」

 ルーナはそう言いながら、俺を後ろから抱きしめるようにする。
 セレナに血を吸われる時にやっている俺がセレナに襲いかからないようにするための処置だ。

「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。フィリスに血を吸われた時と同じくらいですから」

 俺達を安心させるように、カンナさんが優しく笑う。
 確かにフィリスの時は、あんまり興奮しなかった。
 ルーナもそれをわかっているのか、俺から少し離れる。

「……ただ、その、申し上げにくいのですが、年老いていると言っても、私も女でございます。さすがに、外でするのは、少し……」

 カンナさんはそう言いながら目を伏せる。
 血を吸うのに、女とか外とか関係あるのだろうか。

「そ、そうか。じゃあ、うちに帰ってからにするか?」

「いえ、ルーナお嬢様、その、大変申し上げにくいのですが、私は自分の部屋でないと落ち着いて血を頂くことが出来ないのです。少しだけ、旦那様をお借りするわけにはいかないでしょうか?」

 なんか雲行きが怪しくなってきたが、自分の部屋じゃないと落ち着かないというのは物凄くわかる。
 カンナさんは引きこもりの才能がある。

「……お前の部屋? まあ、今日は手伝って貰えたし。私も一緒に」

「いえ、ルーナお嬢様にまでご足労頂くわけにはいきません。それに、なんと申しましょうか、私はセレナお嬢様やフィリスと違って、他の方に血を頂いている姿を見られたくないのです。その、酷く醜悪な姿ですので……」

 カンナさんは悲しそうに俯いた。
 昨日、フィリスも血を吸う時に涙を浮かべていた。
 吸血鬼って血を吸う事に、後ろめたさを覚えるのだろうか。
 吸血鬼じゃない俺には想像できない感情だ。
 なので、カンナさんの部屋に行ってもいいかなと思い始めていた。
 カンナさんは美人だし。
 誰かの家に行くなんて、引きこもり的には絶対イヤだけど、カンナさんの部屋って一度は行ったことのあるセレナの城だろう。

「え、でも、こいつ一人でなんて、カンナの事は信頼しているけど……」

 途端にうろたえ始めて、ルーナは俺を見つめる。
 俺はそんなルーナを安心させるように、頭にポンと手をおいた。
 というか、今日一日カンナさんにヨイショされ続けて、ルーナはあっさりカンナさんを信頼したらしい。
 そんなに単純でいいのだろうか。

「大丈夫だ。すぐに帰ってくるから」

「でも、でも、お前、私が側にいなくても大丈夫か? ちょっと離れただけでも、すぐに寂しくなっちゃうだろう?」

「……本当にお前は、俺をなんだと思っているんだ。俺はお前と同い年だぞ?」

 ルーナと同い年というのも、全然説得力がない気がした。
 すぐに泣くし。

「そうだけど。え、でも、ええと、あ、ほら、そろそろご飯だし、お腹すいてきただろう?」

「まだ、大丈夫だって」

「ええ!? でも、だって……」

 だんだんルーナがジタバタし始める。
 子供か。
 とりあえず、俺はルーナを落ち着かせるように抱きしめた。

「すぐに帰ってくるから。いつも血を吸うのなんて一瞬で終わるだろう?」

「そうだけど……」

 ルーナはまだ不安そうだ。

「ご心労をおかけして、申し訳ありません。ルーナお嬢様。でも、ご安心ください。馬車も用意しておりますので、本当にすぐですよ」

 カンナさんがそう言うと、馬の嘶く声が聞こえた。
 見れば、いつもの首なしホラー馬車がすぐそばで待機していた。
 いつの間に……。
 というか、準備良すぎだろう。

「……すぐに帰ってくるんだぞ? 浮気とかしちゃダメだからな?」

「わかってる」

「…………さみしい。ふえ」

 ルーナはポロポロと涙を流した。
 結局、それが本音らしい。
 というか、こいつ本当に32歳なのだろうか。
 多分、長くかかっても1時間くらいのはずなのに。

「それでは、少々旦那様をお借りします、ルーナお嬢様。さあ、アサギリ様」

 カンナさんに促されて、馬車に乗り込む。
 ルーナは泣きべそをかきながら、俺達を見送っていた。

 馬車に乗り込む際、フィリスが駆けつけて来て、こそっと耳打ちしてきた。

「……コウ様、カンナ姉様には気をつけてください。今は猫を被っていますが、カンナ姉様は変態です。若くて綺麗な男の子が大好きなのです。いわゆる、ショタ……」

 その時、突然フィリスが消えた。
 バキッという嫌な音がした。
 どこか遠くでべしゃっと何かが地面に落ちる音が聞こえる。

「あら、フィリスったら帰ると言っているのに、どこへ行ったのかしら? フィリス、私たちは先に帰るから、お前は歩いて来なさいね」

 どこへ行ったのかしらとか言いながら、カンナさんは先程、音がした方向に向かって声をかけている。
 たぶん、アレはフィリスだったのだろう。
 かわいそうに。

 というか、カンナさんが若い男が好きだとか言っていたが、俺はもう若くない。
 フィリスが何を心配しているのかよくわからない。

 馬車が動き出してしばらくたっても、ルーナはしょんぼり立ち尽くして俺達をずっと見送っていた。
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