ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第37話 メイド次女見参

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 次の日、俺とルーナが家を出ると、しょんぼりしたフィリスと、以前セレナの城に泊まった時にお世話をしてくれたカンナさんというメイドさんが立っていた。 

 なぜかメイドさんが増えている。

 カンナさんは艷やかな黒髪を丁寧に編み込んだ背の高い美人さんだ。
 なんというか口を開かないフィリスと同じようにクール系というか、凛とした感じがする。
 外見年齢は20代前半といった所だろうか。

「おはようございます。アサギリ様、ルーナお嬢様。フィリスと同じく、セレナお嬢様に仕えるカンナと申します」

 そう言ってカンナさんは深いお辞儀をする。

「おはようございます」

 思わず俺も腰を折って、お辞儀を返した。
 ルーナは小さく頷いて、おはようと簡単な挨拶をした。
 ちょっと慣れている感じがしてかっこよかった。

「本日は、私もアサギリ様のお手伝いをさせて頂きます」

「はあ、ありがとうございます……」

 別にフィリスだけで十分、手は足りているのに、突然どうしたのだろう。
 俺はしょんぼりして黙っているフィリスにこっそり声をかける。

「あ、コウ様……。おはようございます。今日もかっこいいです」

 フィリスは今初めて、俺に気づいたように花が咲いたような笑みを浮かべる。

「……おはようございます。かっこよくはないと思いますが……。それで、なんで急にカンナさんがいるんですか?」

 俺がそういうと、フィリスは花が萎れるように俯いて、真顔になっていく。

「いえ、カンナ姉様は、その……」

「おい、メイドと距離が近いぞ」

 カンナに聞こえないように、フィリスと顔を寄せ合って内緒話をしていると、むくれたルーナが割り込んでくる。

「ルーナお嬢様……。今日も発情お疲れ様です」

「な、なんだと!?」

 さっそくルーナとフィリスは険悪な雰囲気になる。
 ああ、今日も一日中ケンカをするのだろうか。

「アサギリ様、そろそろ建築現場に向かいませんか?」

「あ、はい」

 ちょうどいいタイミングでカンナさんに声を掛けられたので、俺達は歩きだす。
 歩きながら、フィリスは俺の耳に顔を寄せてこそこそと事の顛末を説明してくれた。
 フィリスの吐息が耳にかかって、ちょっとくすぐったい。

「……昨日、その、コウ様に血を頂いたのが嬉しかったので、長女のカレリア姉様にそのことを話していたのですが、近くでカンナ姉様も聞いていて、はあはあ」

はあはあってなんだ。

「……それで、カンナ姉様が私にも血を飲ませろって強引に、はあはあ、あの、コウ様?」

「どうしたんですか? 具合が悪そうですけど」

 フィリスの呼吸が荒い。
 熱もあるのか、近づいたフィリスから熱気を感じる。

「いえ、あの、コウ様の横顔を見ていたら、その、催してしまったので、申し訳ないですけど、お顔をペロペロさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 なんの脈絡もなさすぎて、理解が追いつかない。
 フィリスは何を言っているんだ。

「いいわけないだろ! この変態メイド!」

 ずっと聞き耳を立てていたルーナがフィリスを突き飛ばす。

「あう!」

 フィリスは体制を崩しながらも、なんとか持ちこたえて、ルーナをギロリと睨んだ。

「……攻撃しましたね。コウ様に止められていたので、手は出しませんでしたが、ルーナお嬢様がその気なら、私も容赦なく手を出しますよ?」

 バキボキと拳を鳴らすフィリス。

「覚悟してくださいね? そのムカつく顔をボコボコにしてあげます。所詮顔だけのルーナお嬢様が、ボコボコの顔になったらコウ様がなんと――ぶへっ!」

 邪悪な顔で極悪非道な事を言っていたフィリスの頭に、突然拳骨が落とされる。
 骨から響くような、物凄い音がした。

「いい加減にしなさい。この愚妹」

 拳骨を落としたのは、カンナさんだった。

「アサギリ様、ルーナお嬢様、愚妹が申し訳ございませんでした」

 カンナさんが丁寧に頭を下げてくれる。

「ああ、いえ、気にしてませんから。なあ?」

 突然の体罰にちょっと引きながら、ルーナに同意を求める。
 すると、ルーナからの反応はなかった。いや。

「……ぐすっ、顔だけって、言った、ひっく」

 今日もルーナは泣いていた。
 なんかこの所、毎日泣いている気がする。
 主にフィリスに泣かされているのだが。

「……本当に申し訳ございませんでした、ルーナお嬢様。フィリスはお嬢様に嫉妬しているのです。お嬢様があまりにお美しいものですから」

 カンナさんがルーナに駆け寄って、ハンカチで涙を拭いてやっている。
 ルーナはカンナさんの言葉に目を丸くすると、再びポロポロと涙を流し始めた。

「あ、ありがとう」

「おい、どうした?」

「……同性に褒めてもらったの、久しぶりだったから」

 物凄く悲しい理由だった。

「ああ、わかります。ルーナお嬢様って男にモテても、女からは蛇蝎の如く嫌われそうな雰囲気ありますよね」

 頭を擦りながら、フィリスが更に追い打ちをかけにやってくる。
 友達いないんだろうか、ルーナって。
 俺もいないけど。

「フィリス!」

 カンナさんに叱られると、フィリスは俺の背に隠れるようにして再び、耳元でこそこそと話し出す。

「……カンナ姉様ってすぐに手が出るんです。物凄く乱暴なんですよ? ちょっと強いからっていつも威張り散らすんですよ。はあはあ」

 言いながら、フィリスは物凄く身体を押し付けてくる。
 薄い胸を俺の背中にこすりつけている。

「はあはあ、あの、コウ様ってすごくいい匂いがしますね。あの、ちょっとだけ、私と舌を絡め合う遊びをしませんか? ちょっとだけ、さきっぽだけですから」

 あ、あの、フィリスさん?

「フィリス!」

 完全にイッていたフィリスの首を掴むと、カンナさんはメキメキ音を立てて締め上げていく。

「……重ね重ね本当に申し訳ございません。アサギリ様」

 カンナさんはフィリスの首を締め上げながら、俺に頭を下げた。

「い、いえ別にいいんですけど、フィリスはどうしたんですか? 普段と少し様子が違うような気がするんですけど」

「ああ、この子、昨日アサギリ様の血を頂いて、催淫効果から抜け出せていないんです。吸血行為は、吸う方も、吸われる方も、性的な興奮を覚えることが多いですから」

「吸う方も興奮するんですか? セレナはそんな風にみえないですけど」

「セレナお嬢様や、私のような成熟した吸血鬼だと慣れたもので、そこまで興奮することはないのですよ」

 そう言いながら、カンナさんは笑顔を見せるが、そのすぐ横でフィリスが口から泡を吹きながらカンナさんの腕をぱんぱん叩いている。
 それでも、カンナさんはフィリスをメキメキと締め上げ続ける。

「……あの、フィリスそろそろ離してあげた方がいいんじゃ」

 しかし、時既に遅く、フィリスはぐったりとしていた。
 カンナさんは、そんなフィリスをぽいっと容赦なく投げ捨てると、俺に向き直った。

「……アサギリ様、ルーナお嬢様、折り入ってお話があります。聞いて頂けますか?」

「……はい」

 フィリスは大丈夫なんだろうか。
 ぴくぴくと痙攣しているが。

「ぐす、なんだ?」

 カンナさんに褒められた時の余韻を噛みしめるようにじーんとしていたルーナは、まだちょっと泣きべそをかいていた。
 かなり嬉しかったらしい。

「大変心苦しい話なのですが、私も吸血鬼の端くれでございます。その、私にもアサギリ様の血を分けていただくことはできないでしょうか? もちろん、無理にとは申しませんが、その、まだ1日余っていると伺ったものですから、もったいないなと思いまして」

 余っているってなんだ。
 なぜ俺が毎日血を提供しなきゃいけないのか。
 そこはかとなくブラックな臭いがする。

「うーん、そうは言ってもな」

 さすがにルーナが嫌そうな顔をする。
 すると、すかさずカンナさんはルーナの手を取ると、両手で握った。

「ルーナお嬢様。お嬢様のお気持ちは十分承知しております。奥様であるルーナお嬢様からしたら、旦那様の血を頂くなんて、とても恐れ多いことです。それでも、私はコレ(フィリス)とは違って、400年も生きた年老いた吸血鬼です。旦那様に色目を使うような事はするはずがありません。どうか老人への慈悲だと思ってぜひに……!」

 どう見ても老人には見えないカンナさんは、ルーナに熱く語りかける。

「奥様……旦那様……」

 ルーナは噛みしめるように、その単語だけを繰り返した。
 なんか嫌な予感がする。

「……お前は、セレナやフィリスのようにこいつに色仕掛けをかけたりしないんだな?」

 ルーナはカンナさんに疑いの目を向ける。
 すると、カンナさんはきょとんとした顔をした。

「まさか! アサギリ様がルーナお嬢様にメロメロなのは一目瞭然じゃないですか。本当に羨ましいです」

 カンナさんは優雅な笑みを浮かべて、そんな歯が浮くセリフを言う。
 ちょっと胡散臭いんじゃないだろうか。
 なぜなら俺はルーナにメロメロではないからだ。

「……メロメロ。えへへ」

 しかし、ルーナには効果てきめんなようで、ルーナは嬉しそうに俺の肩に頭を乗せてくる。

「仕方ないな。空いている一日なら、ちょっとだけ私の夫の血を分けてあげてもいいぞ。お前が信用できるやつだっていうのも、話してみてわかったしな」

 ルーナはそう言いながら、俺の手をぎゅっと握った。
 ダメだ、完全に調子に乗っている。
 俺のことを夫とか言い出した。
 まんまとカンナさんの口車に乗っかってしまった。
 こいつにテレビショッピングとかを見せるのは絶対にやめようと思った。

「ありがとうございます。ルーナお嬢様。代わりと言ってはなんですが、今日は誠心誠意、別荘作りのお手伝いをさせていただきます」

 こうして、俺はセレナ、フィリス、カンナさんの順番で毎日ローテションで血を吸われることになった。
 いや、さすがにダメだろう。
 というか、ルーナはチョロすぎる。

「ちょっと待って下さい。俺はまだ良いとは言って――」

「アサギリ様……!?」

 拒否しようとしたら、突然、カンナさんがショックを受けた顔をした。
 そして、カンナさんはその豊かな胸に手を当てる。
 というか、カンナさんは結構な巨乳だった。
 なんというか全体的に女性らしい体つきをしている。

「もしかして、私の事、お嫌いなんですか?」

 そう言いながら、カンナさんは目を潤ませる。
 なんだろう、3割増しで美人に見える。

「……いえ、その、嫌いじゃないですけど」

「じゃあ、問題ないですよね」

 そう言って、カンナさんは急にコロッと変わって、艶美な笑顔を見せた。
 そんな笑顔を見ていると、まあいいか血くらいと思った。
 ……俺のほうがルーナよりよっぽどチョロかった。
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