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第二章 吸血鬼編
第36話 みんな幸せ
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その日の夜。
俺とルーナはいつものように風呂に入っていた。
そういえば、うちの風呂を拡張してみた。
最初は1人で入る用に作っていたので、ルーナと入る時には、いつもルーナを抱え込むようにして入っていた。
別にそれでも良かったのだ。
ルーナのすべすべの肌を堪能できるので。
ただ、夜はともかく、朝風呂に入る時に、毎回ムラムラしてしまって大変だった。
そこで、2人でゆったり入れるくらいの大きさに拡張したのだ。
「べつに今までの大きさでいいのに……」
なぜかルーナは不満気味だった。
ついでに、入り口のちかくに屋根付きの脱衣所も作ってみた。
ただ屋根をつけただけだが。
うちの風呂はもともと天井なしの半露天風呂だったので、脱衣所くらい屋根をつけようと思ったのだ。
我が家は順調に進化しているのである。
「……そういえば、お前、今日人間の前で魔法使っただろう?」
隣でお湯に浸かるルーナが突然そんな事を言い出す。
ルーナは最近風呂に慣れてきて、湯船に入る際は長い金髪を結い纏めて、お湯に浸からないようにしている。
うなじが見えて色っぽいので好きだ。
「あー、使ったかもな」
フィリスをシスターさんから守ろうとして、土壁を生成した。
しかも、オーバーロードさせた奴を。
そういえば、ルーナに使っちゃダメって言われていた。
というか、あのシスターさん達は、この世界に来て初めて会った人間だった。
どうせなら、もっとまともな人に会いたかった。
シスターさんはちょっと美人だったからいいけど。
「もう! 戦争につれていかれちゃったらどうするんだ」
「うーん、戦闘中だったからな」
「剣で戦えばいいじゃないか」
「それはそうだけど、俺の場合、剣も魔法で作るからな」
「予め作って腰に挿しておけばいいじゃないか。……でも、剣帯がないか。うーん、私のをあげてもいいんだけど、レイピア用だし……。やっぱり、そろそろ買い出しにいった方が……」
ルーナはぶつぶつ言いながら、何かを考え込んでいる。
「そういえば、今日シスターさん達にさ」
俺はふと疑問に思った事を口にする。
「うん」
「アンデッドを知らないかって言われた時、お前あっさりセレナを庇ったけど、ちょっと意外だった。てっきり、一緒に討伐しようとするかと思った」
普通に考えて吸血鬼の味方をするより、人間の味方をすると思っていた。
そもそも、セレナとは敵対していたし。
今は俺が血を提供するのを条件に見逃してもらっているにすぎない。
「うーん、あの程度の退魔師(エクソシスト)であいつを倒せると思わなかったし、それに……」
ルーナはちょっと恥ずかしそうに目をそらす。
「……あいつの事そんなに嫌いじゃないんだ。ちょっとお祖母様に似てるし」
「そうか」
結構セレナにいじめられている気がするが、マゾなんだろうか。
それとも、お祖母様にもいじめられていたのだろうか。
ちょっとルーナが哀れになったので肩を抱き寄せる。
「あっ……」
ルーナは抵抗する事なく、すんなりと俺の腕に収まる。
お互いに裸なので、妙にムラムラしてくる。
風呂の中でこうなるのも、いつもの事だ。
お湯にあてられて、僅かに桜色に染まる肌が艶めかしい。
ルーナは、ゆっくりと目を閉じる。
俺はそんなルーナの唇に吸い寄せられるように。
ヒヒーン!
突然、外から馬の嘶きが聞こえる。
「…………」
「…………」
雰囲気がぶち壊されるどころの騒ぎではない。
馬に邪魔されるって……。
というか、馬?
「……あいつだ」
ルーナの顔が一気に青ざめる。
さっきは好きだとか言ってたのに。
数分後、俺とルーナは立たされていた。
風呂から上がって、さっさと身支度を整えてから、外に出ると、そこには不機嫌そうな顔をしたセレナと、バツの悪そうなフィリスがいた。
セレナは家に入るなり、いきなり馬鹿でかい魔力を放出して、俺達を散々威圧した。
「……で、お前達はなんのケンカをしているの? フィリス、小娘、答えなさい」
セレナは椅子に座って、行儀悪く足を組む。
「ルーナお嬢様がコウ様にしつこく迫って、私達の恋路を邪魔するんです」
「違う。そこのメイドが勝手に勘違いして盛り上がっただけだ。こいつは初めから私に夢中だ」
どうしよう
胃が痛い。
ルーナとフィリスがそれぞれ言い訳を始めると、セレナは小さくため息をついた。
「……はあ、フィリス。よく聞きなさい? このくらいの年の男の子はね、女の身体の事しか頭にないの。いい? 身持ちの固いお前より、簡単に股を開くそこの小娘の方が良いって言うに決まっているでしょう?」
セレナが物凄く失礼な事を言っている。
30を超えた分別のある大人である俺になんて言い草だ。
「か、簡単に股なんて開いていないぞ!」
「コウ様が望むならなんでもしますけど……」
言いながらフィリスはこっちをチラチラ見ながら、股をモジモジさせている。
「……ああ、めんどくさい。もういいわよ、お前たち2人で、先に子供を孕んだ方が勝ちってことでいいじゃない?」
「いいわけないだろう!」
「…………子供」
セレナの投げやりな提案に、ルーナはキレて、フィリスは照れている。
「うるさい小娘ね。いいじゃないの、わかりやすくて。お前とフィリスと私で誰が一番先にこの子の子供を妊娠できるかで勝負しましょう」
「なんであなたも参戦しているんだ!?」
そんな素敵な勝負でいいなら、俺は大歓迎だ。
責任を取る気はないが。
というよりも。
「なあ、吸血鬼って子供産めるのか?」
「……意外と冷静な事を聞いてくるのね。もっと動揺するかと思ったのに、つまらないわ」
セレナは俺に残念そうな顔をする。
「ちなみに、吸血鬼は身体の作りは人間と同じだけど、子供を生むことは出来ないわ。子供を作るための行為はできるけどね。だからさっきのは冗談よ」
え、吸血鬼最高じゃん。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。フィリス、お前はこの子とどうなりたいの? この小娘みたいに子作りをしたいの?」
「え、いえ、そんな、私は、ただ……」
フィリスは俺をチラチラ見ながら、スカートの裾をギュッと摘む。
「フィリス。自分の気持ちに正直になりなさい」
セレナに言われて、フィリスは思い切ったように口を開く。
「私は!」
そして、フィリスは諦めたように、弱々しく笑った。
「……私は、コウ様の血が、飲みたいです」
化物のように血をすする姿を見られたくないと言っていたフィリスの言葉が思い出される。
フィリスの目には涙が浮かんでいた。
こんな可愛らしいフィリスを化物だなんて思うはずないのに。
というか、むしろ俺は子作り推奨だったのに。
「……そう。よく言えたわね、フィリス。吸血鬼として、とても正しい答えだわ」
セレナが、優しくフィリスの頭を撫でる。
「それで、小娘。どうなの? これくらい妥協できると思うのだけど」
「え、血を吸うって、あなたがやっているみたいにか?」
「そうよ。私が3日に1回の約束だから、空いている2日のどちらかでフィリスにも血を吸わせてあげて欲しいのだけれど。今日とか」
「……うん。仕方ないな。血を吸うくらいだったらいいぞ」
なんか無理やり難しい顔をしているが、なぜかルーナは嬉しそうだった。
「お前、目が笑っているわよ? 本当にエロい小娘ね」
「う、うるさい!」
なんか話がまとまっていくので、よかったと思うのだが。
ただ、なぜ誰も俺の意見を聞いてくれないのか。
血を吸われるの俺なんだけどな。
「じゃあ、フィリス。早速、吸わせてもらったら?」
フィリスはモジモジしながら、俺を見つめている。
まだ気にしているのだろうか。
「フィリス。さっきも言いましたけど、フィリスが何をしたって化物だなんて思いませんよ?」
「……本当ですか? コウ様」
「はい。俺の血で良ければいくらでもどうぞ」
言いながら、俺は首筋をフィリスに見せつけるように差し出す。
血を吸われると、HPが僅かに減るがしばらくすると回復するので、たいしたダメージはない。
俺の首筋を見たフィリスは、興奮した顔つきで、喉をごくりと鳴らした。
「……頂きます」
そして、フィリスの小さな口が俺の首に吸い込まれていく。
かぷり。
僅かな痛みの後に、じんわりとした快感が広がっていく。
セレナの時ほどの強烈な快感ではない。
ほんわかとフィリスへの愛おしさがこみ上げてくる。
そんな感じだった。
フィリスは俺の血を吸いながら、ぴくんと僅かに身を震わせた。
そして、腰が砕けたように倒れそうになるので、慌てて抱き寄せる。
フィリスの体温は、びっくりするくらい熱かった。
「……おいしい。こんなのはじめて」
フィリスは、俺の首筋から口を離すと、とろんとした顔つきをしていた。
やや焦点の合っていない、ぼんやりとした目で俺を見つめる。
「……はあはあ、コウ様、だいすきです」
そして、フィリスの小さな唇が、今度は俺の唇に吸い付こうとして――。
「はい、そこまで! これ以上は許可してないぞ」
ルーナに止められていた。
腰が砕けたようになっているフィリスは、あっさりとルーナに押しのけられる。
よろよろしながらフィリスはセレナにもたれかかった。
セレナは、そんなフィリスを優しく抱きかかえた。
「良かったわね、フィリス」
「……はい。セレナお嬢様」
そうして、セレナとフィリスは帰っていった。
去り際に。
「ルーナお嬢様」
フィリスが不意にルーナを呼んだ。
「なんだ?」
「……ありがとうございました」
「……うん」
ルーナとフィリスがそんなやり取りをしていた。
というか、こいつらなんで俺の血の所有権がルーナにあるみたいな素振りを見せるんだろうか。
そしてルーナと二人きりになる。
「さあ、もう我慢しなくていいぞ」
ルーナはなぜかゴクリと生唾を飲み込んで、頬を上気させている。
「いや、今日はセレナの時ほどやばくなってないから」
俺はさらっとそういうと、とたんにルーナはしょんぼりする。
「そうか……」
俺はそんなルーナを押し倒した。
「だから、今日は普通に」
「普通にって……うん。いつものも好きだぞ」
そうして、俺達はいつもどおりの夜を過ごした。
それにしても、今回は良かった。
結局、フィリスとも上手くやっていけそうだし、浮気とまではならなかったのでルーナは泣かなかったし。
全部うまく行った気がする。
フィリスがセレナに泣きついて、結果的には良かったのだろうか。
セレナさまさまだ。
この時、俺はそんな呑気な事を考えていた。
俺とルーナはいつものように風呂に入っていた。
そういえば、うちの風呂を拡張してみた。
最初は1人で入る用に作っていたので、ルーナと入る時には、いつもルーナを抱え込むようにして入っていた。
別にそれでも良かったのだ。
ルーナのすべすべの肌を堪能できるので。
ただ、夜はともかく、朝風呂に入る時に、毎回ムラムラしてしまって大変だった。
そこで、2人でゆったり入れるくらいの大きさに拡張したのだ。
「べつに今までの大きさでいいのに……」
なぜかルーナは不満気味だった。
ついでに、入り口のちかくに屋根付きの脱衣所も作ってみた。
ただ屋根をつけただけだが。
うちの風呂はもともと天井なしの半露天風呂だったので、脱衣所くらい屋根をつけようと思ったのだ。
我が家は順調に進化しているのである。
「……そういえば、お前、今日人間の前で魔法使っただろう?」
隣でお湯に浸かるルーナが突然そんな事を言い出す。
ルーナは最近風呂に慣れてきて、湯船に入る際は長い金髪を結い纏めて、お湯に浸からないようにしている。
うなじが見えて色っぽいので好きだ。
「あー、使ったかもな」
フィリスをシスターさんから守ろうとして、土壁を生成した。
しかも、オーバーロードさせた奴を。
そういえば、ルーナに使っちゃダメって言われていた。
というか、あのシスターさん達は、この世界に来て初めて会った人間だった。
どうせなら、もっとまともな人に会いたかった。
シスターさんはちょっと美人だったからいいけど。
「もう! 戦争につれていかれちゃったらどうするんだ」
「うーん、戦闘中だったからな」
「剣で戦えばいいじゃないか」
「それはそうだけど、俺の場合、剣も魔法で作るからな」
「予め作って腰に挿しておけばいいじゃないか。……でも、剣帯がないか。うーん、私のをあげてもいいんだけど、レイピア用だし……。やっぱり、そろそろ買い出しにいった方が……」
ルーナはぶつぶつ言いながら、何かを考え込んでいる。
「そういえば、今日シスターさん達にさ」
俺はふと疑問に思った事を口にする。
「うん」
「アンデッドを知らないかって言われた時、お前あっさりセレナを庇ったけど、ちょっと意外だった。てっきり、一緒に討伐しようとするかと思った」
普通に考えて吸血鬼の味方をするより、人間の味方をすると思っていた。
そもそも、セレナとは敵対していたし。
今は俺が血を提供するのを条件に見逃してもらっているにすぎない。
「うーん、あの程度の退魔師(エクソシスト)であいつを倒せると思わなかったし、それに……」
ルーナはちょっと恥ずかしそうに目をそらす。
「……あいつの事そんなに嫌いじゃないんだ。ちょっとお祖母様に似てるし」
「そうか」
結構セレナにいじめられている気がするが、マゾなんだろうか。
それとも、お祖母様にもいじめられていたのだろうか。
ちょっとルーナが哀れになったので肩を抱き寄せる。
「あっ……」
ルーナは抵抗する事なく、すんなりと俺の腕に収まる。
お互いに裸なので、妙にムラムラしてくる。
風呂の中でこうなるのも、いつもの事だ。
お湯にあてられて、僅かに桜色に染まる肌が艶めかしい。
ルーナは、ゆっくりと目を閉じる。
俺はそんなルーナの唇に吸い寄せられるように。
ヒヒーン!
突然、外から馬の嘶きが聞こえる。
「…………」
「…………」
雰囲気がぶち壊されるどころの騒ぎではない。
馬に邪魔されるって……。
というか、馬?
「……あいつだ」
ルーナの顔が一気に青ざめる。
さっきは好きだとか言ってたのに。
数分後、俺とルーナは立たされていた。
風呂から上がって、さっさと身支度を整えてから、外に出ると、そこには不機嫌そうな顔をしたセレナと、バツの悪そうなフィリスがいた。
セレナは家に入るなり、いきなり馬鹿でかい魔力を放出して、俺達を散々威圧した。
「……で、お前達はなんのケンカをしているの? フィリス、小娘、答えなさい」
セレナは椅子に座って、行儀悪く足を組む。
「ルーナお嬢様がコウ様にしつこく迫って、私達の恋路を邪魔するんです」
「違う。そこのメイドが勝手に勘違いして盛り上がっただけだ。こいつは初めから私に夢中だ」
どうしよう
胃が痛い。
ルーナとフィリスがそれぞれ言い訳を始めると、セレナは小さくため息をついた。
「……はあ、フィリス。よく聞きなさい? このくらいの年の男の子はね、女の身体の事しか頭にないの。いい? 身持ちの固いお前より、簡単に股を開くそこの小娘の方が良いって言うに決まっているでしょう?」
セレナが物凄く失礼な事を言っている。
30を超えた分別のある大人である俺になんて言い草だ。
「か、簡単に股なんて開いていないぞ!」
「コウ様が望むならなんでもしますけど……」
言いながらフィリスはこっちをチラチラ見ながら、股をモジモジさせている。
「……ああ、めんどくさい。もういいわよ、お前たち2人で、先に子供を孕んだ方が勝ちってことでいいじゃない?」
「いいわけないだろう!」
「…………子供」
セレナの投げやりな提案に、ルーナはキレて、フィリスは照れている。
「うるさい小娘ね。いいじゃないの、わかりやすくて。お前とフィリスと私で誰が一番先にこの子の子供を妊娠できるかで勝負しましょう」
「なんであなたも参戦しているんだ!?」
そんな素敵な勝負でいいなら、俺は大歓迎だ。
責任を取る気はないが。
というよりも。
「なあ、吸血鬼って子供産めるのか?」
「……意外と冷静な事を聞いてくるのね。もっと動揺するかと思ったのに、つまらないわ」
セレナは俺に残念そうな顔をする。
「ちなみに、吸血鬼は身体の作りは人間と同じだけど、子供を生むことは出来ないわ。子供を作るための行為はできるけどね。だからさっきのは冗談よ」
え、吸血鬼最高じゃん。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。フィリス、お前はこの子とどうなりたいの? この小娘みたいに子作りをしたいの?」
「え、いえ、そんな、私は、ただ……」
フィリスは俺をチラチラ見ながら、スカートの裾をギュッと摘む。
「フィリス。自分の気持ちに正直になりなさい」
セレナに言われて、フィリスは思い切ったように口を開く。
「私は!」
そして、フィリスは諦めたように、弱々しく笑った。
「……私は、コウ様の血が、飲みたいです」
化物のように血をすする姿を見られたくないと言っていたフィリスの言葉が思い出される。
フィリスの目には涙が浮かんでいた。
こんな可愛らしいフィリスを化物だなんて思うはずないのに。
というか、むしろ俺は子作り推奨だったのに。
「……そう。よく言えたわね、フィリス。吸血鬼として、とても正しい答えだわ」
セレナが、優しくフィリスの頭を撫でる。
「それで、小娘。どうなの? これくらい妥協できると思うのだけど」
「え、血を吸うって、あなたがやっているみたいにか?」
「そうよ。私が3日に1回の約束だから、空いている2日のどちらかでフィリスにも血を吸わせてあげて欲しいのだけれど。今日とか」
「……うん。仕方ないな。血を吸うくらいだったらいいぞ」
なんか無理やり難しい顔をしているが、なぜかルーナは嬉しそうだった。
「お前、目が笑っているわよ? 本当にエロい小娘ね」
「う、うるさい!」
なんか話がまとまっていくので、よかったと思うのだが。
ただ、なぜ誰も俺の意見を聞いてくれないのか。
血を吸われるの俺なんだけどな。
「じゃあ、フィリス。早速、吸わせてもらったら?」
フィリスはモジモジしながら、俺を見つめている。
まだ気にしているのだろうか。
「フィリス。さっきも言いましたけど、フィリスが何をしたって化物だなんて思いませんよ?」
「……本当ですか? コウ様」
「はい。俺の血で良ければいくらでもどうぞ」
言いながら、俺は首筋をフィリスに見せつけるように差し出す。
血を吸われると、HPが僅かに減るがしばらくすると回復するので、たいしたダメージはない。
俺の首筋を見たフィリスは、興奮した顔つきで、喉をごくりと鳴らした。
「……頂きます」
そして、フィリスの小さな口が俺の首に吸い込まれていく。
かぷり。
僅かな痛みの後に、じんわりとした快感が広がっていく。
セレナの時ほどの強烈な快感ではない。
ほんわかとフィリスへの愛おしさがこみ上げてくる。
そんな感じだった。
フィリスは俺の血を吸いながら、ぴくんと僅かに身を震わせた。
そして、腰が砕けたように倒れそうになるので、慌てて抱き寄せる。
フィリスの体温は、びっくりするくらい熱かった。
「……おいしい。こんなのはじめて」
フィリスは、俺の首筋から口を離すと、とろんとした顔つきをしていた。
やや焦点の合っていない、ぼんやりとした目で俺を見つめる。
「……はあはあ、コウ様、だいすきです」
そして、フィリスの小さな唇が、今度は俺の唇に吸い付こうとして――。
「はい、そこまで! これ以上は許可してないぞ」
ルーナに止められていた。
腰が砕けたようになっているフィリスは、あっさりとルーナに押しのけられる。
よろよろしながらフィリスはセレナにもたれかかった。
セレナは、そんなフィリスを優しく抱きかかえた。
「良かったわね、フィリス」
「……はい。セレナお嬢様」
そうして、セレナとフィリスは帰っていった。
去り際に。
「ルーナお嬢様」
フィリスが不意にルーナを呼んだ。
「なんだ?」
「……ありがとうございました」
「……うん」
ルーナとフィリスがそんなやり取りをしていた。
というか、こいつらなんで俺の血の所有権がルーナにあるみたいな素振りを見せるんだろうか。
そしてルーナと二人きりになる。
「さあ、もう我慢しなくていいぞ」
ルーナはなぜかゴクリと生唾を飲み込んで、頬を上気させている。
「いや、今日はセレナの時ほどやばくなってないから」
俺はさらっとそういうと、とたんにルーナはしょんぼりする。
「そうか……」
俺はそんなルーナを押し倒した。
「だから、今日は普通に」
「普通にって……うん。いつものも好きだぞ」
そうして、俺達はいつもどおりの夜を過ごした。
それにしても、今回は良かった。
結局、フィリスとも上手くやっていけそうだし、浮気とまではならなかったのでルーナは泣かなかったし。
全部うまく行った気がする。
フィリスがセレナに泣きついて、結果的には良かったのだろうか。
セレナさまさまだ。
この時、俺はそんな呑気な事を考えていた。
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