ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第二章 吸血鬼編

第20話 異変

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 俺達は、朝からヒツジを狩っていた。

 もう羊毛なら腐るほどあるのだが、ヒツジは食材としても優秀なので、肉目当ての狩りだ。

 狩りと言っても、ヒツジの動きは単調なので《土形成》で作った剣だけで余裕で倒せる。
 この1ヶ月間、毎日のように狩っていたせいで、もはや完全な作業と化している。
 経験値も貰えないし、俺は暇だと思いながら、ヒツジ相手に剣を振り続けた。

「がんばれー」

 ルーナはそんな俺をにこにこしながら応援している。
 以前、何がそんなに楽しいのか問いただしてみたら、ルーナのために俺が頑張って働いている感が好きらしい。
 ルーナのためでもないし、働いているつもりもないが。
 あの女は働くということを理解していないのだ。
 働くとは、こんな太陽の下で爽やかに行われるものではない。
 マシンの音しかしない密閉されたサーバ室に閉じ込められて、ひたすらバグ解析なんかをやらされ、気づくと今が何時何分なのか、朝なのか夜なのかわからない状態になり、あとは己の生命力との戦いになる。
 そんな奴隷のような過酷な労働の事を指すのだ。

 あれに比べたら、ヒツジ刈りなんかは気分転換のスポーツと一緒なのだ。
 スポーツなんてやってなかったけど。

 俺は、辺りのヒツジを倒し切ったのを確認すると、額の汗を拭って、土の剣を地面に刺した。
 ルーナがタオルを持って、こちらに歩いてくるのが見える。

 俺はルーナを待ちながら、辺りを見渡した。
 結構、森の近くまで来てしまったらしい。

 森はかなり広い。
 木が生い茂っていて、中がよく見渡せない。
 なんか不気味な感じがする。

 そういえば、森の中にもモンスターがいるのだろうか。
 経験値的に、なにか新しい獲物が欲しいのだ。

「どうした? 森なんか眺めて」

 歩いてきたルーナからタオルを受け取って、顔を拭う。

「いや、森のなかにもモンスターとかいるのかなと思って」

「ああ、そういえば、この森の中には、絹糸の原料となる芋虫のモンスターがいると聞いたことがあるな」

「絹糸? 金になりそうだな。狩りに行くか?」

 俺は土の剣を抜いて剣呑に構えてみたが、ルーナに止められた。

「ちょっと待て。以前、あの村の住人に聞いた時は、絶対に森に近づいてはいけないし、森のモンスターを倒してもいけないと言われたぞ。なんか奥に住んでいる森の主に気づかれるからって」

「森の主か。ってお前、以前もここに来たことがあるのか?」

「うん。ここはいい羊毛がとれるからな。数年前に来た時は、まだ村に人間が住んでいたぞ」

「ふーん。なんで誰もいなくなっちゃったんだろうな」

 その時だった。

「……あぁ……うう……」

 急にどこかからかうめき声が聞こえてくる。
 犯しまくった後のルーナみたいな声だ。
 しかし、ルーナはきょとんとした表情を浮かべているだけだ。
 アヘ顔ではないので、ルーナではないのだろう。

「……おい、なんか失礼な事を考えていないか?」

 ルーナじゃないなら誰だと思いながら、辺りを見渡してみる。
 そして、俺は凍りついた。

 それは、森の入口にいた。

 生気のない濁った瞳。
 腐りかけた身体。
 ボロボロの衣服。
 覚束ない足取り。
 かつて、人間だった者の成れの果て。

「……グール」

 ルーナがそんな声をあげる。
 だが、俺はそれどころではなかった。
 小刻みに震える腕に苦労しながら、ルーナを捕まえて抱き寄せる。

「わわっ、なんだいきなり」

「ひいいいいいいい!」

 そして、思い切り悲鳴を上げた。

 アレはダメだ。
 ホラーは苦手なのだ。
 なんていうか生理的に無理だ。
 だってお化けじゃん!

「おい、どうしたんだ。急に? あ、あんっ、やめろ、胸を揉むな!」

 俺は冷や汗を流しながら、必死に落ち着こうとした。
 ルーナの胸を揉んで、冷静になるのだ。
 男は有事の際、自然と女性の胸を求めるものなのだ。

 俺は自分を落ち着かせながら、森の入口にいるグールに目をやる。
 グールなんてゲームによく出てくる雑魚モンスターじゃないか。
 スライムと一緒だ。
 そう考えれば、怖くない。
 そうだ、怖くないのだ。
 落ち着け。

「……うぅ……ぐぅあ……」

 グールはうめき声を上げながら、覚束ない足取りで歩いている。
 こっちに向かって。

「ひい!」

 反射的に《火形成》を発動していた。
 グールの足元から、数メートルの火柱が出現する。

 火柱に包まれたグールは、うめき声を上げながら燃え尽きていった。

『5ポイントの経験値を獲得しました。』

 表示されたログを確認する。
 どうやら、倒したようだ。

「ふう」

 俺は冷や汗でびしょ濡れになった額を拭う。
 厳しい戦いだったぜ……。

「……お、おい」

 気づくとルーナは真っ赤な顔で、瞳を潤ませながら、身体をぴくぴくさせていた。
 どこか呼吸も荒い。
 なんというか、完全に出来上がっている。

「どうした? 乳首ビンビンにさせて」

「お前が、急に胸を揉むからだろう!?」

 そういえば、俺は未だに両手でルーナの胸を揉みしだいていた。
 つまり、俺は手を使わずに《火形成》を発動させたことになる。
 また大魔導師に一歩近づいた瞬間だった。

 その時、急に森がざわめき立つ。

 鳥たちが一斉に飛び立ち、木々が揺れる。

「なんだ?」

 イきかかっていたルーナを離してやりながら、森を眺めた。

 森が揺れる。

 次いで、聞こえてくる地響き。

 いや、これは足音か。

 何か大質量のモノが移動してくるような。

 刹那、森が爆ぜた。

 木々が吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされた木々の合間から、飛び出してくる緑色の巨体。

 2メートルはある人間のような身体に、豚のような顔がついている。

 最低限の腰布のようなものをつけた以外は、筋骨隆々の全裸だ。

「野生のオークだ!」

 オーク? あれが?
 森からオークが5,6体飛び出してくる。

 ルーナがレイピアを抜いていた。

 オークが物凄い勢いで、こちらに向かってかけてくる。
 このまま行ったら戦闘は避けられないだろう。

 俺は咄嗟にルーナの前にでた。
 そのまま、ルーナを後方に押しやる。

「お前は、下がっていろ!」

 ルーナとオークを戦わせる訳にはいかない。
 なんというか、ルーナが犯される未来しか見えない。
 エルフとオークの関係はそういうものだ(エロゲー脳)。

 土の剣を構えて、オークを見据える。
 オークは無骨な棍棒を持っていた。

「グガァアア!」

 一体、突出してきたオークが俺に向かって棍棒を振り下ろす。
 俺は、その攻撃を必死に避けながらオークに向かって剣を振るった。

「グオ」

 しかし、俺の剣はあっさり躱されてしまう。
 素人の剣ではこんなものか。

「無理だ! まだお前では、オークには勝てない」

 ルーナが悲痛な叫びを上げて、俺に加勢しようとしてくる。

「黙って見てろ!」

 俺はそんなルーナを手で制しながら、久しぶりのスキル取得メニューを念じてみた。

#############################################
【取得可能スキル一覧】
使用可能スキルポイント:8

・武器スキル
剣/槍/弓/根/斧/拳

・魔法スキル
風魔法

・強化スキル
筋力/防御/敏捷/器用/知能/精神

・生産スキル
鍛冶/木工/革細工/錬金術/彫金
#############################################

 俺は、スキルの中から剣スキルを選択して取得する。

『スキルポイントを1ポイント消費しました。』
『剣LV1を取得しました。』
『剣LV1:《基礎剣術》が使用可能になりました。』
『使用可能スキルポイントは7ポイントです。』

 剣スキルをとってみたら《基礎剣術》とかいうのを覚えた。
 覚えた瞬間から、剣をどのように振るえばよいか、身のこなしはどうすればよいかなどのイメージが脳裏に湧いてくる。
 《基礎剣術》はパッシブ型のスキルのようだ。

「グガアアア!」

 再び棍棒を振り上げるオーク。

 俺はそんなオークの懐に飛び込むと、胴を薙ぎ払いながら駆け抜けた。

「グゴ!?」

 何が起こったのかわからないといった素振りを見せながら、腸を撒き散らせたオークが地面に倒れていく。

『10ポイントの経験値を獲得しました。』

「グガアア!」

 オークを倒したことをログで確認しながら、駆けつけてきた別のオークの棍棒を剣で受ける。

 ガキンと嫌な音がしたが、オークの無骨な棍棒を受けても土の剣は折れそうになかった。

「グオオオ!」

 刹那、もう1体、別のオークが棍棒を振り上げてきた。
 2体同時とか。
 俺の剣は既に他のオークの棍棒を受け止めていて、新しいオークの攻撃に対応するすべがない。

「くそっ」

 毒づきながら、左手にもう1本の土の剣を生成した。
 オークの棍棒が振り下ろされる直前だったので、間に合うか賭けだったが、ギリギリのタイミングで新しく生成した剣は、オークの棍棒を受け止めていた。

『〔土の剣〕を装備しました。攻撃力補正+30』

 心なしか攻撃力補正が上がっている気がする。
 《基礎剣術》の効果だろうか。

『エクストラスキル解放条件を達成しました。』
『解放条件:武器を両手で装備する。』
『解放スキル:武器スキル 二刀流』
『取得に必要なスキルポイントは1です。』

 装備ログに続いて、そんなログが出力される。
 二刀流とか!
 数多のゲーム中で二刀流が弱かった例がない。
 俺は早速、二刀流も取得した。

『スキルポイントを1ポイント消費しました。』
『二刀流LV1を取得しました。』
『二刀流LV1:《基礎二刀流》が使用可能になりました。』
『使用可能スキルポイントは6ポイントです。』

 《基礎二刀流》を取得すると、《基礎剣術》の時と同じように、二刀流のいろはが脳内に流れ込んでくる。
 これもパッシブスキルなのだろう。

 俺は両手で受け止めていたオークの棍棒を受け流すように、剣を滑らせた。
 身体を捻って、2体のオークの間を抜ける。

「グオ!?」
「ガア?」

 オークたちは渾身の力を込めていたであろう棍棒を受け流されて、バランスを崩している。
 よろける2体のオークは、俺にとっては格好の餌食に見える。

 俺は右の剣で1体のオークの首を飛ばして、左の剣でもう1体のオークを袈裟斬りにした。

 一瞬の後、噴水のような血を噴き上げた2体のオークが地面に沈んでいく。

『10ポイントの経験値を獲得しました。』
『10ポイントの経験値を獲得しました。』

 続けざまに流れるログを見ながら、俺は残りのオークに目をやる。

 残りは3体。
 物凄い勢いで駆けていたオークたちの足は完全に止まっていた。
 あっという間に、3体のオークを屠った俺に恐れをなしているのだろう。
 俺を見ながら、距離をとってたじろいでいる。

 2メートルの巨体がビビる様は滑稽だった。

 このままちょっと脅かせば、逃げていくかもしれない。
 一瞬、そんな事が脳裏によぎったが、見逃すつもりはない。
 経験値10ポイントを俺が見逃すわけないのだ。

 俺は両手に握った剣を広げるようにして構えながら、ゆっくりとオークに近づいていった。



 最後のオークの首を飛ばした後、俺は水魔法でカラカラに乾いていた喉を潤した。
 いやー、さっきは中々やばかった。
 咄嗟にスキルを取得しなかったらやばかっただろう。
 おもわず2ポイントも使ってしまったが。
 まあ、まだ6ポイントも残っているからいいけど。

「……あ、あの」

 ルーナがおずおずと近づいてくる。
 オークを近寄らせなかったので、ルーナは無事だった。
 よかった。
 もう少しでこの女がオークに犯されるところだった。
 ……ほんの少し見てみたい気もしたが。

「怪我はないか?」

「う、うん」

 念のためそんな事を聞いてみたが、ルーナは心ここにあらずといったように、ぽーっとした表情で俺を見ている。
 心なしか顔が赤い。

「いや、その、急に強くなるからびっくりして……。そ、その格好良すぎて……」

 ルーナの表情は、恋する少女そのものだった。
 だから、チョロインにも程があると……。

 その時、再び地響きがして森がざわつき出す。

 先程のものより、遥かに大きい。

 地響きは、もはや地震と言ってもいいレベルで俺たちの足元を揺らす。

 これが先程と同じようにオークが起こしているものだとしたら。

 数体じゃすまない。

 そして、目の前の森の一部が爆発したように、吹き飛んだ。
 先程の数倍の規模だ。

 飛び出してくるオークの群れ。
 数十体、いや100体は軽く超えている。

 彼我の距離は数百メートルしかない。

 逃げるか。

 そう思ってルーナの手を掴む。

 しかし、オークの速度はかなりのものだ。
 正直、あれから逃げ切れる自信はない。

「あ、ああ……」

 ルーナは完全に怯えきっていて、顔を真っ青にさせている。
 数体ならまだしも、あの数のオークに犯されたらただじゃすまない。
 ルーナが壊れちゃうよう!
 ……もはやそんな問題じゃないが。

 俺は押し寄せてくるオークの群れを睨む。
 いくらスキルを取得したと言っても、あの中に剣で切り込む自信はない。
 なら、魔法しかないか。
 というか、そもそも俺は魔法使いだ。
 ちょっと忘れかけたけど。

 俺は両手に握った剣を地面に刺して、開いた両手をオークの群れに向けた。

 両手にMPの殆どを流し込む。
 未だかつて扱ったことのない程、莫大な魔力だ。

 そして、オーバーロードを発動させる。

 体中から、激しい稲妻がほとばしる。

「……お、おい」

 背中から、ルーナの心配そうな声が聴こえる。
 守ってやるから安心しろ。

 イメージは、圧倒的な破壊だ。

 目の前のオークの群れを一瞬で殲滅させるのだ。

 そして、俺は《火形成》を発動させる。

 オーバーロードさせた《火形成》は初めてだった。

 不意にオークたちの足元が灼熱に染まる。
 高熱によって、地面が溶けていくのがわかる。

「消し飛べ!」

 グワッと大地が盛り上がる。
 慌てたようにバランスを崩すオークたち。

 そして。

 地面が爆発する。
 圧倒的に巨大な火柱が立ち上った。
 空まで届きそうな火柱だった。
 火柱がオークたちを燃やし尽くしていく。

 離れた所に立っている俺にすら焼けるような熱を感じる。

 急激に熱せられた空気は、陽炎を形成して、辺りの景色を歪ませる。

 数秒後に、火柱が消えた時、不気味に黒く染まった大地が残され、所々で煙を上げていた。

 そこには、あれだけいたオークの影も形も見えない。

『10ポイントの経験値を獲得しました。』
『10ポイントの経験値を獲得しました。』
『10ポイントの経験値を獲得しました。』
『10ポイントの経験値を獲得しました。』

 大量のログが流れるように、視界を埋めていく。
 オークは全滅したようだ。

「うぐっ!」

 不意に頭痛に襲われた。
 心臓の鼓動が早くなり、視界が歪む。

 久しぶりに感じるMP枯渇だった。
 経験値取得ログが流れまくっているせいで、確認ができないが、おそらくMPが0なのだろう。

「お、おい! 大丈夫か?」

 ルーナが駆け寄ってくる。
 未だに顔が青く、血の気が戻っていない。

「ああ、ちょっと魔力を使いすぎた」

 歪む視界の中で、ルーナに笑いかけてみる。
 あれだけのオークを倒しきったのだ。
 またさっきみたいに惚れ直してくれるだろうか。

 しかし、そんな俺の期待は、ルーナの青い瞳から溢れる一筋の涙を見て裏切られる。

「お、おい。どうした?」

 急に泣き出したルーナに動揺した。

「……だから、あんまり私にすごい力を見せるなって!」

 ルーナが抱きついてくる。

「そんなに自分が勇者だって私に見せつけたいのか!」

 俺の首筋に顔を埋めるルーナの表情は窺い知れない。

「……おねがいだから、私を置いて行かないで」

 そして、ルーナは嗚咽をあげ始めた。

「……一人にしないでよ」

 だから、引きこもりはどこにも行かないってば。

「悪かった」

 そんな事を思いながら、ルーナの背中を優しく抱きしめた。

 ルーナをなだめながら、俺は真っ黒焦げになった大地を見渡す。

 勇者となって魔族の軍隊と戦うなんて無理だと思っていた。
 でも、なんか今の感じだと軍隊くらい相手にできそうだった。
 絶対にやらないけど。

 まあ、今回は少しやりすぎたかな。
 オーバーキルにも程があった。
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