ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記

油揚メテオ

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第一章 異世界転移編

第17話 ヒツジ

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 ルーナに直してもらったスーツは、新品同様になっていた。

 開いていた穴は全てふさがり、ほつれていた裾もきれいに直っている。
 もう取り返しがつかないくらいついていたシワもきれいに消え、洗っても落ちなかった汚れすら消えている。
 臭いを嗅いでみても、タバコと汗の臭いが消えて、新品の香りがする。

 汗と泥のせいで、黄ばみきっていたワイシャツは、真っ白になり、襟や袖もパリッとしている。

 ゴムの緩んだパンツや、穴の開いた靴下まで新品同様になっていた。

「すさまじいな、裁縫魔法」

「そうだろう。感謝しろよ」

 そう言って、ルーナは誇らしげに、白い歯を見せて笑う。
 ちょっとかわいかったので、思わず頭を撫でてしまった。

 新生したスーツに身を包むと、なんというか背筋が伸びる感じがした。
 今日も、仕事をがんばろう的な感じだ。
 仕事なんて二度とする気はないが。

「……そうやって見ると、ちょっとかっこいいな」

「そうだろう。そうだろう」

 なんせちょっと前まで全裸だったのだ。
 全裸に比べたら、何着たってかっこいいだろうとは思うが、さっきのルーナのように歯を見せてにっこり笑ってみた。
 軽くやってしまった感が漂ったが、ルーナは顔を赤くして目を反らせた。

「靴はくたびれたままなんだな」

「ああ、それは革靴だろう? 革は革細工魔法じゃないと直せない」

「なるほど」

 値段的に間違いなく本革じゃなくて合皮だと思うが、革細工で直せるのだろうか。
 まあ、履ければいいけど。

「とにかく助かったよ。ありがとう」

「うん!」

 素直にお礼を言うと、ルーナは嬉しそうに頷いた。
 なんというか、建前じゃなくて本当に嬉しそうに頷くのがずるい。
 うっかりときめいてしまう。
 もう少しウソや建前を混ぜてくれたほうが、こっちも落ち着く。

 その時、不意にルーナっていくつなんだろうと思った。
 今の反応を見ていて、実は結構若いんじゃないかと思ったのだ。
 正直、女性の年齢にあまり興味はない。
 ただ、エルフと言えば見た目と違って、実はウン百歳でしたーというのがお約束である。
 ルーナは見た感じ、えーと、20歳くらいだろうか。
 俺は他人に興味が無いので、年齢を当てるのが絶望的に苦手だ。
 なので、たぶん間違っているが、そんな感じだ。

「なあ、お前って何歳なんだ?」

 俺は思ったことを直球で聞いてみた。
 失礼かもしれないけど、所詮人の縁など一期一会。
 二度と会わなければよいだけだ。

「……いきなりだな。まあ、いいけど。32歳だ」

「タメだったのかよ」

 確かに見た目からは、同い年には全然見えない。
 見えないが、なんというかエルフなんだから最低でも100歳こえてるとかを期待したのに。
 なんか肩透かしを食らった気分だ。
 32歳ってなんか妙にリアルだ。

「タメってなんだ?」

「同い年って事だ。俺も32歳なんだよ」

「ええええええ!」

 なぜかルーナは驚いている。
 エルフと違って、俺は典型的な32歳のはずだが。

「全然、見えない。お前、人間なんだろう? 15、6歳にしか見えないぞ」

 はあ? お世辞にしたって、やりすぎだ。
 キャバ嬢だってそんな下手くそなお世辞はいわな……。
 そこで気づいた。
 そういえば、ノリコさんに若返らせてもらったんだった!
 身体の感じからして、17歳位だと思っていたが。

「本当に15,6歳に見えるか?」

「うん。年下だと思っていた」

「脂ぎった肥満気味の、ちょっと頭皮が薄くなりつつあるオヤジじゃなくて?」

「……そこまで自分を卑下されると、ちょっと心配になってくるぞ」

 なんかルーナに優しく二の腕を撫でられる。
 少し悲しくなった。

「いや、前の世界にいた頃は、たしかに典型的、というか寧ろ老け気味の32歳だったんだ。それが、こっちの世界に転生する際に、ノリコさんがサービスしてくれたみたいでな」

「ノリコさんというのは、さっき話してくれた神様だったな。凄いものだな、神の御業というのは……」

「そうだな。金取れるレベルだよな」

 日本で店を開いたら、一瞬で億万長者になれそうだ。
 日本に戻れたら、ノリコさん誘って、開業してみようかな。
 神の奇跡! 来店するだけで永遠の若さがあなたの手に! みたいな。
 胡散臭さが半端ない。

「……そうか、私と同い年だったのか。年の割に偉そうな奴だと思っていたが」

 どこかルーナはホッとした表情を浮かべている。
 なぜ同い年と聞いて落ち着くのかわからない。

「どうかしたか?」

「いや、ずっと年下だと思ってたから、その、年下相手に、私は、あ、あんなにいいようにされていたのかと……」

 そう言いながら、ルーナは何を思い出したのか赤く頬を染めて、うつむいた。

「あー、ちょっとわかるな」

 年下にベッドの上で主導権を握られたら凹むと思う。
 というか年齢云々の前に、この女、処女だった。
 32で処女ってどうなんだろう。
 男だったら魔法使いになれる特典がついているが、女の場合はどうなるんだろう。
 魔法少女にでもなれるのだろうか。

「というか、お前32歳で処女だったのか」

「な、なあ!?」

 ルーナが顔を真っ赤にして驚いている。
 やばい。
 さすがに聞く気はなかったが、口に出してしまったようだ。
 昔、上司にセクハラには気をつけろと何度も言われたのに、全然学習できていない。
 ただ、既にセクハラでは済まされないハラスメントをしまくっているような気がする。
 もう気にするだけ無駄である。

「な、なんか文句があるのか!? 結婚していないんだから当たり前だろう? 大体、人間の乱れきった貞操観念と違って、エルフは崇高な――」

 ルーナが慌てながら、長大な言い訳を言っているいるが、笑って聞き流す。
 余計なことを聞いてしまった俺のせめてもの償いである。
 秘技、『笑ってごまかす』を発動させるのだ。

「何を笑っている!? わかっているのか? 私の処女を奪ったということは、ちゃんと責任をとって、私と――」

 それは、デリカシーのない俺への罰なのか。
 なんか藪蛇だったようで、めんどくさい事をルーナが言い出した。
 そんなわけで、俺は秘技、『突然、難聴になる主人公』を発動させて、その場を凌いだのだ。



 ヒツジは、廃村と森の間にある草原にいた。
 ヒツジがいるってことは、ここは牧草地帯なんだろうか。

 ヒツジは、もこもこの毛皮から黒い顔を覗かせて、もそもそと草を喰んでいる。
 そして、メ~と鳴いては、場所を移動して、また草を喰み始める。

 ヒツジの魅力といえば、何と言ってもそのもこもこの毛皮だ。
 抱きしめて、もこもこに顔を埋めたい。

 俺は、呼吸が荒くなっていくのを感じながらも、ヒツジに向かって歩きだす。

「まだ早い!」

 急に、ルーナにスーツの裾を掴まれた。

「どうしたんだ、突然、興奮したように?」

「いや、ヒツジさんと戯れようとして……」

「ヒツジさん!? あれはれっきとしたモンスターだぞ?」

「なん……だと……?」

 どう見たって、愛くるしいヒツジだった。

「ウサギだって、見た目は可愛いけど、凶暴だろう?」

「ああ……」

 奴らは、立派な戦闘民族だ。

「だから、ちゃんと気をつけて倒さないとダメだ。怪我するぞ」

 言いながら、ルーナは弓を取り出した。

「ちょっと待っていろ。今、私が倒してやるから」

 やだ、このエルフ男らしい。
 うっかり胸キュンしながら、俺はルーナを制す。

「いや、ここは俺にやらせてくれ」

 さっきのウサギのようなヒモ感を味わうのはもう嫌だ。
 俺の美学に反するのだ。

「……ああ。一応、言っておくが魔法で消し飛ばすなよ? あと、農具を振り回すのもダメだぞ? 怪我もするなよ?」

 お母さんか、と言いたくなるほど心配してくるルーナは、俺を全く信用していない。
 今までの行動を思えば、無理もないが、俺も学習するのである。
 デスサイズを農具と言ったルーナを小一時間説教したいが、俺もバカじゃない。
 今の俺には、まだデスサイズを扱えない。
 まずは普通の武器で力と技を磨くべきだ。

 そんなわけで、俺は普通の片手剣を生成してみた。

 右手をバチバチさせながら、刃渡り1メートル弱くらいの両刃剣を生成する。

 《土形成》で作ったせいで茶色いが、よくゲームで見る感じの普通の剣である。

「……すごい」

 横で見ていたルーナが驚きの声を上げている。
 軽くドヤ顔をしてみたが、なぜデスサイズを作った時は、その声を上げなかったのか問い詰めたい。

 軽く奮って見ると、鋭い音がした。

『〔土の剣〕を装備しました。攻撃力補正+18』

 そんなログが表示された。
 やっぱりというか、当然だが、デュランダル(枝)やカラドボルグ(枝)より攻撃力が桁違いに高い。
 ……ちょっと待て、なぜデスサイズを装備した時には、ログが出なかったのか。
 デスサイズは枝より劣るというのか!?
 バグってんじゃないの、これ!!
 いや、焦るな。
 きっとデスサイズは今の俺ではまだ装備できないということだ。
 レベルやステータスが上がっていけば、いつかは装備できるはずだ。
 そうですよね、ノリコさん?

「がんばれよ」

「ああ、見てろよ」

 ルーナに応援されて、俺はヒツジに向かって駆け出す。

 草を喰んでいたヒツジは、俺に気づくと、歯をむき出しにして威嚇してきた。

「メエー!」

 よく見ると、ヒツジの横に伸びた瞳は虚ろで気持ち悪かった。
 ウサギの時ような精神攻撃は受けない。

「くらえ!」

 俺は勢い良く剣を振り下ろす。
 心得などないので、型はめちゃくちゃだろうが、剣は正確にヒツジの脳天を捉えた。

 頭を半分程割られたヒツジは、よろよろしながら倒れた。

『6ポイントの経験値を獲得しました。』

 視界にそんなログが表示される。
 久しぶりの経験値だ。
 ヒツジがモンスターというのは本当らしい。

「危ない!」

 不意にルーナの声が聞こえた。

「メエー!」

 突然、もう一頭のヒツジが俺を目掛けて走ってくる。
 仲間をやられて怒っているようだ。
 俺は、少し驚きながらも剣を突き出していた。

 突き出した剣は、ヒツジの額にきれいに突き刺さった。
 ヒツジは短く痙攣して、倒れた。

『6ポイントの経験値を獲得しました。』

 2頭目のヒツジも難なく撃破できた。
 楽勝である。

「……」

 物凄く言いたくないが、剣はデスサイズの100倍使いやすかった。
 歴史上、ほとんどの地域で使われ続けてきたのも納得である。

「すごいじゃないか! あっという間に2頭も」

 駆け寄ってきたルーナが嬉しそうに抱きついてくる。
 思えば、ルーナに見せた初めての甲斐性である。
 そう思うと、少し悲しくなった。

「……ああ、うん」



 その後、もう3頭ほどのヒツジを剣で倒した。
 剣を振るう度に、ルーナが嬉しそうに声援を上げるので、調子に乗りまくっていた。
 この調子で、この草原にいるヒツジを狩りつくそうとしたが、ルーナに止められた。
 まだ陽は高いのだが、ヒツジは倒した後に、もこもこの毛を狩るのに時間がかかるそうだ。

 狩ったばかりの5頭のヒツジをその辺に生えていた木に逆さに吊るして、血抜きをする。
 血を抜きながら、ルーナはナイフでヒツジの毛皮を刈っていく。

 最初は、黙々と働くルーナを眺めていたが、再びヒモ感に襲われたので、俺も手伝うことにした。

 土の剣と同じ要領で、短剣を生成する。
 剣と同じように、短剣を装備したときもちゃんとログが出た。
 ……だから、鎌だけは特別なんだって。きっと。

 ルーナに教えてもらいながら、ヒツジの毛を刈っていく。
 ひげ剃りと同じ要領だったので、すぐに慣れた。

 そういえば、しばらく髭を剃っていない。
 それでも、手で頬や顎を撫でてみるとほとんど髭は生えていなかった。
 若い頃はこんな感じだったのだろうか。
 今や1日剃らないだけで、たちまちホームレス感が漂うのだが。
 あとで、髭も剃ってみようと思う。

 それにしても、ヒツジのもこもこはすごい。
 手を入れると、ズブズブ沈んでいくほどだ。

 5頭分のヒツジの毛を狩り終わった頃には、陽が傾き始めていた。
 ルーナのタイムマネジメントは完璧だった。
 職場にスカウトしたいくらいだ。
 もう職場行かないけど。

「……やっぱり二人でやると早いな」

 ルーナが額の汗を拭いながら言う。

「少しは、力になれたか?」

「もちろんだ。お前の作ってくれたナイフも使いやすいし」

 ルーナの使っていたナイフは刃こぼれしていたので、《土形成》でルーナ用のナイフを作ってみた。
 切れ味が全然違うと喜んでいた。

「さて、陽が完全に落ちる前に、このヒツジを解体する。今晩はヒツジ肉を食べよう」

「ジンギスカン!」

「……なんだそれは」

 羊肉といえば、ジンギスカンだ。
 食べたことないけど、美味いらしいので楽しみだ。

 俺はルーナがヒツジを解体している間に、その辺にいるスライムからスライムオイルを調達する事にした。
 見境なく片っ端からイグナイトで燃やし尽くす。

「おーい、終わったぞ。帰ろう?」

 ルーナに呼ばれた頃には、陽が沈んでいく頃で、俺はスライムオイルを4つ程手に入れていた。
 辺りにスライムが見当たらない程、狩り尽くしていた。
 それでも、MP的にはまだ結構な余裕がある。
 俺も強くなったものだ。

 羊肉と羊毛をルーナの持ってきた袋に詰めて持って帰る。
 もちろん、肉と毛は同じ袋には入れないが、毛の入った袋はパンパンの状態で3袋も必要だった。

 解体の終わったヒツジの残骸は、ルーナに言われて火魔法で燃やし尽くしておいた。
 そのままにしておくと、狼や良くないものが寄ってくるそうだ。
 良くないものって何だよと思ったが、ホラーが苦手な俺は聞かないことにした。

 肉や毛の入った大きな袋を両手で持ちながら、ルーナと並んで家に帰る。
 横を歩くルーナは、嬉しそうにヒツジの料理の仕方を話していた。

 俺は誰かと家に帰るという事実に、結構な違和感を感じていた。
 それは引きこもりであるが故にだが、楽しそうなルーナを見ていると、まあいいかとも思ってしまうのだった。



 ルーナの作ってくれた羊料理は、絶品だった。
 羊肉の炙りは、独特な臭いがしたが、香草を使っているせいか、あまり気にならなかった。
 それよりも、脂がよく乗っていて、歯ごたえのある肉はとても美味しかった。
 また、羊肉のスープも、ダシが良く出ていてすごく美味だった。
 結構、本気でルーナって料理が上手いんじゃないかと思う。
 素材が新鮮っていうのもあるのかもしれないが。

 食事が終わった後は、風呂に入った。
 この前と同じように、ルーナを抱えるようにして風呂に入ってみたが、しばらくしてなかったせいか、ルーナの滑らかな肌さわりに、頭がくらくらした。
 しばらくしてないといっても、昼間してなかっただけなのだが、我慢できずに、ルーナの程よい胸を揉みしだきながら、キスをしていた。

 ルーナは特に抵抗をしなかった。
 むしろ熱に冒されたように潤んだ瞳で俺を見つめている。

 結局そのまま、淫靡な夜を過ごした。
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